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ifストーリー(クズーズの王位継承権が剥奪された場合)

第31話 転機

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 その日はお父様もお母様もエイナも帰ってこず、3人が家に帰ってきたのは朝になってからだった。
 お父様は帰ってきてから、改めて身支度をすると、すぐに出かけていき、その日の夜会の時間までは顔を合わす事はなかった。
 その為、お母様から詳しい話を聞いた。

 フォーリン子爵令息は最初は自白しなかったらしい。

 息子が否認しているという事を知ったフォーリン子爵は彼を廃嫡処分にし、彼が傷付けたと思われる男爵令嬢には慰謝料を払って婚約を解消してもらう事を決めた。

 それだけではなく、もう二度とあの様な痛ましい事件が起こらない様にと、証拠としては弱いけれど、息子の日記帳を提出した。

 日記帳には女性を襲った日に、詳しくは書かれていないけれど、何かを実行したという事が書かれていたんだそう。

 エイナの方は自分は何もしていないし、こんな所に連れてくる事がおかしいと言ってのけたそう。
 警察もエイナの色気に引っかかり、簡単に釈放しようとしたらしいので最終的には取り調べる人が女性に変わったらしい。

 エイナは魅了か何かの魔法でも使えるのかしら?

 やはり、顔が可愛くて、相手の好みであれば楽に生きれるという事なのかしら。
 それはそれで納得いかないわ。
 といってもそれがまかり通っちゃう世の中なのよね…。

 結局、フォーリン子爵令息は自分が自白しなければエイナに迷惑がかかると思ったようで、自分が関与した事を認めたけれど、エイナの関与だけは認めなかった。

 全て自分達が勝手にした事なのだと。
 
 その為、共犯者の親衛隊のメンバーには逮捕状が出たけれど、エイナは疑いだけで釈放された。

 エイナや私達に対してお咎めがなかったのは、親衛隊が庇ったという事もあるけれど、たぶん、王家の力も働いたのだと思う。
 陛下は口には出してはいないだろうけれど、暗黙の了解というやつだ。
 下手に騒げば口をふさがれるかもしれないという恐怖が貴族達を支配し、黙っていれば安全であるのなら、その方が良いだろうと思ったのだと思う。

 エイナがクズーズ殿下の婚約者でなければ、また違う結果になっていたんでしょうね。

 エイナは家に帰ってくるなり文句ばかり言っていて、全く反省の色が見えなかった。
 お母様達の前では反省したふりをしているけれど、私だけの前では庇わなかった私に対して文句ばかり言っていた。

 痛い目にあえば、エイナも自分が軽い気持ちでやっていた事が、たくさんの人の心や体を傷付けたのだと理解できる日が来るのかしら。

 それに、アレク殿下はエイナが罪を償うのは今ではないと言っていた。

 という事は、いつか、その日が来るという事なのかしら?

 結局、2日目はエイナは夜会に出席出来たけれど、親衛隊以外の人間には相手にされておらず、クズーズ殿下も女性の前で笑顔を振りまいているだけだった。

 私は私でお父様達と一緒にエイナが色々と迷惑をかけている事で謝罪にまわった為、アレク殿下の助けになるどころか足を引っ張ってしまっただけの様な気がしていたけれど、多くの人がエイナが罪を認めたわけじゃないのと、実行犯である親衛隊が悪いのだと社交辞令もあるだろうけど、そう言って応対してくれた。

 それに関してはルーミも同じで、婚約破棄の慰謝料は婚約者の言い分を信じず、エイナを信じた元婚約者の家に請求するし、そんな奴と別れられて良かったと笑ってくれた。
 彼女はどちらかというと婚約者よりも友人を大事にしていたタイプだったから、余計にダメージが少なかったのかもしれない。

 もちろん、彼がエイナを大事にしていて、ルーミの事を大事にしていなかったからというのもあるだろうけれど。

 そして日にちは過ぎ、3日目の夜がきた。
 1日目から票の受付は始まっていて不正がない様に委託業者に管理してもらっていた。

 委託業者を選んだのはアレク殿下だけれど、クズーズ殿下にも許可を取ってあるとの事だった。

 クズーズ殿下は不正をするという頭はなさそうだけれど、親衛隊が何かやらかすのではないかと警戒したから、票の管理を委託業者に頼む事にした。

 委託業者が派遣してきた騎士と、城の警備の騎士が二重で守る事にして、他の人間を投票用紙に近付けない様にさせた。

 多くの人は3日目の晩の投票、そして郵送での投票になる為、結果が出るまで時間がかかる。

 夜会に参加した客は高級なお酒をたくさん堪能して、満足そうに帰っていく人が多かった。

 ちなみにエイナが用意した会場は女性や子供には人気だったけれども、すぐに飽きられてしまい不評だった。

 3日目の晩も特に何かが起きる事もなく時は過ぎ、無駄に長かった夜会は終わった。

 そして、その10日後、投票結果が出た。

 前半戦ではややクズーズ殿下が有利だったものの、2日目以降はアレク殿下が優勢に、そして郵便投票でもアレク殿下がクズーズ殿下の票を上回り、クズーズ殿下の王位継承権の剥奪が決定したのだった。

