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魔女として生まれて十七年。
ルイスは短い人生の中で最大の窮地を迎えていた。
「リ、リリ、リベルさん!」
「大丈夫? そんなに驚いて」
彼女はニコッと微笑んでいる。
笑顔がこんなにも怖いと感じたのは、ルイスも初めての体験だった。
しりもちをつき、腰が抜けて動けない。
(な、なんで? いつ気づかれたの!?)
焦りから大量の汗を流している。
しばらく二人とも黙ったまま静寂が続き、風が吹き抜ける。
先に口を開いたのは、リベルのほうだった。
「私に何か用かしら?」
「え? あの、えっと……」
「私のこと、ずっと見ていたでしょう?」
(やっぱりバレてた! 気をつけていたのにどうして……)
彼女には自負がある。
魔力の気配を消す技術に関しては、雇い主であるセミラミスをも上回っていた。
その技量を見込まれ、彼女はアルザード王国の潜入員の一人に選ばれている。
気づかれるはずがない。
隣まで接近し、魔女だとバレなかったことが、さらなる自信に繋がっていた。
だからこその油断があった。
「私に何か聞きたいことがあったのかしら? それとも……他の理由……」
「いや、えっと……」
「今日初めて会ったばかりだと思うけど? 同じ講義を受けたのも、声をかけてくれたのも偶然じゃなかったりして」
「うっ……」
ルイスは心の中で確信する。
(終わった……これ完全にバレてるよ)
自身が魔女であることを知られている。
だからこそ、彼女は尾行に気づきながらルイスを誘導し、人気のない場所で問い質す。
完全に詰みだ。
彼女の脳裏には、この場所で起こった光景がリフレインされる。
ボコボコにされる上級生たち。
恐怖の光景。
倒れている上級生が、自分の姿と重なる。
身震いした。
(こ、殺される……このままだと殺される! 拷問の果てに殺される!)
ルイスの脳内を支配したのは言葉にならない恐怖だった。
魔女であっても死の恐怖は変わらない。
叩かれたら痛いし、血も流れる。
怯えるルイスは必死に考える。
この状況から生き残るための方法を。
(逃げられない。私よりこの人の方が強いし、逃げたらその場で殺される。人違いです、なんて言い訳も聞いてくれない……仕方ない。こうなったらあれしかない)
ルイスは一つの可能性に希望を見出した。
戦えば負ける。
逃げれば捕らえられる。
誤魔化しは通じない。
ならば、弱者の彼女がとれる手段は一つしかなかった。
「す、すみませんでしたあああああああああああああ!」
それはそれは、とても綺麗な土下座である。
彼女は地面に頭をこすりつけ、謝罪する。
「お察しの通りです! 私がお探しの魔女なんです! 悪いことしないから殺さないでください! なんでもしますから!」
誠心誠意の土下座は、降伏宣言でもある。
死なないための最終手段は、とにかく謝って命乞いをすることだった。
惨めだろうと、みっともなかろうと、死なないために全力で謝る。
その姿には覚悟すら宿っていた。
ただし、彼女は勘違いをしている。
「……え? あなたが魔女だったの?」
「……へ?」
リベルはまだ、ルイスが魔女だと気づいていなかった。
ルイスは短い人生の中で最大の窮地を迎えていた。
「リ、リリ、リベルさん!」
「大丈夫? そんなに驚いて」
彼女はニコッと微笑んでいる。
笑顔がこんなにも怖いと感じたのは、ルイスも初めての体験だった。
しりもちをつき、腰が抜けて動けない。
(な、なんで? いつ気づかれたの!?)
焦りから大量の汗を流している。
しばらく二人とも黙ったまま静寂が続き、風が吹き抜ける。
先に口を開いたのは、リベルのほうだった。
「私に何か用かしら?」
「え? あの、えっと……」
「私のこと、ずっと見ていたでしょう?」
(やっぱりバレてた! 気をつけていたのにどうして……)
彼女には自負がある。
魔力の気配を消す技術に関しては、雇い主であるセミラミスをも上回っていた。
その技量を見込まれ、彼女はアルザード王国の潜入員の一人に選ばれている。
気づかれるはずがない。
隣まで接近し、魔女だとバレなかったことが、さらなる自信に繋がっていた。
だからこその油断があった。
「私に何か聞きたいことがあったのかしら? それとも……他の理由……」
「いや、えっと……」
「今日初めて会ったばかりだと思うけど? 同じ講義を受けたのも、声をかけてくれたのも偶然じゃなかったりして」
「うっ……」
ルイスは心の中で確信する。
(終わった……これ完全にバレてるよ)
自身が魔女であることを知られている。
だからこそ、彼女は尾行に気づきながらルイスを誘導し、人気のない場所で問い質す。
完全に詰みだ。
彼女の脳裏には、この場所で起こった光景がリフレインされる。
ボコボコにされる上級生たち。
恐怖の光景。
倒れている上級生が、自分の姿と重なる。
身震いした。
(こ、殺される……このままだと殺される! 拷問の果てに殺される!)
ルイスの脳内を支配したのは言葉にならない恐怖だった。
魔女であっても死の恐怖は変わらない。
叩かれたら痛いし、血も流れる。
怯えるルイスは必死に考える。
この状況から生き残るための方法を。
(逃げられない。私よりこの人の方が強いし、逃げたらその場で殺される。人違いです、なんて言い訳も聞いてくれない……仕方ない。こうなったらあれしかない)
ルイスは一つの可能性に希望を見出した。
戦えば負ける。
逃げれば捕らえられる。
誤魔化しは通じない。
ならば、弱者の彼女がとれる手段は一つしかなかった。
「す、すみませんでしたあああああああああああああ!」
それはそれは、とても綺麗な土下座である。
彼女は地面に頭をこすりつけ、謝罪する。
「お察しの通りです! 私がお探しの魔女なんです! 悪いことしないから殺さないでください! なんでもしますから!」
誠心誠意の土下座は、降伏宣言でもある。
死なないための最終手段は、とにかく謝って命乞いをすることだった。
惨めだろうと、みっともなかろうと、死なないために全力で謝る。
その姿には覚悟すら宿っていた。
ただし、彼女は勘違いをしている。
「……え? あなたが魔女だったの?」
「……へ?」
リベルはまだ、ルイスが魔女だと気づいていなかった。
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