元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
14 / 26
第一部

14.ここは任せて先に行こう

しおりを挟む
 モンスターの群れが押し寄せる。
 大小さまざまな造形の化け物が、地を這い空を飛び襲いかける。
 絶望的な景色の中で、暴れまわる八人の姿は、味方の支え鼓舞するには十分だった。

「すげぇ……」
「あれがオクタグラムかよ」

 俺たちのことを知る冒険者たちが、口を揃えて賞賛している。
 初めてアクトスに来た時とはえらい違いだ。
 今ではもう、俺たちのことを馬鹿にする奴らはいない。
 それだけ実績を残し、力と存在を証明できたということだ。

「あいつらがいりゃー楽勝だな!」
「ああ。魔王も勇者より先に倒せるんじゃねーの?」
「かもなっ! そんじゃ俺たちも行くぜ!」

 冒険者たちが臆さずモンスターの群れに挑む。
 その光景を横目に見ながら、クロエはぼそりと呟く。

「調子の良い人たちですね」
「はははっ、本当にな」

 クロエの言う通り、調子の良い連中だよ。
 まぁでも、嫌な気分じゃないから良いけどさ。
 さて、嫌な奴のほうはどうしてるかな?

 俺は戦闘を継続しながら、視線をミゲルに向ける。
 遠く離れた場所で戦っているけど、彼の鎧は真っ白だからよく目立つ。
 ミゲルはモンスターの大群を前にして、堂々と正面に立ちふさがっている。

「ふっ、来るが良いモンスター共! この僕が軽く遊んでやろう」

 余裕たっぷりにドヤ顔を浮かべるミゲル。
 モンスターは唸り声をあげながら一斉に襲い掛かる。
 それでも彼は動揺することなく、優雅に腰の剣へと手を伸ばす。

「見るが良い――我が聖剣の力を!」

 ミゲルが剣を抜く。
 鞘から白銀に輝く刃が見え、光が反射して周囲が明るくなる。
 次の瞬間、真っ白の斬撃がモンスターの群れを一網打尽にいしてしまった。

「ふふっ……ふふはははははは! 見たかモンスター共! これが我が至高の剣エグゼカリバールの力だ!」
「へぇー、あれが聖剣か」

 鎧に負けず劣らずピカピカな刃。
 聖剣と言うだけあって、神々しいほどの輝きを放っている。
 能力は光の斬撃を放つことだろうか。
 形状は普通の剣と変わらず、見た目がひたすらに派手だ。
 やはり初めて見る聖剣だ。
 いや、というよりあれは……

「なるほど」

 その後も戦闘は続く。
 押し寄せるモンスターの群れを片っ端から倒す。
 もはや作業となりつつあり、あらゆる意味で疲労が溜まって来た頃……

 ――違和感。

 それを最初に感じたのは、ミゲルの聖剣がモンスターを斬り裂いた時だ。
 あの時はまだ、いつもと違うような感じがしただけ。
 しかし、徐々に違和感は強くなり、その正体にも気づかされる。

「なぁーおい、こいつら結晶落とさねーぞ」
「やっぱそうだよな? 俺もいまのとこゼロだぜ」
「何なんだよこれ……結晶落ちないんじゃ組合に買い取ってもらえねーよ」

 違和感の正体に気付いたのは、俺だけではなかった様子。
 モンスターを討伐すると結晶が落ちる。
 結晶はモンスターの核となる部分であり、魔力をため込む心臓だ。
 それを組合に提出することで、クエスト達成の報告をすると同時に収入を得ている。
 今回の支援要請では、討伐したモンスター数に応じて報酬が増える仕組みになっていた。
 だが、倒せど倒せど何も落とさない。
 こんなことは初めてだとぼやく者も多くいる。
 
 さらに別の違和感。

 戦闘が開始されすでに一時間が経過している。
 モンスターは確実に殲滅できているはずだ。
 こちらの被害も軽微で済んでいる。
 順調……という状況が、ずっと続いている。
 続いて、変わらず今も継続している。
 要するに、最初から何も変わっていないということだ。

「全然減らないな」
「うむ。強さはそれほどでもないのだが」

 グレンとリガルドも違和感を感じているようだ。
 減る気配のないモンスターの群れ。
 そして、今さら気づいたのだが、見たことのない種類も交じっている。
 強さはそれほどではないが、この辺りでは見かけないモンスターも多くいるようだ。

「埒が明かないな……」
「ジーク様、どうされますか?」
「う~ん、一番手っ取り早いのは魔王を倒すことなんだけど」

 肝心の魔王の姿がない。
 モンスターの群れが広がりすぎて、先が全く見えない。
 おそらく奥にいるのだろうが、目視することは難しい。
 現状、押しも押されもしていない。
 圧倒的に不利ではないものの、モンスターの勢いが治まらなければ、先に体力が尽きるのはこちら側だ。

「何か手を――!」

 その時、激しい爆発音がこだまする。
 驚いて目を向けると、立ち昇る土煙の中からミゲルが現れた。

「鬱陶しい! これでは掃除と同じではないか!」

 ミゲルは苛立ちをあらわにしていた。
 彼もモンスターの勢いが弱まらないことに気付いたのか。
 聖剣を乱暴に振りかざし、モンスターを薙ぎ払う。

「こうなったら僕が直接魔王を倒しに行く! 君たちは引き続きモンスターの群れを抑えていてくれ!」
「ミゲル様? お待ちください!」
「うるさいぞ! 僕は勇者なんだ! 指図するんじゃない!」

 騎士団長の声を振り切って、ミゲルは聖剣を片手に突進していく。
 光の斬撃を放ち、群れの間に道を作って進んでいく。
 無っ鉄砲過ぎて笑ってしまいそうだよ。
 ただ、このままではじり貧になるのも事実。
 これを好都合と思い、利用させてもらうことにする。

「ちょっと俺も行ってくる」
「ジーク様?」
「魔王の所だ。あの馬鹿がしくじったら困るしな」
「お前ひとりでいくつもりかよ」
「ああ、問題ないからな。お前たちはモンスターの群れを止めてくれ」

 そう言い残し、俺はミゲルの後を追う。
 クロエたちは驚いていたが、引き留めることはなかった。
 俺なら大丈夫だと、わかっているからだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...