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第一天:青春(てんし)は突然やってくる。
青春は絶望と共に
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エピソード3 〰〰〰〰青春(てんし)は絶望と共に〰〰〰〰
入江 幸秀の心が悲鳴を上げる。
ありえない。
まさにそんな馬鹿な、と絶句する程の出来事が目の前で起こっている。
おそらく今の僕は無表情で呆然としている――
あるいは恐怖により顔が歪んでいるかの二択だろう。
拝啓 神様へ・・・
あなた様は僕が嫌いなのでしょうか?
それとも玲奈の話を無視し続けてナンパしている天罰でしょうか。
すみません僕が悪かったのでどうかこの天子を引き取ってください・・・
――真摯に幸秀が願ったので通じたのだろうか?
目の前の少女が手を止める。
しかしその大きく頬が膨らむリスの様相をした少女の口から放たれた言葉に幸秀は絶望する。
「・・・」
「ふひ、ゆひふぃでふん・・・」
「ドウシマシタ?テンシ・サン」
「ん゛ん。ゆ、幸秀くん、コレ!おかわりお願いします!」
「!?!?!?」
!?アイエエエエ!?オ、オカワリ!?ナ、何回目!?
今ホントにおかわりって言いましたか!?
≪おまわりお願いしますの間違いじゃないでしょうか?≫
現実を受け止めきれず勢い余って心の中で奥ゆかしいツッコミを入れるが致し方ないのだ。
なぜなら昨日のバイト終わりに十分すぎるほど頂いたはずのレオンさんの料理が既にこの世から消滅しているのだ。
全て少女の胃に吸い込まれた。
仕方がないので急遽お米を炊いてこの元天使を名乗っている
(僕には悪魔にしか見えなくなった)少女へ貢いでいるのだ。
「幸秀さんおかわりまだですか~?」
「アッハイ、すみませんどうぞ」
「ありがとうございます!やっぱり人間のご飯は美味しいですねぇ」
受け取った白米をブロンドの髪を嬉しそうに揺らしながら食べている。
姿だけ写真に収めたのであれば間違いなく題名は【天使の食事】といった所か。
綺麗なのは間違いない、その量さえ除けば。
横に視線を向けると天子によって食べつくされ
底が露わになった炊飯器があり悲しくなってくる。
「僕の三日分の米が・・・」
「幸秀くん安心してください。私は元天使です。幸秀くんを悲しませるためにここにいるわけではないですから」
綺麗に食べ終わったお茶碗を机に置いて天子は子供をなだめるような優しい声音で話してくる。
元天使として何かしてくれるんだろうか?
「・・・でも今は普通の人間って言ってなかったか?」
「確かにそうですね~でも人間になっても心は変わっていませんので幸秀くんへ温かい感情を与えたいという気持ちは本物です!」
なるほど。心は天使のままと?本当だろうか
炊飯器を見るに既に悪魔だ。ピンクの悪魔ならぬブロンドの悪魔だ。
「なるほど・・・と、いいますと天子さん」
「はい、なんでしょうか?」
「具体的にどんなことをしてくださるんでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・」
聞き返したら天子が沈黙してしまった。
雰囲気的に僕もなにも言えず、気まずさで7畳間が静寂に満ちる。
「・・・・め、めのほように・・・なります?」
「へ?」
聞き間違いだろうか?天使様がそんなこと言う訳ないよね?
「目の保養になります」
「・・・」
「・・・」
「・・・そうかハハッ」
間違いじゃなかった・・・
「わ、わかりましたか?この姿は人間で見ればかなりの美少女ですし、そんな女の子が一つ屋根の下一緒ですよ。私は一緒に暮らせてハッピー幸秀くんも心から温かい気持ちになれてハッピーですよ!(早口)」
そしてやっと舞い降りた言葉は僕に
――温かい感情―――
ではなく燃え盛る激情を抱かせた。
「絶技くすぐり48手―――」
「ぅぇっ?」
さあ地獄をみせてやろう。
幼い頃ちょっかいを出してくる玲奈を
小一時間沈めた技、【超感覚地獄】を
このメンヘラ腹黒天子にな!!!
「――15手、足一文字≪あしいちもんじ≫!!!」
「うえぇぇっふぇふぇふぇふぇふぇふぇちょ、うへぇへへへ、まっt」
エイメン。安らかに祈りを捧げます天子様。
「・・・」
「幸ひでさ・・す、すみませアハハハハハハハハ、だめえええええええええええええ」
まだ太陽が昇ってきても冷気を感じる朝。
天子の心からの叫び声が響き渡り、
ものの数分で近隣に住む方から苦情がくることになったのは言うまでもない...
