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第一天:青春(てんし)は突然やってくる。

青春は現実と共に

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 エピソード1   〰〰 青春は現実と共に 〰〰


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学生の本分はなんであろうか。

勉学に努め いい大学に進み いい会社に入る。

部活動に勤しみ 大会にでたり仲間との友情を深めたり異性とのアバンチュールなんてものも....

遊びに行くのもいいな。学生の間でしかできないことっていっぱいあるよね?

いやぁどれも素晴らしいな~青春って感じで

幸せな将来を考えただけで涙が出てしまう。

しかし違う。間違っている。
学生の本分はそんな簡単なものじゃない。

特に僕にそんな余裕はない。

「お~い、幸秀ゆきひで~。聞いているか?先生の話を無視するな~」
「・・・はい!」

おっと危なかった。
今は"面談中"だった。

僕は気が遠くなっていた事を隠すように自身有り気に"先生"に話す。

「・・・ソーマ先生、僕にも計画はあります...僕の夢は決まってるんです。」
「いやさ、≪俺大丈夫っす!≫みたいな顔してるけどな?なら"これ"書き直せよな?」

皆からソーマ先生と呼ばれるこの男はうちのクラスの担任教師だ。

天龍てんりゅう 相馬そうま 。
略してソーマ先生。見た目は完全にホストだ。

無駄に色気あるし髪は長い、青い。
チッこれだけで稼げそうなのが羨ましい・・・ちくせう

ソーマ先生から手元に出されたものにはすでに記入されている。
名前にも 入江(いりえ) 幸秀(ゆきひで) と実名を嫌々ながら書いた。

しかしおかしいな・・・

どこからどう見ても完璧、書き直す部分など見当たらない。

「おかしいですね先生。僕の目には書き直す部分が見当たらないですが」
「いっやお前な!?マジで言ってるのか!?」

本気で書いた"夢"だ何かおかしいだろうか?

「よ~く考えてもう一度話してくれよ!?聞くけど、第一志望のここっ!」
「はい。ここがどうかしましたか?」

「「はい。」じゃねぇよ!!第一志望プロ野球選手!なんだこれ!!!」

「はい。高校生として夢を追いかけるのは当然ですよね?しかもうちの高校、甲子園優勝候補じゃないですか。これは確実にどこかの球団からスカウトが来ますよ」
「いやお前野球やってねぇじゃん!!!!!!!」

「ちょうどいい時期ですし、今から入部します。」
「ナメすぎだろっ!?」

先生が勢いよく立ち上がって驚いた。
下に響いてないか心配だ。下の部屋の人すんません・・・

「ソーマ先生、うち二階なんで・・・」
「・・・スマン。まあとりあえずここは置いといて二つ目のだけどな」

ソーマ先生は改めてぼろい畳の上に丁寧に座りなおす。
見た目のわりに律儀だ・・・

「おっまえ!これ・・・どういう事だよ?」

「はい。どうもこうも最高級ホストですね。あっ、薄汚いのは嫌ですよ。ちゃんと歩合ある上に補償もしっかりしてるところで働くつもりなんで安心してください」
「なれるかああああああああああああ!!!」

二度目の魂の叫び声が響き渡る。何故だ、将来の進学先、就職及び夢 って書いてあるのに

「それに3つ目のコレッ!専業主夫ってお前彼女いたか!?_」
「ふっ、先生?それは愚問ってやつですよ。いたことないに決まってます」

聞くことこそ野暮だ。いる訳ないだろう。

「愚かなのはお前の頭だよ!どうせ 「今から探します」っていうんだろ!!!!」
「そうです。先生意外と頭いいですね」
「ばっきゃろおおおおお!この進路希望調査のせいで頭がどうにかなるわ!!」

