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「どうしてここに……」
いや、問題はそこじゃない。
彼女は今、アリエルと呼んだ。
この容姿を見て、私がアリエルだと知っていた。
その答えは……。
「まさか、お姉様の仕業なの?」
「勘のいい子ね。でも、私じゃないわ」
もう一人、彼女の背後から現れる。
フードで顔を隠しているけど、雰囲気が不気味で……何だか怖い。
「初めまして、女王陛下。私はセミラミス。毒の魔女と呼ばれております」
「魔女……」
そうか、私の姿を変化させたのは魔法なのか。
この世界にも魔法はある。
ただし、使える人間はほとんどいない。
魔法が使える女性は魔女、男なら魔人と呼ばれ畏怖の念を抱かれる。
私も話に聞いていただけで、実際に会ったことはなかった。
もはや都市伝説だと思っていた。
「魔法を解きなさい。こんなことをして、大問題になるわ」
「ふふっ、それが何? 私の目的は自分が女王になることよ」
「そんなことのために……」
魔女と手を組んだというの?
「そんなこと? あなたにはそんなことでも、私には重要なことなのよ!」
お姉様は声を荒げる。
「あなたにわかる? 私の気持ち……ずっと選ばれなくて、期待されなかった私の惨めさが」
「……」
「私が女王になるはずだったのよ。あなたじゃない。私がふさわしいのよ!」
知っている。
彼女が内心、そう思っていたことなんて百も承知だ。
けれど、こんな強引な手段を取るとは思わなかった。
「今ならまだ間に合うわ」
「何が間に合うの? あなたの時代はもうおわったのよ。それを私だけじゃない。彼も望んでいるわ」
「彼?」
「――元女王陛下」
「――! ランド公爵」
私の背後に、ランド公爵が現れる。
そうか。
彼も共犯なのか。
「あなたは僕を優遇する気もなかった。このままでは夫にもなれないのでね」
「そういうこと……」
彼は野心家だった。
私と結婚すれば、王族の一員になれる。
それを狙って、ずっとアプローチを続けていたけど、最近は静かだった。
諦めて、別の手段を考えたのだ。
「婚約は破棄しましょう。代わりに、彼女が婚約してくれます」
「そういう約束ですから」
「お姉様……」
「悔しい? 自分が築いてきたものを奪われる気分はどうかしら? もうあなたは女王じゃない。その姿は呪いよ。解く方法なんてないわ!」
「……」
「これから一生、あなたは女王には戻れない。アリエルにも戻れない。可哀想に……」
そうか。
戻れないのか、私は。
元の姿にも、女王の地位にも……。
ならこれで……。
「じゃあもういいわ」
「……は?」
「女王になりたいのでしょう? だったら勝手にすればいい。私はもうアリエルじゃないし、関係ないから好きにするわよ」
「……何を、言っているの?」
開き直った私に、お姉様は戸惑っていた。
魔女は驚き、ランド公爵も目を疑っている。
彼女たちは知らない。
私の本心を。
「私が望んで女王になったと思う? そんなわけないじゃない」
「あなた……」
「むしろ感謝しているわ。辞め時もなかったから、これなら諦めて辞められる」
いささか強引なやり方だけど、これで晴れて自由の身だ。
こんなに嬉しいことはない。
期待してくれたお父様や、国民には申し訳ないと思うけど……。
それも全部、お姉様たちが引き継いでくれるらしいし。
「頭がおかしくなったのかしら?」
「私はいつも通りですよ。これが私、本来の私……そういうわけなので、王城を出る準備をします。一度部屋に戻ってもいいですか?」
「……いいわけないでしょう?」
「え?」
「あなたは真実を知っている。だから――」
いや、問題はそこじゃない。
彼女は今、アリエルと呼んだ。
この容姿を見て、私がアリエルだと知っていた。
その答えは……。
「まさか、お姉様の仕業なの?」
「勘のいい子ね。でも、私じゃないわ」
もう一人、彼女の背後から現れる。
フードで顔を隠しているけど、雰囲気が不気味で……何だか怖い。
「初めまして、女王陛下。私はセミラミス。毒の魔女と呼ばれております」
「魔女……」
そうか、私の姿を変化させたのは魔法なのか。
この世界にも魔法はある。
ただし、使える人間はほとんどいない。
魔法が使える女性は魔女、男なら魔人と呼ばれ畏怖の念を抱かれる。
私も話に聞いていただけで、実際に会ったことはなかった。
もはや都市伝説だと思っていた。
「魔法を解きなさい。こんなことをして、大問題になるわ」
「ふふっ、それが何? 私の目的は自分が女王になることよ」
「そんなことのために……」
魔女と手を組んだというの?
「そんなこと? あなたにはそんなことでも、私には重要なことなのよ!」
お姉様は声を荒げる。
「あなたにわかる? 私の気持ち……ずっと選ばれなくて、期待されなかった私の惨めさが」
「……」
「私が女王になるはずだったのよ。あなたじゃない。私がふさわしいのよ!」
知っている。
彼女が内心、そう思っていたことなんて百も承知だ。
けれど、こんな強引な手段を取るとは思わなかった。
「今ならまだ間に合うわ」
「何が間に合うの? あなたの時代はもうおわったのよ。それを私だけじゃない。彼も望んでいるわ」
「彼?」
「――元女王陛下」
「――! ランド公爵」
私の背後に、ランド公爵が現れる。
そうか。
彼も共犯なのか。
「あなたは僕を優遇する気もなかった。このままでは夫にもなれないのでね」
「そういうこと……」
彼は野心家だった。
私と結婚すれば、王族の一員になれる。
それを狙って、ずっとアプローチを続けていたけど、最近は静かだった。
諦めて、別の手段を考えたのだ。
「婚約は破棄しましょう。代わりに、彼女が婚約してくれます」
「そういう約束ですから」
「お姉様……」
「悔しい? 自分が築いてきたものを奪われる気分はどうかしら? もうあなたは女王じゃない。その姿は呪いよ。解く方法なんてないわ!」
「……」
「これから一生、あなたは女王には戻れない。アリエルにも戻れない。可哀想に……」
そうか。
戻れないのか、私は。
元の姿にも、女王の地位にも……。
ならこれで……。
「じゃあもういいわ」
「……は?」
「女王になりたいのでしょう? だったら勝手にすればいい。私はもうアリエルじゃないし、関係ないから好きにするわよ」
「……何を、言っているの?」
開き直った私に、お姉様は戸惑っていた。
魔女は驚き、ランド公爵も目を疑っている。
彼女たちは知らない。
私の本心を。
「私が望んで女王になったと思う? そんなわけないじゃない」
「あなた……」
「むしろ感謝しているわ。辞め時もなかったから、これなら諦めて辞められる」
いささか強引なやり方だけど、これで晴れて自由の身だ。
こんなに嬉しいことはない。
期待してくれたお父様や、国民には申し訳ないと思うけど……。
それも全部、お姉様たちが引き継いでくれるらしいし。
「頭がおかしくなったのかしら?」
「私はいつも通りですよ。これが私、本来の私……そういうわけなので、王城を出る準備をします。一度部屋に戻ってもいいですか?」
「……いいわけないでしょう?」
「え?」
「あなたは真実を知っている。だから――」
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