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
私立校であり
【優秀な生徒を育成するためであれば初期投資は惜しまない】
といった天下原(あまがはら)理事長の理念のもとに運営される
私立 天下原 中学・高等学校。
この学校には運動に学業、
その他の芸術的または文化的な幅広い支援まで行う珍しい特徴がある。
かくいう幸秀は高校入試、玲奈は地元の中学校であるため、
そのままエスカレータ式の形で現在在学中であり、
幸秀が遠方であるこちらに住めるよう手配してくれたのが天ヶ原理事長本人だ。
朝は大抵の人間が動き出す時間帯であるため
電車、バスであれば通勤・通学ラッシュと呼ばれるものが存在するであろう。
しかし「焦らずとも才能を咲かせてほしい」と言って近隣に学生専用マンションまで作ってあるためそのほとんどが自転車か徒歩で通学している。
そのため通学路はいつも朝は多くの男女問わず、
制服に身を包んだ学生が賑やかに登校している。
そんな明るい話し声などが溢れる中、
表情は暗く絶望のうめき声を放つ人間が一人。幸秀である。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
そりゃ勿論悩む。
ただでさえお金がないのにいきなり食糧を食い荒らす暴君・・・
――天子が君臨したのだから。
しかもその天子は家に住み着くと言う。
これから悩んでいくことは本当に多い。
「おっすヒデ!ってうわあああああああああ!!!」
そんな中で賑やかに話しかけてくる奴がいる。
「なんだ和弘・・・やけにテンション高いな」
「い、いやヒデ顔が―――」
顔がなんだ。失礼だな。
「それでもお化け屋敷で彼女を作る練習か?」
「それ男が絶叫してたら女の子はドン引きするだろっ!?」
「すまないが今コントをやる元気はないんだ」
本当に悩んでいるので申し訳ないが遊んでやれないのだ。
「だからおとなしく大日本帝国のために死んでくれ」
「了解しました!万ざああああああああい!!ってボケるなああ!!」
見事なノリツッコミで悪いが本当に悩んでいるのだ。
この死ぬほど煩いのは僕の友人の一人。
田中 だ。
受験日に消しゴムを貸してあげたところしつこく絡んできたのでしょうがなく相手にしていたらいつの間にか友人となっていた。
「ハアアアアア・・・」
「おっ本当にどうした?またナンパでもして椰子内に怒られたか?」
こいつまで失礼な奴だ。昨日は怒られてない・・・はず。
「残念ながらレーナに怒られた所で悲しみも恐怖も生まれないよ」
「それはそれでアイツが可哀そうだが・・・ならまた金欠か?」
「まあそんな所かな・・・」
「おいおい水臭いぞ友よ~。話ならいくらでも聞いてやるぜ」
「・・・」
こいつに話した所で何か解決できるとは思わない。
でも今は限界状態だ。話すだけでも視野が変わるかもしれない。
「そうだな。実は―――――」
「幸秀えええええええええええええええええええ!!!」
「甘いっ!!」
「ぐ、ごはあああああああああああああああああああああ」
危ない危ない。
気づかないうちにもうこんなところまで来ていたか。
幸秀にの身代わりとなった和弘を横目に全速力で突進してきた少女に話しかける。
「おい光莉(ひかり)。物騒だな、お前のせいで希少な変態が一人犠牲になったじゃないか」
「大丈夫だ!変態は一人いたらいつの世も湧き出てくるからな!」
「確かに」
僕が光莉と呼んだこいつの名前は
天下原 光莉。
短めの黒髪で目の色が何故か琥珀色。
名前の通り姓は天ヶ原であり、天ヶ原理事長の実の娘だ。
見た目の割に※別に小さいとは言ってない
しっかりしている奴で話し方まで似た所は流石親子と言ったところか。
大体いつも校門の前で待っており、こちらの顔を見かけた時に身長的に鳩尾へ頭が入る突進をしてくる。
玲奈と仲が良く元気でとてもいい子なのだが、
可哀そうなことにそのBODYは同級生とは思えないロ・・・・
・・・一部のお友達に大人気の体格をしているのだ。
何故か一瞬睨まれたが気のせいだろう。
「俺!ふっかあああああああああああああああつ!」
「ああ、和弘。流石に慣れてきたか?もう一回やるか?」
「田中はそのまま死んどけばいいのに」
「君たち辛辣過ぎない!?新手のいじめ!?でもその視線はイイっ!」
「「うわー」」
変態はやはりしぶといな。肉体的にも精神的にも、
例のアレが一匹いたら百匹いる理論と同じだろうか?
「まあそんな話は置いといて聞かせろよ。ヒデの悩みをさ」
「ん?悩み?田中、悩みって何の話だー?」
「・・・」
別に流れ的に言わなくてもよかった。
しかしこいつらは意外と友人思いでこういう事は覚えている。
「それとももしかしてピカリがいると話せない感じか!?おいピカリ!ちょっとどっか行ってろ!おこちゃまなお前では分からん男同士の話だ!」
「ピカリって言うな!!!幸秀!!悩みくらいこのアタシの胸を借りるつもりで話してくれっ!」
胸はないな・・・と思ってしまうが言えば殺される。
それに校門前で冬なのに暑苦しく感じるほど騒いでくるので恥ずかしい。
「わかったから!お前ら落ち着けって!ここみんな見てるから!教室で話すから!!」
「「やったあああああ!」」
「よし早くいくぞ!!」と二人に腕を掴まれ引きずられる。
こういうときだけ気が合う調子のいい奴らだ・・・
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
「という話なんだ・・・」
「「」」
教室に戻り幸秀の机に集まった二人を確認し、
昨日出会ってから今朝の出来事―――
つまり 元天使という天子を名乗る少女の話 を一通り打ち明けた。
「信じられないと思うが本当なんだ。和弘お前なら分かってくれるよな?」
「ヒデ・・・・ああ、わかるとも」
こんな突拍子もない話をもしかして信じてくれたのだろうか!?