 ソーマ先生は僕の担任教師だ。

仕事の一つとして模範となる生徒の進路希望調査を進めておく事。
そこで何故か僕が選ばれた。

そんな訳の分からない紙切れを理事長から押し付けられ僕も含み困っている状況だ。

「ソーマ先生、しょうがないじゃないですか。うち、お金はないから進学なんてできませんし就職しようにも親のせいで働く場所なんてないですし。」

僕には将来まともに働ける宛てがないのだ。理由もあり諦めている。

「いや・・まあなアイツも色々頑張ってるはずなんだけど・・・やっぱり金はもらってないのか?」
「当たり前ですよ。どんなに汚れてるかわからないですし家の後継ぎは兄がいるんで」

その理由は―――

                        ・



先生がアイツと呼んだのは僕の実の父親だ。

名は 入江(いりえ) 幸定(ゆきさだ) と言う。

入江組  第五代目 の 現組長だ。

つまりうちはヤクザの家系なのである。。

こんな立ち位置のせいで僕も兄も死ぬほど迷惑をかけられた。

ヤクザの組長をアイツと呼ぶソーマ先生は父の兄弟にあたる。

兄弟といっても祖母の腹違いの兄弟でありヤクザではない。
現在、家に嫌気がさしてこのボロ7畳間にいる僕の様子をよく見に来る単なる世話焼きだ。

「お前は努力はしてるし、実際成績はいいんだから奨学金でもでるだろ?」
「保証人がいないですね。生きてるうちは実の親じゃないとダメなんで家も学校も難しいですね。借りを作るのも嫌なので」
「その融通が利かないところはアイツにホントそっくりだわ」

一緒にしないで欲しい。僕はそんな人間にはならない。

今は七畳間程度に折りたためるちゃぶ台が一つ。
これが我が新居である。築四十年は経つおもむきのある部屋なのだ。

どうしても譲らない僕に先生は諦めた様子だ。

「はぁまた理事長に怒られるけど進路調査はなんとかしとくわ...」
「お願いします」
「ハハハ・・・はあ~」
「ハハハ、いやー先生には本当にご迷惑をおかけしますね」

「お前にだけは言われたくねえええ!!」と苦言を呈しながら扉から出ていく。

先生には申し訳ない、だがしかししょうがないのだ。
あんなのでも希望調査は真面目に書いた。

理由は経歴関係なく稼げそうだからだが。

ふと時計を見るとソーマ先生が来てからかなりの時間がたっていた。
ここからは重要な時間なのだ。

「あ~もうこんな時間か間に合うか?いや行くしかない!」

世間でいう夕飯前だろうか?
幸秀にとって日曜日のこの時間は、時給1600円という高給バイトがある。
いわばボーナスタイムだ。

知り合いの店なので少しは大丈夫だ。
しかし遅刻すると、ある"少女"が必ず怒るのがセットのアルバイトだ。

まあ、言いくるめるのは簡単だが遅れたくはない。



幸秀は立ち上がり机の上に出していた茶飲みを下げ、
身支度を済ませ年数を感じる階段の音と共に走っていった。



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 日が暮れ始め、街の様子は買い物にくる人たちの光景から一転し、
帰宅ラッシュや飲食店を探す学生や家族連れ、社会人の姿が多くなってくる。

