4 / 26
第一部
4.そうだ冒険者になろう
しおりを挟む
「――と言うわけで、エイルワース家との縁は切れた」
屋敷に戻った俺は、父上との話を簡単に説明した。
重要な内容を普段通りの口調で話した所為か、全員が呆気にとられている。
俺は続けて説明する。
「俺個人が持つ財産はそのままだけど、エイルワース家の持ち物は返却しないといけない。この屋敷も、今日明日までに引き払うことになった」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
そう言ったのはユミルだった。
彼女は俺を心配そうに見つめている。
「だ、大丈夫なの? ジーク様、家を追い出されちゃったんだよ!」
「ああ、そうだな」
「それにしては随分と落ち着いているな」
「グレン。まぁ何となく、いつかこうなるんじゃないかって予想していたからね」
俺がそう言うと、グレンはやれやれというジェスチャーを見せる。
彼も中々に落ち着いている。
他の皆は、まだ状況をのみ込めていないって感じか。
「ねぇクロエちゃん!」
「何?」
「クロエちゃんはこれで良かったの?」
「良いも何も、ジーク様が納得しているなら、私もそれで構わない。私はジーク様のメイドだから」
クロエはハッキリと言い切った。
彼女には、父上の話の直後に説明してある。
さすがに聞いた瞬間は驚いたような反応を見せたけど、すぐに納得してくれた。
彼女もまた、俺と同じような予感をもっていたのか。
「まぁともかく、俺が貴族ではなくなるのは事実だ。そこで、皆には選んでほしい」
「選ぶ?」
「何をでしょうか?」
リガルドとミアリスが反応して答えた。
俺は全員の顔を順番に見ながら、彼らに問いかける。
「この先、皆がどうしたいのか。自分の意思で決めてほしい」
皆には選択する権利がある。
貴族でなくなった俺に、これまで通り付き従う義務はない。
俺の元を離れ、自分で生きていきたいというならば、それなりの支援をしよう。
幸いなことに、一般人よりもお金はあるほうだからな。
もちろん、俺の元に残るという選択もあるし、それも喜んで受け入れる。
俺はしばらく、彼らの回答を待とうと思った。
ただ、思ったよりも早く返って来た。
「そんなの決まってるだろ?」
最初に口を開いたのはグレンだった。
彼女の妹のアカツキも、彼が言ったことに合わせて頷く。
続けてユミル、リガルド、ミアリスが順番に話す。
「あたしもジーク様についていくよ。みんなと一緒に!」
「主殿から離れるなど、選択肢にはありません」
「そうですね。私たちは、これからもジーク様にお仕えします」
彼女たちの答えを聞いた後、俺はシトナに目を向ける。
「シトナは?」
「私もお兄ちゃんと一緒にいる。お兄ちゃんがどこかに行くなら、私もついていく。お兄ちゃんの傍だけが……私の居場所だから」
「そうか」
全員の意見が出そろった。
満場一致、揺るぎなくまっすぐに、彼らは答えてくれた。
実はこの話をする少し前、俺はクロエに尋ねた。
「皆は……どうするだろうか」
ぼそりと出た疑問に、クロエは悩むことなく答えた。
「きっと、私と同じだと思いますよ」
その時のことを思い出す。
確かに、彼女の言ったとおりだったよ。
「ありがとう。皆」
変わらぬ忠義を嬉しく思う。
俺は心からの感謝を言葉にして、胸のうちで決意する。
この先何が起ころうと、彼らが幸せであれる道を進もう。
いつかの日に、この選択は正しかったのだと思えるように。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日の昼下がり。
昨日から通して、屋敷の片づけと荷造りを行った。
それほど大きな屋敷ではなかったこともあり、思ったより早く片付いた。
自分たちの荷物も、馬車二台分でまとめられそうだ。
作業も終わりに差し掛かり、クロエが俺に尋ねてくる。
「当てはあるのですか?」
「ん?」
「ここを出た後です。まさか何も考えていないわけではありませんよね?」
「当然。プランはあるよ」
さすがにノープランではいられない。
俺一人ならともかく、皆の生活もかかっているわけだからな。
「ここから東へ向かった所に、アクトスっていう街がある。そこがなんて呼ばれているか知っているか?」
「アクトスですか? 確か……冒険者の街と」
クロエはハッとした表情を見せる。
どうやら、彼女は理解したようだ。
「そう、冒険者になろうと思う」
冒険者。
ギルドという組織に属する者をそう呼ぶ。
彼らは魔物討伐を代表とする数々のクエストを請け負い、その報酬で生計を立てている。
なるのは簡単で、ギルドに申請を出せばいいだけだ。
「なるほど……思い切りましたね」
「いや、そうでもない」
ある意味、元の鞘に収まったともいえる。
何を隠そう俺は、かつて剣帝と呼ばれていた男だからな。
これまで好き勝手やってきて、働くのも嫌だからテキトーにしか生きてこなかったけど……
「そろそろ俺も、本気を出そうと思う」
楽しく自由に生きていく。
そのためにも、俺は俺らしさを全面に出していこう。