「っ!和弘っ!やっぱりお前は――――――」
「ナンパの失敗しすぎで妄想の女子が見えてるんだろっ!?可哀そうなヒデ!ゆっくりお休み!」
「チッ・・・光莉は分かってくれたか!?」
こいつはダメだ。
後は残す一人天下原光莉その人だ。
こいつは案外切れ者なので意外な知識があるかもしれない。
「ぇっ!?あ、あーうん!天津飯がなくなって餃子代がピンチって話だったか!?」
「・・・チッ」
こいつら真剣に話している僕を何だと思っている。
こういう話に光莉はいつも通りダメだとして和弘は無性に腹が立つ。
こいつもいつも通りではあるけども
「いやいくらヒデでも信じられねぇって。突然助けた鶴みたいにそんな天使のメンヘラ美少女が現れて同棲始めようって言い寄ってくるなんてさ~。そんなラノベ展開があったら俺が一緒に住みてぇわ!」
「そうだぞ!そんな妄言は田中だけにしろ!そんなことがもし現実で玲奈に知れわたったらそれこそ一生幸秀の家に住み着くとか言い出しそうだ!アタシもなだめるの大変なんだぞ!」
「ん~、まともな意見をありがとうございます」
やっぱり信じてくれという方が無理かもしれない。僕だって和弘が同じことを言いだしたらまたいつもの妄想かくらいの思いしか抱くことはないだろう。
「ハハッ・・・別に信じてもらわなくてもいいんだ。僕の頭がどうにかしてるに違いない・・・」
「「・・・」」
「ぐすん・・・」
僕の食料を思い出すと涙が出てくる。
でもしょうがないだろ!!貧乏子だもの。
「こりゃ重症だな・・・」
「幸秀!アタシはなんでも悪いほうに捉えるのは良くないと思うぞ!!」
確かにそうかもしれない。
良い方向に考えたことはなかった。やってみよう
「そ、そうか!そうだよこれはきっと悪い夢だ!僕は家に帰ったら食料はあるしこれからの出費について悩む必要も無いはずだよ!ナンパのしすぎで頭がおかしくなってるんだ!!しばらく休もう!」
そうだ夢だったに違いない。天使など幻だ。
「ナンパはやっぱりやってたのかよ!!やめる前に教えろ!何度やっても白い目で蔑まれる俺に教えろっ!」
「おい!田中はどうでもいいが幸秀は!ナンパなんかやめとくんだ!お前がナンパしてると―――」
「おっソーマ先生来たみたいだぞ」
廊下からサンダルの擦れる音が聞こえてくる。
それを聞いて二人は即座に自分の席に帰っていった。
ドアが開くと明らかに青白い顔のソーマ先生が教室に入ってくる。また理事長に怒られたなアレは
「先生~!またピカリの母さんに怒られたんですか~?」
「田中!ピカリって言うんじゃないっ!!」
そんな和弘と光莉をだるそうにソーマ先生が見る。
「おい田中うるさいぞ今回は違う。それとまたってなんだ、うるさいなお前俺をなんだと思ってる。それとうるさい」
「いやっ!どんだけ俺うるさいんスか!!」
田中はいつものことなのでクラス全員無視している。
しかしソーマ先生が理事長に怒られていないのは異常だ。
いや、怒られていないとしても明らかに表情は硬いし気分が優れなさそうだ。
「まあなんだ、それは後から説明する。とりあえず出席とるぞ」
何人かはまだ学校に来ていない。この学校は大会前、文化系統の催し前は朝の1限を部活動優先などで行って良しという学則がある。これも一部の才能を育むためらしい。
「・・・バスケ部の三人はウインターカップ練習、と。椰子内がいないな・・・あいつ部活のイベントでもあったか?おい幸秀、椰子内はどうした?」
「・・・先生何故僕に聞くんですか。僕にもわかりませんが多分部活ではないですよ」
「じゃあ遅刻か・・・珍しいな」
幼馴染の椰子内 玲奈は何も知らない人であれば学校などサボってそうな人種に見えるだろう。
しかし実際の中身は真面目で小学生の時なんかは黒髪眼鏡というザ・真面目ちゃんという感じであった。
中学校でレーナは転校してしまい別の学校に離れてしまったが何故かメイクを勉強し見事にイメチェンしてしまった。高校で会った時こそ驚いたが基本が全く変わっていなかった。
「いやでも今回は助かった。とりあえず一安心だ。」
「玲奈が何か関係しているんですか?」
「う~ん椰子内が、というより・・・」
ソーマ先生は黙ってこちらを見ているが何か僕と玲奈に問題でも起こったのだろうか?
「まあ何だ来ていないなら"今"は大丈夫だ。俺も腹をくくるからお前もそれまでに心の準備でもしておけ」
「???」
先生が言っている意味は全く分からないが考えている間に「少し待っててくれ」と言ってどこかに去ってゆく。
「ソーマ先生どうしたんだろうな?」
「和弘、話に来てくれることには恐縮だが一応今は1限目の最中だ。座っておいた方がいいんじゃないか?」
「そうだぞ田中!お前は座っておけ。ところで幸秀、玲奈に何かあったのか?」
「いや光莉、お前もこっち来て―――はあ・・・何故みんなして玲奈の事を僕に聞く」
僕の席の両隣はバスケットボール部のスタメンらしく、基本的に部活動があり1限目と5限目からは授業に来ない。そのことを利用して時間があれば何かと遊びに来るのだ。
「ヒデへのLIMEの返信だけ滅茶苦茶早いからだよ!!俺なんか最近は数日後に返ってくるぞ!!」
「それはお前が悪い。アタシは普通に返信して貰えるぞ?」
「ちなみにどんな内容を送ってるんだ?」
「ああコレか?見てくれヒドイだろっ!?」
和弘がスマホからLIMEのアプリを起動させ レーナちゃん♡ と表示されているトーク画面を見せてくれた。
「お前・・・和弘・・・さすがにこの名前キモすぎるだろ」
「流石のアタシでもドン引きするレベルだ・・・」
「いやっお前ら見る所違うだろっ!!ちゃんと内容をよめ!!!」
和弘はそう言いながらスマホを押し付けてくるのでしょうがなく横から覗き込んでくる光莉に見えやすいよう低い位置に持って一緒に見た。
----
LIME レーナちゃん♡
9月10日
7時56分【レーナチャンおっはー!今日も可愛い~ね(笑)。
(^-^)オレ、本当に最初は
モデルさんかと☆彡(^ε^)
思っちゃったよ(>_<)(笑)】 既読
9月13日
9時20分【田中君どうもありがとう】
9時21分【レーナチャン♡♫
どうして返信遅かったのかナ?
