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〖無能〗がインストールされました①
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世界は不平等だ。
生まれた環境、最初に持っていた才能によって人生は大きく左右される。
貴族に生まれたらお金に困ることはない。
若くして才能あふれる者には、様々な選択肢が与えられる。
努力すれば前には進むだろう。
けれど、その努力が報われるかどうかは、結果を待たなければわからない。
どれだけ血のにじむ努力をしても、叶えられない夢はある。
目の前で、大した努力もしてない奴が、さらっと代わりに夢を叶えてしまうことだってあるんだ。
理不尽だけど、当たり前のことだ。
初めから大人だった人と、生まれたままの赤子のような人。
赤子がどれだけ努力しようとも、大人には勝てないように。
世界は持つ者に優しく、持たざる者には厳しい。
まさに平等だ。
そして俺は、持たざる者として生まれてしまった。
◇◇◇
「レオルス、お前との契約更新はない」
「――! それって……つまりはクビってことですか? ボス」
「そういう言い方もできるな」
俺が所属するギルドのボスは、淡々と話しながら煙草に火をつける。
悲しみとか、申し訳なさとか一切感じない。
むしろイライラしているように見える。
「試用契約期間は一年だ。一年もあれば大抵どんな奴でも、一人前の冒険者になれる。レオルス、お前は何か月目だ?」
「……十一か月です」
「そうだな」
ふぅ、とボスは煙を吐く。
吐き出した煙が俺の顔にかかるのもお構いなしだ。
「残り一か月しかない。なのにお前は、冒険者として誇れるものが何かあるか?」
「それは……」
「ないだろう? 誰にだって向き不向きはある。苦手分野では使えなくても、得意分野で光る連中は大勢いる。冒険者っていうのはある種、一芸に特化した奴らだ。対してお前は何もない。この数か月でよーくわかった。お前は冒険者に向いていない」
「っ……」
言い返せない。
なぜなら自分自身が一番知っているからだ。
ボスの言う通り、俺は冒険者に向いていない
冒険者には必須の、戦うための才能が、僕には欠けていた。
剣術、弓術、槍術、魔法……いろいろ試して、毎日のように特訓した。
けれど俺は、一つも使いこなすことができなかった。
入ったばかりの新人に剣術の訓練で敗北した時、俺は思ったよ。
ああ、結局才能が全てなのか……と。
俺には才能がない。
どれだけ努力しても、磨くための原石がなければ意味はない。
そんな俺に唯一与えられたのは……。
「もっとまともな固有スキルを持って生まれたらな」
「……」
「固有スキル持ちは本来貴重だ。固有スキルっていうのは一点物。他の誰にも真似できない特技みたいものだ。それを持って生まれたのは幸運だろ。ただ、ゴミスキルだったな。『インストール』だったか? 本の内容を読み取るだけのスキルに何の意味がある?」
俺が持つ固有スキル『インストール』。
その能力は、本などの情報媒体に触れることで、その内容を読み取り記憶すること。
本の内容を暗記する。
端的に言えば、『インストール』はただそれだけのスキルだ。
使いどころは限られる。
知識を覚えるには便利だけど、戦闘中には使えないし、俺自身が弱くて活用できない。
何より、知識を記憶するだけなら、スキルがない人でもできる。
むしろ誰もが当たり前のように日々やっていることの延長でしかない。
「誰もが普通にできることを、わざわざスキルでやる必要はない。お前の代わりはいくらでもいる。むしろ一つギルドメンバーの枠を埋めているほうが損害だ。わかるな?」
「……はい」
冒険者組合の規定で、ギルドに所属できる冒険者の数は百人までと定められている。
俺が所属するギルド【ワイルドハント】の所属冒険者数はちょうど百人。
つまり今以上に新しいメンバーを増やすことができない。
ボスは二本目の煙草に火をつける。
「ふぅ……うちもでかくなった。つい昨日発表されたギルドランキングでも十一位と好調だ。あと一歩でトップテン入り。お前の存在は足枷になる」
「……」
もういい。
これ以上は何も言わないでほしい。
自分の不甲斐なさは自覚している。
だからこそ、直接言われ続けるのは……心が痛い。
「レオルス、お前はあと一か月だ。最後までしっかり働け」
「はい」
「もしもこの残りの機関でそれなりの成果を出せたなら……契約更新も視野に入れてやろう。そんな奇跡が……起こればだがな」
「……はい。頑張ります」
ボスは煙草の火を灰皿でもみ消す。
「期待しているぞ」
最後に嘘っぱちな言葉を聞き、俺はボスの部屋を後にした。
期待している?
そんなこと、ボスは微塵も思っていない。
本当なら今すぐにでもクビにして、新しいメンバーを募集したいと思っているはずだ。
冒険者組合の存在によって、冒険者たちは守られている。
契約期間などなければ、俺たちは使い捨ての駒以下の存在だ。
駒にすらなれない俺は……一体なんなのだろう?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【作者からのお願い】
ここまで読んで頂きありがとうございます!
まことに勝手ながら、アルファポリス版は終了とさせていただきます。
続きは『小説家になろう』にて掲載中です。
気になる方はぜひとも読んで頂ければ幸いです!