そんな飲食を提供する店が立ち並ぶ大通りの中でも比較的にかなりの出入りがあり女性客を中心に家族連れが賑わう店前でとある少年を待つ仁王立ちの少女が一人。

店はこれから夕飯に向かいピークになるためそろそろ中に戻らなければいけない。


                         ・



「―――遅い」

いつもならユキが来る時間のはずだ。
こういう時は例のアホ計画をしている時が多い。

「マジで今日こそ殺す」

今はまだ姿が見えないが私の勘はもうすぐユキが来ると告げている。
≪あっそろそろ来そーかも≫

「どおりゃああああああああああああああ間にあったかあああああああああ」

ほら来た、やはり幼馴染の勘は捨てたもんじゃない。
遅れたこいつめをどうしてくれようか。

「ユキ遅いっ!!!普通に遅刻!!」
「悪い、とりあえず行こう」
「話は中で聞くからね!!」

どうせいつもの言い訳だろうと思うが話は聞いてやろう。
幼馴染は寛大なのだ。


「いや、すまんレーナ。ソーマ先生のやつが長引いた。」
「マジに面談?そっか勘違いだったかな?」

どうやらナンパではないらしい。
この幼馴染は恥ずかしいことにナンパ癖がある。
日頃の行いで勘違いしたのは少し申し訳ない。謝らないけど

「そっか――また「高級ホストになるための練習だ~」とか言って街中で見境なくナンパしてたのかと思ってた」
「おい、失礼だな。街中流石に人は選んでナンパしてるぞ」
「全然シツレーじゃないじゃん!やっぱナンパしてるじゃん!」

・・・やはり刺すか?



ユキ - 幸秀 と 私 レーナ は幼馴染だ。
ユキにはレーナと崩した口調で呼ばれているが

椰子内やしない 玲奈れいな という名前がある。

家族経営している店で昼間は母がカフェ。
夜は父の料理屋 兼 BAR【Leonレーナ】という名前であり
ユキの事情を知っている私からパパに頼んでユキをアルバイトとして雇ってもらっている。

いわば私はユキの恩人だ。
そんな幼馴染の恩人をほったらかしてナンパしているのだ。
今日こそ許さぬ。

「ユキ!!今日こ――――」
「すいませーん!注文いいですかー?」
「あっ、はーい今参りまーす!少々お待ちください!」

注文が入ってしまった。
しょうがないので文句を言うのは後にしないと。

ディナータイムから飲み会が終わるまで私とユキは忙しくなる。
楽しみは後でとっておこう。

「大変お待たせいたしました!ご注文はお決まりですか?」
「このデミグラスオムライスのセットを三つお願いします!」
「かしこまりました!三人のお飲み物とデザートはいかがしますか?」

食後に紅茶とコーヒー二つっと・・・

メニューを書き確認した後はパパの厨房に伝えに行く。

基本的に女性や家族連れは喫茶店メニューを工夫した物がメインだ。

元々喫茶店メニューの味にこだわりディナータイプを作った。
それが認められ店は流行ったので娘としては鼻が高い。
≪一つ嫌な理由で流行っているけど・・・≫

注文をこなしている内にかなりの時間がたつ。

先程の女性客三人も帰り、ディナータイムは終わりだ。
注文はアルコールがほとんどで学生ができる仕事は終わり。

ほっと一息つける時間・・・いやまだだ!私は休めない!

「ふ、ふふふふふふふ!」

さあ!待ってなさいユキ!
その性根を叩き直してあげるお時間よ!

毎度上手く躱されているが今日こそはと思う。
幼馴染としていい加減な性格を説教すべきだ。

玲奈は≪絶対逃がさないぞ!≫と心に決め丁度テーブルへお酒を運び終わったユキの背中を見て近づいていった...


                          ・



いつも来てくれる女性客にお酒を運び終わり少し話した後、幸秀は他のテーブルを拭いていた。
そんな時に突然ガラスの割れる音がしたと思ったら男性の怒鳴り声と少女の謝罪する声が聞こえてくる。

≪これはトラブルだな・・・レーナともう一人は学生か?≫

「いてぇ、おい!どこみてあるいてんだ!」
「すみません。失礼しました。大丈夫ですか?」

「まぁだい・・・ああ痛いなぁ!おねぇーさんコレは大丈夫ではないなぁ心が傷ついちゃったよ~」
「...すみません今片づけます!」

大学生くらいのグループだろうか。
男は粛々と片付ける姿を見てにやりと笑う。

「いやもうそんなのはいいよ!ほらっこっちで一緒に飲んでくれたら許してあげるから」
「えっ・・・と私は学生なのでお酒はちょっと・・・・」
「いいじゃーん!お姉さん綺麗な髪で可愛いし!白ギャルって感じがまじタイプだわ~!!」
「俺ら優しいから何でも奢っちゃるよ~ん!」
「・・・・や・・・め・・・」