モシカシテ悩み事❕❔❕❔
どしたの❔(笑)
ヨかったら話
聞くよ( *´艸`)(笑)♡♫♡♫】既読
12時56分【大丈夫!悩みは光莉ちゃんに話してくるから私は大丈夫だよ!ありがとね!】
9月23日
21時45分【夜オソく(´Д⊂ヽにごめんネ❕❔
♡オレちょっぴりエッチ(/ω\)な
レーナちゃんが見たいナ♡
オレの♡画像モ送るカら☆
レーナチャンの♡もちょうだイ? 】 既読
----
「・・・・・・・・・・・・・」
なんだコレ・・・・キモすぎる。
想像をはるかに超えていたやり取りに絶句する。
というかこれに普通に返信するレーナは天使か何かか!!
「田中あああああああああああああ!!!玲奈になんてことしてたんだあああああ!!」
「ぐ、ごはああああああ」
同じく放心状態から覚めた光莉による怒りのアッパーカットが和弘に直撃する。痛そう。
「これは玲奈のぶん!そして!!」
「ひいいいいいいいい!」
「これが変な物を見せられたアタシの怒りの分だあああああああ!」
完璧なヘッドバットが決まり和弘は撃沈する。
コレは完全に和弘が悪いと思うので何も言わない。インガオホーだ。
女子学生用のスクール水着を着た和弘など誰も見たかなかった。
もう見たので遅いが・・・
「でもこれで似合ってるよって返してるアイツは気を使いすぎだな」
「アタシが言うのもなんだが玲奈は天使だ。幸秀よ、彼女にするなら是非オススメだぞ!!!」
何故こいつはいつも玲奈を進めてくるんだろう?
そりゃ嬉しいが玲奈もこんな貧乏人を彼氏にするのは嫌だろうに・・・
「ふっかああああつ。そうなんだよ!だから甘えてしまうんだよ!俺は悪くねぇ!」
「・・・・光莉、やれ」
「あいあいさー!!!!」
「もうヤメテーー!!」
反省しない変態のウザさに腹が立って猛獣・光莉を放ったがドアが開く音がしたので三人でそちらを見た。
入ってきたのは二人だ。相馬先生はともかく天ヶ原理事長までいる。
そんな相馬先生が教壇に立つと話し始めた。
「おい、お前ら煩いぞ。廊下まで響いてたからな、他の奴らも止めろ~」
クラス全員すみませ~んと返しているが完全に声にやる気がない。
「まあいいわ。実は突如転入生が来ることになった」
「おおおおお」とクラス全員がざわめく。
基本的に才能があるものを入学させたい方針のため転校生は珍しくない。しかしよほど何かがない限りこの時期の入学など認めてもらえないはずだ。
「ソーマ先生!!男ですか!?女ですか!?」
「はあ・・全部天ヶ原のバb・・・理事長が話してくれるから待て。ちなみに女だ」
失礼なことを口走りそうになった相馬先生を睨みつつ天ヶ原理事長が壇上へ上がる。その堂々とした態度に皆が気圧されて教室は一気に静かになった。
「諸君ら!!喜びたまえ才能ある転校生だ!!!!今までの経歴はないが話を聞くにこれからの我が校の未来を明るくするほどの生徒だ!是非仲良くしてくれ!!」
「どんな女の子なんですかー?」
「それワタシも聞きたーい」
クラスは男子だけではなく女子も盛り上がっている。
「ふむ、詳しい自己紹介は後でするとよい。しかしそうだな・・・天使のような美少女だよ」
「ぇっ」「「「うおおおおおおおおお」」」
クラスには喜びや期待を含んだ声が飛び交う中、
心中穏やかではない人間が一人。
女の子なのはそれは良い。
幸秀だって興味はある。しかしその前のフレーズが死ぬほど気にくわない。
≪―――天使のような??ハハッ、比喩・・・だよな?だってアイツは学校に通っていた経歴なんてないし入学試験だって受けれないはずだ!≫
心なしかこっちを見て暗い顔をしているソーマ先生が気になるが絶対にありえない。
「さあもういいだろう。入ってきなさい」
ドアが開き、入ってきた人間に皆魅入られる中
僕は想像していた通りの絶望を味わった。
「どうも皆さん初めまして!!わたしは 入江 と言います!」
教室中がざわめき最初は男子生徒から声が上がった。
「おおおおまさに天子ちゃんって感じじゃん!!」
「すっごい可愛い子だな!なあ幸秀。・・・ん?どうした幸秀?」
「・・・」
「ふふっ、これから皆さん仲良くしてくださいね?」
教室が盛り上がる中、満面の笑みと共に少女がこちらを見つめた気がした
エピソード3 青春は食事の後に
続く
入江 幸秀の心が悲鳴を上げる。
ありえない。
まさにそんな馬鹿な、と絶句する程の出来事が目の前で起こっている。
おそらく今の僕は無表情で呆然としている――
あるいは恐怖により顔が歪んでいるかの二択だろう。
拝啓 神様へ・・・
あなた様は僕が嫌いなのでしょうか?
