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第十一話 救援
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ギュッと目を閉じる。
(誰か……!)
そう願ったとき、頭上で殴打音と共に男らの呻き声が聞こえた。
「ぐあっ!」
骨がいびつに歪む音が俺の耳にまで聞こえたので、相当な威力であっただろう。驚きで目を開ければ、俺の上に跨っていた男子生徒は少し離れた地面に転がっていた。
「ダミアン!」
拳を振りかざしていたのは、ダミアンだった。少し血の付いた拳をチラリと見た後、再び体を動かし、男子生徒らをなぎ倒していく。
抵抗も、反撃の隙もないままに、あっという間に伸してしまった。
明らかにもう動けなくなっている男子生徒の襟を掴み、さらに拳を振り上げようとしていたので、俺は慌てて声を上げる。
「も、もういいから!」
その声で、ようやくダミアンの動きが止まった。突然の暴力沙汰に驚いたのか、セオ様はその場にへたり込んでいる。
ダミアンは、体の向きを変え、無表情のままセオ様へと近寄る。
「こ、来ないでよ! いくら辺境伯爵の息子だからって、こんな暴力沙汰、謹慎じゃすまな……」
逃げ腰のセオ様へ向かって、ダミアンは手を伸ばす。そして、彼が持っていたカメラを手に取った。
グシャア、と生きていて早々に聞くことの無い、機器が握りつぶされる音が木霊する。
リンゴを片手で割るより容易く、ダミアンはカメラを壊した。
「ひっ……ば、バケモノっ……!」
セオ様は顔を真っ青にして、逃げるようにその場を立ち去って行った。
ダミアンはその背中を追いかけることなく、俺に向かって手を伸ばす。
「立てるか」
「う、うん……。ありがとう」
立ち上がった俺は、気絶している男子生徒らに視線をやる。
「救護とか……」
「死なない程度に気絶させた。そのうち勝手に起きるだろ」
「そっか……」
「とりあえず、帰るぞ」
歩き出すダミアンの後ろをついていく。今日ばかりはダミアンの無言が気まずく、なんて声をかけていいのか分からなくなって、何度も口を開きかけては閉じる。
寮が見えてきたころ、俺は意を決して口を開いた。
「あの、ダミアン!」
「今日はもう休め」
ダミアンは俺の言葉を遮る。
そのまま、「これ以上何も話さない」という堅い意志を背中で示しながら、寮へと先に帰ってしまった。
(……何してんだろ、俺)
自分の無力さと馬鹿さがどうしようもなく惨めに思えて、俺は唇を噛んだ。
………
……
…
謹慎一週間。校舎内で暴力沙汰を起こしたダミアンに下された決定だった。
相当譲歩してやったんだと、教師は言っていた。セオ様はダミアンの退学処分を望んだようだったが、結局家柄の力関係ともいうべきか。話は流れた。
決定が下った際、俺は抗議しに行こうとした。俺を助けるためであって、セオ様らがお咎めナシなのはおかしい、と。
そんな俺を止めたのは、当人であるダミアンだった。
言うだけ状況がややこしくなる。卒業に影響するような罰じゃないから、黙ってろ、と。
授業のノートを持って、俺はダミアンの部屋を訪ねる。
「……ごめん」
顔を伏せて謝る俺に、自主勉強をしていたダミアンはペンを止めた。
「手を挙げたのは俺の判断だ。お前が何か思う必要はないと、言ったはずだが」
「その、俺……君を疑った」
セオ様が情報を得る手段は、ダミアンしかないと思っていた。けれど、ダミアンは俺を助けてくれた。
裏があるのであれば、見て見ぬフリをすればいい。この救助さえもパフォーマンスだとしたら、カメラまで壊す必要はなかったはずだ。
セオ様の怯え方や行動を見ても、疑っていた俺のほうが間違いであると明白だ。
「気にするな。当然の思考だ」
「で、でも!」
「それより、俺を頼らなかったことのほうに怒ってる」
それを聞いて、俺はまた「ごめん」と呟いた。
「なんで来てくれたの?」
変な質問をした自覚はある。けど俺が一人でいいと言ったことに対し、ダミアンは今まで深入りしてくることはなかった。
今日に限って姿を見せたのが、気になってしまった。
「……嫌な勘が働いた」
「勘?」
「お前の手紙に書かれていた校舎裏のあの場所は……その」
ダミアンが言葉に詰まるので、首を傾げる。
「そういうことをする場所で有名だからだ」
一瞬意味が分からなかったが、理解した途端に目が泳ぐ。
「そう、なんだ」
「俺の偏見で悪いが、ノエルが快楽重視の人間には見えなかった」
「あ、合ってると、思い……マス」
タジタジになった俺を見て、ダミアンは鼻で笑う。それでようやく、詰まった空気が和らいだ気がした。
ちゃんと彼を信じよう。そう決めて、俺は口を開く。
「あの、ダミアン。俺とエヴァン様に関すること、聞いてくれる?」
(誰か……!)
