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第一部
18.えーっと、君が魔王なの?
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今度は俺が見せる番だ――
そう言って、俺は握っていた剣を離す。
彼女は身構え、守るようにデスサイズをかざす。
「なぁ魔王もどきのお姉さん。お前は本物の聖剣を見たことがあるか?」
「……どういう意味じゃ?」
「そう警戒するなよ。ただの質問だ。で、あるのか?」
「……ない」
「そうか。だったらちょうど良い」
俺は右手を前にかざす。
「見せてやるよ。本物の聖剣を――」
俺の身体が光り出す。
あふれ出る白い魔力は粒子となり、空気中に舞う。
漂う粒子は右手へと収束し、光の棒となり、さらに形状を変えていく。
俺が持つ力――【剣の加護】。
実を言うと、そんな加護は存在しない。
剣を生み出す能力は、まったく別の力の恩恵。
俺の身体に宿るそれから漏れ出た力の一滴に過ぎない。
ここまで言えば、もうわかるだろう?
そうだ。
俺の身体には……聖剣が宿っている。
「何じゃ……その剣は」
「これが本物の聖剣。名はグラニカだ」
剣の聖剣グラニカ。
俺が千年前に召喚されたとき、一緒に手に入れた相棒。
見た目は普通の剣だが、発するオーラは桁違い。
ミゲルが使っていた偽物とは、雰囲気からまるで別物だ。
それを感じ取ったのか、彼女は大きく三歩下がった。
「逃げるか? もう二度と悪さしないなら、このまま見逃してもいいんだぞ?」
「ふ、ふざけるでない! 妾に……逃げ道などない!」
彼女は声を荒げてデスサイズを振りかざす。
さっきと同じように魔力を込め、強大化させて攻撃してくるつもりだ。
だが――
「そうか……残念だ」
「……え?」
今回は受けない。
それよりも早く、俺の剣が彼女の首を撥ねているから。
見えなかっただろう。
気付けなかっただろう。
最後の一振りだけは、全力を出したからな。
巨大化したデスサイズが、元の大きさに戻る。
それと同じくして、撥ねた首が地面に落ちる。
首をなくした身体は膝から崩れ落ち、立膝をついたまま固まる。
「ふぅ……終わったか」
悪魔とは言え、女性を斬るのは良い気分じゃないな。
あの時に逃げていてくれれば、なんて後悔が過ってしまう。
しかし、そんな後悔の直後、俺は違和感に気付く。
「どういうことだ?」
首を撥ねた身体から魔力が消えていない。
そもそも、切断面から血が流れてすらいないではないか。
代わりに首からは、黒い靄のようなものがあふれ出ている。
「まさか……」
まだ倒せていないのか?
いや、こいつは本体じゃないのかも――
ボワッ!
突然、首と肉体が黒い霧状に変化した。
一瞬だけ閉ざされた視界を戻すと、そこには小さな女の子が座っていた。
「うぅ……」
シトナとアカツキより小さな女の子。
髪の色や雰囲気は、さっきまで戦っていた彼女に似ている。
頭から小さな角が生えていて、背中とお尻から悪魔らしい羽と尻尾が生えている。
感じられる魔力も、さっきまでと同じだ。
ということは、つまり。
「お前が魔王ルーリアなのか?」
「他の何に見えるのじゃ!」
「い、いや、まさか子供だったとは思わなくて」
「妾を子供扱いするでない! もう立派な大人じゃ! 妾は魔王なのじゃ!」
元気に怒る小さな女の子。
見た目の変化の影響は大きいらしい。
子供が駄々をこねている様子にしか、もう見えなくなっていた。
一気に戦意が削がれたな。
さて、ここからどうするべきか……
「なぁお前、なんで魔王なんて名乗ってるんだ?」
「妾は魔王じゃ!」
「いや、さっきも言ったが、お前は魔王に届いていないんだよ。そもそも他の悪魔はどうしたんだ?」
「……仲間などおらぬ。妾一人じゃ」
ルーリアは寂しそうに顔を伏せながらそう言った。
「一人? なんで、他の悪魔はいるだろ?」
「おらぬわ! 妾は一人でここまで来たのじゃ! お前たち人間を滅ぼして、妾が正しかったと皆に認めさせるためにっ!」
「認めさせる?」
俺には彼女が何を言っているのかわからない。
ただ、何か事情があることはわかった。
「一体何があったんだ?」
「なんで……人間のお前に話さねばならんのじゃ」
「いいから話せ。そうじゃなきゃ、お前が泣いている理由がわからない」
ルーリアはハッと気づく。
無意識に涙がこぼれ落ちていたようだ。
そして、自覚した途端に涙は増え、拭いきれないほど流れる。
「何で……う……」
俺は聖剣を解除し、地面に腰を下ろす。
目線を同じ高さに合わせて、もう一度彼女に問いかける。
「何があったんだ?」
「……妾たちの村に、人間が攻めてきたんじゃ」
「村? 西にあるっていう悪魔の村か?」
ルーリアはこくりと頷く。
そのまま続けて語ってくれた。
ことの発端は半年前。
彼女たちの暮らす村を、どこかの国の兵隊が襲った。
悪魔たちは困惑していた。
何か悪さをしたわけではないのに、突然襲ってきたのだから。
理由を尋ねた者がいた。
返ってきた答えは……
お前たちが悪魔だから。
「亜人差別か……それも酷い偏見の」
「そうじゃ。妾たちは悪いことなんてしてないのに、皆殺されて……妾の母も」
話を聞いていてわかった。
どうやら彼女の家系は、千年前の魔王と遠い血縁関係にあるらしい。
だから、幼い彼女でもこれだけの力を持っていた。
そして、力を持っていた故に、彼女は孤立することになった。
そう言って、俺は握っていた剣を離す。
彼女は身構え、守るようにデスサイズをかざす。
「なぁ魔王もどきのお姉さん。お前は本物の聖剣を見たことがあるか?」
「……どういう意味じゃ?」
「そう警戒するなよ。ただの質問だ。で、あるのか?」
「……ない」
「そうか。だったらちょうど良い」
俺は右手を前にかざす。
「見せてやるよ。本物の聖剣を――」
俺の身体が光り出す。
あふれ出る白い魔力は粒子となり、空気中に舞う。
漂う粒子は右手へと収束し、光の棒となり、さらに形状を変えていく。
俺が持つ力――【剣の加護】。
実を言うと、そんな加護は存在しない。
剣を生み出す能力は、まったく別の力の恩恵。
俺の身体に宿るそれから漏れ出た力の一滴に過ぎない。
ここまで言えば、もうわかるだろう?
