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第一部
2.第二の生は楽しく
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千年以上前――
剣帝ジークフリートという男がいた。
それが俺の前世で、今回が二度目になる。
名門貴族エイルワース家の次男として生を受けた俺だったが、どういう理由か、前世の記憶を持っていた。
せっかく二度目の生を得たんだ。
もう一度剣の道を極めるため修行を……なんてことはしなかった。
剣の道を極めた所で、心は何も満たされない。
それを嫌という程思い知らされていたから。
だから、今回は好きに生きようと思ったんだ。
戦いばかりだったあの頃と、千年後の世界は違う。
貴族の次男として生まれたのも、俺にとっては好都合だった。
金はあるし、程よく地位もある。
やりたい放題出来るんだと思うと、面白いくらいに心が躍った。
ほしい物は手に入れる。
人でも、物でも、ほしいと思ったら即行動。
金で手に入るなら馬鹿みたいにつぎ込み、足りなければ地位をふりかざす。
現代においてのけ者扱いされている亜人種も、関係なく雇ったりした。
あとは家でのんびりするだけ。
家督を継ぐのは、基本的には長男の役目だ。
次男である俺には、大した期待も向けられない。
勉学もほどほどで済ませて、ぐーたらな毎日を過ごしていた。
そうすると当然、父上には呆れられた。
出来損ないだとか、恥知らずなんて罵られたりもしたな。
実の兄には見下されて、よく陰湿ないじめも受けていたっけ。
まぁ、そういうのは別にどうでもよかった。
生きるか死ぬかの時代を知っている俺にとって、その程度は些細なことでしかない。
まったく気にせず、自分勝手に過ごし続けた結果……
俺の噂は、国中に広まるまでに至った。
名門貴族の落ちこぼれ。
亜人を好き好んで飼いならす変わり者。
魔法の才能も、剣の才能も持ち合わせていない無能。
言われたい放題だよ。
それも気にしていないけど、王都で生活するには面倒になって、三年ほど前から別荘で暮らしている。
「どうかされましたか?」
「ん、いいや」
廊下の窓を眺めていた。
穏やかで代り映えしない景色を見つめて、つくづく思う。
千年で、世界も平和になったのだなと。
クロエと一緒に廊下を進み、一階に降りて食堂へ向かう。
すると、すでに俺たち以外の全員が集まっていて、俺が来た途端に視線がこちらを向く。
「おはよう、皆早いな」
「何言ってるんだ? お前がいつも遅いんだよ、ジーク」
呆れ顔で俺に悪態をつく彼はグレン。
赤い髪と犬の耳と尻尾、腰には普段刀を装備している。
亜人の一種、犬の獣人で、俺の護衛役の一人。
「おはようございます! ジーク様」
その隣に座る元気な女の子はアカツキ。
グレンの妹で、髪の色は彼よりも薄い赤色。
一応メイド見習いで、この屋敷の中で最年少だ。
「おっはよ~ ジーク様! また寝坊しちゃったんですかぁ?」
「ユミル、貴方もよ」
「ちょっ、クロエちゃん! 何でバラしちゃうのさ~」
「はははっ、お前が寝坊するのもいつも通りだろ」
「うぅ~ ジーク様には言われたくないよ~」
彼女はユミル。
褐色の肌と、濃い紫色の髪が特徴。
いや、もっとわかりやすい特徴が、背中と腰から生えている。
悪魔の羽と尻尾……彼女は人間と悪魔の混血だ。
だからというわけではないが、よく仕事をさぼったりする。
これも、だからというわけではないが、俺と気が合う。
ガヤガヤ騒いでいると、隣のキッチンから足音が近づいてくる。
俺が目を向けると、料理を運ぶ二人の姿があった。
「あらあら」
「主殿、おはようございます」
「おはよう、リガルド。ミアリスも」
「おはようございます。もしかして、お待たせしちゃったかしら?」
「心配いりません。どちらかというと、待たせたのはジーク様です」
水色のウェーブのかかった長い髪。
大きな胸と、お淑やかな話し方の彼女はミアリス。
見た目は奇麗なお姉さんだが、彼女もセイレーンという亜人種。
一緒に現れたリザルドは、見た目で分かる通りただの人間ではない。
二メートルを超える巨体と、長く伸びる尻尾。
体中を覆う鱗と、凛々しい顔立ちはリザードマンの特徴だ。
彼にはグレンと一緒に、俺の護衛役をしてもらっている。
使用人はこれで全員。
残る一人はというと――
「お兄ちゃん、こっち」
「ああ」
俺の妹シトナ。
銀色の奇麗な髪は、まるで妖精のようにキラキラしている。
妹と言っても腹違い。
それも妾の子供だったから、本宅に居場所がなく、俺と一緒に暮らしている。
年はアカツキより一つ上の十四歳、年が近いこともあり、二人は仲よしの友達だ。
全員が席に着く。
皆の顔を順番に見てから、手を合わせる。
「いただきます」
それから、ワイワイとしゃべりながら朝食をとる。
何気に楽しいひと時だ。
好きな人たちと毎日一緒にいられて、馬鹿みたいに騒いだり、怒られたり、笑い合ったり。
そんなの楽しいに決まってる。
二度目の生を受けて十八年とひと月。
順調に好き放題人生を満喫できている。
このまま生きて、納得のいく最後を迎えよう。
そう、思っていたんだ。
だけど……
