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15.確信
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「まさかそんなことが……。どうしてお前は勝手に……!」
「あーはっはっは! さすが私の娘!」
「す、すみません……」
明らかに憤るエリックとは反対に大笑いしている父だけれど、それが逆に怖くて縮こまる。記憶が曖昧だったとはいえ、あそこは普通に身を委ねるべきだったのだ。
「だって、全身に纏わりつくようなエリックの気配が落ち着かなくて……」
「うんうん、なるほど。それはエリックがしつこくてねちっこいのが一番の原因だね」
「俺のせいですか!」
愕然とするエリックに、慌てて手の平を向けて振った。違わないけど、違う。
「心地よかったのは本当なの。ほら、私たちっていつも張り合っていたじゃない? だから思わず……」
「別に俺は張り合っていたつもりはなかったぞ。ラリアがしたいようにしていただけで」
「だったらズルいわ! 私いつも真剣勝負で挑んでいたのに」
「まぁまぁ、夫婦喧嘩はその辺で」
両手を軽く上げていなす父に、そろって口を閉じた。夫婦喧嘩と言われて居たたまれない。エリックは全く気にしていないだろうけれど。悔しくて軽く睨むけれど、微笑みで返されて頬に熱が集まった。
「僕の娘を揶揄うの、止めてくれない? まだ中身は十六歳なんだよ……まぁ、それはさて置き。恐らくは回復途中に無理矢理覚醒したことによる弊害だと分かったね」
「確かに……」
言われてみれば、そんな気がする。気持ちよく揺蕩っていることに反発したのだから。
「でも今日、お父様に話して良かったわ。未だにその時のことは夢の中のような感覚だから、その内に忘れちゃたかもしれないもの」
「そうだね、良かった。そうするとラリアを家に帰してもらえないどころか、エリックだけがいい思いをして大変遺憾だ」
「何を言っているんですか……」
「間違っているとでも?」
「いいえ、間違ってはいませんが」
「??」
二人の会話の意味が分からずに首を傾げた。そんな私を見て父は目を細め、
「ラリアは分からなくていいよ~」
そう言いながら頭を撫でられる。身構えていたものの、今度は存外優しい手つきだった。
「そういうことなら中途半端な回復を補填できるような案を考えてみるよ。調薬か魔力を流すか、どちらにしても元々エリックの魔力を使っていたから二人には協力はしてもらう。当分は休暇だったから構わないね?」
「もちろんです。お手を煩わせてすみません。休暇といっても簡単な任務ならラリアの訓練にもなると思うのでお受けします」
「お父様、よろしくお願いします」
エリックと揃って頭を下げる。こんなに頼もしい協力者はいない。この八年でさらに研鑽しているはずの大魔術師なのだから。
「可愛い娘……と息子のためだからね」
やれやれ、といった表情を隠しもせず、父は大袈裟に肩を竦めた。なんだかんだ言って、未来の私は優しい人たちに囲まれて幸せなのだと実感する。
「でも私がもっと強かったら……」
「元はと言えば庇いきれなかった俺にも責任はある」
庇い合う私たちに、まぁまぁと宥められる。
「報告も確認したけれど、あの状況でラリアが自身を強化して仲間を庇い、その外側を覆うようにエリックが防御した。咄嗟の判断だがよくやったと思う」
「お父様……」
間違いじゃなかった、そう言ってもらえてホッと安堵の胸をなでおろす。
「私の目が一番見ていたはずなのに、記憶がなくて伝えきれないからもどかしいわ」
「俺は見て感じたことは報告してあるから気にするな」
「うん……」
けれど記憶にない私は役立たずなのだと痛感してしまう。目線は徐々に下がっていき、顔を俯けた。
