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ifストーリー(クズーズの王位継承権が剥奪された場合)

第28話 親友との再会

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「何を言っているんだ! 頑張るだけなら誰でも出来るんだ!」
「それはこちらのセリフです! クズーズ殿下は何もなさってないじゃないですか! 私の様に頑張ることもしていらしゃいませんし!」

 頑張れば何をしてもいいわけではないけれど…。

 クズーズ殿下には耳が痛い話だったようで、言葉に詰まった後、話題を変えた。

「まあいい! まだ、準備は途中かもしれないが、この状態でも出来ない事はないだろう!」
「クズーズ殿下、ご心配なく。第2会場を用意してありますので、準備が整うまでは、招待客にはそちらに入ってもらい、中庭も開放させていただきます」
「なんだ、準備は出来ていたのか。それなら最初からそう言ってくれれば…」

 私の言葉を聞いたクズーズ殿下はホッとした表情をした後、すぐに不満げな顔になった。

「用意してあると言ったがどういう事だ? エイナが手配していたわけじゃないのか?」
「兄上、第2会場を準備していたのはエリナです」

 アレク殿下の言葉を聞いたクズーズ殿下は私に笑顔を向けてくる。

「そうなのか!? さすがエリナだな! やはり、君は王妃にふさわしい!」
「お褒めの言葉をいただけて恐縮ですが、クズーズ殿下の為にやった事ではございませんから」
「そ、そんな冷たい事を言わなくてもいいだろう。エイナにはない才能なのだから、僕の妻としてその能力を発揮してくれればいいんだ」
「お断りいたしますわ」

 首を横に振ると、なぜかクズーズ殿下は傷付いた顔をした。

「エリナ、もう人が集まる時間だ」
「そうですわね。あ、エイナ、クズーズ殿下にお伝えしたけれど、こちらの会場に人が呼べるまでは私がセッティングした会場に来てもらうから心配しなくてもいいわよ」

 アレク殿下に促されて頷いた後、エイナに告げると、エイナはムッとした顔で言う。

「どうしてそんな勝手なことをしているのよ!」
「あなたがちゃんと出来ていないからでしょう?」
「そんな言い方ないじゃない! エリナは本当に意地悪だわ!」
「あなた、お母様のアドバイスを聞こうとはしなかったのでしょう? あなたが必要なくても普通は必要なものを、あなたが用意しないから私が用意しただけよ。準備できるものをしていなかったあなたが悪いんじゃないの。意地悪だとかいう問題じゃないわ」

 いつまでも相手にしていられないので踵を返して、呆然としているクズーズ殿下と怒りで何も言えなくなっているエイナを置いて第2会場に向かう。

 すると、もう人は集まり始めていて、その中に友人の顔があったので、アレク殿下に一言詫びてから近付いていく。

「ルーミ!」
「あら、エリナ! 久しぶり! あなた、雰囲気が変わったわね!」
「ありがとう。あなたはいつも綺麗ね」
「ありがとう! 努力はしているからね。でも、あなただって諦めてていなければ、もっと早くに皆に良さがわかってもらえていたのに!」

 ルーミは昔からエイナの事を疑っていた数少ない友人で、今までのことも簡単にだけれど、話せる範囲の話は手紙でしてある。

 彼女は侯爵令嬢で私の家より爵位は低いけれど、小さい頃からの友人なのでプライベートの時は敬語は使わない。

 ルーミはエイナとはまたちょっと違う爽やかな可愛さで、ストレートの紺色の髪がとても綺麗。

 後からやって来たアレク殿下に目で訴えられたので、慌ててルーミを紹介する。

「アレク殿下、彼女は私の昔からの友人のルーミ・エイランス侯爵令嬢です。彼女はエイナの事を昔から見抜いていましたのよ」
「そうか。エリナの数少ない味方でいてくれたんだな。ありがとう」
「第二王子殿下にご挨拶申し上げます。お会いできて光栄ですわ」
「俺の事は知ってくれているようだし、自己紹介はしなくていいよな。さっきも言ったがエリナと仲良くしてくれてありがとう」
「もったいないお言葉ですわ。学生時代、エリナはエイナのせいで嫌な思いばかりさせられていましたのに、黙って我慢しているんですもの。見ていられませんし、仲良くなるのは当たり前ですわ」

 ルーミは友人がエイナに騙されて、女性のエイナ信者になってしまったから余計にエイナが好きじゃなかったのよね。

「そうか。わかってくれる人がいて良かったな」
「はい」

 アレク殿下が微笑んでくれたので頷くと、なぜなルーミが笑顔になって私に言う。

「こんな事を言ってはなんだけれど、良かったみたいね!」

 人が近くにたくさんいるからか、肝心な言葉は口にはしなかったけれど、婚約者の交換の事を言っているのだと察して頷く。

「ありがとう! それよりもルーミ、あなた、パートナーは?」
「あ、ああ、それがね…」

 ルーミは苦笑して何だか言いにくそうにしているので無言で首を傾げると、彼女は小さく息を吐いてから答える。

「婚約破棄されたの」
「は!?」
「そんな事よりもあなた、このままじゃ厳しいわよ」
「……どういう事?」
「男性はまだエイナの表の顔に騙されたままよ。どれだけエイナの悪い話をしても信じようとしないの。最悪なことにエイナに敵わないから嫉妬してるんだろうって言い出す始末よ。しかも、それが何人もいるの!」

 ルーミが眉根を寄せて言うのを見て、まさかと思って聞いてみる。

「まさか、ルーミ、あなた、それが原因で?」
「気にしないで! それよりも聞いて! 今回の夜会に出席する友人に聞いたけれど、女性の票は半々よ。どちらかというと最近はアレク殿下よりね。だけど…」

 ルーミはちらりとアレク殿下を見て言いにくそうにする。

「気にしなくていい。話を続けてくれ」

 それを察したアレク殿下が言うと、ルーミは軽く頭を下げてから口を開く。

「クズーズ殿下の顔が好きだという人もいまして…」
「こんな時にも外見が絡むのか…」
「若い令嬢は特に王子様らしい王子様の外見であるクズーズ殿下に夢を見ています。賢い女性はそうではありませんが」
「そうか。挽回できるかわからないが努力はしてみる。この何日かだけ愛想笑いをしたらいいんだな?」
「それもありますし、やはり、女性のピンチに颯爽と現れる男性なんかは若い女性の好みです」
「エリナがピンチにならないといけないのか? それは許可できない」

 ルーミに向かって眉を寄せるので、彼女が慌てて謝る。

「申し訳ございません。軽率な発言でした」
「そんな事はないわ! アレク殿下、彼女をお許しくださいますよね? 私達のことを考えてくれての発言です!」
「そんなに焦るな。怒っているわけじゃない。エイランス嬢、気にしなくていい。こちらこそ悪かったな」

 私が慌てて彼女を庇うと、アレク殿下がそう言って謝ってくれた時だった。
 エイナが担当していた会場の方からフローラが出てきた。

 すると、大勢の貴族が彼女の方に近寄っていく。

「今日のパーティープランナーは君か!」
「あなたが考えた夜会ならとても素敵なものなのでしょうね」
「これは楽しみだ! ぜひまた、うちの夜会のプランナーをお願いしたい」
「私もよ!」

 フローラは貴族に人脈があるのか、色々な貴族に話しかけられている。

「ありがとうございます。でも、皆様、今回の仕事はわたくし共の立てたプランではございません。エイナ様の立てたプランでございます。皆様に先に入っていただきますホールはエリナ様が考えられたものですが、来場される皆様に気持ちよく過ごしていただきたいとの熱意がわたくし共に伝わり、アドバイスをさせていただきました。先程、確認させていただきましたが、エリナ様の考えられた会場は、とても過ごしやすい空間となっておりますので、皆様、お楽しみくださいませ」

 フローラは深々と頭を下げた後、黙って聞いているギャラリーに言葉を付け加える。

「こちらの会場はエイナ様の指示なのですが、日にちを忘れておられたのか、最終確認に来られたのは先程です。ですので、もう少しお待ち下さいませ」

 フローラは怒りを押し殺していたけれど、やはり言葉に棘を感じた。
 
 昨日は寝ていないみたいだし、それはそうなるわよね。

 フローラはよっぽど貴族達に信用がある様で、フローラが会場に戻っていった後、こちらの方に向かって歩きながら、貴族達は首を傾げていた。

「あんな彼女を見たのは初めてだな」
「後で話を聞きに行ってみますわ」
「それにしても最終確認がさっきというのは大丈夫なのかしら?」
「まさか、聞き間違いだろう」

 そんな会話を聞いた私達は顔を見合わせる。

 フローラは今回の争いの内容を知っているので、私達に有利になる様な発言をしてくれたのかもしれない。

「友人が来ているはずだから話をしておくわ。あと、アレク殿下にお願いがあるのですが…」
「どうした?」
「アレク殿下を支持する事により、クズーズ殿下が選ばれた際に、アレク殿下に票を投じた者がクズーズ殿下から何か罰を受けるのではないかと恐れている者がいて、アレク殿下に票を入れにくいと感じている人間もいるようです」
「わかった。そんな事になった場合は俺が力になる」
「ありがとうございます。その言葉を伝えるだけでまた状況も変わってくると思います」

 ルーミはアレク殿下に頭を下げると、私に顔を向ける。

「私も頑張ってくるから、頑張って! 馬鹿な男も多いけど、そうでもない男性もいるし、女性はエイナの正体に気付き始めているから!」
「ありがとう!」

 去っていくルーミを見送った後、私とアレク殿下は急いで会場の入口に向かう。

「さっきの女性はピートの…?」
「ええ。彼女が婚約破棄された事をピート兄様に伝えなくてはと思いますが、先にもう一度会場を見ておきたくて」

 開場までまだ時間があるというのに、中庭にはたくさんの人が集まっていた。

 裏口から会場内に入り、最後のチェックをした後、集まってくれていたメイド達にお願いする。

「これから3日間、あなた達には本当に苦労をかけると思います。私にできる事は、この3日分の割増賃金を出す事くらいしか出来ないのだけれど助けてもらいたいの」
「もちろんですわ!」
「割増賃金!」
「頑張ります!」

 色々な声が上がったけれど、皆、すでに疲れているはずなのに頑張ってくれるみたいだった。

 とても有り難い気持ちになる。




 そして、一日目の夜が始まる。

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