そうだ。
俺の身体には……聖剣が宿っている。
「何じゃ……その剣は」
「これが本物の聖剣。名はグラニカだ」
剣の聖剣グラニカ。
俺が千年前に召喚されたとき、一緒に手に入れた相棒。
見た目は普通の剣だが、発するオーラは桁違い。
ミゲルが使っていた偽物とは、雰囲気からまるで別物だ。
それを感じ取ったのか、彼女は大きく三歩下がった。
「逃げるか? もう二度と悪さしないなら、このまま見逃してもいいんだぞ?」
「ふ、ふざけるでない! 妾に……逃げ道などない!」
彼女は声を荒げてデスサイズを振りかざす。
さっきと同じように魔力を込め、強大化させて攻撃してくるつもりだ。
だが――
「そうか……残念だ」
「……え?」
今回は受けない。
それよりも早く、俺の剣が彼女の首を撥ねているから。
見えなかっただろう。
気付けなかっただろう。
最後の一振りだけは、全力を出したからな。
巨大化したデスサイズが、元の大きさに戻る。
それと同じくして、撥ねた首が地面に落ちる。
首をなくした身体は膝から崩れ落ち、立膝をついたまま固まる。
「ふぅ……終わったか」
悪魔とは言え、女性を斬るのは良い気分じゃないな。
あの時に逃げていてくれれば、なんて後悔が過ってしまう。
しかし、そんな後悔の直後、俺は違和感に気付く。
「どういうことだ?」
首を撥ねた身体から魔力が消えていない。
そもそも、切断面から血が流れてすらいないではないか。
代わりに首からは、黒い靄のようなものがあふれ出ている。
「まさか……」
まだ倒せていないのか?
いや、こいつは本体じゃないのかも――
ボワッ!
突然、首と肉体が黒い霧状に変化した。
一瞬だけ閉ざされた視界を戻すと、そこには小さな女の子が座っていた。
「うぅ……」
シトナとアカツキより小さな女の子。
髪の色や雰囲気は、さっきまで戦っていた彼女に似ている。
頭から小さな角が生えていて、背中とお尻から悪魔らしい羽と尻尾が生えている。
感じられる魔力も、さっきまでと同じだ。
ということは、つまり。
「お前が魔王ルーリアなのか?」
「他の何に見えるのじゃ!」
「い、いや、まさか子供だったとは思わなくて」
「妾を子供扱いするでない! もう立派な大人じゃ! 妾は魔王なのじゃ!」
元気に怒る小さな女の子。
見た目の変化の影響は大きいらしい。
子供が駄々をこねている様子にしか、もう見えなくなっていた。
一気に戦意が削がれたな。
さて、ここからどうするべきか……
「なぁお前、なんで魔王なんて名乗ってるんだ?」
「妾は魔王じゃ!」
「いや、さっきも言ったが、お前は魔王に届いていないんだよ。そもそも他の悪魔はどうしたんだ?」
「……仲間などおらぬ。妾一人じゃ」
ルーリアは寂しそうに顔を伏せながらそう言った。
「一人? なんで、他の悪魔はいるだろ?」
「おらぬわ! 妾は一人でここまで来たのじゃ! お前たち人間を滅ぼして、妾が正しかったと皆に認めさせるためにっ!」
「認めさせる?」
俺には彼女が何を言っているのかわからない。
ただ、何か事情があることはわかった。
「一体何があったんだ?」
「なんで……人間のお前に話さねばならんのじゃ」
「いいから話せ。そうじゃなきゃ、お前が泣いている理由がわからない」
ルーリアはハッと気づく。
無意識に涙がこぼれ落ちていたようだ。
そして、自覚した途端に涙は増え、拭いきれないほど流れる。
「何で……う……」
俺は聖剣を解除し、地面に腰を下ろす。
目線を同じ高さに合わせて、もう一度彼女に問いかける。
「何があったんだ?」
「……妾たちの村に、人間が攻めてきたんじゃ」
「村? 西にあるっていう悪魔の村か?」
ルーリアはこくりと頷く。
そのまま続けて語ってくれた。
ことの発端は半年前。
彼女たちの暮らす村を、どこかの国の兵隊が襲った。
悪魔たちは困惑していた。
何か悪さをしたわけではないのに、突然襲ってきたのだから。
理由を尋ねた者がいた。
返ってきた答えは……
お前たちが悪魔だから。
「亜人差別か……それも酷い偏見の」
「そうじゃ。妾たちは悪いことなんてしてないのに、皆殺されて……妾の母も」
話を聞いていてわかった。
どうやら彼女の家系は、千年前の魔王と遠い血縁関係にあるらしい。
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