「ラリア……」
父に名を呼ばれて顔を上げると、口を噤んで目線を扉に向けていた。思わず彼の視線を辿った。何の変哲もない私たちが入ってきた扉。すると数秒後にコンコンとノックの音が響いた。
「団長、資料を持ってきました」
「……ああ、開けていいよ」
「あ……」
扉を開けたのはケイシーだった。驚いたように私たちを見たが、すぐに笑顔になる。
「来客中に失礼しました。二人とも数日ぶりね」
「お疲れ様、ケイシー。じゃあ、私たちはこれで」
「またね。……資料はどこに置いたらいいでしょうか?」
父に話しかけたケイシーとすれ違いで部屋を出る。彼女も同じ魔術師らしいが、このエリアへ立ち入れるということは信頼の置ける人物なのだろう。私の友達だからといって、実力主義の父が優遇するとも思えないので実力も兼ね備えていることになる。
「彼女は優秀なのね」
「そうらしいな。だがラリアのが優秀だし、俺のがもっと優秀だが?」
「……自信過剰、と言いたいけれど本当だからムカつくわ」
廊下を歩きながら笑顔のケイシーを思い出す。ふんわりとした外観からは攻撃魔法をバリバリ放つとは思えない。それはそれで素敵だし、美少女にしか見えない見た目の青年が、おどろおどろしい闇魔法を得意とすることもあるので一概には言えない。それすらも武器になるのだから。
それにしてもケイシーは砂糖菓子のような甘さがある可愛さだった。お洒落に疎い私とは大違いだ。今までも周りにキラキラした女の子たちは沢山いたけれど、どうしてこんなにも気になるのだろう。この前に街で会った時のように胸がチリチリと焼き付く。
これは今の私の気持ち? もしかして潜在意識にある本来の私の気持ち?
「人には向き不向きがあるんだから、派手に攻撃魔法をぶっ放すのがラリアだろ?」
「言い方。なんか私すごく女子として悲しいんだけど」
「は? 俺は褒めている」
「どこがよ」
心底分からないといった様子のエリック。いやいや、それはこっちですけど。
「男だったら、ガンガン攻撃当ててくる女よりも傍らで補助してくれる可愛い女の子の方がいいでしょ?」
「例えばそれが世間一般の意見ならば、ライバルが少なくて俺は嬉しいが」
「もう! そういうことじゃなくて!」
少し声を上げれば、先に階段を下りきったエリックが振り向いた。二、三段上にいた私と目線の高さが同じになる。相手はエリックと言えど、大人の色気がある彼と至近距離で目が合えば、頬に熱が集まるのは仕方のないことで。
そろりと視線を逸らせば、両頬に手を添えられる。恐る恐るエリックを見れば、真剣な表情で見つめている瞳とぶつかった。
「そういうことだろ? 俺にはラリアしか可愛くないし、ラリアしか見ていないけど。今までもこれからも」
私が声を上げれば言い合いに発展するのが常なのに、諭すように言われて言葉に詰まってしまう。すると軽く唇に熱が重なった。固まった私を尻目に、さっさと歩いていくエリックの後を、一拍遅れて急いで追いかけたのだった。
* * *
「そういえば君はラリアたちと同級生だったかな?」
「はい、とても仲良くしていただいています」
首を傾げながらそう答える様は可愛らしく、柔らかそうな髪はゆっくりと揺れた。人懐こいケイシーの笑顔に、ロジャーは自身の娘夫婦の不器用さを思い出す。まぁ、不器用な方が魔術師らしくはあるのだが。
「そうか。ラリアはともかくエリックも魔法だ魔力だと、あまり友達付き合いがいいとは言えないからね。君もあの二人には振り回されているだろう?」
「うーん。魔術師団長に話すならまだしも、ラリアのお父様に対しての返答だと思えば困りますね」
「ハハハ、なるほど。それもそうか」
眉を少し下げたロジャーはケイシーの持ってきた資料を手に取った。
