冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ

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「はぁ……やっぱり失敗だったかしら」
「今さら後悔しても遅いぞ? あ、そうだ。今日はいくつか用意しておきたい書物があるんだ。すまないが書斎に行って取ってきてはくれないか?」
「わかったわ。何を持ってくればいいの?」
「メモしてある。二冊だから持ち運びはできるぞ」

 メモを渡され、私は執務室とは逆方向にある書斎へと一人で向かった。
 ため息がこぼれる。
 本当に選択を間違えたのかもしれない。
 恩とか無視して、一人で逃げるべきだったか。
 そんなこと、選べるはずもないのに。

「えっと、この本は……」

 書斎に入り、本を探す。
 目当ての本を見つけた……その時だった。

「――!」

 世界が反転した。
 上下が逆になり、私の身体は浮いている。
 空が赤い。
 本は逆さまなのに、落下していなかった。
 周囲に漂う異様な魔力を、私は以前に感じたことがある。

「こんなところにいたのね? 元女王陛下」
「……あなたは、セミラミスだったかしら?」
「覚えて頂いて光栄ですわ」
「……」

 間違いない。
 私に呪いをかけた魔女だ。
 この空間も、彼女の魔法で作り出された異空間。
 気づかぬうちに、私は囚われてしまったらしい。

「もう見つかったのね」
「ふふっ、私も驚きました。まさか、隣国の王子の従者になっているなんて。確かに彼の眼なら、あなたの魂を見破れますね」
「そうね。運がよかったわ。それで? 私を見つけて、また幽閉しにきたのかしら?」
「さぁ、どうでしょう?」

 私は会話をしながら脱出の糸口を探す。
 この反転した空間から抜け出す方法はないのか。
 そもそもどういう魔法なのか。
 原理もさっぱりわからない。
 これが本物の魔女の力……。

「勘違いしないでほしいけど、私は復讐とか望んでないわよ」
「なぜですか?」
「面倒だからよ。シエリスお姉様が私の代わりをしてくれるなら、それでいいと思っているわ」
「務まると思っているの? 彼女に」
「どういう意味? そう思ったから、協力したのでしょう?」
「いいえ? これっぽっちも」
「――!」

 どういうつもりなのか?
 彼女を女王にする手助けを、魔女は手引きしたわけじゃないのか?
 嘘をついているようには見えなかった。
 この女は本心から、彼女に期待していない。

「私がここへ来たのはスカウトよ」
「スカウト?」
「ええ、魔女になった元女王陛下。私と一緒に、あの国の新たな王にならないかしら?」
「……は?」

 理解ができず、あきれ顔になる。
 
「何を言っているの? 私から女王の座を奪っておいて」
「そうしないと始まらなかったのよ。あなたは女王として理想的だったわ。あなたが女王のままでは、あの国はもっと成長し、人間の暮らしが豊かになってしまう」
「それの何がいけないの?」
「ダメよ。人間は愚かで弱い生き物なんだから。私のように力を持つ者が支配してあげないと」

 さっぱりだ。
 この女は、何を言っているのかわからない。
 わからないけど、何となく察する。

「あなた、自分の国がほしいのね」
「ええ、わかってくれる?」
「知らないわよ。大方、自分に都合がいい国がほしいとか、そんなんでしょ?」
「嬉しいわ。わかってくれる人がいて。あなたはやっぱり優秀よ」
「褒められても嬉しくないわね。それに――」
 
 やっと見つけた。
 結界を構成している魔力の流れを、私は右手で掴む。
 そのまま自分の魔力をぶつけて、流れを絶った。
 握りつぶすように。

「結界を解いたの!」
「これが応えよ。そんな意味不明なスカウトに乗っかるわけないでしょう? さっさと帰って」
「……正気かしら? 王子の従者として一生を終えるつもり?」
「それも悪くないわね。少なくとも、あなたと一緒にめちゃくちゃするよりは」
「……その言葉、私への明確な敵意と受け取るわ」
「ご自由にどうぞ。私はもう女王じゃない。今の私はリベル、この国の人間よ。この国に手出しするなら、私も容赦しないわ」

 敵意には敵意で返す。 
 決して怯まない。 
 私は間違っていないのだから。

「後悔するわよ」

 そう言い残し、彼女は闇に消える。
 今の私の魔法では、彼女を捕らえることはできない。
 だから精一杯のハッタリと口の強さで乗り切った。

「はぁ……後悔ならずっとしてるわよ」
 
 それでも、私は王に戻る気なんてない。
 アリエルは死んだ。
 新しく名を貰ったリベルとして、第二の人生を歩む。
 この先に、自由と幸福があると信じて。
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