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第一部
7.ちょっと本気を出せば
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「さっそく行こうか」
「よろしいのですか? 特に準備も出来ていませんが」
「心配いらない。戦闘は俺一人で良い。身体がだいぶなまっているし、ここら辺で一度調整しておきたい」
「……わかりました」
クロエは納得して頷く。
ただし、彼女以外はそうではなく、ユミルが目を丸くして言う。
「えぇ!? いいのクロエちゃん!」
「ジーク様がそうおっしゃったのだから、私たちは従うだけ。それにジーク様は、自分に出来ないことは言わない」
「そ、そうだけどさ~」
「まぁ心配いらないから、お前たちは見ていてくれ」
楽観的な話し方で場を濁し、納得しないまま手続きを進める。
ここで俺が剣帝だったことを話せば、彼女たちも安心してくれるのだろうか。
いいや、急にそんな話をしたところで、全てを信じるなんて難しい。
だったら直接見てもらって、俺の強さに安心してもらおう。
手続きを済ませ、森林エリアへ向かう。
アクトスの街には東西南北の一つずつ出入り口用の門がある。
それぞれの門から各エリアに行くことが出来て、今から向かう森林エリアは西門を出てすぐだ。
八人でゾロゾロ歩きながら西門を潜る。
森へ入る直前に、俺は立ち止まって言う。
「別に全員で来なくても良かったんだけどな」
「留守番なんて嫌だよ!」
「お兄ちゃんと一緒が良いから」
やれやれ。
まぁ別に問題はない。
それに採取クエストもあったし、人手は多いほうが楽だ。
「俺から離れないようにしてくれ」
そうして、俺たちは森へと足を踏み入れる。
受付嬢の話では、森には各所に目印が設置されていて、迷わないような工夫がされているとか。
初めて入る森だったが、その目印と貰った地図のお陰で、迷わずに進めそうだ。
「ジーク!」
「ああ、全員止まれ」
森を探索中、先に気付いたのはグレンだった。
俺の指示に従い、全員がピタリと立ち止まる。
背の高い草が生えた場所が、不自然に揺れていた。
じっと目を凝らすと、そこから現れた人ではない影の形に、ごくりと息をのむ。
「ゴブリンの群れ……しかもウルフを飼いならしているのか」
丁度いい。
クエストにはゴブリン討伐と、ウルフ討伐が別々である。
一度に戦えるのはラッキーだ。
「じゃあ皆、そこで見ていてくれ」
そう言って俺は無造作に前へ出る。
心配そうに見つめる視線が、背中からでもわかる。
ユミルが声をかけようとした時――
「心配しなくても大丈夫だぞ」
と言ったのはグレンだった。
彼は続けて言う。
「そういえば、お前たちはジークが戦う所を見るのは初めてなんだよな」
「え、うん」
「だったら目を離さないほうがいいぞ? たぶん、一瞬で終わるから」
グレンはニヤリと笑う。
今の会話でわかると思うが、彼は俺の剣技を知っている。
と言うのも、初めて会った時にひと悶着合って、剣を交えたことがあるんだ。
アカツキとクロエも一緒に見ていたかな。
だから三人だけは、他の皆よりも落ち着いている。
さて、期待も高まったところで、そろそろ頑張りますか。
ゴブリンとウルフの群れは、ジリジリと距離を詰めている。
間合いを図りながら、襲い掛かるタイミングを計っているようだ。
俺は丸腰のまま、何の躊躇くなく進む。
警戒していたゴブリンたちだったが、二十メートルを超えた辺りで武器を振りかざし、俺へ飛び掛かって来た。
「ふっ――遅いな」
声をあげようとするユミルたち。
刹那。
彼女たちの視界から、俺の姿が消えてしまう。
次に見つけた時、俺は右手に剣を握り、襲い掛かって来た群れの後方へ移動していた。
血しぶきが舞う。
空中で斬られ、バタバタと倒れ落ちていく。
その光景を目の当たりにして、ユミルたちは固まっていた。
「ふぅ、ちょっと動きが鈍いな」
剣がわずかに重く感じる。
これまでダラケテいたから、身体が出来上がっていないのだろう。
以前の調子を取り戻すために、しばらくリハビリが必要だと感じだ。
とはいっても、この程度の相手と戦うなら何の問題もない。
俺は剣帝として記憶だけではなく、当時の力をそのまま受け継いでいる。
そのうちの一つが、この剣を生み出した。
【剣の加護】。
魔力を消費することで剣を生成することが出来る。
形や大きさは自由に変えられて、切れ味は込めた魔力量に比例して高くなる。
「ほらな?」
「凄い……」
「お兄ちゃん……格好良い」
「はははっ、だよな。オレだってそう思う」
振り返ると、皆と目が合った。
彼女たちの目から、心配や不安が薄れていくことを感じる。
これで少しは、安心してもらえたかな?