屋敷に戻った俺は、父上との話を簡単に説明した。
重要な内容を普段通りの口調で話した所為か、全員が呆気にとられている。
俺は続けて説明する。
「俺個人が持つ財産はそのままだけど、エイルワース家の持ち物は返却しないといけない。この屋敷も、今日明日までに引き払うことになった」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
そう言ったのはユミルだった。
彼女は俺を心配そうに見つめている。
「だ、大丈夫なの? ジーク様、家を追い出されちゃったんだよ!」
「ああ、そうだな」
「それにしては随分と落ち着いているな」
「グレン。まぁ何となく、いつかこうなるんじゃないかって予想していたからね」
俺がそう言うと、グレンはやれやれというジェスチャーを見せる。
彼も中々に落ち着いている。
他の皆は、まだ状況をのみ込めていないって感じか。
「ねぇクロエちゃん!」
「何?」
「クロエちゃんはこれで良かったの?」
「良いも何も、ジーク様が納得しているなら、私もそれで構わない。私はジーク様のメイドだから」
クロエはハッキリと言い切った。
彼女には、父上の話の直後に説明してある。
さすがに聞いた瞬間は驚いたような反応を見せたけど、すぐに納得してくれた。
彼女もまた、俺と同じような予感をもっていたのか。
「まぁともかく、俺が貴族ではなくなるのは事実だ。そこで、皆には選んでほしい」
「選ぶ?」
「何をでしょうか?」
リガルドとミアリスが反応して答えた。
俺は全員の顔を順番に見ながら、彼らに問いかける。
「この先、皆がどうしたいのか。自分の意思で決めてほしい」
皆には選択する権利がある。
貴族でなくなった俺に、これまで通り付き従う義務はない。
俺の元を離れ、自分で生きていきたいというならば、それなりの支援をしよう。
幸いなことに、一般人よりもお金はあるほうだからな。
もちろん、俺の元に残るという選択もあるし、それも喜んで受け入れる。
俺はしばらく、彼らの回答を待とうと思った。
ただ、思ったよりも早く返って来た。
「そんなの決まってるだろ?」
最初に口を開いたのはグレンだった。
彼女の妹のアカツキも、彼が言ったことに合わせて頷く。
続けてユミル、リガルド、ミアリスが順番に話す。
「あたしもジーク様についていくよ。みんなと一緒に!」
「主殿から離れるなど、選択肢にはありません」
「そうですね。私たちは、これからもジーク様にお仕えします」
彼女たちの答えを聞いた後、俺はシトナに目を向ける。
「シトナは?」
「私もお兄ちゃんと一緒にいる。お兄ちゃんがどこかに行くなら、私もついていく。お兄ちゃんの傍だけが……私の居場所だから」
「そうか」
全員の意見が出そろった。
満場一致、揺るぎなくまっすぐに、彼らは答えてくれた。
実はこの話をする少し前、俺はクロエに尋ねた。
「皆は……どうするだろうか」
ぼそりと出た疑問に、クロエは悩むことなく答えた。
「きっと、私と同じだと思いますよ」
その時のことを思い出す。
確かに、彼女の言ったとおりだったよ。
「ありがとう。皆」
変わらぬ忠義を嬉しく思う。
俺は心からの感謝を言葉にして、胸のうちで決意する。
この先何が起ころうと、彼らが幸せであれる道を進もう。
いつかの日に、この選択は正しかったのだと思えるように。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日の昼下がり。
昨日から通して、屋敷の片づけと荷造りを行った。
それほど大きな屋敷ではなかったこともあり、思ったより早く片付いた。
自分たちの荷物も、馬車二台分でまとめられそうだ。
作業も終わりに差し掛かり、クロエが俺に尋ねてくる。
「当てはあるのですか?」
「ん?」
「ここを出た後です。まさか何も考えていないわけではありませんよね?」
「当然。プランはあるよ」
さすがにノープランではいられない。
俺一人ならともかく、皆の生活もかかっているわけだからな。
「ここから東へ向かった所に、アクトスっていう街がある。そこがなんて呼ばれているか知っているか?」
「アクトスですか? 確か……冒険者の街と」
クロエはハッとした表情を見せる。
どうやら、彼女は理解したようだ。
「そう、冒険者になろうと思う」
冒険者。
ギルドという組織に属する者をそう呼ぶ。
彼らは魔物討伐を代表とする数々のクエストを請け負い、その報酬で生計を立てている。
なるのは簡単で、ギルドに申請を出せばいいだけだ。
「なるほど……思い切りましたね」
「いや、そうでもない」
ある意味、元の鞘に収まったともいえる。
何を隠そう俺は、かつて剣帝と呼ばれていた男だからな。
これまで好き勝手やってきて、働くのも嫌だからテキトーにしか生きてこなかったけど……
「そろそろ俺も、本気を出そうと思う」
楽しく自由に生きていく。
そのためにも、俺は俺らしさを全面に出していこう。
1
お気に入りに追加
856
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる