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第一部
22.もう一人の転生者
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積み上げられた死体は、全て彼女の知人。
俺は彼女に謝らせたかった。
小さな女の子に罪を擦り付け、現実から目を背けようよした大人たちに。
謝らせて、認めさせたかった。
彼女が何を思い、何を成そうとしていたのか。
たったそれだけのことだったのに……
「ジーク、みんなが……」
叶わないという絶望が目の前にはある。
もしもこれが罰なのだとしたら、一体誰に対してのものだろうか。
「ジークぅ」
「ああ、わかってるよ」
俺は彼女の頭を撫でる。
気休めにしかならないけど、何もないよりマシだ。
「少し下がってろ」
「……うん」
彼女を下がらせ、自分だけが前に出る。
死体の山で座る一人の男。
彼が敵であることは間違いないとして、何者なのか問わなければならない。
そして、何者だったとしても、戦うことに変わりはない。
「ん、おや? もう新しいお客さんかな?」
男はこちらに気付き、振り向いて微笑みかけてきた。
見た目は普通の男性だ。
微笑みかけてきた表情には、殺意も敵意も込められていない。
どこにでもいそうな男の、ありきたりな笑顔。
それがこんなにも怖いと感じたのは、生まれて初めての体験だった。
「お前は何者だ?」
「僕かい? う~ん、何て言えばいいのかな~ 定説の破壊者? いや、世界を正す者かな」
「……質問を変えよう。それをやったのはお前か?」
「それ?」
男はキョトンとした表情で首を傾げた。
「お前が座ってる山だよ」
「あーこれか。そうだよ? いらなくなったから処分したんだ」
「いらなくなった……だと」
「ああ。悪魔っていうから期待したんだけど、子供一人に劣るなんて期待外れも良い所さ」
子供と言う単語が引っかかる。
おそらく、ルーリアのことを言っているのだろう。
だけど、彼女の反応を見る限り、一方的に知っているだけのようだな。
「おや? もしかして後ろにいるのは魔王の女の子かな?」
男がルーリアに気付いた。
ニコリと微笑みかけ、ルーリアはびくりと反応する。
「君は中々よかったよぉ? でも残念だな~ やっぱり子供じゃ、人類を滅ぼすまでは出来ないよね」
「おいお前、さっきから何の話をしている?」
「何って僕のプランの話だよ」
「……その言い方だと、全部お前の仕業みたいに聞こえるが?」
「そう言ってるのさ。近隣に悪魔の村を襲わせたのは僕だ。人間への憎しみを強化して、反旗を翻させるためにね。まぁ、結局中途半端で終わちゃったけど」
男は楽しそうに語っていた。
「ホントはさ~ もっと上手くいく予定だったんだよ?」
仕掛けた悪戯をばらすように、無邪気で屈託のない笑顔を浮かべながら。
「でも思った以上に腑抜けで困るよ。まーでも、こうやって殺すと気分が良いね」
どす黒い何かを内に秘めている。
俺とルーリアはそう直感した。
この男は危険すぎる。
「なぜそんなことをする? お前は人間じゃないのか?」
「人間だよ。見ての通り」
「だったらなぜ、人類を滅ぼそうとする」
「それが僕の使命だからさ」
「使命だと?」
「そうさ。僕は増え過ぎた人類を間引くために、この世界に召喚された」
この世界?
召喚と言ったのか?
生まれたのではなく、呼び出されたという意味。
そんな言葉を使うということは、彼も俺と同じ異世界からの転生者。
どこかの誰かが呼び出したのか。
こんなイカレタ人間を……
「世も末だな。そう命令されたのか?」
「命令? 違うよ、僕は最初からそのつもりだった。僕は向こうでも他人って奴らが嫌いだったんだ。そんな僕を呼んだんだし、そういう意味だろ? 僕の存在が世界の意思だ」
どういう思考の曲解だよ。
呼び出された理由を勝手に解釈して、好き勝手暴れまわっている。
というのが、あの男の言い訳か。
とことん阿保らしい。
「お前、名前は?」
「人に聞く前に、まずは自分から名乗ったらどうだい? さっきから質問ばかりで失礼だよ」
「死体の山に座ってる奴に言われたくないが、俺はジークだ」
「僕はタクトだよ。魔王の女の子と一緒にいるってことは、もしかしてこの中に知り合いでもいたのかな?」
「いいや、俺の知り合いはいない。いないが……不愉快だな」
俺は剣を生み出し、切っ先をタクトに向ける。
タクトはニヤリと笑い、挑発するように言う。
「僕とやる気かい? 二人がかりなら勝てると思ったのかな?」
「なめるなよ。お前と戦うのは俺だけだ。それとさっきの話だけどだ。色々とツッコミたい所だが、一番の間違いを指摘しておいてやる」
「間違い?」
「ああ。人類を間引くことが世界の意思だって言ってたけど、それはありえない」
俺がそう言うと、タクトは眉を顰める。
ずっとニコニコしていた彼が、初めて見せる不快な表情。
「……何を根拠に言っているのかな?」
「根拠は――この俺の存在だ」
かつて世界を、人類を救った男がここにいる。
記憶と力を受け継いで、二度目の生を授かっている。
もしも世界が人類滅亡を望むなら、俺が存在しているわけがない。
だから間違いだと、俺は断言できる。
「そうか、そういうことか! 君もこっち側の人間なんだね」
「一緒にするなよ。元は同じでも、何から何まで真逆だろ」
「ああ、その通りだ! 理解したよ……君はここで消さなければならないってね!」
