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「別に、負けっぱなしは性に合わないだけよ」
「ぷっはっはは!」
「笑うことないでしょ!」
「いや、ごめん! やっぱりお前は変わらないなと思って」
笑う彼に、私はキョトンと首を傾げる。
彼は涙を拭って説明する。
「覚えていないか? 小さい頃に剣で遊んで、偶々俺が勝ったことがあっただろ?」
「あったかしら? 私の全勝だった気がするけど」
「あったんだよ。一度だけ、偶然だけど俺が勝った。そしたらお前、ものすごく悔しそうな顔して、涙目になりながら再戦要求してきた。その後で五倍ボコボコにされたよ」
「あー……」
思い出したかも。
確かに一度だけ、私は彼に剣で負けた。
負けたというか、私が油断しただけなのだけど。
ついでに当時の悔しさも思い出す。
「あれがなければ私の全勝だったのに」
「ははっ、記憶から消すほど悔しかったんだな」
「今じゃ一本もとれないと思うと、なんだかムカついてくるわね」
「そういう所だ。お前はいつも真っすぐで、全力で……そんなお前に、俺は憧れた」
「レント?」
とても優しい横顔だった。
少しだけ、子供の頃に話した彼の横顔と重なる。
今では大きく成長して、泣き虫で弱い王子はどこにもいない。
それでも重なるのは、彼の本質はあの頃から変わっていないから、なのだろう。
「俺はお前のようになりたかったんだ」
「急にどうしたの?」
「言いたくなっただけだよ」
「そう」
別に私は、憧れを抱かれるほど素晴らしい人間じゃない。
あの頃だって、単に負けず嫌いだっただけだ。
その癖、本質的にはモノグサで、面倒なことは避けたい性格だし。
誇れることがあるとすれば、女王としての仮面を数年間、崩すことなく演じてきたことだけだ。
それも今では過去の話。
「本当は、もっと早く会いに行きたいと思っていたんだ」
「会ってはいたでしょう? パーティーとかで」
「顔を合わせる程度だろ? お前はいつも忙しそうで、ムスッとしていたからな」
「あまり好きじゃなかったのよ。あーいう場って、堅苦しくて息がつまるから」
「そうだろうな。俺は最初、女王になったばかりのリベルを見た時、別人になったのかと疑ったよ。俺が知るあの頃のお前は影もなかった。それでも俺の眼には見えていた。あの頃と変わらない魂の輝きが」
レントは私の左胸を指さす。
「お前の魂は窮屈そうだった。まるで鳥籠に閉じ込められた小鳥のように」
「間違ってないわ」
「今は?」
「見ればわかるでしょう?」
「ああ」
彼は気の抜けた笑みを見せる。
魂が見えない私でも、それくらいはわかっている。
きっと今は、解放されて自由に飛び立つ。
その準備をしている最中なのだ。
「あの日、お前を助けられてよかったよ」
「……そうね」
私も、助けてくれたのが、見知らぬ誰かじゃなくて……。
私のことを知るレントだったことは、この上なく幸運だったのだろう。
恥ずかしいから、口には出さないけど。
「ぷっはっはは!」
「笑うことないでしょ!」
「いや、ごめん! やっぱりお前は変わらないなと思って」
笑う彼に、私はキョトンと首を傾げる。
彼は涙を拭って説明する。
「覚えていないか? 小さい頃に剣で遊んで、偶々俺が勝ったことがあっただろ?」
「あったかしら? 私の全勝だった気がするけど」
「あったんだよ。一度だけ、偶然だけど俺が勝った。そしたらお前、ものすごく悔しそうな顔して、涙目になりながら再戦要求してきた。その後で五倍ボコボコにされたよ」
「あー……」
思い出したかも。
確かに一度だけ、私は彼に剣で負けた。
負けたというか、私が油断しただけなのだけど。
ついでに当時の悔しさも思い出す。
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「ははっ、記憶から消すほど悔しかったんだな」
「今じゃ一本もとれないと思うと、なんだかムカついてくるわね」
「そういう所だ。お前はいつも真っすぐで、全力で……そんなお前に、俺は憧れた」
「レント?」
とても優しい横顔だった。
少しだけ、子供の頃に話した彼の横顔と重なる。
今では大きく成長して、泣き虫で弱い王子はどこにもいない。
それでも重なるのは、彼の本質はあの頃から変わっていないから、なのだろう。
「俺はお前のようになりたかったんだ」
「急にどうしたの?」
「言いたくなっただけだよ」
「そう」
別に私は、憧れを抱かれるほど素晴らしい人間じゃない。
あの頃だって、単に負けず嫌いだっただけだ。
その癖、本質的にはモノグサで、面倒なことは避けたい性格だし。
誇れることがあるとすれば、女王としての仮面を数年間、崩すことなく演じてきたことだけだ。
それも今では過去の話。
「本当は、もっと早く会いに行きたいと思っていたんだ」
「会ってはいたでしょう? パーティーとかで」
「顔を合わせる程度だろ? お前はいつも忙しそうで、ムスッとしていたからな」
「あまり好きじゃなかったのよ。あーいう場って、堅苦しくて息がつまるから」
「そうだろうな。俺は最初、女王になったばかりのリベルを見た時、別人になったのかと疑ったよ。俺が知るあの頃のお前は影もなかった。それでも俺の眼には見えていた。あの頃と変わらない魂の輝きが」
レントは私の左胸を指さす。
「お前の魂は窮屈そうだった。まるで鳥籠に閉じ込められた小鳥のように」
「間違ってないわ」
「今は?」
「見ればわかるでしょう?」
「ああ」
彼は気の抜けた笑みを見せる。
魂が見えない私でも、それくらいはわかっている。
きっと今は、解放されて自由に飛び立つ。
その準備をしている最中なのだ。
「あの日、お前を助けられてよかったよ」
「……そうね」
私も、助けてくれたのが、見知らぬ誰かじゃなくて……。
私のことを知るレントだったことは、この上なく幸運だったのだろう。
恥ずかしいから、口には出さないけど。
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