元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~

日之影ソラ

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第一部

6.残ったクエスト全部ください

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 男たちが去った後も、俺は出口の扉を見続けていた。
 そんな俺にクロエが呼びかける。

「ジーク様」
「……」
「ジーク様!」
「――!? え、何?」
「何?ではありません。やりすぎです」

 クロエに指摘されて、初めて殺気立ったことに気付く。
 彼女の後ろに目を向けると、アカツキとシトナは怖がってしまっていた。

「ああ……すまん。ついカッとなった」
「お気をつけください。早々に敵を増やしてしまうと、活動にも影響が出てしまいます」
「そうだな。うん、反省するよ」

 クロエの言う通りだと思った。
 怯えさせたアカツキとシトナには、目いっぱいに笑顔を見せて頭を撫でる。
 すると、少しは安心してくれたのか、表情が和らいだ。

「ありがとうございます」

 不意にクロエがそう言った。
 俺は表情に出ない程度に驚きながら、彼女に目を向ける。

「私たちのために怒ってくださったのですよね? 個人的にはとても嬉しいです」
「クロエ……」

 彼女は優しく微笑んだ。
 ふと、他の皆の表情も気になって、何気なく振り向く。
 他の皆もクロエと同じだ。
 言葉には出さなくとも、感謝を伝えたいという気持ちは伝わってくる。
 それが嬉しくて、俺は小さく笑った。

「お待たせいたしました。こちらへ……どうかなさいましたか?」
「あーいえ、何でもありません」

 戻って来た受付嬢が、俺たちの様子を見て違和感を覚えたようだ。
 殺気は奥まで届いてはいなかったらしく、彼女だけはケロッとしている。

「では、右手に見えるボードの奥にお進みください」
「わかりました」

 そのまま何事もなかったように従い、横長の大きなボードの横を通って部屋に入る。
 部屋の中は薄暗くて、外の光が入りにくくなっていた。
 中央には微かに光った水晶が置かれている。

「あちらの水晶が認定装置になります。お一人ずつ触れていただくと、適性の高いジョブが水晶内に映し出されます」

 受付嬢は説明すると、水晶の奥へと移動した。
 俺たちを待ち構えるように立ち、俺たちに問いかける。

「どなたから認定しますか?」
「じゃあ俺からお願いします」

 俺が手を挙げて名乗り出た。
 よくわからない装置でちょっと不安だが、他の誰かに試させる前に、自分で確かめておきたいと思った。

「前にお進みください」

 指示に従い、水晶の前まで歩み寄る。
 軽く触れてから、三秒間瞑想すると、水晶が起動するらしい。
 俺は言われた通りに触れ、目を瞑ってみる。
 すると――

「水晶が!」
「光り出した……」

 水晶は七色に変化しながら光を放つ。
 それを見て目を輝かせるアカツキとシトナ。
 俺もまばゆい光に気付いて目を開け、水晶に映し出されたジョブを見る。

「剣士か?」
「はい。貴方の適性ジョブは剣士です。しかも……凄い数値ですね。今まで見たことないくらい、剣士の適性が高いですよ」

 受付嬢は興奮気味にそう言った。
 俺にとっては当たり前の事実だったので、そこまで驚きはしない。
 千年前は剣帝と呼ばれていたんだ。
 剣士としての適性が一番高いことくらい、見る前からわかっていたからな。
 ちなみに、俺が剣帝だったことを知る者は、現代には存在しない。
 後ろにいる彼女たちにも、余計な気を遣わせたくなかったので言っていない。

「ジーク様すごい!」
「別にすごくないよ。じゃあ次、ユミルがいくか?」
「いいの? やったー!」

 そのまま順々に適性ジョブを見ていく。
 彼女たちについては未知数な部分が多いし、俺は密かにワクワクしていた。

「いっくよー!」

 ユミルは元気よく水晶に手を触れる。
 瞑想を忘れていて、注意されるまでお約束。
 そうして――

 クロエ:錬金術師アルケミスト
 グレン:剣士
 アカツキ:治癒術師
 ユミル:魔法使い
 リガルド:戦士
 ミアリス:召喚術士サモナー
 シトナ:吟遊詩人バード

 全員の適性ジョブが出揃って。
 こうして並んでみると、個性豊かな面々が集まったことを実感する。
 認定が終わったら、名前とジョブが書かれたカードが発行される。
 このカードが冒険者としての身分を表す物になるらしい。

「クエストについても簡単に説明しますので、このまま部屋の外へ移動しますね」

 受付嬢に連れられ、俺たちは部屋を出る。
 出てすぐのボード前に立ち止まり、受付嬢が指で示しながら説明する。

「こちらがクエストボードになります。ここに掲示された依頼書から、指定されたランクのクエストを選んで、受付まで持ってきてください」

 受付嬢が言ったランクとは、冒険者の位を示す基準だ。
 各基準とランクアップの条件は以下の通り。

 プラチナ:街を救う、魔王を滅ぼすなどの偉業を成し遂げた冒険者。特別認定。
 ゴールド:ベテラン冒険者。同ランク以上のクエスト百件達成、組合審査合格。
 シルバー:中堅クラス。同ランク以上のクエスト三十件達成、組合審査合格。
 ブロンズ:一般冒険者。クエストを三件以上達成。
 コッパー:登録直後の冒険者。

 上のランクへいくほど受注可能なクエストが増える。
 また、高ランクのクエストのほうが報酬も良い。

「今受けられるのは、ブロンズまでか」
「そういうことになります」

 早々にランクアップして、受けれるクエストを増やしたい。
 そう思った俺は、ボードに残っているクエストを見渡した。
 どうやら残っているのは、ブロンズ以下のクエストばかりらしい。
 全部で十二件くらいか。

「一度に受注できるクエスト数に制限はあるんですか?」
「いえ、ありません」
「だったら、ここに残ってるクエスト全部ください」
「え、えぇ!? さすがにそれは……」
「駄目なんですか?」
「駄目ではないのですが……本当によろしいのですか?」
「はい」

 タジタジの受付嬢に、俺はキッパリと言い切った。
 ランクアップの条件が実績を積むことなら、これが一番手っ取り早い。
 
「か、かしこまりました」

 受付嬢は動揺していたが、クエストは受理された。
 ボードにあった残りのクエスト全十二件を、これから達成しに行く。
 依頼書に指定された場所は、アクトスの街の西にある森林エリアだった。
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