12 / 12
第十二話 作戦会議
しおりを挟む
「……ほう」
長々とした話を聞き終わったダミアンのリアクションは、たった一声だった。
もっとこう、突っ込まれるかと思っていた俺としては拍子抜けだ。
「え、あの。なんかこう、疑問とかない?」
「特に」
「順応性高いなぁ」
ちなみに、俺にとってはこの世界がゲームの世界だ、とまでは言わなかった。
エヴァン様に逆らえない理由としては、昔両親に連れられて行った祭典で、王族の姿を見て惚れた。ということにした。
「正直、巻き込まれた感は凄いというか。推しのためなら……とは思ったけど、思ったより理想と違ったというか」
「へぇ」
「……興味失ってない?」
爪を弄っているダミアンにジト目を向ければ、ダミアンはようやく背筋を伸ばした。
「後半から半分、ただの惚気話だっただろ」
「俺は真剣に悩んでんの!」
「モブになりたいって悩みか?」
「そうそう」
モブって、そもそもどういう意味だよ。とダミアンは納得のいかない表情で首を傾げる。
「俺は、推しを含めてこの学園ハーレムを眺めるだけでよくて……!」
「今更無理だろ」
「だよねぇ……」
「実は、ちょっと美味しいポジションだっても思ってるだろ」
「ヤメテ……俺ハ、欲ニ抗ウンダ……」
図星を刺され、顔を覆い隠して虚勢だけを返す。
セオ様にも顔バレしてしまったし。ダミアンが撃退してくれたはいいものの、簡単に諦めそうな性格ではなさそうだ。
バレてしまったことは、エヴァン様に報告したほうがいいのだろう。
けど……
『他の男の匂いが付いたって分かったら、簡単に捨てちゃうような人なんですよぉ』
セオ様の言葉が、妙に頭の中で繰り返される。
未遂だったとはいえ、エヴァン様が冷たい表情で「二度と近づくな」と吐き捨てる姿を想像してしまう。
どうにか誤魔化しつつ、本件から手を引く方法はないだろうか。
そんなことを考えていると、ダミアンが「とにかく」と口を開く。
「ビスター家の動向は、俺としても他人事じゃない。俺も、兄上がなにか情報を持ってないか聞いてみる」
「大丈夫なの?」
「まあ、たかが王子よりは実家のほうが情報は持っているだろ」
この学園に、エヴァン様のことを「たかが王子」と言える人材がいったい何人いるだろう。
辺境伯爵ともなれば、その地位は王子より上。国の中の国、と言ってもいいくらい、独自のコミュニティを持っているはずだ。
ダミアン、有能すぎる!!
ああ、相談して良かった。と噛みしめる俺を見て、ダミアンは微笑した。
「まあ、お前の気持ちが分からんでもないからな」
「気持ち?」
「幼いころから憧れた存在に忠義を尽くしたい、という気持ちだ。たとえ理想と違っても、自分の欲を押し殺してでもそばにいてみたい……と」
ダミアンは、途中から自分が何を言っているのか気づいたのか、ハッと口を手で覆った。
それを見逃す俺じゃない! その手の話題には敏感なのです!
「ダミアン、好きな人いるんだ!!」
食い気味に体を寄せれば、「離れろ」と押しのけられる。
誰だろう。確か、ダミアンルートは二年生の段階で全部終わってて……ってことは、シーズン2にある新エピソード!? 公式からの供給ですか!?
「当て馬にならないでよ!」
「何を言ってんだ……」
ふんふん、と興奮する俺を見て、ダミアンは迷惑そうな顔をする。
「どんな人!? ちょっとだけでも情報頂戴よ!」
俺にかかれば、そのちょっとの情報でなんだって見つけられる!
ダミアンは少し押し黙った後、俺に視線を向け、ジッと見つめた。
「……まあ」
「まあ、何!?」
「……言うわけないだろ。お前は自分のことだけ考えてろ」
ああ! 冷たい! でも、高校生っぽいやり取りだ! ダミアンって、ちゃんと思春期の男子だったんだなぁ!
答えてくれないのは想定の範囲内だったので、俺は今後ひそかな楽しみとして、ダミアン恋愛を見守ることにした。
ダミアンは誤魔化すように咳ばらいをすると、またいつものような真顔に戻る。
「それで。話は以上か」
「うん!」
「とりあえずお前は、あの王子からもう少し詳細な情報を聞き出せ。今のままだと、成果なしと失敗を繰り返すだけだ」
分かった、と俺は頷く。話が終わったなら帰れ、と言われたので、俺は少しだけすっきりした気持ちで部屋を出た。
さあ、授業に戻ろう。と寮の出入り口に向かう。
すると、出入口の扉にエヴァン様が寄りかかっていた。
「エヴァン様!」
「教室にいないと思ったら。こっちにいたのか」
「ちょっとダミアンとお話してました」
エヴァン様は返事もそこそこに、俺の首元に顔を寄せる。
「……変な匂いはついてないな」
その言葉に、妙にギクっとしてしまう。俺は一歩後退し、ぎこちない笑みを作る。
「考えすぎですって」
「そうだ、お前に渡すものがある」
エヴァン様は懐を探り、小さな箱を取り出した。受け取って中身を見れば、香水だった。
先日、エヴァン様が俺に振りかけたものと同じものだ。
「これ……」
「いちいち手を煩わせるより楽だからな」
エヴァン様からの贈り物! 嬉しい。一生の宝だ。……でも。
俺はパタン、と箱を閉じる。
「お気持ちは有難いです。でも、受け取れません」
「なぜ」
「それは……その、えっと」
セオ様に見つかってしまったからだ。じゃなくて、ええと。
そうだ、見つかってしまうかもしれない。にしよう。
それでも付けろと言われるなら、調査方法を変えてもらわなきゃ。
エヴァン様と話さなければ、とは思ってたけれど、こんな直後に出会うとは思ってなかった。頭の中で言いたいことをまとめているうちに、エヴァン様が俺の体を壁に押し付け、逃げられないようにと顔の横に手をつく。
人生二度目の壁ドン……!
長々とした話を聞き終わったダミアンのリアクションは、たった一声だった。
もっとこう、突っ込まれるかと思っていた俺としては拍子抜けだ。
「え、あの。なんかこう、疑問とかない?」
「特に」
「順応性高いなぁ」
ちなみに、俺にとってはこの世界がゲームの世界だ、とまでは言わなかった。
エヴァン様に逆らえない理由としては、昔両親に連れられて行った祭典で、王族の姿を見て惚れた。ということにした。
「正直、巻き込まれた感は凄いというか。推しのためなら……とは思ったけど、思ったより理想と違ったというか」
「へぇ」
「……興味失ってない?」
爪を弄っているダミアンにジト目を向ければ、ダミアンはようやく背筋を伸ばした。
「後半から半分、ただの惚気話だっただろ」
「俺は真剣に悩んでんの!」
「モブになりたいって悩みか?」
「そうそう」
モブって、そもそもどういう意味だよ。とダミアンは納得のいかない表情で首を傾げる。
「俺は、推しを含めてこの学園ハーレムを眺めるだけでよくて……!」
「今更無理だろ」
「だよねぇ……」
「実は、ちょっと美味しいポジションだっても思ってるだろ」
「ヤメテ……俺ハ、欲ニ抗ウンダ……」
図星を刺され、顔を覆い隠して虚勢だけを返す。
セオ様にも顔バレしてしまったし。ダミアンが撃退してくれたはいいものの、簡単に諦めそうな性格ではなさそうだ。
バレてしまったことは、エヴァン様に報告したほうがいいのだろう。
けど……
『他の男の匂いが付いたって分かったら、簡単に捨てちゃうような人なんですよぉ』
セオ様の言葉が、妙に頭の中で繰り返される。
未遂だったとはいえ、エヴァン様が冷たい表情で「二度と近づくな」と吐き捨てる姿を想像してしまう。
どうにか誤魔化しつつ、本件から手を引く方法はないだろうか。
そんなことを考えていると、ダミアンが「とにかく」と口を開く。
「ビスター家の動向は、俺としても他人事じゃない。俺も、兄上がなにか情報を持ってないか聞いてみる」
「大丈夫なの?」
「まあ、たかが王子よりは実家のほうが情報は持っているだろ」
この学園に、エヴァン様のことを「たかが王子」と言える人材がいったい何人いるだろう。
辺境伯爵ともなれば、その地位は王子より上。国の中の国、と言ってもいいくらい、独自のコミュニティを持っているはずだ。
ダミアン、有能すぎる!!