PC版の方はページ下部にリンクがございます。
スマートフォンの方はお手数ですが、あらすじ欄のURLをコピーしてご利用ください。
今後ともよろしくお願いいたします。
生まれた環境、最初に持っていた才能によって人生は大きく左右される。
貴族に生まれたらお金に困ることはない。
若くして才能あふれる者には、様々な選択肢が与えられる。
努力すれば前には進むだろう。
けれど、その努力が報われるかどうかは、結果を待たなければわからない。
どれだけ血のにじむ努力をしても、叶えられない夢はある。
目の前で、大した努力もしてない奴が、さらっと代わりに夢を叶えてしまうことだってあるんだ。
理不尽だけど、当たり前のことだ。
初めから大人だった人と、生まれたままの赤子のような人。
赤子がどれだけ努力しようとも、大人には勝てないように。
世界は持つ者に優しく、持たざる者には厳しい。
まさに平等だ。
そして俺は、持たざる者として生まれてしまった。
◇◇◇
「レオルス、お前との契約更新はない」
「――! それって……つまりはクビってことですか? ボス」
「そういう言い方もできるな」
俺が所属するギルドのボスは、淡々と話しながら煙草に火をつける。
悲しみとか、申し訳なさとか一切感じない。
むしろイライラしているように見える。
「試用契約期間は一年だ。一年もあれば大抵どんな奴でも、一人前の冒険者になれる。レオルス、お前は何か月目だ?」
「……十一か月です」
「そうだな」
ふぅ、とボスは煙を吐く。
吐き出した煙が俺の顔にかかるのもお構いなしだ。
「残り一か月しかない。なのにお前は、冒険者として誇れるものが何かあるか?」
「それは……」
「ないだろう? 誰にだって向き不向きはある。苦手分野では使えなくても、得意分野で光る連中は大勢いる。冒険者っていうのはある種、一芸に特化した奴らだ。対してお前は何もない。この数か月でよーくわかった。お前は冒険者に向いていない」
「っ……」
言い返せない。
なぜなら自分自身が一番知っているからだ。
ボスの言う通り、俺は冒険者に向いていない
冒険者には必須の、戦うための才能が、僕には欠けていた。
剣術、弓術、槍術、魔法……いろいろ試して、毎日のように特訓した。
けれど俺は、一つも使いこなすことができなかった。
入ったばかりの新人に剣術の訓練で敗北した時、俺は思ったよ。
ああ、結局才能が全てなのか……と。
俺には才能がない。
どれだけ努力しても、磨くための原石がなければ意味はない。
そんな俺に唯一与えられたのは……。
「もっとまともな固有スキルを持って生まれたらな」
「……」
「固有スキル持ちは本来貴重だ。固有スキルっていうのは一点物。他の誰にも真似できない特技みたいものだ。それを持って生まれたのは幸運だろ。ただ、ゴミスキルだったな。『インストール』だったか? 本の内容を読み取るだけのスキルに何の意味がある?」
俺が持つ固有スキル『インストール』。
その能力は、本などの情報媒体に触れることで、その内容を読み取り記憶すること。
本の内容を暗記する。
端的に言えば、『インストール』はただそれだけのスキルだ。
使いどころは限られる。
知識を覚えるには便利だけど、戦闘中には使えないし、俺自身が弱くて活用できない。
何より、知識を記憶するだけなら、スキルがない人でもできる。
むしろ誰もが当たり前のように日々やっていることの延長でしかない。
「誰もが普通にできることを、わざわざスキルでやる必要はない。お前の代わりはいくらでもいる。むしろ一つギルドメンバーの枠を埋めているほうが損害だ。わかるな?」
「……はい」
冒険者組合の規定で、ギルドに所属できる冒険者の数は百人までと定められている。
俺が所属するギルド【ワイルドハント】の所属冒険者数はちょうど百人。
つまり今以上に新しいメンバーを増やすことができない。
ボスは二本目の煙草に火をつける。
「ふぅ……うちもでかくなった。つい昨日発表されたギルドランキングでも十一位と好調だ。あと一歩でトップテン入り。お前の存在は足枷になる」
「……」
もういい。
これ以上は何も言わないでほしい。
自分の不甲斐なさは自覚している。
だからこそ、直接言われ続けるのは……心が痛い。
「レオルス、お前はあと一か月だ。最後までしっかり働け」
「はい」
「もしもこの残りの機関でそれなりの成果を出せたなら……契約更新も視野に入れてやろう。そんな奇跡が……起こればだがな」
「……はい。頑張ります」
ボスは煙草の火を灰皿でもみ消す。
「期待しているぞ」
最後に嘘っぱちな言葉を聞き、俺はボスの部屋を後にした。
期待している?
そんなこと、ボスは微塵も思っていない。
本当なら今すぐにでもクビにして、新しいメンバーを募集したいと思っているはずだ。
冒険者組合の存在によって、冒険者たちは守られている。
契約期間などなければ、俺たちは使い捨ての駒以下の存在だ。
駒にすらなれない俺は……一体なんなのだろう?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【作者からのお願い】
ここまで読んで頂きありがとうございます!
まことに勝手ながら、アルファポリス版は終了とさせていただきます。
続きは『小説家になろう』にて掲載中です。
気になる方はぜひとも読んで頂ければ幸いです!
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