BLゲームのモブとして転生したはずが、推し王子からの溺愛が止まらない~俺、壁になりたいって言いましたよね!~

志波咲良

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第十二話 作戦会議

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「……ほう」

 長々とした話を聞き終わったダミアンのリアクションは、たった一声だった。
 もっとこう、突っ込まれるかと思っていた俺としては拍子抜けだ。

「え、あの。なんかこう、疑問とかない?」
「特に」
「順応性高いなぁ」

 ちなみに、俺にとってはこの世界がゲームの世界だ、とまでは言わなかった。
 エヴァン様に逆らえない理由としては、昔両親に連れられて行った祭典で、王族の姿を見て惚れた。ということにした。

「正直、巻き込まれた感は凄いというか。推しのためなら……とは思ったけど、思ったより理想と違ったというか」
「へぇ」
「……興味失ってない?」

 爪を弄っているダミアンにジト目を向ければ、ダミアンはようやく背筋を伸ばした。

「後半から半分、ただの惚気話だっただろ」
「俺は真剣に悩んでんの!」
「モブになりたいって悩みか?」
「そうそう」

 モブって、そもそもどういう意味だよ。とダミアンは納得のいかない表情で首を傾げる。

「俺は、推しを含めてこの学園ハーレムを眺めるだけでよくて……!」
「今更無理だろ」
「だよねぇ……」
「実は、ちょっと美味しいポジションだっても思ってるだろ」
「ヤメテ……俺ハ、欲ニ抗ウンダ……」

 図星を刺され、顔を覆い隠して虚勢だけを返す。
 セオ様にも顔バレしてしまったし。ダミアンが撃退してくれたはいいものの、簡単に諦めそうな性格ではなさそうだ。
 バレてしまったことは、エヴァン様に報告したほうがいいのだろう。

 けど……

『他の男の匂いが付いたって分かったら、簡単に捨てちゃうような人なんですよぉ』

 セオ様の言葉が、妙に頭の中で繰り返される。
 未遂だったとはいえ、エヴァン様が冷たい表情で「二度と近づくな」と吐き捨てる姿を想像してしまう。

 どうにか誤魔化しつつ、本件から手を引く方法はないだろうか。
 そんなことを考えていると、ダミアンが「とにかく」と口を開く。

「ビスター家の動向は、俺としても他人事じゃない。俺も、兄上がなにか情報を持ってないか聞いてみる」
「大丈夫なの?」
「まあ、たかが王子よりは実家のほうが情報は持っているだろ」

 この学園に、エヴァン様のことを「たかが王子」と言える人材がいったい何人いるだろう。
 辺境伯爵ともなれば、その地位は王子より上。国の中の国、と言ってもいいくらい、独自のコミュニティを持っているはずだ。

 ダミアン、有能すぎる!! 

 ああ、相談して良かった。と噛みしめる俺を見て、ダミアンは微笑した。

「まあ、お前の気持ちが分からんでもないからな」
「気持ち?」
「幼いころから憧れた存在に忠義を尽くしたい、という気持ちだ。たとえ理想と違っても、自分の欲を押し殺してでもそばにいてみたい……と」

 ダミアンは、途中から自分が何を言っているのか気づいたのか、ハッと口を手で覆った。
 それを見逃す俺じゃない! その手の話題には敏感なのです! 

「ダミアン、好きな人いるんだ!!」

 食い気味に体を寄せれば、「離れろ」と押しのけられる。
 誰だろう。確か、ダミアンルートは二年生の段階で全部終わってて……ってことは、シーズン2にある新エピソード!? 公式からの供給ですか!? 

「当て馬にならないでよ!」
「何を言ってんだ……」

 ふんふん、と興奮する俺を見て、ダミアンは迷惑そうな顔をする。

「どんな人!? ちょっとだけでも情報頂戴よ!」

 俺にかかれば、そのちょっとの情報でなんだって見つけられる! 
 ダミアンは少し押し黙った後、俺に視線を向け、ジッと見つめた。

「……まあ」
「まあ、何!?」
「……言うわけないだろ。お前は自分のことだけ考えてろ」

 ああ! 冷たい! でも、高校生っぽいやり取りだ! ダミアンって、ちゃんと思春期の男子だったんだなぁ! 
 答えてくれないのは想定の範囲内だったので、俺は今後ひそかな楽しみとして、ダミアン恋愛を見守ることにした。

 ダミアンは誤魔化すように咳ばらいをすると、またいつものような真顔に戻る。

「それで。話は以上か」
「うん!」
「とりあえずお前は、あの王子からもう少し詳細な情報を聞き出せ。今のままだと、成果なしと失敗を繰り返すだけだ」

 分かった、と俺は頷く。話が終わったなら帰れ、と言われたので、俺は少しだけすっきりした気持ちで部屋を出た。

 さあ、授業に戻ろう。と寮の出入り口に向かう。
 すると、出入口の扉にエヴァン様が寄りかかっていた。

「エヴァン様!」
「教室にいないと思ったら。こっちにいたのか」
「ちょっとダミアンとお話してました」

 エヴァン様は返事もそこそこに、俺の首元に顔を寄せる。

「……変な匂いはついてないな」

 その言葉に、妙にギクっとしてしまう。俺は一歩後退し、ぎこちない笑みを作る。

「考えすぎですって」
「そうだ、お前に渡すものがある」

 エヴァン様は懐を探り、小さな箱を取り出した。受け取って中身を見れば、香水だった。
 先日、エヴァン様が俺に振りかけたものと同じものだ。

「これ……」
「いちいち手を煩わせるより楽だからな」

 エヴァン様からの贈り物! 嬉しい。一生の宝だ。……でも。

 俺はパタン、と箱を閉じる。

「お気持ちは有難いです。でも、受け取れません」
「なぜ」
「それは……その、えっと」

 セオ様に見つかってしまったからだ。じゃなくて、ええと。
 そうだ、見つかってしまうかもしれない。にしよう。

 それでも付けろと言われるなら、調査方法を変えてもらわなきゃ。

 エヴァン様と話さなければ、とは思ってたけれど、こんな直後に出会うとは思ってなかった。頭の中で言いたいことをまとめているうちに、エヴァン様が俺の体を壁に押し付け、逃げられないようにと顔の横に手をつく。

 人生二度目の壁ドン……! 
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感想 3

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みんなの感想(3件)

turarin
2023.11.01 turarin

どっち?
どっちと?
頭がそれでいっぱいです。
続き、待ってます!

解除
嶋野夕陽
2023.10.11 嶋野夕陽

これからどんどん面白くなりそうな始まり……!
二人の関係がどんな風に深まっていくのか楽しみです。

ノエル君、じたばたしながら愛されてほしー!

志波咲良
2023.10.11 志波咲良

感想ありがとうございます!
ノエルがどんどん愛される様子を楽しんでいただければと思います……!

解除
朱音ゆうひ
2023.10.10 朱音ゆうひ

ノエルくんかわいい!

志波咲良
2023.10.10 志波咲良

感想ありがとうございます!
推しに逆らえなくてすぐに「わん!」って言ってしまうチョロ弱主人公君です!

解除

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