パラパラと紙をめくる音を聞きながらケイシ―が窓の外を見れば、エリックとラリアの後ろ姿が見えた。ラリアの髪が陽の光を浴びて銀糸のようにきらめいていて、思わず溜息が零れた。月の女神のようだと学園でも崇拝の的であったラリア。それなのに本人は明け透けで、サッパリとした男勝りな性格なのだ。
不意にエリックが頭頂に唇を寄せて、ラリアが飛び上がった。鼻をぶつけてしまったらしいエリックと揉めながら小さくなっていく後ろ姿をケイシーは眺めていた。
「ところでケイシー。ラリアが眠っている間に見舞いに行ってくれたんだって?」
「……はい。とても心配で。でも元気そうで本当に安心しました」
ロジャーから声をかけられて彼に視線を戻す。思わず握りしめてしまっていた手をそっと緩めた。
資料に目を落としていたラリアに似た眼差しが、ケイシーを見上げた。見透かされていそうな気になってしまうのは、彼が誰もが尊敬する優れた魔術師だからなのか、それとも。
「まぁ身体のほうは問題ないからね。それでもエリックがいるから大丈夫だろう。一から十まで教えるはずだ。それに君も、私も、ね」
「そうですね。微力ながらラリアの力になりたいと思っています」
動揺を隠しながらケイシーは微笑む。大丈夫、繕えているはずだ。
「ふむ……資料は問題ない。これで進めてくれと第一部隊長に報告しておいて。他の用事はもう済んだのかな?」
「問題がないようでしたら、私の任務は以上になります。それでは失礼いたします」
団長印を捺された資料を手に取り、一礼をして部屋を出る。平静を装って廊下を歩くが、ケイシーの脳内は混乱しきりだった。
(やっぱり、違和感は間違いじゃない。身体に問題はないということは、内面はそうではないということ……)
ケイシーはラリアと街で会った時のことを思い出していた。それと先ほどの部屋での様子。どちらもケイシーの知っているラリアであるけれど、何かが違っていた。ケイシーが得意とするのは、回復や治療といった補助魔法である。こっそりとラリアを解析したが紛れもなく本人だった。
しかしエリックもいつもより口数が多く、何か隠したいことがあったに違いないと思っていたのだが。先ほどのロジャーの話も鑑みれば線と線が繋がっていく。
(ふふ、なるほど……。記憶がないのか曖昧なのかは分からないけど……知らないんだ)
「忘れててもらわないと……」
資料を手にそう呟くケイシーの目が鋭く光る。おっと、いけない。平常心、平常心。
気を取り直すと、足取りも軽く廊下を急いだ。
「あーはっはっは! さすが私の娘!」
「す、すみません……」
明らかに憤るエリックとは反対に大笑いしている父だけれど、それが逆に怖くて縮こまる。記憶が曖昧だったとはいえ、あそこは普通に身を委ねるべきだったのだ。
「だって、全身に纏わりつくようなエリックの気配が落ち着かなくて……」
「うんうん、なるほど。それはエリックがしつこくてねちっこいのが一番の原因だね」
「俺のせいですか!」
愕然とするエリックに、慌てて手の平を向けて振った。違わないけど、違う。
「心地よかったのは本当なの。ほら、私たちっていつも張り合っていたじゃない? だから思わず……」
「別に俺は張り合っていたつもりはなかったぞ。ラリアがしたいようにしていただけで」
「だったらズルいわ! 私いつも真剣勝負で挑んでいたのに」
「まぁまぁ、夫婦喧嘩はその辺で」
両手を軽く上げていなす父に、そろって口を閉じた。夫婦喧嘩と言われて居たたまれない。エリックは全く気にしていないだろうけれど。悔しくて軽く睨むけれど、微笑みで返されて頬に熱が集まった。
「僕の娘を揶揄うの、止めてくれない? まだ中身は十六歳なんだよ……まぁ、それはさて置き。恐らくは回復途中に無理矢理覚醒したことによる弊害だと分かったね」
「確かに……」
言われてみれば、そんな気がする。気持ちよく揺蕩っていることに反発したのだから。
