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〖溺愛〗がインストールされました③
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とある貴族の屋敷が慌ただしい。
夜遅い時間にも関わらず明かりが灯り、使用人たちが忙しそうに働いている。
屋敷の当主である髭の男も、豪勢な椅子に座りため息をこぼす。
「はぁ……まだ見つからないのか?」
「はい。おそらくそう遠くヘは行かれていないと思いますが……」
「……心配だ。子供たちだけで、何かあったら……」
「お気持ちはお察しいたします。護衛はついておりますが、まだ未熟ですので」
貴族のテーブルの上には、仲睦まじく映る写真が飾られていた。
当主の男は写真盾を手に取り、ため息交じりに眺める。
「どこに行ったんだ……エリカ」
当主の名は、アルフォンス・ブランドー。
王都に居を構える貴族であり、代々優秀な魔法使いを輩出する名家である。
そして、ブランド―家の娘の名は――
◇◇◇
「エリカ、おはよう」
「おはようございます! レオルスさん!」
早朝、冒険者組合の前で待ち合わせ。
エリカを筆頭に、クロムとフィオレも顔を出す。
「クロム、フィオレもおはよう」
「おう!」
「お、おはようございます」
朝早いにもかかわらず、三人とも遅刻せずに待ち合わせ場所にやってきた。
俺の隣では、ライラが大あくびをしている。
「ふぁー……眠いのう」
「十分寝ただろ」
「寝すぎたみたいだなぁ~」
異なる世界の英雄譚を保管する大図書館。
人間の見た目をしながら、中身は人間ではない彼女にも睡眠は必要らしい。
つくづく不思議な身体だ。
食事もとるし、一体どういう構造になっているんだ?
どこまで人間と同じなのか興味はある。
「そんなに知りたいなら、今宵じっくり教えてやってもいいぞ」
「くっ、心を読まないでくれよ」
「そう熱烈な視線を浴びたら読まずともわかるぞ。お前さんは表情にも出やすいからな」
「そ、そうか……」
これからは注意しないと。
特にみんなの前では、こいつにからかわれて恥ずかしい思いをしたくない。
「安心しろ。恥ずかしいことは二人きりでするものだ」
「そういう意味じゃない」
「ふぁ~ まだ眠いのう」
「はぁ……しっかりしてくれよ。これからダンジョンに潜るんだから」
本日は記念すべき日だ。
ギルドを結成し、仲間となった彼女たちと共に、初めてダンジョン探索を始める。
目標とするダンジョンは、数日前に発見されたばかりの地下ダンジョンだ。
現在も多くのギルドがパーティーを派遣し、最深部を目指し攻略を進めているという。
少し出遅れたが、俺たちもそこへ参列する。
「みんなも、準備はいいかい?」
「はい! 初めてで上手くできるかわからないですけど、全身全霊で頑張ります!」
「う、うん。意気込みはありがとう」
道の真ん中で、女の子が男に顔を赤らめながら言うセリフとしてはアウトだな。
周りの視線とひそひそ声が耳に痛い。
「エリカは天然だな」
「え?」
「と、とにかく行こう。今日の目標は、ダンジョンを体験することだ」
三人は冒険者になって日が浅い。
どこのギルドにも所属していなかったから、ダンジョンに潜ったこともないはずだ。
いきなり攻略なんて目指さず、まずは慣れるところから始めてもらおう。
道中にダンジョンについての一般知識を共有した。
そうして街を出発して三時間半。
俺たちは目的地であるダンジョンの入り口、洞穴にやってきた。
