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 学園に現れたもう一人の魔女。
 その魔女は、昨年から潜入しているセミラミスの部下、ルイスを探している。
 自分を探す敵の存在を知った彼女は、関わらないことを決めた。

 だが、運命は残酷である。

 早々に接触し、その決意は崩れ去る。
 絶対にバレないようにと息を潜め、心拍数を上昇させるルイスに対して、新米魔女リベルは堂々と眠っていた。

(完全に寝てる……)

 ちょっとイビキも聞こえている。
 フリ、という感じではなかった。

(え? どういうつもりなんですか? 隣に私、魔女がいるんですけど?)

 ルイスは困惑する。
 探している相手が隣にいるのに、この無防備さは何なのか?

(見つかってないってことなんだけど……え? こんなに無警戒で大丈夫なの?)

 魔女がいることは知っている。
 明確な敵がどこかにいるのに、何の警戒もなく堂々と寝ている彼女に疑問を抱く。
 これは罠なのか?
 それとも本気で寝ているのか?

(突いてみよう)

 ツンツン、と触る。
 反応はない。
 
(やっぱり寝ている……!)

 ここでルイス、ひらめく。
 悪い考えである。

(ここで始末しちゃえば、何の問題のないのでは? そうだよ! 殺しちゃえばもう安心! 私のこと無視してるセミラミス様も返信をくれる!)

 とても悪い、魔女らしい考えであった。
 幸いなことに寝ている本人は気づいていない。
 魔法が使える彼女は、誰にも気づかれず人を殺すことなど容易い。
 千載一遇のチャンスである。
 新米魔女リベルも万事休すか。

「……」
(無理ですセミラミス様! 私、人なんて殺したことないんですよぉ!)

 彼女は優しかった。 
 魔女でありながら、人間を嫌っているわけではない。
 長く学園に溶け込めたのも、魔女としてのプライドが薄く、人間との共存に躊躇がないからである。
 しかし彼女も魔女の一人。
 毒の魔女セミラミスの部下である。
 セミラミスの目的を知る彼女は、悪い魔女の手下なのだ。

(で、でもここでやらないと、いずれ私がピンチになるし……セミラミス様は全然返信くれないし! やっぱりやるしか……)
「すぅ……」
「……」
(やっぱり無理です! ぱっと見ただの女の子じゃないですか! 殺せるわけないですよぉ! いやでもぉー)

 そんな葛藤を九十分続けて、気づけば講義は終わっていた。
 生徒たちが部屋を出て行く。
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