シルバーグレーの髪が揺れる。
玲奈はそのギャル風の見た目からか絡まれやすい。

男が玲奈の手を掴んで無理矢理に席に引き込もうとしている。
ここまでは見ていたが玲奈が黙って怯えるだけになってしまった。

《できればレーナにはこういう対応に慣れて欲しいんだけどな...しょうがないっ!!》

「あああああああああああああああしっつれいしましたあああああ(棒)」

僕自身相当演技が下手だと思うが構わない。
まずは玲奈とのやり取りをリセットするのが優先だ。

迫真の演技と共に玲奈にナンパしていた客のグラスを取り、中に入っていたアルコール飲料を思いっきり男へ浴びせてやった。勿体無いが許してくれ!

「な!なにすんだ!お前は!」
「お客様すみません!手が滑ってしまいました!この飲み物の代金はいただきません!」
「は、はぁ!!そうじゃないだろ!土下座でもなんでもしろよ!」
「そうだ!!お客に向かってわざとぶつけてきただろ!テメェ!!」

全員がお酒の勢いに感情が流されている。
こういう手合いこそ下手に声を上げると喧嘩になりやすい。

しかしこういう大学生グループはノリで動くことが多く冷静な対応で"俺たちが悪いことをした"そんな雰囲気にさえ一度すれば伝染してくれる。

特に今回はこいつらには弱点がある。

「お客様?定員に飲食及び過度の謝罪を強要することは強要罪、未成年に飲酒を進めることは飲食店として見過ごせません」
「そ、それがなんだよそんなのばれねぇよ!」
「なるほどお客様方は確かに20代もいるようですけど・・・あなた自身は本当に成人されていますか?」

「・・・そうだよ」
「注文するとき貴方はノンアルコールを注文してましたよね?その後に他の人が頼んだお酒をまわしてましたよね?」
「・・・」
「一応今回はこちらの失態もありますのでお客様の年齢確認をさせて頂きたいのですが―――」

少し怒鳴って酔いが醒めたのか全員マズいといった顔をしている。
分かってはいたが玲奈へ対しても罪悪感はなかったのだろう。

しかし今回はこちらも絡まれた。それを踏まえてどうなるか分かるか?

という意味合いが含んでいることに気づいているのだ。
少し青くなったその顔を見て僕はにやりと笑う。

このくらいでいいだろう。後は簡単だ。

「いやしかしお客様は心が広い!新しいドリンクの提供で許してくださるとは!」
「な、なに?」

こういう時はお互いに損したくない物だ。
目の前に妥協案があればそちらに飛びつくのだ。

「お客様への失礼を再度謝ります。替えのドリンクとシャツも勿論です。料金は貴方の分はお取りいたしません。如何でしょうか?」

困惑した素振りだが先程玲奈(未成年)に絡んだ事も既に理解している筈だ。後一歩だ。

「・・・勿論アルコールを出しますので今回はご許しを」
「ハハッ!もういいや!分かったよ。こちらこそすまなかった!後ありがとう」

小声で囁くとその態度が可笑しくなったのか
明るい表情で笑う。
根は悪い奴じゃないのかもしれない。

最後に小声でやり取りを不思議そうに見つめる玲奈の手を引きバックヤードまで歩いた。

「レーナお前な~なにやってんだか」
「う~、れいな怖かったのに!こんな時に説教なんて聞きたくないよ~!やさじくなぐさめてよ~!」
「はあ、まあいいやゆっくりしてろ。僕はおとうさ・・・レオンさんへ伝えてくる」

ほってかないでよ~!、と弱気な涙目の幼馴染ギャルは無視!