ああ、相談して良かった。と噛みしめる俺を見て、ダミアンは微笑した。
「まあ、お前の気持ちが分からんでもないからな」
「気持ち?」
「幼いころから憧れた存在に忠義を尽くしたい、という気持ちだ。たとえ理想と違っても、自分の欲を押し殺してでもそばにいてみたい……と」
ダミアンは、途中から自分が何を言っているのか気づいたのか、ハッと口を手で覆った。
それを見逃す俺じゃない! その手の話題には敏感なのです!
「ダミアン、好きな人いるんだ!!」
食い気味に体を寄せれば、「離れろ」と押しのけられる。
誰だろう。確か、ダミアンルートは二年生の段階で全部終わってて……ってことは、シーズン2にある新エピソード!? 公式からの供給ですか!?
「当て馬にならないでよ!」
「何を言ってんだ……」
ふんふん、と興奮する俺を見て、ダミアンは迷惑そうな顔をする。
「どんな人!? ちょっとだけでも情報頂戴よ!」
俺にかかれば、そのちょっとの情報でなんだって見つけられる!
ダミアンは少し押し黙った後、俺に視線を向け、ジッと見つめた。
「……まあ」
「まあ、何!?」
「……言うわけないだろ。お前は自分のことだけ考えてろ」
ああ! 冷たい! でも、高校生っぽいやり取りだ! ダミアンって、ちゃんと思春期の男子だったんだなぁ!
答えてくれないのは想定の範囲内だったので、俺は今後ひそかな楽しみとして、ダミアン恋愛を見守ることにした。
ダミアンは誤魔化すように咳ばらいをすると、またいつものような真顔に戻る。
「それで。話は以上か」
「うん!」
「とりあえずお前は、あの王子からもう少し詳細な情報を聞き出せ。今のままだと、成果なしと失敗を繰り返すだけだ」
分かった、と俺は頷く。話が終わったなら帰れ、と言われたので、俺は少しだけすっきりした気持ちで部屋を出た。
さあ、授業に戻ろう。と寮の出入り口に向かう。
すると、出入口の扉にエヴァン様が寄りかかっていた。
「エヴァン様!」
「教室にいないと思ったら。こっちにいたのか」
「ちょっとダミアンとお話してました」
エヴァン様は返事もそこそこに、俺の首元に顔を寄せる。
「……変な匂いはついてないな」
その言葉に、妙にギクっとしてしまう。俺は一歩後退し、ぎこちない笑みを作る。
「考えすぎですって」
「そうだ、お前に渡すものがある」
エヴァン様は懐を探り、小さな箱を取り出した。受け取って中身を見れば、香水だった。
先日、エヴァン様が俺に振りかけたものと同じものだ。
「これ……」
「いちいち手を煩わせるより楽だからな」
エヴァン様からの贈り物! 嬉しい。一生の宝だ。……でも。
俺はパタン、と箱を閉じる。
「お気持ちは有難いです。でも、受け取れません」
「なぜ」
「それは……その、えっと」
セオ様に見つかってしまったからだ。じゃなくて、ええと。
そうだ、見つかってしまうかもしれない。にしよう。
それでも付けろと言われるなら、調査方法を変えてもらわなきゃ。
エヴァン様と話さなければ、とは思ってたけれど、こんな直後に出会うとは思ってなかった。頭の中で言いたいことをまとめているうちに、エヴァン様が俺の体を壁に押し付け、逃げられないようにと顔の横に手をつく。
人生二度目の壁ドン……!
71
お気に入りに追加
1,539
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

日本で死んだ無自覚美少年が異世界に転生してまったり?生きる話
りお
BL
自分が平凡だと思ってる海野 咲(うみの
さき)は16歳に交通事故で死んだ…………
と思ったら転生?!チート付きだし!しかも転生先は森からスタート?!
これからどうなるの?!
と思ったら拾われました
サフィリス・ミリナスとして生きることになったけど、やっぱり異世界といったら魔法使いながらまったりすることでしょ!
※これは無自覚美少年が周りの人達に愛されつつまったり?するはなしです

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
どっち?
どっちと?
頭がそれでいっぱいです。
続き、待ってます!
これからどんどん面白くなりそうな始まり……!
二人の関係がどんな風に深まっていくのか楽しみです。
ノエル君、じたばたしながら愛されてほしー!
感想ありがとうございます!
ノエルがどんどん愛される様子を楽しんでいただければと思います……!
ノエルくんかわいい!
感想ありがとうございます!
推しに逆らえなくてすぐに「わん!」って言ってしまうチョロ弱主人公君です!