「ここがダンジョンの入り口? ただの洞穴じゃなくて?」
「そう見えるけど立派なダンジョンだよ。わかりやすい地下タイプだね。事前情報でも構造はわりとリンプルみたいだよ」
要するに、初心者が体験するにはピッタリなダンジョンだ。
偶然でも新しく発見されてよかった。
「ダンジョンって不思議ですね。常にどんどん新しいダンジョンが発見されて、聞いた話だと、一度見に来た時はこんなのなかったっていう場合もあるみたいですし」
「どっかの誰かが急いで作ってるのかもな!」
「そ、そうだとしたら神様です、その人」
三人はダンジョンの正体を知らない。
かくいう俺も、ライラと出会って初めて知ったから、威張れるほど知識があるわけじゃないけど。
新たにダンジョンが生まれるのは、こことは違う別の世界が関係している。
英雄譚の誕生、奇跡の体現、偉大な先人の遺物……様々な理由、条件が重なり、世界を繋ぐ道を通って、ダンジョンという形に生成される。
つまり、俺たちはこれから、異世界を冒険するんだ。
「ワクワクしますね!」
「――そうだね」
初めてのダンジョンを前にしてそう思えるなら、エリカたちはきっと冒険者に向いている。
好奇心と期待。
それこそが、冒険者にとって必要な感情だ。
そうして俺たちは、いよいよダンジョン内へと足を踏み入れる。
洞穴を進んでいくと、意図的にくりぬかれたような岩盤の道が続いていた。
自然にできたように見えて、人の手が加わっている。
「これがダンジョン……」
「暗いなぁ」
「わ、私、暗視ポーションを持ってきたの、よ、よかったら」
「本当? 助かるよ」
地下ダンジョンの難点は、明かりがないと何も見えないことだ。
ダンジョンによっては明かりが用意されていたり、人工物の色あいで何となく見えるところもある。
今回は完全に洞窟状になっていて、明かりはなかった。
足元もゴツゴツしている。
フィオレは一本ずつポーションを手渡す。
「これ、フィオレが作ってくれたの?」
「は、はい……こ、効果は自分で飲んで試したので、だ、大丈夫です……たぶん」
「ありがとう」
俺はごくりとポーションを飲む。
すると、視界が一気に明るくなり、よく見えるようになった。
「うん、ちゃんと見えるよ」
「そ、そうですか」
「ありがとう。こういうサポートは心強いよ」
「ど、どういたしまして……もっとお役に立てるよう頑張ります。わ、私は戦えないので……」
「気にするな! 戦いなら、レオルスがいる!」
なんでライラが自信満々に……まぁいいか。
さっそく何かが近づく気配を感じる。
ポーションのおかげで視界は良好、ベストな状態で戦える。
「レオルスさん!」
「奥からなんか来るぜ?」
「ああ、わかっているよ」
視界に捉える。
現れたのはブラックウルフという四足獣のモンスターだ。
三匹以上の群れで行動し、獰猛で狡猾に人間を襲う。
数は五匹、それほど多くないし、ブラックウルフ自体そこまで強力なモンスターじゃない。
ただ……。
「……」
エリカの躊躇いを感じとる。
いきなり実戦はハードルが高いだろう。
「俺に任せて」
俺は剣を抜き、前に出る。
英雄のスキル〖剣帝〗はすでに発動済みだ。
今の俺は五分間、剣帝と呼ばれた英雄の力を全て発揮できる。
五匹のブラックウルフの中に飛び込み、一瞬にして斬り裂いた。
「凄い……」
「カッコいい!」
「速すぎて……見えませんでした」
「うむ。さすがだな。ただなぁ、お前さんよ!」
「ん?」
ライラが叫ぶ。
もう勝負はついたし、危険はないはずだけど。
なんだか険しい顔をしている?