実際今回は大変失礼なことをした。
玲奈も幸秀も、だ。
しっかりと対応するべきだ。

この店のマスターであるレオンさんに話をした後、
諸々のトラブル対応も終わらせて面倒―――

――泣きじゃくる幼馴染ギャルも適当にあしらった。
本人は滅茶苦茶不満そうな表情だが放っておこう。

このBARは玲奈の父、椰子内≪やしない≫ レオンさんが経営している。

レオンさんはお金がない僕を雇ってくれた上に食事の提供までしてくれる僕にとってもう一人の父親みたいな人だ。

本人は気にしてないと言っているがこの人の態度や性格には男として憧れる。

「カウンターで見てたけど盛大にやらかしたな~」
「いやレオンさんも見てたなら止めてくださいよ!玲奈がピンチでしたよ。」

見てたなら対応して欲しかった。接客のプロであるレオンさんなら僕よりいい解決策が分かったかもしれない。

「ああやって恋が発展するもんさ」
「娘の恋が酔っ払いの大学サークル生でいいのか!!!!!?」
「・・そういう意味じゃないんだが・・」

やれやれと呆れた表情も元ホストは絵になる。
ソーマ先生といいレオンさんといい、やはりプロの技なのだろう。

「おいレーナ。いい加減ユキから離れろ。このままだとユキが帰れないだろ?」

玲奈はさっき放っておいてからこの通りだ。
半分お怒りなのかずっと纏わり着いてくる。

「いやだ~!一生背後について行ってやる!」
「と、いうわけらしいなユキ不甲斐ない娘だが末永く頼んだ。」

こいつはRPGの仲間か何かか。
玲奈に似合う武器は間違いなくセラミック包丁だろう。

「いやうちお金ないんでペット買う余裕ないです」
「お~い!!!誰がペットじゃ~い!れいなか~?れいながペットなのか~!?」
「自分の事を名前で呼ぶ幼馴染の同級生白ギャルは信用するなってソーマ先生言ってた」
「いやっ!限定的すぎるっ!ピンポイントで私を狙い撃ちじゃん!」

玲奈には今は余裕がありそうだ。
これなら本当に大丈夫だろう。

それを理解したのかレオンさんはカウンターから一つの紙袋を取り出して僕の前に持ってきた。

「ほらユキもってけ。いつもの余りだ、ちょっと重いがまた洗って返してくれたらいいからな」
「...レオンさんありがとうございます。またソーマ先生にもこっちに来るように言っときますね!」
「いや、あいつには もう来なくていいぞ と言っとけ」

元高級ホストクラブ同僚の二人はかなり仲良がいい。
苦笑するレオンさんを前に好奇心で中に入った食料を見てしまう。

レオンさんの作る料理は絶品だ。 
レーナと一緒に作る料理だがホストを辞めた後に健全に働くため修行に出たらしい。

毎回その余りというには大量の食事を貰っている。
レオンさん曰く 娘にかまってくれてるお礼だ など適当な理由をつけて渡されている。

「じゃあ僕は帰ります。ありがとうございます」
「おう~じゃあな。レーナ抑えてるから早よ行け」
「ぐるるるるるる」
猛獣と化した玲奈から逃げるように去るが"いつもの"は忘れない。

「それでは皆様!お先に失礼しま~す!」
「「お疲れ様~」」

この店の客は今はほぼOLの方々だ。
実は僕がナンパして呼び込んだ方が多くこうして挨拶をしている。

玲奈は怒るが実際にナンパされた女性客が面白がって来てくれることが多い。

やめられない連鎖なのだ。

店を出て大通りを歩いて行く。
季節の変わり目で最近寒くなり始めた。

「10月でもう冬の寒さだな、暖房代節約しないと・・・」
人通りはそこそこあったのでまだ温かさは感じるが下手すると10度ないんじゃないかと思うくらい寒い。
夏はクーラーの節約に苦労したので冬の前に秋が来てほしかったが・・
「季節が完全に夏夏冬冬になっているな・・・ん、雪?・・・・」

