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去り際、魔女セミラミスは囁いた。
「お別れの前にいいことを教えてあげるわ」
「必要ないわ。どうせロクなことじゃないでしょう?」
「ふふっ、そうでもないわ。私のこと……毒の魔女は誰かが勝手につけたあだ名。私のもう一つの名前は――強欲の魔女」
「強欲……」
七つの大罪の一つ、強欲。
その名を冠する魔女とは、いささか大それた名だ。
私は失笑する。
「あなたにピッタリじゃない」
「ふふふっ」
彼女は笑う。
怒っているのか、喜んでいるのか。
理解できない笑顔だ。
「自己紹介がしたかったの?」
「まさか。私のことを知ってもらいたかったのよ。私は強欲、ほしいものは手に入れる。私が欲しいものは全てこの手に掴みたい。そのためなら何でもするわ」
「そう? 好きにすればいいじゃない。私の邪魔をしないなら、あなたが何をしようと勝手ね」
「あらあら、女王がそんなことを言っていいのかしら?」
「元よ。あなたがそうしたんでしょう?」
私たちは睨み合う。
女王でなくなった今の私に、母国をどうこうする資格はない。
後のことはお姉様が頑張ってくれたらいい。
私はもう、十分に頑張った。
「ふふっ、私が強欲なら、あなたは怠惰ね」
「いいわね、怠惰の魔女。そうありたいと思うわ」
「残念だけど、退屈はしないわ。あなたのすぐ傍に、もう一人魔女がいるもの」
「――!」
もう一人?
私以外に魔女がいるというの?
そんなことを……。
「教えていいのかしら?」
「そのほうがスリルがあるでしょう?」
「危機管理がなってないわね。そんなんじゃ女王の補佐は務まらないわ」
「私に危機なんてないのよ。強欲な私は、スリルも楽しみたい。ただそれだけ……」
彼女の気配が消えていく。
本当に立ち去るようだ。
心の奥でホッとする。
もしも戦いになったら、本物の魔女に今の私が勝てるだろうか?
難しいだろう。
レントが来てくれることを願うしかない。
「いずれ必ず、あなたの国を手に入れてあげる。その日まで、怠惰でいられるといいわね」
「……」
セミラミスは消えた。
不吉な笑みと、言葉を残して。
「……まったく、面倒なことばかりね」
「お別れの前にいいことを教えてあげるわ」
「必要ないわ。どうせロクなことじゃないでしょう?」
「ふふっ、そうでもないわ。私のこと……毒の魔女は誰かが勝手につけたあだ名。私のもう一つの名前は――強欲の魔女」
「強欲……」
七つの大罪の一つ、強欲。
その名を冠する魔女とは、いささか大それた名だ。
私は失笑する。
「あなたにピッタリじゃない」
「ふふふっ」
彼女は笑う。
怒っているのか、喜んでいるのか。
理解できない笑顔だ。
「自己紹介がしたかったの?」
「まさか。私のことを知ってもらいたかったのよ。私は強欲、ほしいものは手に入れる。私が欲しいものは全てこの手に掴みたい。そのためなら何でもするわ」
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後のことはお姉様が頑張ってくれたらいい。
私はもう、十分に頑張った。
「ふふっ、私が強欲なら、あなたは怠惰ね」
「いいわね、怠惰の魔女。そうありたいと思うわ」
「残念だけど、退屈はしないわ。あなたのすぐ傍に、もう一人魔女がいるもの」
「――!」
もう一人?
私以外に魔女がいるというの?
そんなことを……。
「教えていいのかしら?」
「そのほうがスリルがあるでしょう?」
「危機管理がなってないわね。そんなんじゃ女王の補佐は務まらないわ」
「私に危機なんてないのよ。強欲な私は、スリルも楽しみたい。ただそれだけ……」
彼女の気配が消えていく。
本当に立ち去るようだ。
心の奥でホッとする。
もしも戦いになったら、本物の魔女に今の私が勝てるだろうか?
難しいだろう。
レントが来てくれることを願うしかない。
「いずれ必ず、あなたの国を手に入れてあげる。その日まで、怠惰でいられるといいわね」
「……」
セミラミスは消えた。
不吉な笑みと、言葉を残して。
「……まったく、面倒なことばかりね」
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