「ジーク、お前を追放する」
「……は?」
楽しい日々の終わりは、ある日突然やってきた。
剣帝ジークフリートという男がいた。
それが俺の前世で、今回が二度目になる。
名門貴族エイルワース家の次男として生を受けた俺だったが、どういう理由か、前世の記憶を持っていた。
せっかく二度目の生を得たんだ。
もう一度剣の道を極めるため修行を……なんてことはしなかった。
剣の道を極めた所で、心は何も満たされない。
それを嫌という程思い知らされていたから。
だから、今回は好きに生きようと思ったんだ。
戦いばかりだったあの頃と、千年後の世界は違う。
貴族の次男として生まれたのも、俺にとっては好都合だった。
金はあるし、程よく地位もある。
やりたい放題出来るんだと思うと、面白いくらいに心が躍った。
ほしい物は手に入れる。
人でも、物でも、ほしいと思ったら即行動。
金で手に入るなら馬鹿みたいにつぎ込み、足りなければ地位をふりかざす。
現代においてのけ者扱いされている亜人種も、関係なく雇ったりした。
あとは家でのんびりするだけ。
家督を継ぐのは、基本的には長男の役目だ。
次男である俺には、大した期待も向けられない。
勉学もほどほどで済ませて、ぐーたらな毎日を過ごしていた。
そうすると当然、父上には呆れられた。
出来損ないだとか、恥知らずなんて罵られたりもしたな。
実の兄には見下されて、よく陰湿ないじめも受けていたっけ。
まぁ、そういうのは別にどうでもよかった。
生きるか死ぬかの時代を知っている俺にとって、その程度は些細なことでしかない。
まったく気にせず、自分勝手に過ごし続けた結果……
俺の噂は、国中に広まるまでに至った。
名門貴族の落ちこぼれ。
亜人を好き好んで飼いならす変わり者。
魔法の才能も、剣の才能も持ち合わせていない無能。
言われたい放題だよ。
それも気にしていないけど、王都で生活するには面倒になって、三年ほど前から別荘で暮らしている。
「どうかされましたか?」
「ん、いいや」
廊下の窓を眺めていた。
穏やかで代り映えしない景色を見つめて、つくづく思う。
千年で、世界も平和になったのだなと。
クロエと一緒に廊下を進み、一階に降りて食堂へ向かう。
すると、すでに俺たち以外の全員が集まっていて、俺が来た途端に視線がこちらを向く。
「おはよう、皆早いな」
「何言ってるんだ? お前がいつも遅いんだよ、ジーク」
呆れ顔で俺に悪態をつく彼はグレン。
赤い髪と犬の耳と尻尾、腰には普段刀を装備している。
亜人の一種、犬の獣人で、俺の護衛役の一人。
「おはようございます! ジーク様」
その隣に座る元気な女の子はアカツキ。
グレンの妹で、髪の色は彼よりも薄い赤色。
一応メイド見習いで、この屋敷の中で最年少だ。
「おっはよ~ ジーク様! また寝坊しちゃったんですかぁ?」
「ユミル、貴方もよ」
「ちょっ、クロエちゃん! 何でバラしちゃうのさ~」
「はははっ、お前が寝坊するのもいつも通りだろ」
「うぅ~ ジーク様には言われたくないよ~」
彼女はユミル。
褐色の肌と、濃い紫色の髪が特徴。
いや、もっとわかりやすい特徴が、背中と腰から生えている。
悪魔の羽と尻尾……彼女は人間と悪魔の混血だ。
だからというわけではないが、よく仕事をさぼったりする。
これも、だからというわけではないが、俺と気が合う。
ガヤガヤ騒いでいると、隣のキッチンから足音が近づいてくる。
俺が目を向けると、料理を運ぶ二人の姿があった。
「あらあら」
「主殿、おはようございます」
「おはよう、リガルド。ミアリスも」
「おはようございます。もしかして、お待たせしちゃったかしら?」
「心配いりません。どちらかというと、待たせたのはジーク様です」
水色のウェーブのかかった長い髪。
大きな胸と、お淑やかな話し方の彼女はミアリス。
見た目は奇麗なお姉さんだが、彼女もセイレーンという亜人種。
一緒に現れたリザルドは、見た目で分かる通りただの人間ではない。
二メートルを超える巨体と、長く伸びる尻尾。
体中を覆う鱗と、凛々しい顔立ちはリザードマンの特徴だ。
彼にはグレンと一緒に、俺の護衛役をしてもらっている。
使用人はこれで全員。
残る一人はというと――
「お兄ちゃん、こっち」
「ああ」
俺の妹シトナ。
銀色の奇麗な髪は、まるで妖精のようにキラキラしている。
妹と言っても腹違い。
それも妾の子供だったから、本宅に居場所がなく、俺と一緒に暮らしている。
年はアカツキより一つ上の十四歳、年が近いこともあり、二人は仲よしの友達だ。
全員が席に着く。
皆の顔を順番に見てから、手を合わせる。
「いただきます」
それから、ワイワイとしゃべりながら朝食をとる。
何気に楽しいひと時だ。
好きな人たちと毎日一緒にいられて、馬鹿みたいに騒いだり、怒られたり、笑い合ったり。
そんなの楽しいに決まってる。
二度目の生を受けて十八年とひと月。
順調に好き放題人生を満喫できている。
このまま生きて、納得のいく最後を迎えよう。
そう、思っていたんだ。
だけど……
「ジーク、お前を追放する」
「……は?」
楽しい日々の終わりは、ある日突然やってきた。
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