それとも玲奈の話を無視し続けてナンパしている天罰でしょうか。
すみません僕が悪かったのでどうかこの天子を引き取ってください・・・
――真摯に幸秀が願ったので通じたのだろうか?
目の前の少女が手を止める。
しかしその大きく頬が膨らむリスの様相をした少女の口から放たれた言葉に幸秀は絶望する。
「・・・」
「ふひ、ゆひふぃでふん・・・」
「ドウシマシタ?テンシ・サン」
「ん゛ん。ゆ、幸秀くん、コレ!おかわりお願いします!」
「!?!?!?」
!?アイエエエエ!?オ、オカワリ!?ナ、何回目!?
今ホントにおかわりって言いましたか!?
≪おまわりお願いしますの間違いじゃないでしょうか?≫
現実を受け止めきれず勢い余って心の中で奥ゆかしいツッコミを入れるが致し方ないのだ。
なぜなら昨日のバイト終わりに十分すぎるほど頂いたはずのレオンさんの料理が既にこの世から消滅しているのだ。
全て少女の胃に吸い込まれた。
仕方がないので急遽お米を炊いてこの元天使を名乗っている
(僕には悪魔にしか見えなくなった)少女へ貢いでいるのだ。
「幸秀さんおかわりまだですか~?」
「アッハイ、すみませんどうぞ」
「ありがとうございます!やっぱり人間のご飯は美味しいですねぇ」
受け取った白米をブロンドの髪を嬉しそうに揺らしながら食べている。
姿だけ写真に収めたのであれば間違いなく題名は【天使の食事】といった所か。
綺麗なのは間違いない、その量さえ除けば。
横に視線を向けると天子によって食べつくされ
底が露わになった炊飯器があり悲しくなってくる。
「僕の三日分の米が・・・」
「幸秀くん安心してください。私は元天使です。幸秀くんを悲しませるためにここにいるわけではないですから」
綺麗に食べ終わったお茶碗を机に置いて天子は子供をなだめるような優しい声音で話してくる。
元天使として何かしてくれるんだろうか?
「・・・でも今は普通の人間って言ってなかったか?」
「確かにそうですね~でも人間になっても心は変わっていませんので幸秀くんへ温かい感情を与えたいという気持ちは本物です!」
なるほど。心は天使のままと?本当だろうか
炊飯器を見るに既に悪魔だ。ピンクの悪魔ならぬブロンドの悪魔だ。
「なるほど・・・と、いいますと天子さん」
「はい、なんでしょうか?」
「具体的にどんなことをしてくださるんでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・」
聞き返したら天子が沈黙してしまった。
雰囲気的に僕もなにも言えず、気まずさで7畳間が静寂に満ちる。
「・・・・め、めのほように・・・なります?」
「へ?」
聞き間違いだろうか?天使様がそんなこと言う訳ないよね?
「目の保養になります」
「・・・」
「・・・」
「・・・そうかハハッ」
間違いじゃなかった・・・
「わ、わかりましたか?この姿は人間で見ればかなりの美少女ですし、そんな女の子が一つ屋根の下一緒ですよ。私は一緒に暮らせてハッピー幸秀くんも心から温かい気持ちになれてハッピーですよ!(早口)」
そしてやっと舞い降りた言葉は僕に
――温かい感情―――
ではなく燃え盛る激情を抱かせた。
「絶技くすぐり48手―――」
「ぅぇっ?」
さあ地獄をみせてやろう。
幼い頃ちょっかいを出してくる玲奈を
小一時間沈めた技、【超感覚地獄】を
このメンヘラ腹黒天子にな!!!
「――15手、足一文字≪あしいちもんじ≫!!!」
「うえぇぇっふぇふぇふぇふぇふぇふぇちょ、うへぇへへへ、まっt」
エイメン。安らかに祈りを捧げます天子様。
「・・・」
「幸ひでさ・・す、すみませアハハハハハハハハ、だめえええええええええええええ」
まだ太陽が昇ってきても冷気を感じる朝。
天子の心からの叫び声が響き渡り、
ものの数分で近隣に住む方から苦情がくることになったのは言うまでもない...