どす黒いオーラを纏わせる。
タクトが初めて、俺に殺意を向けた。
俺は彼女に謝らせたかった。
小さな女の子に罪を擦り付け、現実から目を背けようよした大人たちに。
謝らせて、認めさせたかった。
彼女が何を思い、何を成そうとしていたのか。
たったそれだけのことだったのに……
「ジーク、みんなが……」
叶わないという絶望が目の前にはある。
もしもこれが罰なのだとしたら、一体誰に対してのものだろうか。
「ジークぅ」
「ああ、わかってるよ」
俺は彼女の頭を撫でる。
気休めにしかならないけど、何もないよりマシだ。
「少し下がってろ」
「……うん」
彼女を下がらせ、自分だけが前に出る。
死体の山で座る一人の男。
彼が敵であることは間違いないとして、何者なのか問わなければならない。
そして、何者だったとしても、戦うことに変わりはない。
「ん、おや? もう新しいお客さんかな?」
男はこちらに気付き、振り向いて微笑みかけてきた。
見た目は普通の男性だ。
微笑みかけてきた表情には、殺意も敵意も込められていない。
どこにでもいそうな男の、ありきたりな笑顔。
それがこんなにも怖いと感じたのは、生まれて初めての体験だった。
「お前は何者だ?」
「僕かい? う~ん、何て言えばいいのかな~ 定説の破壊者? いや、世界を正す者かな」
「……質問を変えよう。それをやったのはお前か?」
「それ?」
男はキョトンとした表情で首を傾げた。
「お前が座ってる山だよ」
「あーこれか。そうだよ? いらなくなったから処分したんだ」
「いらなくなった……だと」
「ああ。悪魔っていうから期待したんだけど、子供一人に劣るなんて期待外れも良い所さ」
子供と言う単語が引っかかる。
おそらく、ルーリアのことを言っているのだろう。
だけど、彼女の反応を見る限り、一方的に知っているだけのようだな。
「おや? もしかして後ろにいるのは魔王の女の子かな?」
男がルーリアに気付いた。
ニコリと微笑みかけ、ルーリアはびくりと反応する。
「君は中々よかったよぉ? でも残念だな~ やっぱり子供じゃ、人類を滅ぼすまでは出来ないよね」
「おいお前、さっきから何の話をしている?」
「何って僕のプランの話だよ」
「……その言い方だと、全部お前の仕業みたいに聞こえるが?」
「そう言ってるのさ。近隣に悪魔の村を襲わせたのは僕だ。人間への憎しみを強化して、反旗を翻させるためにね。まぁ、結局中途半端で終わちゃったけど」
男は楽しそうに語っていた。
「ホントはさ~ もっと上手くいく予定だったんだよ?」
仕掛けた悪戯をばらすように、無邪気で屈託のない笑顔を浮かべながら。
「でも思った以上に腑抜けで困るよ。まーでも、こうやって殺すと気分が良いね」
どす黒い何かを内に秘めている。
俺とルーリアはそう直感した。
この男は危険すぎる。
「なぜそんなことをする? お前は人間じゃないのか?」
「人間だよ。見ての通り」
「だったらなぜ、人類を滅ぼそうとする」
「それが僕の使命だからさ」
「使命だと?」
「そうさ。僕は増え過ぎた人類を間引くために、この世界に召喚された」
この世界?
召喚と言ったのか?
生まれたのではなく、呼び出されたという意味。
そんな言葉を使うということは、彼も俺と同じ異世界からの転生者。
どこかの誰かが呼び出したのか。
こんなイカレタ人間を……
「世も末だな。そう命令されたのか?」
「命令? 違うよ、僕は最初からそのつもりだった。僕は向こうでも他人って奴らが嫌いだったんだ。そんな僕を呼んだんだし、そういう意味だろ? 僕の存在が世界の意思だ」
どういう思考の曲解だよ。
呼び出された理由を勝手に解釈して、好き勝手暴れまわっている。
というのが、あの男の言い訳か。
とことん阿保らしい。
「お前、名前は?」
「人に聞く前に、まずは自分から名乗ったらどうだい? さっきから質問ばかりで失礼だよ」
「死体の山に座ってる奴に言われたくないが、俺はジークだ」
「僕はタクトだよ。魔王の女の子と一緒にいるってことは、もしかしてこの中に知り合いでもいたのかな?」
「いいや、俺の知り合いはいない。いないが……不愉快だな」
俺は剣を生み出し、切っ先をタクトに向ける。
タクトはニヤリと笑い、挑発するように言う。
「僕とやる気かい? 二人がかりなら勝てると思ったのかな?」
「なめるなよ。お前と戦うのは俺だけだ。それとさっきの話だけどだ。色々とツッコミたい所だが、一番の間違いを指摘しておいてやる」
「間違い?」
「ああ。人類を間引くことが世界の意思だって言ってたけど、それはありえない」
俺がそう言うと、タクトは眉を顰める。
ずっとニコニコしていた彼が、初めて見せる不快な表情。
「……何を根拠に言っているのかな?」
「根拠は――この俺の存在だ」
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もしも世界が人類滅亡を望むなら、俺が存在しているわけがない。
だから間違いだと、俺は断言できる。
「そうか、そういうことか! 君もこっち側の人間なんだね」
「一緒にするなよ。元は同じでも、何から何まで真逆だろ」
「ああ、その通りだ! 理解したよ……君はここで消さなければならないってね!」
どす黒いオーラを纏わせる。
タクトが初めて、俺に殺意を向けた。
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