元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~

日之影ソラ

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第一部

23.格の違いってやつだよ

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 タクトは徐に立ち上がり、右手を自らの陰に向ける。
 彼の影は水のように波をうち、一振りの剣をはじき出す。

「漆黒の刀?」
「そう! これが僕の相棒、妖刀【夜叉丸】だ。こっちに呼び出された時に、一緒にプレゼントされたんだよ」
「そうか」

 転生オプションって感じか。
 俺の時もそうだった。
 聖剣グラニカは、転生のときに与えられた力だ。
 タクトも同じだと言うのなら、あの妖刀のポテンシャルはグラニカに匹敵するとみて間違いないだろう。
 一先ずは様子見といこうか。

「ルーリア! もっと遠くへ離れてろ」
「ジーク! で、でも!」
「俺なら大丈夫だから」
「わ、わかったのじゃ!」

 よし、これで巻き込む心配はない。
 奴も転生者なら、実力は俺に近いと思うべきだ。
 ルーリアとの戦いとは違って、手加減はしないほうが良いだろう。

「やさしいね。どうせ君が負ければ次はあの子だよ?」
「安心しろ。俺が負けることはありえない」
「へぇ~ じゃあ見せてもらおうかな?」

 タクトの影から黒い刃が伸びる。
 影の刃は鋭く、素早く俺を攻撃してくる。
 俺は後方へ跳び避け、剣を生成して射出し、タクトを攻撃。
 しかし、剣は陰の壁で防御されてしまう。

「なるほど、影を操り武器にする。その妖刀の能力か」
「そういう君は剣を生み出せるんだね」

 互いの能力の把握しあい、手の内を見せてからが本番。
 タクトを覆う影は巨大に膨れ上がり、竜の顎のように形を作る。

「こういうのはどうかな?」

 影で形作られたドラゴンが、俺を噛み殺そうと襲ってくる。
 
「剣の壁よ」

 俺は巨大な剣を壁のように突き刺し、竜の顎を防ぐ。
 が、竜の顎は形を変え、無数の刃となって壁の左右から回り込んでくる。
 俺は剣を両手に持ち、連続で弾いて距離をとる。

「中々やるね」

 タクトは余裕の表情を見せている。
 影を操る能力か。
 思った以上に応用が利く。
 形と性質を自由に選べて、変幻自在に攻撃してくる。
 便利な能力だな。

「君が生み出せるのは剣だけかい?」
「だとしたら?」
「ガッカリだよ。同じ系統の能力かと思ったけど、それじゃあ僕の劣化版じゃないか」
「酷い言われようだな」
「だってそうだろ? 僕は形も大きさも自由自在なのに、君のはせいぜい大きさだけじゃないか。その程度の能力じゃ、僕には届かないよ」

 自信たっぷりに言い切るタクト。
 実際に優勢なのは彼のほうではある。
 俺が攻防の際に移動しているのに対して、彼は最初の位置から動いていない。
 王座に座って指示するように、影が戦っているだけだ。

「まったく、あまり僕を落胆させないでくれるかな?」
「落胆ねぇ~ ならよーく見ておけよ」

 今の攻防で、奴の能力は理解した。
 可能性も考慮しつつ、攻めに転じるとしよう。

「今、そこから引きずり降ろしてやる」

 殺気を放つ。
 それを感じ取ったタクトは、影の刃を無数に生み出し、俺目掛けて伸ばす。
 さっきも見せた技だ。
 形状も動きも自由に変えられる便利な技だが――

「もう慣れたぞ」
「なっ!」

 速度は俺のほうが上だ。
 どれだけ数を増やそうと、捉えられない速度で動けば問題ない。
 必要最低限の影だけ弾き、本体であるタクトへ攻めいる。

「近寄らせると?」
「無理やりいくから心配するな」

 ここで剣の雨を降らせる。
 防御のために影を天井のように動かし、降り注ぐ剣から身を護る。
 そうするだろうという予想を立て、意識が逸れた所で前方からも剣を打ち出す。

「こんなもので僕を倒せると――」
「思ってないよ。ただの陽動だからな」

 正面も影で防御したから、一瞬だけ視界から消えただろう。
 その隙をついて、俺は側面へ移動していた。

「ちっ、でもいいのかな? 影が近いよ」
「心配ないな」

 奴の影を踏むのにはリスクがある。
 影を操れるなら、近づくほど一気に攻撃を受ける危険性は高い。
 だが、奴の操れる影の量にも制限があるのだろう?
 そうでなければ、最初からここの一帯を影で覆ってしまうはずだ。
 それをしなかったのは、その量の影は操れないから。

「お前は逃げるしかない」
「くっ……」

 俺の斬撃を天井にしていた影の一部で防御。
 間一髪で躱し、死体の山から飛び降りる。

「お前の能力は確かに便利だ。汎用性は俺のより高いよ。だけど、無敵ってわけじゃない。何より経験が違う」
「経験?」
「ああ。俺とお前じゃ、潜って来た死線の数が違うんだよ」

 俺がそう言うと、タクトは黙り込んだ。
 力の差を認めたのか。
 いや、そういうわけではなさそうだ。

「ふふっ、なるほどね。確かに強いな」

 なぜなら、彼はまだ笑っている。
 不敵な笑みを浮かべ、俺をあざ笑うように見る。

「だったら、こういうのはどうかな?」

 タクトを影が覆っていく。
 漆黒の鎧のように、全身を覆い隠す。

「これは格好悪いから使いたくなかったんだけどね」
「影の鎧って感じか」
「その通りさ。君の強さは理解したよ。だけど、その剣は僕の影を斬れなかった。つまり、こうしてしまえば、君は僕に何もできない」
「……」
「これこそ能力の差だ。恨むなら、君にそれを与えた世界を――」
「いいかげん勘違いを正しておこうか」

 タクトの話を遮って言う。

「俺の能力は、剣を生み出すことじゃない。お前が妖刀を授かったように、俺は聖剣を授かっている」
「聖剣だと?」
「そう、これが――」

 右手に宿すは我が力。
 魂と強く結びついた強靭なる一振り。

「聖剣グラニカだ」
「……それが聖剣」
「ついでにもう一つ教えておくぞ」

 聖剣グラニカは、数ある聖剣の中で唯一特別な能力が付与されていない。
 純粋な剣としての完成形であり、あらゆる聖剣の――否、あらゆる剣の原点。

「俺とお前の差は経験だけじゃない」

 剣という概念を決定づけた一振り。
 故にその切れ味は――持つ者の技量に大きく左右される。

「格が違うんだよ」

 一振りの斬撃は全てを斬り裂く。
 物体も、時間も、空間も、概念すら両断する。

「そ……んな……」
「残念だったな、後輩」

 影の鎧など、剣の前では無力。
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