元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
9 / 26
第一部

9.八つの星【オクタグラム】

しおりを挟む
 クエストを終えた俺たちは、山岳エリアを抜け帰路につく。
 隠しておいた馬車に乗り、リガルドの運転で街まで戻った。
 馬車を門横の貸し出し所に返したら、徒歩で組合所まで行く。
 街の中を歩いていると、周囲からの視線を感じるのは変わらない。
 ただし、向けられる視線の種類は、少し変化していた。

「あっ、ジークさん! お帰りなさいませ」

 組合所に入って、最初に声をかけてくれたのは受付嬢のリーナだ。
 彼女は冒険者登録の時に対応してくれた人で、あの後も何度か関わることが増えた。

「確認お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 俺はカウンターに採取した素材と、モンスターからドロップした結晶を提示した。
 討伐したモンスターが結晶を落とすのは、現代でも変わっていない。
 モンスターによって形や大きさが異なるから、討伐クエストの確認に利用されている。
 それ以外にも、魔道具の動力源になる便利な素材だ。

「確認が出来ました。では、こちらが今回の報酬になります」
「ありがとうございます」

 高ランクのクエストになると、一回で数万トロンも貰えるから楽で良い。
 報酬を確認していると、小さくぼそぼそ話声が聞こえてくる。

「おいあれって」
「ああ……」

 俺たちのことを話している。
 いつものことだし、最初から変わっていない。
 ただし、街中でもそうだったが、話の内容に変化が表れていた。

「あの集団がどうかしたのか?」
「は? お前【八つの星オクタグラム】を知らねーのかよ!」
「オクタグラム? 何だそれ」

 男は大きくため息をこぼす。

「オクタグラム……登録してからたった一か月半で、メンバー全員がシルバーランク以上になった超新星ギルドだ」
「一か月半で? そんなのありえるのか?」
「実際にありえたんだよ。リーダーの男に至っては、一か月でゴールドになった化け物だ」
「やばいな……それ」

 話を聞いた男は驚愕し、俺たちを見つめながらごくりと息をのむ。
 今の会話でわかるように、俺たちへ向けられているのは畏敬の視線に変化していた。
 
 約一か月前のこと。
 俺たちはギルドを立ち上げた。
 ギルドと言うのは、冒険者だけで組織された集団のことで、派閥みたいなものだ。
 名前は【八つの星オクタグラム】。
 登録直後から数々のクエストをこなし、怒涛の勢いでランクを上げていった。
 現在では、俺とグレン、リガルドとユミルがゴールドランクとなり、他のメンバーもシルバーランクになっている。
 そんな感じで活動を続けていた結果、知らぬ間に俺たちの噂が広まっていって……

「また見られてるよ~」
「無視しとけ」
「嫌ならワシが壁になろう」
「やったー! シトナちゃんもこっちおいでよ」
「お兄ちゃんと手繋ぐから平気」
「はっ! その手があった!」

 前とは別の意味で、注目されるようになっていた。
 馬鹿にされているわけではないので、俺としては気にならないのだけど。
 彼女たちには視線が気になるらしい。 
 報奨金の確認を終え、俺は早々に立ち去ることにした。

「じゃあ、また明日」
「はい! お待ちしております」

 リーナにあいさつをして組合所を後にする。
 向かった先は以前の宿屋ではなく、住宅街の一軒家。
 二階建ての木造建築には、【八つの星オクタグラム】と書かれた表札が飾られている。

「たっだいま~」
「あら、お帰りなさい」

 扉を開けて最初に出迎えてくれたのは、エプロン姿のミアリスだった。
 その後に続いて、アカツキとクロエが顔を出す。
 今日は彼女たちが留守番組で、夕食の支度を整えてくれていた。

「お帰りなさいませ、ジーク様」
「ただいま」

 ミアリスとアカツキも、こちらに来て服装が変わっている。
 クロエだけは、屋敷と同じメイド服のままだ。
 別に変えても良いと言ったんだが、こっちのほうが慣れているからと譲らなかった。
 彼女なりのこだわりがあるのだと思い、それ以上は言っていない。
 
 ちなみにこの家は、活動拠点として最近購入したばかりだ。
 少し前まで宿屋で暮らしていたけど、色々と面倒だったからな。
 クエストを受けてお金も溜まったし、思い切って二階建てのホームを購入した。
 屋敷に比べれば一回り以上小さい。
 それでも、八人で暮らすには丁度いい広さだ。

「夕食の準備はもう少しかかります。先にシャワーを済ませてきてください」
「わかった」
「わーい! あたしが一番ノリ~」
「それは駄目だユミル殿。主殿が先だ」
「いいよリガルド。女性が先で良い」
「やったー! ジーク様大好きー!」

 調子のいいことを口にして、ユミルはシャワー室へ駆けていく。
 やれやれと呟いて、順番に済ませたら、全員で一つのテーブルを囲んで食事だ。
 屋敷よりもテーブルは小さい。
 その分、互いの顔が近くて話しやすい。
 こういう所は、狭いほうが俺は好きだな。

「ジーク様」
「ん? どうしたクロエ」
「街で聞いた話なのですが、何やら『魔王』が新たに誕生したそうです」
「魔王が? どこで?」
「ここよりずっと西、王国を超えたさらに先だと聞きました。定かではありませんが、モンスターを引き連れて侵攻を開始しているとも」
「へぇ~ それはまた一大事だな」

 魔王と聞くと、千年前に戦った相手を思い出す。
 あれは確かに強敵だったな。
 同じレベルの相手なら、王国も危ないかもしれない。

「もしかすると、我々にも戦闘要請が来るかもしれません」
「そうだな。まっ、その時になったら考えよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

処理中です...