「でも今日、お父様に話して良かったわ。未だにその時のことは夢の中のような感覚だから、その内に忘れちゃたかもしれないもの」
「そうだね、良かった。そうするとラリアを家に帰してもらえないどころか、エリックだけがいい思いをして大変遺憾だ」
「何を言っているんですか……」
「間違っているとでも?」
「いいえ、間違ってはいませんが」
「??」
二人の会話の意味が分からずに首を傾げた。そんな私を見て父は目を細め、
「ラリアは分からなくていいよ~」
そう言いながら頭を撫でられる。身構えていたものの、今度は存外優しい手つきだった。
「そういうことなら中途半端な回復を補填できるような案を考えてみるよ。調薬か魔力を流すか、どちらにしても元々エリックの魔力を使っていたから二人には協力はしてもらう。当分は休暇だったから構わないね?」
「もちろんです。お手を煩わせてすみません。休暇といっても簡単な任務ならラリアの訓練にもなると思うのでお受けします」
「お父様、よろしくお願いします」
エリックと揃って頭を下げる。こんなに頼もしい協力者はいない。この八年でさらに研鑽しているはずの大魔術師なのだから。
「可愛い娘……と息子のためだからね」
やれやれ、といった表情を隠しもせず、父は大袈裟に肩を竦めた。なんだかんだ言って、未来の私は優しい人たちに囲まれて幸せなのだと実感する。
「でも私がもっと強かったら……」
「元はと言えば庇いきれなかった俺にも責任はある」
庇い合う私たちに、まぁまぁと宥められる。
「報告も確認したけれど、あの状況でラリアが自身を強化して仲間を庇い、その外側を覆うようにエリックが防御した。咄嗟の判断だがよくやったと思う」
「お父様……」
間違いじゃなかった、そう言ってもらえてホッと安堵の胸をなでおろす。
「私の目が一番見ていたはずなのに、記憶がなくて伝えきれないからもどかしいわ」
「俺は見て感じたことは報告してあるから気にするな」
「うん……」
けれど記憶にない私は役立たずなのだと痛感してしまう。目線は徐々に下がっていき、顔を俯けた。
「ラリア……」
父に名を呼ばれて顔を上げると、口を噤んで目線を扉に向けていた。思わず彼の視線を辿った。何の変哲もない私たちが入ってきた扉。すると数秒後にコンコンとノックの音が響いた。
「団長、資料を持ってきました」
「……ああ、開けていいよ」
「あ……」
扉を開けたのはケイシーだった。驚いたように私たちを見たが、すぐに笑顔になる。
「来客中に失礼しました。二人とも数日ぶりね」
「お疲れ様、ケイシー。じゃあ、私たちはこれで」
「またね。……資料はどこに置いたらいいでしょうか?」
父に話しかけたケイシーとすれ違いで部屋を出る。彼女も同じ魔術師らしいが、このエリアへ立ち入れるということは信頼の置ける人物なのだろう。私の友達だからといって、実力主義の父が優遇するとも思えないので実力も兼ね備えていることになる。
「彼女は優秀なのね」
「そうらしいな。だがラリアのが優秀だし、俺のがもっと優秀だが?」
「……自信過剰、と言いたいけれど本当だからムカつくわ」
廊下を歩きながら笑顔のケイシーを思い出す。ふんわりとした外観からは攻撃魔法をバリバリ放つとは思えない。それはそれで素敵だし、美少女にしか見えない見た目の青年が、おどろおどろしい闇魔法を得意とすることもあるので一概には言えない。それすらも武器になるのだから。
それにしてもケイシーは砂糖菓子のような甘さがある可愛さだった。お洒落に疎い私とは大違いだ。今までも周りにキラキラした女の子たちは沢山いたけれど、どうしてこんなにも気になるのだろう。この前に街で会った時のように胸がチリチリと焼き付く。
これは今の私の気持ち? もしかして潜在意識にある本来の私の気持ち?