「格好つけるのはよいがな? お前さん一人が出しゃばっては、エリカたちが成長できんぞ?」
「――! おっしゃる通りです」
「うむ! 倒すだけなら簡単だ。英雄を目指すなら、仲間の成長も手助けしなくてはな!」
ライラは自信たっぷりな表情で、腰に手を当てそう言った。
悔しいがごもっともだ。
俺一人で頑張っているだけなら、パーティーで参加する意味はない。
このギルドを一番にするためには、彼女たちにも頑張ってもらわないといけないんだ。
「次は一緒に戦おう。俺もできる限りサポートするから」
「は、はい!」
「おう! 任せてくれよな!」
「私は、その、できるだけ邪魔にならないようにしています」
「フィオレは戦闘中に周囲の警戒と、戦闘以外でのサポートを頼むよ」
「は、はい!」
夜遅い時間にも関わらず明かりが灯り、使用人たちが忙しそうに働いている。
屋敷の当主である髭の男も、豪勢な椅子に座りため息をこぼす。
「はぁ……まだ見つからないのか?」
「はい。おそらくそう遠くヘは行かれていないと思いますが……」
「……心配だ。子供たちだけで、何かあったら……」
「お気持ちはお察しいたします。護衛はついておりますが、まだ未熟ですので」
貴族のテーブルの上には、仲睦まじく映る写真が飾られていた。
当主の男は写真盾を手に取り、ため息交じりに眺める。
「どこに行ったんだ……エリカ」
当主の名は、アルフォンス・ブランドー。
王都に居を構える貴族であり、代々優秀な魔法使いを輩出する名家である。
そして、ブランド―家の娘の名は――
◇◇◇
「エリカ、おはよう」
「おはようございます! レオルスさん!」
早朝、冒険者組合の前で待ち合わせ。
エリカを筆頭に、クロムとフィオレも顔を出す。
「クロム、フィオレもおはよう」
「おう!」
「お、おはようございます」
朝早いにもかかわらず、三人とも遅刻せずに待ち合わせ場所にやってきた。
俺の隣では、ライラが大あくびをしている。
「ふぁー……眠いのう」
「十分寝ただろ」
「寝すぎたみたいだなぁ~」
異なる世界の英雄譚を保管する大図書館。
人間の見た目をしながら、中身は人間ではない彼女にも睡眠は必要らしい。
つくづく不思議な身体だ。
食事もとるし、一体どういう構造になっているんだ?
どこまで人間と同じなのか興味はある。
「そんなに知りたいなら、今宵じっくり教えてやってもいいぞ」
「くっ、心を読まないでくれよ」
「そう熱烈な視線を浴びたら読まずともわかるぞ。お前さんは表情にも出やすいからな」
「そ、そうか……」
これからは注意しないと。
特にみんなの前では、こいつにからかわれて恥ずかしい思いをしたくない。
「安心しろ。恥ずかしいことは二人きりでするものだ」
「そういう意味じゃない」
「ふぁ~ まだ眠いのう」
「はぁ……しっかりしてくれよ。これからダンジョンに潜るんだから」
本日は記念すべき日だ。
ギルドを結成し、仲間となった彼女たちと共に、初めてダンジョン探索を始める。
目標とするダンジョンは、数日前に発見されたばかりの地下ダンジョンだ。
現在も多くのギルドがパーティーを派遣し、最深部を目指し攻略を進めているという。
少し出遅れたが、俺たちもそこへ参列する。
「みんなも、準備はいいかい?」
「はい! 初めてで上手くできるかわからないですけど、全身全霊で頑張ります!」
「う、うん。意気込みはありがとう」
道の真ん中で、女の子が男に顔を赤らめながら言うセリフとしてはアウトだな。
周りの視線とひそひそ声が耳に痛い。
「エリカは天然だな」
「え?」
「と、とにかく行こう。今日の目標は、ダンジョンを体験することだ」
三人は冒険者になって日が浅い。
どこのギルドにも所属していなかったから、ダンジョンに潜ったこともないはずだ。
いきなり攻略なんて目指さず、まずは慣れるところから始めてもらおう。
道中にダンジョンについての一般知識を共有した。
そうして街を出発して三時間半。
俺たちは目的地であるダンジョンの入り口、洞穴にやってきた。
「ここがダンジョンの入り口? ただの洞穴じゃなくて?」
「そう見えるけど立派なダンジョンだよ。わかりやすい地下タイプだね。事前情報でも構造はわりとリンプルみたいだよ」
