元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~

日之影ソラ

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第一部

10.勇者が誕生したようです

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 翌日もクエストに出る。
 今回受けたクエストは三つ。
 そのうちのメインは、『ガマガマ討伐』だ。
 ガマガマは沼地エリアに生息する巨大カエルモンスター。
 一匹の強さはウルフ程度だが、問題は数にある。

「大量発生したガマガマを全て討伐せよ……か」
「最低でも百匹はいるって言ってたね~」

 ガマガマは強力なモンスターではない。
 決まった周期に大量発生して、エリアから漏れ出てくることがあるらしい。
 一昔前は、街にまでなだれ込んできたこともあるとか。
 それ以来、周期に合わせてガマガマの討伐依頼が出される。

 参加メンバーは、広範囲に攻撃が出来る俺とユミル。
 長期戦を見越して、回復役であるアカツキと、彼女の護衛兼サポート役にクロエ。
 それから水辺に強いミアリスだ。

 街から出て四十分ほど歩く。
 すると、空気がじめっとし始めて、沼地エリアへ入ったことを知らせる。
 奥へ進むほど地面がぬかるみ、百メートルも進むころには、名前通りの沼地へ変わっていた。

「いた! ガマガマだよ!」

 ユミルが見つけて指をさす。
 いや、別に指をささなくてもわかる。
 だって、辺り一面にいっぱい顔を出しているからな。

「百どころじゃないな、これ」
「そのようですね」

 冷静に状況を確認する俺とクロエ。
 俺たちが立っているのは、沼に沈んだ大きな岩の先。
 同じような足場がいくつかあって、それを跳び越えながら来たわけだが……
 どうやら囲まれてしまっているようだ。

「前は俺がやる。ユミルは後ろを頼んだ」
「りょーかい!」
「アカツキはユミルの回復頼む。クロエとミアリスは、アカツキの護衛と近づいてきた奴を頼むぞ」
「はい!」
「かしこまりました」
「ええ。頑張りますね」

 最小限の指示で役割分担を済ませた。
 すでに囲まれている。
 攻撃される前に、さっさと数を減らそう。

「剣の雨よ」

 俺は右手を上にかざし、加護で無数に剣を生成。
 それを雨のように降らせて攻撃する。
 ユミルも右手を天にかざす。
 展開された青白い魔法陣は巨大化して空に広がる。

「ブランチングサンダー!」

 魔法陣から雷撃が落ちる。
 途中で八本に枝分かれし、ガマガマのいる沼へ。
 ガマガマの弱点は雷属性の魔法だ。
 彼女はそれを知っていて、広範囲に雷を降らせた。

「アカツキちゃん!」
「はい! マナコントロール!」

 アカツキのジョブは治癒術士。
 傷の治療をメインとするジョブではあるが、回復させられるのは傷だけではない。
 彼女が使ったマナコントロールは、対象の魔力回復を高める治癒術だ。
 今回のような長期戦では、とても頼りになる存在だぞ。

 そして、彼女を守る二人も実力を発揮している。

「おいで――ククル、ランカ」

 ミアリスが召喚したのは、アクアドルフィンと呼ばれる水の精霊。
 美しい青色のイルカで、水を操り戦う。
 彼女のジョブは召喚術士サモナー
 召喚できる相手は、自分と相性の良いものに限る。
 それ故、当たり外れが大きいジョブなのだが、ミアリスの場合は大当たりだった。
 
 ククルとランカは水を纏い、沼の上を泳ぎながらガマを倒していく。
 水辺に限れば、彼女が一番強いかもしれない。
 
 ククルがモンスターの接近を感知する。
 ガマガマではない。
 もっと大きく、凶暴な白いモンスター。

「アリゲーターだわ!」

 沼に巣食う巨大トカゲ。
 俺たちの敵はガマガマだが、モンスターは他にもいる。
 アリゲーターは沼を潜り、俺たちの立つ場所まで登ろうとしていた。

「クロエ!」
「はい」

 俺が叫ぶと、クロエがアカツキの前に出る。
 両手の指の間に挟んだコインが、形を変えてナイフになる。
 クロエはナイフを投擲し、アリゲーターを迎撃する。
 
 彼女のジョブは錬金術師アルケミスト
 鉱物を媒介に、様々な道具を作り出すことの出来るジョブだ。
 非常に便利ではあるが、あまり戦闘向きではない。
 ただし、クロエは幼少の頃から、様々な武器の扱いを教え込まれている。
 使用人として、いつでも俺を守れるようにと、常に懐にはナイフをしまっているほど。
 
「失礼ですが、お引き取りください」

 クロエは普通に強い。
 錬金した武器を巧みに扱い、アリゲーターに何もさせることなく追い返した。
 ここから先は流れ作業だ。
 俺とユミルがガマガマを倒し続け、三人が拠点を守る。
 結局一時間ぶっ通しで戦い続け、三九九匹のガマガマを殲滅した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 一方その頃、王都では盛大な催しが開かれていた。
 王族をはじめとする権力者たちが集い、拍手を送っている。
 その先にいたのは、国王と王妃。
 国王が一歩前に立ち、集まった者たちに向けて言う。

「親愛なる国民諸君。すでに知っていると思うが、西の地にて魔王が誕生してしまった」

 会場内にいるのは貴族たちだが、この声は王都中に届いている。
 国王は続けて言う。

「魔王は現在、モンスターの大群を引き連れ侵攻中である。見込みでは、あと半月でここ王都までやってくる」

 ざわつく会場。
 これを聞いていた国民も、不安の声が漏れる。

「しかし! 怯える必要などない! 否、むしろ安堵するべきである。なぜなら――」
 
 国王は振り向き、一人の男性を指さす。
 白銀の鎧を纏い、聖なる剣を携えた戦士――

「ここに勇者が誕生したのだ!」

 現れたのは、ミゲル・エイルワース。
 エイルワース家の長男であり、ジークの実兄である。

「臆することはない! 魔王は勇者の手によって滅ぶのだ!」

 国王は盛大に宣言した。
 会場も、国民も一斉に湧き上がる。
 それを見て、ミゲルはニヤリと自慢げに笑う。
 と同時に、ジークが去り際に放った一言を思い出していた。

 俺はあんたより強いからさ――

 ふっ、馬鹿な奴だよお前は!
 僕がお前に劣っている?
 そんなことあるはずがないだろう。
 勇者に選ばれたんだ僕が、この世で一番強いんだから!
 魔王を倒して、英雄となったあかつきには、お前を探し出して罰を与えてやる。

「僕を馬鹿呼ばわりしたこと……後悔させてやるからな」
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