「人には向き不向きがあるんだから、派手に攻撃魔法をぶっ放すのがラリアだろ?」
「言い方。なんか私すごく女子として悲しいんだけど」
「は? 俺は褒めている」
「どこがよ」
心底分からないといった様子のエリック。いやいや、それはこっちですけど。
「男だったら、ガンガン攻撃当ててくる女よりも傍らで補助してくれる可愛い女の子の方がいいでしょ?」
「例えばそれが世間一般の意見ならば、ライバルが少なくて俺は嬉しいが」
「もう! そういうことじゃなくて!」
少し声を上げれば、先に階段を下りきったエリックが振り向いた。二、三段上にいた私と目線の高さが同じになる。相手はエリックと言えど、大人の色気がある彼と至近距離で目が合えば、頬に熱が集まるのは仕方のないことで。
そろりと視線を逸らせば、両頬に手を添えられる。恐る恐るエリックを見れば、真剣な表情で見つめている瞳とぶつかった。
「そういうことだろ? 俺にはラリアしか可愛くないし、ラリアしか見ていないけど。今までもこれからも」
私が声を上げれば言い合いに発展するのが常なのに、諭すように言われて言葉に詰まってしまう。すると軽く唇に熱が重なった。固まった私を尻目に、さっさと歩いていくエリックの後を、一拍遅れて急いで追いかけたのだった。
* * *
「そういえば君はラリアたちと同級生だったかな?」
「はい、とても仲良くしていただいています」
首を傾げながらそう答える様は可愛らしく、柔らかそうな髪はゆっくりと揺れた。人懐こいケイシーの笑顔に、ロジャーは自身の娘夫婦の不器用さを思い出す。まぁ、不器用な方が魔術師らしくはあるのだが。
「そうか。ラリアはともかくエリックも魔法だ魔力だと、あまり友達付き合いがいいとは言えないからね。君もあの二人には振り回されているだろう?」
「うーん。魔術師団長に話すならまだしも、ラリアのお父様に対しての返答だと思えば困りますね」
「ハハハ、なるほど。それもそうか」
眉を少し下げたロジャーはケイシーの持ってきた資料を手に取った。
パラパラと紙をめくる音を聞きながらケイシ―が窓の外を見れば、エリックとラリアの後ろ姿が見えた。ラリアの髪が陽の光を浴びて銀糸のようにきらめいていて、思わず溜息が零れた。月の女神のようだと学園でも崇拝の的であったラリア。それなのに本人は明け透けで、サッパリとした男勝りな性格なのだ。
不意にエリックが頭頂に唇を寄せて、ラリアが飛び上がった。鼻をぶつけてしまったらしいエリックと揉めながら小さくなっていく後ろ姿をケイシーは眺めていた。
「ところでケイシー。ラリアが眠っている間に見舞いに行ってくれたんだって?」
「……はい。とても心配で。でも元気そうで本当に安心しました」
ロジャーから声をかけられて彼に視線を戻す。思わず握りしめてしまっていた手をそっと緩めた。
資料に目を落としていたラリアに似た眼差しが、ケイシーを見上げた。見透かされていそうな気になってしまうのは、彼が誰もが尊敬する優れた魔術師だからなのか、それとも。
「まぁ身体のほうは問題ないからね。それでもエリックがいるから大丈夫だろう。一から十まで教えるはずだ。それに君も、私も、ね」
「そうですね。微力ながらラリアの力になりたいと思っています」
動揺を隠しながらケイシーは微笑む。大丈夫、繕えているはずだ。
「ふむ……資料は問題ない。これで進めてくれと第一部隊長に報告しておいて。他の用事はもう済んだのかな?」
「問題がないようでしたら、私の任務は以上になります。それでは失礼いたします」
団長印を捺された資料を手に取り、一礼をして部屋を出る。平静を装って廊下を歩くが、ケイシーの脳内は混乱しきりだった。
(やっぱり、違和感は間違いじゃない。身体に問題はないということは、内面はそうではないということ……)
ケイシーはラリアと街で会った時のことを思い出していた。それと先ほどの部屋での様子。どちらもケイシーの知っているラリアであるけれど、何かが違っていた。ケイシーが得意とするのは、回復や治療といった補助魔法である。こっそりとラリアを解析したが紛れもなく本人だった。
しかしエリックもいつもより口数が多く、何か隠したいことがあったに違いないと思っていたのだが。先ほどのロジャーの話も鑑みれば線と線が繋がっていく。
(ふふ、なるほど……。記憶がないのか曖昧なのかは分からないけど……知らないんだ)
「忘れててもらわないと……」
資料を手にそう呟くケイシーの目が鋭く光る。おっと、いけない。平常心、平常心。
気を取り直すと、足取りも軽く廊下を急いだ。
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