元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~

日之影ソラ

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第一部

4.そうだ冒険者になろう

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「――と言うわけで、エイルワース家との縁は切れた」

 屋敷に戻った俺は、父上との話を簡単に説明した。
 重要な内容を普段通りの口調で話した所為か、全員が呆気にとられている。
 俺は続けて説明する。

「俺個人が持つ財産はそのままだけど、エイルワース家の持ち物は返却しないといけない。この屋敷も、今日明日までに引き払うことになった」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」

 そう言ったのはユミルだった。
 彼女は俺を心配そうに見つめている。

「だ、大丈夫なの? ジーク様、家を追い出されちゃったんだよ!」
「ああ、そうだな」
「それにしては随分と落ち着いているな」
「グレン。まぁ何となく、いつかこうなるんじゃないかって予想していたからね」

 俺がそう言うと、グレンはやれやれというジェスチャーを見せる。
 彼も中々に落ち着いている。
 他の皆は、まだ状況をのみ込めていないって感じか。

「ねぇクロエちゃん!」
「何?」
「クロエちゃんはこれで良かったの?」
「良いも何も、ジーク様が納得しているなら、私もそれで構わない。私はジーク様のメイドだから」

 クロエはハッキリと言い切った。
 彼女には、父上の話の直後に説明してある。
 さすがに聞いた瞬間は驚いたような反応を見せたけど、すぐに納得してくれた。
 彼女もまた、俺と同じような予感をもっていたのか。

「まぁともかく、俺が貴族ではなくなるのは事実だ。そこで、皆には選んでほしい」
「選ぶ?」
「何をでしょうか?」

 リガルドとミアリスが反応して答えた。
 俺は全員の顔を順番に見ながら、彼らに問いかける。

「この先、皆がどうしたいのか。自分の意思で決めてほしい」

 皆には選択する権利がある。
 貴族でなくなった俺に、これまで通り付き従う義務はない。
 俺の元を離れ、自分で生きていきたいというならば、それなりの支援をしよう。
 幸いなことに、一般人よりもお金はあるほうだからな。
 もちろん、俺の元に残るという選択もあるし、それも喜んで受け入れる。

 俺はしばらく、彼らの回答を待とうと思った。
 ただ、思ったよりも早く返って来た。

「そんなの決まってるだろ?」

 最初に口を開いたのはグレンだった。
 彼女の妹のアカツキも、彼が言ったことに合わせて頷く。
 続けてユミル、リガルド、ミアリスが順番に話す。

「あたしもジーク様についていくよ。みんなと一緒に!」
「主殿から離れるなど、選択肢にはありません」
「そうですね。私たちは、これからもジーク様にお仕えします」

 彼女たちの答えを聞いた後、俺はシトナに目を向ける。

「シトナは?」
「私もお兄ちゃんと一緒にいる。お兄ちゃんがどこかに行くなら、私もついていく。お兄ちゃんの傍だけが……私の居場所だから」
「そうか」

 全員の意見が出そろった。
 満場一致、揺るぎなくまっすぐに、彼らは答えてくれた。
 実はこの話をする少し前、俺はクロエに尋ねた。

「皆は……どうするだろうか」

 ぼそりと出た疑問に、クロエは悩むことなく答えた。

「きっと、私と同じだと思いますよ」

 その時のことを思い出す。
 確かに、彼女の言ったとおりだったよ。

「ありがとう。皆」

 変わらぬ忠義を嬉しく思う。
 俺は心からの感謝を言葉にして、胸のうちで決意する。
 この先何が起ころうと、彼らが幸せであれる道を進もう。
 いつかの日に、この選択は正しかったのだと思えるように。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 翌日の昼下がり。
 昨日から通して、屋敷の片づけと荷造りを行った。
 それほど大きな屋敷ではなかったこともあり、思ったより早く片付いた。
 自分たちの荷物も、馬車二台分でまとめられそうだ。

 作業も終わりに差し掛かり、クロエが俺に尋ねてくる。

「当てはあるのですか?」
「ん?」
「ここを出た後です。まさか何も考えていないわけではありませんよね?」
「当然。プランはあるよ」

 さすがにノープランではいられない。
 俺一人ならともかく、皆の生活もかかっているわけだからな。

「ここから東へ向かった所に、アクトスっていう街がある。そこがなんて呼ばれているか知っているか?」
「アクトスですか? 確か……冒険者の街と」

 クロエはハッとした表情を見せる。
 どうやら、彼女は理解したようだ。

「そう、冒険者になろうと思う」

 冒険者。
 ギルドという組織に属する者をそう呼ぶ。
 彼らは魔物討伐を代表とする数々のクエストを請け負い、その報酬で生計を立てている。
 なるのは簡単で、ギルドに申請を出せばいいだけだ。

「なるほど……思い切りましたね」
「いや、そうでもない」

 ある意味、元の鞘に収まったともいえる。
 何を隠そう俺は、かつて剣帝と呼ばれていた男だからな。
 これまで好き勝手やってきて、働くのも嫌だからテキトーにしか生きてこなかったけど……

「そろそろ俺も、本気を出そうと思う」

 楽しく自由に生きていく。
 そのためにも、俺は俺らしさを全面に出していこう。
 
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