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
私立校であり
【優秀な生徒を育成するためであれば初期投資は惜しまない】
といった天下原(あまがはら)理事長の理念のもとに運営される
私立 天下原 中学・高等学校。
この学校には運動に学業、
その他の芸術的または文化的な幅広い支援まで行う珍しい特徴がある。
かくいう幸秀は高校入試、玲奈は地元の中学校であるため、
そのままエスカレータ式の形で現在在学中であり、
幸秀が遠方であるこちらに住めるよう手配してくれたのが天ヶ原理事長本人だ。
朝は大抵の人間が動き出す時間帯であるため
電車、バスであれば通勤・通学ラッシュと呼ばれるものが存在するであろう。
しかし「焦らずとも才能を咲かせてほしい」と言って近隣に学生専用マンションまで作ってあるためそのほとんどが自転車か徒歩で通学している。
そのため通学路はいつも朝は多くの男女問わず、
制服に身を包んだ学生が賑やかに登校している。
そんな明るい話し声などが溢れる中、
表情は暗く絶望のうめき声を放つ人間が一人。幸秀である。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
そりゃ勿論悩む。
ただでさえお金がないのにいきなり食糧を食い荒らす暴君・・・
――天子が君臨したのだから。
しかもその天子は家に住み着くと言う。
これから悩んでいくことは本当に多い。
「おっすヒデ!ってうわあああああああああ!!!」
そんな中で賑やかに話しかけてくる奴がいる。
「なんだ和弘・・・やけにテンション高いな」
「い、いやヒデ顔が―――」
顔がなんだ。失礼だな。
「それでもお化け屋敷で彼女を作る練習か?」
「それ男が絶叫してたら女の子はドン引きするだろっ!?」
「すまないが今コントをやる元気はないんだ」
本当に悩んでいるので申し訳ないが遊んでやれないのだ。
「だからおとなしく大日本帝国のために死んでくれ」
「了解しました!万ざああああああああい!!ってボケるなああ!!」
見事なノリツッコミで悪いが本当に悩んでいるのだ。
この死ぬほど煩いのは僕の友人の一人。
田中 だ。
受験日に消しゴムを貸してあげたところしつこく絡んできたのでしょうがなく相手にしていたらいつの間にか友人となっていた。
「ハアアアアア・・・」
「おっ本当にどうした?またナンパでもして椰子内に怒られたか?」
こいつまで失礼な奴だ。昨日は怒られてない・・・はず。
「残念ながらレーナに怒られた所で悲しみも恐怖も生まれないよ」
「それはそれでアイツが可哀そうだが・・・ならまた金欠か?」
「まあそんな所かな・・・」
「おいおい水臭いぞ友よ~。話ならいくらでも聞いてやるぜ」
「・・・」
こいつに話した所で何か解決できるとは思わない。
でも今は限界状態だ。話すだけでも視野が変わるかもしれない。
「そうだな。実は―――――」
「幸秀えええええええええええええええええええ!!!」
「甘いっ!!」
「ぐ、ごはあああああああああああああああああああああ」
危ない危ない。
気づかないうちにもうこんなところまで来ていたか。
幸秀にの身代わりとなった和弘を横目に全速力で突進してきた少女に話しかける。
「おい光莉(ひかり)。物騒だな、お前のせいで希少な変態が一人犠牲になったじゃないか」
「大丈夫だ!変態は一人いたらいつの世も湧き出てくるからな!」
「確かに」
僕が光莉と呼んだこいつの名前は
天下原 光莉。
短めの黒髪で目の色が何故か琥珀色。
名前の通り姓は天ヶ原であり、天ヶ原理事長の実の娘だ。
見た目の割に※別に小さいとは言ってない
しっかりしている奴で話し方まで似た所は流石親子と言ったところか。
大体いつも校門の前で待っており、こちらの顔を見かけた時に身長的に鳩尾へ頭が入る突進をしてくる。
玲奈と仲が良く元気でとてもいい子なのだが、
可哀そうなことにそのBODYは同級生とは思えないロ・・・・
・・・一部のお友達に大人気の体格をしているのだ。
何故か一瞬睨まれたが気のせいだろう。
「俺!ふっかあああああああああああああああつ!」
「ああ、和弘。流石に慣れてきたか?もう一回やるか?」
「田中はそのまま死んどけばいいのに」
「君たち辛辣過ぎない!?新手のいじめ!?でもその視線はイイっ!」
「「うわー」」
変態はやはりしぶといな。肉体的にも精神的にも、
例のアレが一匹いたら百匹いる理論と同じだろうか?
「まあそんな話は置いといて聞かせろよ。ヒデの悩みをさ」
「ん?悩み?田中、悩みって何の話だー?」
「・・・」
別に流れ的に言わなくてもよかった。
しかしこいつらは意外と友人思いでこういう事は覚えている。
「それとももしかしてピカリがいると話せない感じか!?おいピカリ!ちょっとどっか行ってろ!おこちゃまなお前では分からん男同士の話だ!」
「ピカリって言うな!!!幸秀!!悩みくらいこのアタシの胸を借りるつもりで話してくれっ!」
胸はないな・・・と思ってしまうが言えば殺される。
それに校門前で冬なのに暑苦しく感じるほど騒いでくるので恥ずかしい。
「わかったから!お前ら落ち着けって!ここみんな見てるから!教室で話すから!!」
「「やったあああああ!」」
「よし早くいくぞ!!」と二人に腕を掴まれ引きずられる。
こういうときだけ気が合う調子のいい奴らだ・・・
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
「という話なんだ・・・」
「「」」
教室に戻り幸秀の机に集まった二人を確認し、
昨日出会ってから今朝の出来事―――
つまり 元天使という天子を名乗る少女の話 を一通り打ち明けた。
「信じられないと思うが本当なんだ。和弘お前なら分かってくれるよな?」
「ヒデ・・・・ああ、わかるとも」
こんな突拍子もない話をもしかして信じてくれたのだろうか!?
