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アルザード王国、第二王子。
そんな人物がなぜ、森の中に一人でいる?
訳がわからなかった。
ただ、知人に出会えたことにホッとして、思わず声をかけようとした。
私のことを覚えている?
無理だ。
今の私は、アリエルじゃないから……。
「間に合ってよかったよ。アリエル」
「……?」
今、なんて……。
「私が……アリエルだって、わかるの?」
「もちろん。十年ぶりくらいだけど、忘れるはずないよ。君の魂は、他にはない輝きがあるからね」
別に、アリエルであることにこだわりはない。
所詮は第二の人生だ。
女王でもなくなった私は、一生アリエルには戻れない。
それでいいと思っていた。
けれど……。
涙がこぼれてしまった。
「あれ……」
そうか。
私は不安だったんだ。
自分が何者でもなくなって、一人になってしまった現実から目を背けていた。
それを気づかされ、私を知ってくれている人に、救われた。
「ところでその姿は……」
「あなたこそ、なんでここに?」
「それは天啓があったからだよ」
「天啓? ああ、そういえばあなた、聖人だったわね」
女神の加護を直接受け、様々な恩恵を持つ存在。
男性の場合は聖人、女性なら聖女。
彼はその一人であり、女神の加護によって見えないものが見える目を持っている。
彼の眼は、他人の魂が見えるらしい。
そして天啓とは、女神様からのお告げだ。
「今日、ここで君を助ける。そういう天啓だった」
「……そう」
意地悪なんて言ってごめんなさい。
女神様は、ちゃんと私にも救いの手を差し伸べてくれたらしい。
「立てるか?」
「ごめんなさい。今は無理よ」
「そうか。じゃあ少し休憩しよう。あまり景色はよくないけどな」
「そうね」
彼は私の隣に座る。
「十年ぶりか」
「ええ」
「随分と変わったな」
「それは皮肉?」
私と彼は、十年前に知り合った。
隣国の王族同士だったから、顔を合わせる機会は何度かあって。
彼は私を見て、こういった。
君、どうしてそんなに魂が綺麗なの?
意味不明だった。
彼がそういう力を持っていると知ったのは最近のことだ。
けれどその日から、私たちはよく一緒に遊ぶようになった。
短い時間だ。
王族同士だから、頻回に会えるわけじゃない。
でも、楽しかった。
彼は私を王女としてではなく、一人の女の子として扱ってくれたから。
「何があったんだ? 君のその姿は……」
「面白い話じゃないわよ」
「面白さはいい。ただ、何があったのか教えてほしい。どうして君がここにいるのか」
「天啓は教えてくれなかったの?」
「天啓があったのは、ここに来れば君に会えるということだけだよ」
「大雑把なのね」
もしも彼が無視していたら……今頃私は死んでいた。
「私は――」
助けられたこと。
そして、彼は友人だからこそ、話してもいいと思った。
何があったのか。
私がもう、女王には戻れないことを。
そんな人物がなぜ、森の中に一人でいる?
訳がわからなかった。
ただ、知人に出会えたことにホッとして、思わず声をかけようとした。
私のことを覚えている?
無理だ。
今の私は、アリエルじゃないから……。
「間に合ってよかったよ。アリエル」
「……?」
今、なんて……。
「私が……アリエルだって、わかるの?」
「もちろん。十年ぶりくらいだけど、忘れるはずないよ。君の魂は、他にはない輝きがあるからね」
別に、アリエルであることにこだわりはない。
所詮は第二の人生だ。
女王でもなくなった私は、一生アリエルには戻れない。
それでいいと思っていた。
けれど……。
涙がこぼれてしまった。
「あれ……」
そうか。
私は不安だったんだ。
自分が何者でもなくなって、一人になってしまった現実から目を背けていた。
それを気づかされ、私を知ってくれている人に、救われた。
「ところでその姿は……」
「あなたこそ、なんでここに?」
「それは天啓があったからだよ」
「天啓? ああ、そういえばあなた、聖人だったわね」
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男性の場合は聖人、女性なら聖女。
彼はその一人であり、女神の加護によって見えないものが見える目を持っている。
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そして天啓とは、女神様からのお告げだ。
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「……そう」
意地悪なんて言ってごめんなさい。
女神様は、ちゃんと私にも救いの手を差し伸べてくれたらしい。
「立てるか?」
「ごめんなさい。今は無理よ」
「そうか。じゃあ少し休憩しよう。あまり景色はよくないけどな」
「そうね」
彼は私の隣に座る。
「十年ぶりか」
「ええ」
「随分と変わったな」
「それは皮肉?」
私と彼は、十年前に知り合った。
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彼は私を見て、こういった。
君、どうしてそんなに魂が綺麗なの?
意味不明だった。
彼がそういう力を持っていると知ったのは最近のことだ。
けれどその日から、私たちはよく一緒に遊ぶようになった。
短い時間だ。
王族同士だから、頻回に会えるわけじゃない。
でも、楽しかった。
彼は私を王女としてではなく、一人の女の子として扱ってくれたから。
「何があったんだ? 君のその姿は……」
「面白い話じゃないわよ」
「面白さはいい。ただ、何があったのか教えてほしい。どうして君がここにいるのか」
「天啓は教えてくれなかったの?」
「天啓があったのは、ここに来れば君に会えるということだけだよ」
「大雑把なのね」
もしも彼が無視していたら……今頃私は死んでいた。
「私は――」
助けられたこと。
そして、彼は友人だからこそ、話してもいいと思った。
何があったのか。
私がもう、女王には戻れないことを。
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