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二年前。
父は病でこの世を去った。
遺言には、次の王は私に、と書かれていた。
周囲の貴族たちも私を推薦し、私はユーラスティア王国の女王となった。
多くの人が祝福してくれる中で、お姉様は特に怒りを露にしていた。
元から仲が良くなかったけど、女王になったことが決定的となり、彼女は私の邪魔をしようと画策している。
大抵は無意味で、私は気にしないようにしているけど……。
「国民からは重圧、貴族からも期待、その上、身内からは恨まれるとか……私に味方はいないの?」
女王としての私には多くの支持者がいる。
けれど、本当の私を知る者はいない。
もしも私がこんなだらしない人間だと知ったら、人々は幻滅するだろう。
お父様から国を任された身だ。
失敗はできないし、期待には応えなければならない。
表の仮面は分厚く、毎日一人になってようやく落ち着くことができる。
「……こんな生活、いつまで……」
続けなければならないのだろうか?
いいや、わかっている。
死ぬまでだ。
私が女王であるうちは、この日々に終わりはないだろう。
逃げ出せるなら逃げたい。
本当の私は、のどかな場所でゆったりと、好きな人たちと一緒に……幸せに暮らしたいだけなのに。
「本当に意地悪ね。女神様は」
使命さえなければ、そんな未来もあったかもしれない。
今ではもう、夢物語だ。
◇◇◇
夜の王城に明かりが灯る。
そこは普段使われていない部屋だった。
「準備はできているのね?」
「はい。もちろんでごさいます。姫様」
「失敗は許されないわよ」
シエリスの前に立っているのは、フードを被った女性だった。
彼女は王城で働く者ではない。
そもそも、ただの人間ではなかった。
「失敗すればどうなるか……わかっているのでしょうね?」
「はい。失敗などありえません」
「そう」
「姫様のほうこそ、私との約束を違えないでください」
「わかっているわ。私が女王になったら、あなたを側近として迎え入れる。必要な物は全て与える……そうでしょう?」
「はい。代わりに私は、あなたが女王として君臨できるお手伝いをします」
二人は友人でもない。
ただの協力者、否……共犯者である。
そして共犯者はもう一人いる。
遅れて部屋に入ってきたのは、位の高い貴族の男性だった。
「本当に大丈夫なのか?」
「もちろんです。ランド様」
女王の婚約者もまた、悪事を企てる一人だった。
彼らの目的はただ一つ、女王を引きずり下ろし、自分たちがトップに立つこと。
それぞれの思惑はあれど、手段は一致していた。
「失敗はない。今夜、決行するわ」
「わかった。僕も準備はしておこう」
「ここから先は私の役目です。どうか期待してください」
「ええ、期待しているわ。毒の魔女セミラミス」
彼女は魔女と契約を結んだ。
その契約は絶対であり、違えることはできない。
父は病でこの世を去った。
遺言には、次の王は私に、と書かれていた。
周囲の貴族たちも私を推薦し、私はユーラスティア王国の女王となった。
多くの人が祝福してくれる中で、お姉様は特に怒りを露にしていた。
元から仲が良くなかったけど、女王になったことが決定的となり、彼女は私の邪魔をしようと画策している。
大抵は無意味で、私は気にしないようにしているけど……。
「国民からは重圧、貴族からも期待、その上、身内からは恨まれるとか……私に味方はいないの?」
女王としての私には多くの支持者がいる。
けれど、本当の私を知る者はいない。
もしも私がこんなだらしない人間だと知ったら、人々は幻滅するだろう。
お父様から国を任された身だ。
失敗はできないし、期待には応えなければならない。
表の仮面は分厚く、毎日一人になってようやく落ち着くことができる。
「……こんな生活、いつまで……」
続けなければならないのだろうか?
いいや、わかっている。
死ぬまでだ。
私が女王であるうちは、この日々に終わりはないだろう。
逃げ出せるなら逃げたい。
本当の私は、のどかな場所でゆったりと、好きな人たちと一緒に……幸せに暮らしたいだけなのに。
「本当に意地悪ね。女神様は」
使命さえなければ、そんな未来もあったかもしれない。
今ではもう、夢物語だ。
◇◇◇
夜の王城に明かりが灯る。
そこは普段使われていない部屋だった。
「準備はできているのね?」
「はい。もちろんでごさいます。姫様」
「失敗は許されないわよ」
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そもそも、ただの人間ではなかった。
「失敗すればどうなるか……わかっているのでしょうね?」
「はい。失敗などありえません」
「そう」
「姫様のほうこそ、私との約束を違えないでください」
「わかっているわ。私が女王になったら、あなたを側近として迎え入れる。必要な物は全て与える……そうでしょう?」
「はい。代わりに私は、あなたが女王として君臨できるお手伝いをします」
二人は友人でもない。
ただの協力者、否……共犯者である。
そして共犯者はもう一人いる。
遅れて部屋に入ってきたのは、位の高い貴族の男性だった。
「本当に大丈夫なのか?」
「もちろんです。ランド様」
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それぞれの思惑はあれど、手段は一致していた。
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「わかった。僕も準備はしておこう」
「ここから先は私の役目です。どうか期待してください」
「ええ、期待しているわ。毒の魔女セミラミス」
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その契約は絶対であり、違えることはできない。
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