そう願ったとき、頭上で殴打音と共に男らの呻き声が聞こえた。
「ぐあっ!」
骨がいびつに歪む音が俺の耳にまで聞こえたので、相当な威力であっただろう。驚きで目を開ければ、俺の上に跨っていた男子生徒は少し離れた地面に転がっていた。
「ダミアン!」
拳を振りかざしていたのは、ダミアンだった。少し血の付いた拳をチラリと見た後、再び体を動かし、男子生徒らをなぎ倒していく。
抵抗も、反撃の隙もないままに、あっという間に伸してしまった。
明らかにもう動けなくなっている男子生徒の襟を掴み、さらに拳を振り上げようとしていたので、俺は慌てて声を上げる。
「も、もういいから!」
その声で、ようやくダミアンの動きが止まった。突然の暴力沙汰に驚いたのか、セオ様はその場にへたり込んでいる。
ダミアンは、体の向きを変え、無表情のままセオ様へと近寄る。
「こ、来ないでよ! いくら辺境伯爵の息子だからって、こんな暴力沙汰、謹慎じゃすまな……」
逃げ腰のセオ様へ向かって、ダミアンは手を伸ばす。そして、彼が持っていたカメラを手に取った。
グシャア、と生きていて早々に聞くことの無い、機器が握りつぶされる音が木霊する。
リンゴを片手で割るより容易く、ダミアンはカメラを壊した。
「ひっ……ば、バケモノっ……!」
セオ様は顔を真っ青にして、逃げるようにその場を立ち去って行った。
ダミアンはその背中を追いかけることなく、俺に向かって手を伸ばす。
「立てるか」
「う、うん……。ありがとう」
立ち上がった俺は、気絶している男子生徒らに視線をやる。
「救護とか……」
「死なない程度に気絶させた。そのうち勝手に起きるだろ」
「そっか……」
「とりあえず、帰るぞ」
歩き出すダミアンの後ろをついていく。今日ばかりはダミアンの無言が気まずく、なんて声をかけていいのか分からなくなって、何度も口を開きかけては閉じる。
寮が見えてきたころ、俺は意を決して口を開いた。
「あの、ダミアン!」
「今日はもう休め」
ダミアンは俺の言葉を遮る。
そのまま、「これ以上何も話さない」という堅い意志を背中で示しながら、寮へと先に帰ってしまった。
(……何してんだろ、俺)
自分の無力さと馬鹿さがどうしようもなく惨めに思えて、俺は唇を噛んだ。
………
……
…
謹慎一週間。校舎内で暴力沙汰を起こしたダミアンに下された決定だった。
相当譲歩してやったんだと、教師は言っていた。セオ様はダミアンの退学処分を望んだようだったが、結局家柄の力関係ともいうべきか。話は流れた。
決定が下った際、俺は抗議しに行こうとした。俺を助けるためであって、セオ様らがお咎めナシなのはおかしい、と。
そんな俺を止めたのは、当人であるダミアンだった。
言うだけ状況がややこしくなる。卒業に影響するような罰じゃないから、黙ってろ、と。
授業のノートを持って、俺はダミアンの部屋を訪ねる。
「……ごめん」
顔を伏せて謝る俺に、自主勉強をしていたダミアンはペンを止めた。
「手を挙げたのは俺の判断だ。お前が何か思う必要はないと、言ったはずだが」
「その、俺……君を疑った」
セオ様が情報を得る手段は、ダミアンしかないと思っていた。けれど、ダミアンは俺を助けてくれた。
裏があるのであれば、見て見ぬフリをすればいい。この救助さえもパフォーマンスだとしたら、カメラまで壊す必要はなかったはずだ。
セオ様の怯え方や行動を見ても、疑っていた俺のほうが間違いであると明白だ。
「気にするな。当然の思考だ」
「で、でも!」
「それより、俺を頼らなかったことのほうに怒ってる」
それを聞いて、俺はまた「ごめん」と呟いた。
「なんで来てくれたの?」
変な質問をした自覚はある。けど俺が一人でいいと言ったことに対し、ダミアンは今まで深入りしてくることはなかった。
今日に限って姿を見せたのが、気になってしまった。
「……嫌な勘が働いた」
「勘?」
「お前の手紙に書かれていた校舎裏のあの場所は……その」
ダミアンが言葉に詰まるので、首を傾げる。
「そういうことをする場所で有名だからだ」
一瞬意味が分からなかったが、理解した途端に目が泳ぐ。
「そう、なんだ」
「俺の偏見で悪いが、ノエルが快楽重視の人間には見えなかった」
「あ、合ってると、思い……マス」
タジタジになった俺を見て、ダミアンは鼻で笑う。それでようやく、詰まった空気が和らいだ気がした。
ちゃんと彼を信じよう。そう決めて、俺は口を開く。
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