「っ!和弘っ!やっぱりお前は――――――」
「ナンパの失敗しすぎで妄想の女子が見えてるんだろっ!?可哀そうなヒデ!ゆっくりお休み!」
「チッ・・・光莉は分かってくれたか!?」
こいつはダメだ。
後は残す一人天下原光莉その人だ。
こいつは案外切れ者なので意外な知識があるかもしれない。
「ぇっ!?あ、あーうん!天津飯がなくなって餃子代がピンチって話だったか!?」
「・・・チッ」
こいつら真剣に話している僕を何だと思っている。
こういう話に光莉はいつも通りダメだとして和弘は無性に腹が立つ。
こいつもいつも通りではあるけども
「いやいくらヒデでも信じられねぇって。突然助けた鶴みたいにそんな天使のメンヘラ美少女が現れて同棲始めようって言い寄ってくるなんてさ~。そんなラノベ展開があったら俺が一緒に住みてぇわ!」
「そうだぞ!そんな妄言は田中だけにしろ!そんなことがもし現実で玲奈に知れわたったらそれこそ一生幸秀の家に住み着くとか言い出しそうだ!アタシもなだめるの大変なんだぞ!」
「ん~、まともな意見をありがとうございます」
やっぱり信じてくれという方が無理かもしれない。僕だって和弘が同じことを言いだしたらまたいつもの妄想かくらいの思いしか抱くことはないだろう。
「ハハッ・・・別に信じてもらわなくてもいいんだ。僕の頭がどうにかしてるに違いない・・・」
「「・・・」」
「ぐすん・・・」
僕の食料を思い出すと涙が出てくる。
でもしょうがないだろ!!貧乏子だもの。
「こりゃ重症だな・・・」
「幸秀!アタシはなんでも悪いほうに捉えるのは良くないと思うぞ!!」
確かにそうかもしれない。
良い方向に考えたことはなかった。やってみよう
「そ、そうか!そうだよこれはきっと悪い夢だ!僕は家に帰ったら食料はあるしこれからの出費について悩む必要も無いはずだよ!ナンパのしすぎで頭がおかしくなってるんだ!!しばらく休もう!」
そうだ夢だったに違いない。天使など幻だ。
「ナンパはやっぱりやってたのかよ!!やめる前に教えろ!何度やっても白い目で蔑まれる俺に教えろっ!」
「おい!田中はどうでもいいが幸秀は!ナンパなんかやめとくんだ!お前がナンパしてると―――」
「おっソーマ先生来たみたいだぞ」
廊下からサンダルの擦れる音が聞こえてくる。
それを聞いて二人は即座に自分の席に帰っていった。
ドアが開くと明らかに青白い顔のソーマ先生が教室に入ってくる。また理事長に怒られたなアレは
「先生~!またピカリの母さんに怒られたんですか~?」
「田中!ピカリって言うんじゃないっ!!」
そんな和弘と光莉をだるそうにソーマ先生が見る。
「おい田中うるさいぞ今回は違う。それとまたってなんだ、うるさいなお前俺をなんだと思ってる。それとうるさい」
「いやっ!どんだけ俺うるさいんスか!!」
田中はいつものことなのでクラス全員無視している。
しかしソーマ先生が理事長に怒られていないのは異常だ。
いや、怒られていないとしても明らかに表情は硬いし気分が優れなさそうだ。
「まあなんだ、それは後から説明する。とりあえず出席とるぞ」
何人かはまだ学校に来ていない。この学校は大会前、文化系統の催し前は朝の1限を部活動優先などで行って良しという学則がある。これも一部の才能を育むためらしい。
「・・・バスケ部の三人はウインターカップ練習、と。椰子内がいないな・・・あいつ部活のイベントでもあったか?おい幸秀、椰子内はどうした?」
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「じゃあ遅刻か・・・珍しいな」
幼馴染の椰子内 玲奈は何も知らない人であれば学校などサボってそうな人種に見えるだろう。
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中学校でレーナは転校してしまい別の学校に離れてしまったが何故かメイクを勉強し見事にイメチェンしてしまった。高校で会った時こそ驚いたが基本が全く変わっていなかった。
「いやでも今回は助かった。とりあえず一安心だ。」
「玲奈が何か関係しているんですか?」
「う~ん椰子内が、というより・・・」
ソーマ先生は黙ってこちらを見ているが何か僕と玲奈に問題でも起こったのだろうか?
「まあ何だ来ていないなら"今"は大丈夫だ。俺も腹をくくるからお前もそれまでに心の準備でもしておけ」
「???」
先生が言っている意味は全く分からないが考えている間に「少し待っててくれ」と言ってどこかに去ってゆく。
「ソーマ先生どうしたんだろうな?」
「和弘、話に来てくれることには恐縮だが一応今は1限目の最中だ。座っておいた方がいいんじゃないか?」
「そうだぞ田中!お前は座っておけ。ところで幸秀、玲奈に何かあったのか?」
「いや光莉、お前もこっち来て―――はあ・・・何故みんなして玲奈の事を僕に聞く」
僕の席の両隣はバスケットボール部のスタメンらしく、基本的に部活動があり1限目と5限目からは授業に来ない。そのことを利用して時間があれば何かと遊びに来るのだ。
「ヒデへのLIMEの返信だけ滅茶苦茶早いからだよ!!俺なんか最近は数日後に返ってくるぞ!!」
「それはお前が悪い。アタシは普通に返信して貰えるぞ?」
「ちなみにどんな内容を送ってるんだ?」
「ああコレか?見てくれヒドイだろっ!?」
和弘がスマホからLIMEのアプリを起動させ レーナちゃん♡ と表示されているトーク画面を見せてくれた。
「お前・・・和弘・・・さすがにこの名前キモすぎるだろ」
「流石のアタシでもドン引きするレベルだ・・・」
「いやっお前ら見る所違うだろっ!!ちゃんと内容をよめ!!!」
和弘はそう言いながらスマホを押し付けてくるのでしょうがなく横から覗き込んでくる光莉に見えやすいよう低い位置に持って一緒に見た。
----
LIME レーナちゃん♡
9月10日
7時56分【レーナチャンおっはー!今日も可愛い~ね(笑)。
(^-^)オレ、本当に最初は
モデルさんかと☆彡(^ε^)
思っちゃったよ(>_<)(笑)】 既読
9月13日
9時20分【田中君どうもありがとう】
9時21分【レーナチャン♡♫
どうして返信遅かったのかナ?