 決定した翌日、国民にも大々的に知らされる事となった。
 その際に皆が疑問に思った事があった。

 王位継承権を剥奪されたクズーズ殿下は、一体どんな立場になるのかと…。

 結局、クズーズ殿下がどうなるかについての発表はないまま、それから5日が過ぎた。
 
 私は私で、投票結果を待つ間やその後にお父様達と通り魔事件の被害者に会いに行ったりしていたので、日が経つのはあっという間だった。

 被害者の人達はエイナを天使、私を悪魔だと思っていたから、自分達を襲わせたのは私だと思いこんでいたらしい。

 中には私に地味な嫌がらせをしてしまったと逆に謝ってくれた人もいたけれど、学生時代はそんな事はよくあった事だし気にしていないからと伝えると、それなら例えエイナに何か言われたのだとしても、親衛隊がそんな事をしなければ良かっただけなのだから私にも謝らないでくれと言ってくれた。

 遠回しにエイナが指示をしていたのだろうという事に関しては、モドゥルス家もフォーリン子爵夫妻と同じ考えだった。
 
 その話をすると、女性達は実行犯と元婚約者の男性を恨んでいる人の方が多く、婚約破棄、解消されたのは、エイナが指示したかそうでないかに関わらず、顔に傷がついたという事で自分よりもエイナを選んだ男性が憎いという事と外に出歩くのが怖くなる事をしてきた実行犯が憎いという話してくれた。

 もちろん、エイナに関しての恨みはあるだろうけれど、アレク殿下の様にエイナにひっかからなかった人間もいるのだから、実行犯側の問題だと言ってくれて、慰謝料として一括で支払うのではなく、新しい婚約者の用意と顔の傷が治るまでの治療費を払ってほしいと申し出があった。

 慰謝料を一括でもらうよりも顔に傷痕が残らない様にする為の治療費や交通費が名医の所に通うのであれば、馬鹿にならないからだ。
 だから、新しい婚約者を探し、治療費や交通費については、モドゥルス家が持つ事になった。

 その為、最終的には被害女性達とモルドゥス家の間では示談という事で落ち着いた。

 その問題が落ち着くと、クズーズ殿下の事は気になったけれど、私も考えなければいけない問題があった。
 王太子妃教育の事だった。
 アレク殿下が王太子になったという事は、最終的には彼が国王になる。
 そして、その婚約者である私は、現在時点で王太子妃候補になり、いずれは王太子妃になる。

 このままいけば、私が王妃になる可能性が高いので、王太子妃教育ならぬ王妃教育を受ける事が決まった。

 しかも、王妃殿下の希望で彼女自らが教えてくれるという。
 
 王妃殿下は私の事を嫌っているから、確実にいじめられそうな気がするわ。
 
 王妃殿下に認めてもらえたら優しくなってくださるかしら?
 どうせならツンケンされるよりも仲良くなった方がいいとは思うのだけれど、やっぱり無理かしら?
 ここはプライドなんてかなぐり捨てて、媚を売った方がいいの?

 そんな事を部屋で考えていると、扉がノックされた。

 ココが応対すると、相手はエイナだと知らされた。

 断っても無駄だろうから部屋の中に入れてあげると、エイナは促した場所には座らずに、窓際の安楽椅子に座っている私の前までやって来ると、胸の下で腕を組んで言う。

「私はどうなるのかしら」
「何の話?」

 何を聞かれたのかわからなくて聞き返すと、エイナは声を荒げる。

「クズーズ殿下が王太子じゃなくなったらどうなるの? 私は贅沢な暮らしはできないの? 婚約は解消されるの?」
「エイナ、あなたは本当に自分の事しか考えてないのね…」
「自分の事を考えるのは当たり前でしょう? エリナだって自分の事を考えているから、クズーズ殿下と婚約し直さないんじゃない。人の事を考えているのなら、せめて婚約者を元に戻してよ」
「無理よ。人の事を考えるというよりかは、それは私とあなたの問題であって、今更入れ替える事になったとしても、それは他の人に迷惑がかかるから駄目なの。それもわからない?」
「本当はクズーズ殿下の婚約者に戻るのが嫌なだけなんじゃないの?」

 エイナの言葉は間違っていないので、一瞬、言葉に詰まってしまった。
 それに気が付いたエイナが言う。

「やっぱり、エリナは自分の事しか考えていないんじゃない!」
「エイナもそうなんだからお互い様でしょう。大体、あなた、自分のせいでお父様やお母様がどれだけ大変だったかわかっているの!?」
「そんなの私の両親なんだから当たり前じゃないの! 子供の責任を取るのは親でしょう?」
「あのね、エイナ。いつまでも子供じゃないのよ? もうあなたはこの国では成人して大人なの。いつまで親に苦労をかけるつもりなの!」
「何をムキになってるの? 親にしてみれば大きくなっても子供は子供って言うでしょう?」

 エイナは顎に右手の人差し指を当てて考えるようにしてから、笑顔になって私に言う。

「もしかして、お父様とお母様が私にかまってばかりだから、嫉妬したりしてる?」

 どうしたら、こんな思考になれるのかしら…。

「好きなように思っておけばいいわ。あなたと話す事なんてない。もう出て行って」
「……わかったわよ。何よ! 他にも相談したい事があったのに!」

 私が睨みつけると、エイナは傷付いた顔をして部屋を出ていった。

 さっきの表情は演技なのかそうでないのかはわからないけれど、どうして傷付いた顔なんてしたのかしら?

 結局、その日、エイナは食事の時間も部屋から出てこなかった。
 エイナの侍女に言わせると、屋敷の皆が今までみたいにチヤホヤしてくれなくて傷付いているとの事だった。
 
 さすがにそこまで気にしてあげる気にはならないので放っておくと、次の日にはけろつとした顔で朝食を食べていたので、エイナの心がさっぱりわからなかった。

 そして私は私で、エイナの心配をしている余裕はなかった。
 なぜなら、その日、王妃陛下から呼び出しを受けたからだった。
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