今までグータラ好き放題に生きてきた。
望んでしてきたことだし、これからだって諦めたつもりはない。
だけど、自由に生きた行くためには、必要なものが山ほどあるんだ。
それを手に入れるまで、不本意ながら頑張るとしよう。
こうして、俺たちの新しい日常が始まった。
二か月後――
「よろしいのですか? 特に準備も出来ていませんが」
「心配いらない。戦闘は俺一人で良い。身体がだいぶなまっているし、ここら辺で一度調整しておきたい」
「……わかりました」
クロエは納得して頷く。
ただし、彼女以外はそうではなく、ユミルが目を丸くして言う。
「えぇ!? いいのクロエちゃん!」
「ジーク様がそうおっしゃったのだから、私たちは従うだけ。それにジーク様は、自分に出来ないことは言わない」
「そ、そうだけどさ~」
「まぁ心配いらないから、お前たちは見ていてくれ」
楽観的な話し方で場を濁し、納得しないまま手続きを進める。
ここで俺が剣帝だったことを話せば、彼女たちも安心してくれるのだろうか。
いいや、急にそんな話をしたところで、全てを信じるなんて難しい。
だったら直接見てもらって、俺の強さに安心してもらおう。
手続きを済ませ、森林エリアへ向かう。
アクトスの街には東西南北の一つずつ出入り口用の門がある。
それぞれの門から各エリアに行くことが出来て、今から向かう森林エリアは西門を出てすぐだ。
八人でゾロゾロ歩きながら西門を潜る。
森へ入る直前に、俺は立ち止まって言う。
「別に全員で来なくても良かったんだけどな」
「留守番なんて嫌だよ!」
「お兄ちゃんと一緒が良いから」
やれやれ。
まぁ別に問題はない。
それに採取クエストもあったし、人手は多いほうが楽だ。
「俺から離れないようにしてくれ」
そうして、俺たちは森へと足を踏み入れる。
受付嬢の話では、森には各所に目印が設置されていて、迷わないような工夫がされているとか。
初めて入る森だったが、その目印と貰った地図のお陰で、迷わずに進めそうだ。
「ジーク!」
「ああ、全員止まれ」
森を探索中、先に気付いたのはグレンだった。
俺の指示に従い、全員がピタリと立ち止まる。
背の高い草が生えた場所が、不自然に揺れていた。
じっと目を凝らすと、そこから現れた人ではない影の形に、ごくりと息をのむ。
「ゴブリンの群れ……しかもウルフを飼いならしているのか」
丁度いい。
クエストにはゴブリン討伐と、ウルフ討伐が別々である。
一度に戦えるのはラッキーだ。
「じゃあ皆、そこで見ていてくれ」
そう言って俺は無造作に前へ出る。
心配そうに見つめる視線が、背中からでもわかる。
ユミルが声をかけようとした時――
「心配しなくても大丈夫だぞ」
と言ったのはグレンだった。
彼は続けて言う。
「そういえば、お前たちはジークが戦う所を見るのは初めてなんだよな」
「え、うん」
「だったら目を離さないほうがいいぞ? たぶん、一瞬で終わるから」
グレンはニヤリと笑う。
今の会話でわかると思うが、彼は俺の剣技を知っている。
と言うのも、初めて会った時にひと悶着合って、剣を交えたことがあるんだ。
アカツキとクロエも一緒に見ていたかな。
だから三人だけは、他の皆よりも落ち着いている。
さて、期待も高まったところで、そろそろ頑張りますか。
ゴブリンとウルフの群れは、ジリジリと距離を詰めている。
間合いを図りながら、襲い掛かるタイミングを計っているようだ。
俺は丸腰のまま、何の躊躇くなく進む。
警戒していたゴブリンたちだったが、二十メートルを超えた辺りで武器を振りかざし、俺へ飛び掛かって来た。
「ふっ――遅いな」
声をあげようとするユミルたち。
刹那。
彼女たちの視界から、俺の姿が消えてしまう。
次に見つけた時、俺は右手に剣を握り、襲い掛かって来た群れの後方へ移動していた。
血しぶきが舞う。
空中で斬られ、バタバタと倒れ落ちていく。
その光景を目の当たりにして、ユミルたちは固まっていた。
「ふぅ、ちょっと動きが鈍いな」
剣がわずかに重く感じる。
これまでダラケテいたから、身体が出来上がっていないのだろう。
以前の調子を取り戻すために、しばらくリハビリが必要だと感じだ。
とはいっても、この程度の相手と戦うなら何の問題もない。
俺は剣帝として記憶だけではなく、当時の力をそのまま受け継いでいる。
そのうちの一つが、この剣を生み出した。
【剣の加護】。
魔力を消費することで剣を生成することが出来る。
形や大きさは自由に変えられて、切れ味は込めた魔力量に比例して高くなる。
「ほらな?」
「凄い……」
「お兄ちゃん……格好良い」
「はははっ、だよな。オレだってそう思う」
振り返ると、皆と目が合った。
彼女たちの目から、心配や不安が薄れていくことを感じる。
これで少しは、安心してもらえたかな?
今までグータラ好き放題に生きてきた。
望んでしてきたことだし、これからだって諦めたつもりはない。
だけど、自由に生きた行くためには、必要なものが山ほどあるんだ。
それを手に入れるまで、不本意ながら頑張るとしよう。
こうして、俺たちの新しい日常が始まった。
二か月後――
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