寒空の中、白い結晶が降ってくる。こんな時期でもう雪が降るのか・・・

雪には驚いたが丁度一週間前に誕生日プレゼントと称して玲奈からマフラーと手袋を貰った。
今時に手作りだ。心がこもっている。
心底驚いたが努力してくれたのが分かり素直にうれしかった。

「意外と温かいな・・・はあ、これだけ財布と心も温かくなりたい・・・」

体は温かい。家計にも温かみが欲しくなる・・・

大通りを過ぎて道が狭くなり小さな神社の前を通る。
そのすぐ横がうちのアパートだ。

独り言を呟いて歩いていると人影に気づいた。
家の近くで小さく縮こまっている人がいるが大丈夫だろうか?


「あの、大丈夫でしょうか?どうしましたか?」
「・・・」

なにも返事はないがしかし大丈夫そうには見えない。
うつむいていて顔は見えないが服装は協会で着るような服

・・・なんていうんだっけか、シスター服?のような物だ。
生地的に温かそうには見えないが全身覆って・・・

「ああ手が霜焼けになってますね・・・」
「・・・」

前身はすっぽりと覆われているが手には何もつけておらず少し赤い。
霜焼けだな。このままだと痛いのは貧乏人の幸秀にはよくわかる。

≪変に思われるかもしれないけど・・・≫

「・・・コレ、温かさのおすそ分けです。使ってください。」
「・・・えっ?・・・でもこれは貴方の温かいもので・・・いいんですか?」

おっ手袋を渡そうとすると初めて反応してくれた。
玲奈には申し訳ないが本当に困ってそうなので許してくれ。
僕は財布はともかく心まで寂しい人間にはなりたくないのだ

「で、でもこの手袋心がこもってますよ?」

よくわかったな・・・その手のプロなんだろうか?
受け取りずらく渋る雰囲気だがこうなったら強硬してでも温めて頂こう。

「あ~落としてしまった~!!これじゃあ誰のかわからないなあ~(棒)」
「・・・あっ・・」

手袋をゆっくりと地面に落とす。

「僕は急いでいるし~このまま捨てられるのは手袋が可哀想だな~(棒)」
「・・・」

まあ驚いているようだがこれで分かってくれただろう。

そっと目の前に手袋を置き、家に向かって幸秀は歩き出すと小さな声で話しかけられた気がしたので振り向く。

「あの・・・名前だけ・・・」

「ん?なまえ?ああ 入江 幸秀 ですね。」

「雪?」

「雪じゃない、しあわせってかいてユキです。」

「・・・そっか・・私は ―――"      "―――――― 」

「えっ?ごめん聞こえなかった。あと手袋は全然気にしなくていいですよ!すみませんがそれじゃ!」

「あっ・・・・」

雪の降る中、流石に手が寒くなってきたのでアパートまで急いで走っていく。


アパートに着いたが寒い、そりゃ暖房使えないからな。
防寒器具は布団、これが我が家の最強防具だ。

シャワーを浴びて布団を敷き、横になる。今日はいろいろあって疲れた。

進路調査に、酔っ払いに、
幼馴染ギャルの号泣に、よくわからない人への人助け。

明日からは平日なので学校へ行かなくてはならない。
勉強はともかくバイト時間もある、寝よう。

気づかないうちに疲れていたのか幸秀の意識はゆっくりとまどろんでいった。








「―――――つけた―――」


 私自身はもう存在する意味はないと思っていた。必要ないんだって。


 でもちょっぴりでも生を受ける理由が作られてしまった。


 私から与えられるものはほとんどないのだけれど


「――――でも――」


 はからずしも受け取ってしまった"温かさ"は本物で


 私自身にあった不明瞭な原理は"彼"に対しての確実な目的となっていく


 「―――だから私は――――」


 "彼" に温かさを伝えるために






   「―ここに"生"を受けます―」







その夜、一人の少年が

    一人の少女を生んだ。






エピソード1   〰〰 青春は希望と共に 〰〰 

                      続く                 
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