要するに、初心者が体験するにはピッタリなダンジョンだ。
偶然でも新しく発見されてよかった。
「ダンジョンって不思議ですね。常にどんどん新しいダンジョンが発見されて、聞いた話だと、一度見に来た時はこんなのなかったっていう場合もあるみたいですし」
「どっかの誰かが急いで作ってるのかもな!」
「そ、そうだとしたら神様です、その人」
三人はダンジョンの正体を知らない。
かくいう俺も、ライラと出会って初めて知ったから、威張れるほど知識があるわけじゃないけど。
新たにダンジョンが生まれるのは、こことは違う別の世界が関係している。
英雄譚の誕生、奇跡の体現、偉大な先人の遺物……様々な理由、条件が重なり、世界を繋ぐ道を通って、ダンジョンという形に生成される。
つまり、俺たちはこれから、異世界を冒険するんだ。
「ワクワクしますね!」
「――そうだね」
初めてのダンジョンを前にしてそう思えるなら、エリカたちはきっと冒険者に向いている。
好奇心と期待。
それこそが、冒険者にとって必要な感情だ。
そうして俺たちは、いよいよダンジョン内へと足を踏み入れる。
洞穴を進んでいくと、意図的にくりぬかれたような岩盤の道が続いていた。
自然にできたように見えて、人の手が加わっている。
「これがダンジョン……」
「暗いなぁ」
「わ、私、暗視ポーションを持ってきたの、よ、よかったら」
「本当? 助かるよ」
地下ダンジョンの難点は、明かりがないと何も見えないことだ。
ダンジョンによっては明かりが用意されていたり、人工物の色あいで何となく見えるところもある。
今回は完全に洞窟状になっていて、明かりはなかった。
足元もゴツゴツしている。
フィオレは一本ずつポーションを手渡す。
「これ、フィオレが作ってくれたの?」
「は、はい……こ、効果は自分で飲んで試したので、だ、大丈夫です……たぶん」
「ありがとう」
俺はごくりとポーションを飲む。
すると、視界が一気に明るくなり、よく見えるようになった。
「うん、ちゃんと見えるよ」
「そ、そうですか」
「ありがとう。こういうサポートは心強いよ」
「ど、どういたしまして……もっとお役に立てるよう頑張ります。わ、私は戦えないので……」
「気にするな! 戦いなら、レオルスがいる!」
なんでライラが自信満々に……まぁいいか。
さっそく何かが近づく気配を感じる。
ポーションのおかげで視界は良好、ベストな状態で戦える。
「レオルスさん!」
「奥からなんか来るぜ?」
「ああ、わかっているよ」
視界に捉える。
現れたのはブラックウルフという四足獣のモンスターだ。
三匹以上の群れで行動し、獰猛で狡猾に人間を襲う。
数は五匹、それほど多くないし、ブラックウルフ自体そこまで強力なモンスターじゃない。
ただ……。
「……」
エリカの躊躇いを感じとる。
いきなり実戦はハードルが高いだろう。
「俺に任せて」
俺は剣を抜き、前に出る。
英雄のスキル〖剣帝〗はすでに発動済みだ。
今の俺は五分間、剣帝と呼ばれた英雄の力を全て発揮できる。
五匹のブラックウルフの中に飛び込み、一瞬にして斬り裂いた。
「凄い……」
「カッコいい!」
「速すぎて……見えませんでした」
「うむ。さすがだな。ただなぁ、お前さんよ!」
「ん?」
ライラが叫ぶ。
もう勝負はついたし、危険はないはずだけど。
なんだか険しい顔をしている?
「格好つけるのはよいがな? お前さん一人が出しゃばっては、エリカたちが成長できんぞ?」
「――! おっしゃる通りです」
「うむ! 倒すだけなら簡単だ。英雄を目指すなら、仲間の成長も手助けしなくてはな!」
ライラは自信たっぷりな表情で、腰に手を当てそう言った。
悔しいがごもっともだ。
俺一人で頑張っているだけなら、パーティーで参加する意味はない。
このギルドを一番にするためには、彼女たちにも頑張ってもらわないといけないんだ。
「次は一緒に戦おう。俺もできる限りサポートするから」
「は、はい!」
「おう! 任せてくれよな!」
「私は、その、できるだけ邪魔にならないようにしています」
「フィオレは戦闘中に周囲の警戒と、戦闘以外でのサポートを頼むよ」
「は、はい!」
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