BLゲームのモブとして転生したはずが、推し王子からの溺愛が止まらない~俺、壁になりたいって言いましたよね!~

志波咲良

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第四話 攻略対象は俺!?

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 ふわふわと、体が何か暖かいものに包まれている感覚がして目が覚める。

「授業!!」

 思いっきり体を起こせば、見慣れない景色が目に入った。白い仕切りが立てられ、天井もベッドも白い。一年生のときに一度だけお世話になったことがある、保健室だった。

「倒れたばかりだ。そう急ぐな」

 声が聞こえ、顔を向ける。ベッドの横には、エヴァン様が足を組んで座っていた。

「痛むところはないか?」
「いえ。むしろ、凄まじい爽快感です」
「ただの寝不足だろう。少し無理をさせすぎたか」

 いえ、貴方が突飛な行動をしたせいですけど。とは言えず、俺は暖かさが布団から伝わるものではないと気づいた。
 手をみれば、うっすらと桃色のオーラがまとわりついている。手だけじゃなく、全身に。

「これは……?」
「簡易的な回復術だ。疲労くらいは取れただろう」

 桃色のオーラは、エヴァン様の手のひらと繋がっている。恐らく、彼が魔法で僕の回復に努めてくれたんだ。
 きゅん、と心臓が鳴る。スパダリっぽい! 
 すぐに思考が流されそうになり、ブンブンと頭を振った。

「元気になったのなら何よりだ。飼い始めてすぐに死なれては困るからな」
「何より、じゃないですよ! どうするんですか! あんなに大勢に見られて……!」

 俺は、学生生活をモブとして過ごしてきた。同級生ですら名前の認知どころか、顔の認知すらされていない。それが一転して、エヴァン様の腕の中にいるような存在だと知られたら……。

「絶対虐められる……!」
「俺の飼い犬に手を出すほど愚かな者はみたことないがな」

 それは、陽キャの発言ですよ。と言いかけて息を呑む。虐めってのは、見つからないようにするから虐めなんだ。
 別に全然いいんだけど、それでモブとして生きていられなくなったら、俺の目的が達成されない。せっかく生まれ変わった人生、百パーセント楽しまなきゃ意味がない! 

「焦るな。お前の姿は上手く隠した。そこまで見られてない」

 エヴァン様は、「ほら」と自身が纏うローブを広げて見せる。確かに、俺たちの体格差を考慮すれば、エヴァン様が抱きかかえた後は顔を見られてないだろう。

「この学園で、身長百七十センチくらいで眼鏡の四年生って、俺くらいしかいないですけどね」
「気になるなら、魔法で髪色でも変えるか? ついでにピアスの一つや二つ開ければ、代わり映えもするだろう」

 了承もなく手を伸ばしてくるエヴァン様から、ズルズルと距離を取る。

「い、嫌ですよ! 親からもらった大切な……」

 大切な? 自分で言いながら、打開策を思いついた。
 俺は、いつも伊達眼鏡をしている。なるべく目立たないようにするのが主な目的だ。エヴァン様の犬の情報が眼鏡野郎ってなら、眼鏡を取ればいいじゃないか。

 思い立ったら吉日、と俺は眼鏡を取った。

「これで少しは……」

 ついでに、明日から面倒だけどワックスで髪を整えるしかないかな。そう考えていると、隣から痛いほどの視線を感じた。

「エヴァン様?」
「お前……誰だ」
「失礼な。ノエルですよ」

 エヴァン様は瞬きを繰り返す。その様子を見て、俺は「あっ」と顔を覆い隠した。

「見ないでください」
「見せろ」
「絶対嫌です」

 俺の抵抗が敵うわけもなく、エヴァン様は俺の手を引きはがし、鼻先ほどの近さでまじまじと観察を続けた。自分でも、耳まで赤くなっているのが分かる。

「だから眼鏡取りたくなかったんです……」
「ほう。俺はこんなにも美麗なものを見逃していたのか。自分が恥ずかしいな」

 チラリとエヴァン様の目を見れば、その青い瞳の中には照れる僕の姿が映っていた。
 薄い小麦色の髪は少し猫っ毛で、肌は日に焼けづらい体質。母親譲りの大きな丸目と、オレンジ色の瞳。鼻は高さがない代わりに小さく、唇は桃色。

「ど、どうせ女の子みたいだって思いましたよね」

 身長が伸びるまで、女の子と間違えられることが多々あった。俺には兄が二人と姉が一人いるが、兄姉も俺が「可愛い可愛い」と中性的な服ばかり見繕うので、実家ではすっかり着せ替え人形だ。

「ふむ。俺好みだ」

 ええ、知ってますとも! 
 エヴァン・ストラウドの攻略に必要なキャラは、華奢で中性的な可愛い系男子。目的があったとはいえ、セオ様なんかは普通に貴方好みですよね。

 俺は、どんどん体をこちらへと傾けるエヴァン様を必死で押し返す。

「もうちょっと身長が小さいほうがお好みのはずですっ……!」
「たしかに、セオくらいが愛らしさは増すな」

 自分が該当するかどうか、考えたことがないと言えば噓になる。でもそれは俺の流儀に反するのであって……! 

 俺は自分に言い訳をしつつ、恥ずかしさの限界から目をギュッと閉じる。

「ノエル」

 名を呼ばれ、ぴくっと肩が上がった。

「お前だけ俺の好みを知っていて、俺がお前の好みを知らないとは。不公平だと思わないか?」
「そう、ですね……」

 俺の耳に、エヴァン様の息がかかる。

「俺では不満か?」

 体はすでに半分以上ベッドに倒れ込んでいるし、エヴァン様の手は何やら俺の腹辺りを探っている。
 手が早すぎる! いつの間に俺のシャツのボタン取ったんですか!
 やばい、流される。俺の処女が……! 

「お、俺は! 心と心が繋がりあった方と添い遂げたいんです!」

 場当たりで吐いた言葉に、エヴァン様の動きが止まった。先ほどまでの勢いは消え、体が離れていく。

「面白い」
「へ?」
「俺の顔を前にしても揺らがなかったのは、お前ただ一人だ」

 どんだけ自分の顔に自信があるんですか。いや、持っててください。貴方の顔は間違いなく国宝です。
 声にならない一人漫才が頭の中を巡る。
 とりあえず尻は守り切ったのだと、俺は全身から力が抜け落ちた。

「セオと別れて、やはり正解だったな」
「はい?」
 その理由はこの前も聞きましたけど。と首を傾げる俺に、エヴァン様は崩れた衣服を整えながら、ニヤッと口角を上げた。

「お前を攻略する楽しみができた」
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