モシカシテ悩み事❕❔❕❔
どしたの❔(笑)
ヨかったら話
聞くよ( *´艸`)(笑)♡♫♡♫】既読
12時56分【大丈夫!悩みは光莉ちゃんに話してくるから私は大丈夫だよ!ありがとね!】
9月23日
21時45分【夜オソく(´Д⊂ヽにごめんネ❕❔
♡オレちょっぴりエッチ(/ω\)な
レーナちゃんが見たいナ♡
オレの♡画像モ送るカら☆
レーナチャンの♡もちょうだイ? 】 既読
----
「・・・・・・・・・・・・・」
なんだコレ・・・・キモすぎる。
想像をはるかに超えていたやり取りに絶句する。
というかこれに普通に返信するレーナは天使か何かか!!
「田中あああああああああああああ!!!玲奈になんてことしてたんだあああああ!!」
「ぐ、ごはああああああ」
同じく放心状態から覚めた光莉による怒りのアッパーカットが和弘に直撃する。痛そう。
「これは玲奈のぶん!そして!!」
「ひいいいいいいいい!」
「これが変な物を見せられたアタシの怒りの分だあああああああ!」
完璧なヘッドバットが決まり和弘は撃沈する。
コレは完全に和弘が悪いと思うので何も言わない。インガオホーだ。
女子学生用のスクール水着を着た和弘など誰も見たかなかった。
もう見たので遅いが・・・
「でもこれで似合ってるよって返してるアイツは気を使いすぎだな」
「アタシが言うのもなんだが玲奈は天使だ。幸秀よ、彼女にするなら是非オススメだぞ!!!」
何故こいつはいつも玲奈を進めてくるんだろう?
そりゃ嬉しいが玲奈もこんな貧乏人を彼氏にするのは嫌だろうに・・・
「ふっかああああつ。そうなんだよ!だから甘えてしまうんだよ!俺は悪くねぇ!」
「・・・・光莉、やれ」
「あいあいさー!!!!」
「もうヤメテーー!!」
反省しない変態のウザさに腹が立って猛獣・光莉を放ったがドアが開く音がしたので三人でそちらを見た。
入ってきたのは二人だ。相馬先生はともかく天ヶ原理事長までいる。
そんな相馬先生が教壇に立つと話し始めた。
「おい、お前ら煩いぞ。廊下まで響いてたからな、他の奴らも止めろ~」
クラス全員すみませ~んと返しているが完全に声にやる気がない。
「まあいいわ。実は突如転入生が来ることになった」
「おおおおお」とクラス全員がざわめく。
基本的に才能があるものを入学させたい方針のため転校生は珍しくない。しかしよほど何かがない限りこの時期の入学など認めてもらえないはずだ。
「ソーマ先生!!男ですか!?女ですか!?」
「はあ・・全部天ヶ原のバb・・・理事長が話してくれるから待て。ちなみに女だ」
失礼なことを口走りそうになった相馬先生を睨みつつ天ヶ原理事長が壇上へ上がる。その堂々とした態度に皆が気圧されて教室は一気に静かになった。
「諸君ら!!喜びたまえ才能ある転校生だ!!!!今までの経歴はないが話を聞くにこれからの我が校の未来を明るくするほどの生徒だ!是非仲良くしてくれ!!」
「どんな女の子なんですかー?」
「それワタシも聞きたーい」
クラスは男子だけではなく女子も盛り上がっている。
「ふむ、詳しい自己紹介は後でするとよい。しかしそうだな・・・天使のような美少女だよ」
「ぇっ」「「「うおおおおおおおおお」」」
クラスには喜びや期待を含んだ声が飛び交う中、
心中穏やかではない人間が一人。
女の子なのはそれは良い。
幸秀だって興味はある。しかしその前のフレーズが死ぬほど気にくわない。
≪―――天使のような??ハハッ、比喩・・・だよな?だってアイツは学校に通っていた経歴なんてないし入学試験だって受けれないはずだ!≫
心なしかこっちを見て暗い顔をしているソーマ先生が気になるが絶対にありえない。
「さあもういいだろう。入ってきなさい」
ドアが開き、入ってきた人間に皆魅入られる中
僕は想像していた通りの絶望を味わった。
「どうも皆さん初めまして!!わたしは 入江 と言います!」
教室中がざわめき最初は男子生徒から声が上がった。
「おおおおまさに天子ちゃんって感じじゃん!!」
「すっごい可愛い子だな!なあ幸秀。・・・ん?どうした幸秀?」
「・・・」
「ふふっ、これから皆さん仲良くしてくださいね?」
教室が盛り上がる中、満面の笑みと共に少女がこちらを見つめた気がした
エピソード3 青春は食事の後に
続く
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