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憤怒 / シアンの章
④
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俺たちは次なる目的地を目指して移動を始めていた。
ロール姫の調子もいつも通りになり、鬱陶しいと思うくらいには、彼女も元気になった。
「鬱陶しいなんてひどいなぁ」
「……心を読むな」
「わかりやすよ? 案外君って顔に出るから」
「初めて言われたな」
弟子たちの前では気を付けているが、彼女は本当の俺を知っている。
自然と気が抜けてしまうのは悪いことだろうか。
「で、次の目的地はそろそろだろう?」
「そうだね。というより、目的の地域にはもう入っているよ」
俺たちは今、街から街へ移動するため整備された街道を歩いている。
この周辺で、呪具の使い手が確認された。
正確にはこの辺りのどこかを根城にして、毎晩暴れ回っているそうだ。
「はた迷惑だな。それも呪具の影響なのか?」
「おそらくね」
「【憤怒】だったか? 能力は?」
「恐ろしい力を発揮する……くらいしかわかっていないよ。作戦を担当した騎士たちは、全員帰らぬ人になっているからね」
すでに五度、回収ならぬ討伐作戦が実行された。
その凶暴性から魔物だと思って対処すべき相手と仮定し、相応の装備と作戦を持って挑んだそうだが、全員無慚な姿で発見されているそうだ。
要するに今回も、能力の詳細はわかっていない。
加えて使い手の情報も不足しており、この周辺で活動しているということ以外、いつどこに現れるかも不明だった。
「次の街に情報があるといいですね、先生」
「そうだね」
「歩き疲れたよぉ~」
「街に付いたら宿を探そうか」
街から街へ、ほとんど休みなく移動していた。
口に出したのはスピカだが、皆も疲れているはずだ。
特に最近、シアンの元気がない。
本人は普段通りに振舞っているつもりだが、時折どこか遠くを見つめている。
街に付いたら話を聞こう。
そう思って歩き、街にたどり着いたが……。
「なんだか騒がしいですね」
「この匂い……」
街の出入り口に人が集まっていた。
俺でもわかる。
鼻が曲がりそうな異臭。
これは見るまでもなく……人が死んでいる。
「また出たのか」
「恐ろしい。一体何の目的でこんなことを……」
「すみません、何があったのか教えて頂けませんか?」
俺は人混みで話している老人に話を伺った。
どうやら最近、街に殺人鬼が現れるそうだ。
殺人鬼の姿を見た者はいない。
見た者は全員、無残な死を遂げている。
「お前たちは見なくていい」
俺は一人、死体を確認しに向かう。
聞いた通り無慚だ。
顔面を砕かれ、手足も折られている。
殺すだけならここまで痛めつける必要はない。
この遺体からは……。
「明確な怒りを感じるね」
「……平気なのか? お前は」
「これでも長旅だったんだ。死体は何度か見たよ」
「そうか」
ロール姫の言う通り、この死体には怒りの痕がある。
悪意というより、敵意だろうか。
目的があって殺しているというより、殺しそのものが目的のような……。
「呪具の使い手か」
「……」
「どうした?」
「いや、伝えるべきかと思ってね」
「何か知ってるのか?」
「……まだ不確定だけど、【憤怒】の呪具の使い手は――」
◇◇◇
「エルフ!?」
一番に反応したのはシアンだった。
当然だろう。
彼女も同じ、エルフなのだから。
俺たちは宿を取り、同じ部屋に集まりロール姫から情報を聞いた。
「黙っていたことは謝るよ。不確定な情報だし、変に意識させないほうがいいと思ったんだ」
「……」
シアンの心を気遣ってくれていたのか。
それなら責められない。
もっとも、事実ならばいずれ彼女は対峙することになっただろう。
同胞に。
「といっても、この情報だけじゃ何もわからないけどね」
「次に奴が現れる場所がこの街ならいい。そうじゃないなら、待つしかないか」
「そうだね。我慢比べになりそうだ」
「……一つ、心当たりがあるわ」
長期戦の構えで行く話をしていた俺とロール姫に、シアンは提案をする。
その提案を聞いて、俺たちは知る。
この地の近くに、彼女の故郷があるということを。
ロール姫の調子もいつも通りになり、鬱陶しいと思うくらいには、彼女も元気になった。
「鬱陶しいなんてひどいなぁ」
「……心を読むな」
「わかりやすよ? 案外君って顔に出るから」
「初めて言われたな」
弟子たちの前では気を付けているが、彼女は本当の俺を知っている。
自然と気が抜けてしまうのは悪いことだろうか。
「で、次の目的地はそろそろだろう?」
「そうだね。というより、目的の地域にはもう入っているよ」
俺たちは今、街から街へ移動するため整備された街道を歩いている。
この周辺で、呪具の使い手が確認された。
正確にはこの辺りのどこかを根城にして、毎晩暴れ回っているそうだ。
「はた迷惑だな。それも呪具の影響なのか?」
「おそらくね」
「【憤怒】だったか? 能力は?」
「恐ろしい力を発揮する……くらいしかわかっていないよ。作戦を担当した騎士たちは、全員帰らぬ人になっているからね」
すでに五度、回収ならぬ討伐作戦が実行された。
その凶暴性から魔物だと思って対処すべき相手と仮定し、相応の装備と作戦を持って挑んだそうだが、全員無慚な姿で発見されているそうだ。
要するに今回も、能力の詳細はわかっていない。
加えて使い手の情報も不足しており、この周辺で活動しているということ以外、いつどこに現れるかも不明だった。
「次の街に情報があるといいですね、先生」
「そうだね」
「歩き疲れたよぉ~」
「街に付いたら宿を探そうか」
街から街へ、ほとんど休みなく移動していた。
口に出したのはスピカだが、皆も疲れているはずだ。
特に最近、シアンの元気がない。
本人は普段通りに振舞っているつもりだが、時折どこか遠くを見つめている。
街に付いたら話を聞こう。
そう思って歩き、街にたどり着いたが……。
「なんだか騒がしいですね」
「この匂い……」
街の出入り口に人が集まっていた。
俺でもわかる。
鼻が曲がりそうな異臭。
これは見るまでもなく……人が死んでいる。
「また出たのか」
「恐ろしい。一体何の目的でこんなことを……」
「すみません、何があったのか教えて頂けませんか?」
俺は人混みで話している老人に話を伺った。
どうやら最近、街に殺人鬼が現れるそうだ。
殺人鬼の姿を見た者はいない。
見た者は全員、無残な死を遂げている。
「お前たちは見なくていい」
俺は一人、死体を確認しに向かう。
聞いた通り無慚だ。
顔面を砕かれ、手足も折られている。
殺すだけならここまで痛めつける必要はない。
この遺体からは……。
「明確な怒りを感じるね」
「……平気なのか? お前は」
「これでも長旅だったんだ。死体は何度か見たよ」
「そうか」
ロール姫の言う通り、この死体には怒りの痕がある。
悪意というより、敵意だろうか。
目的があって殺しているというより、殺しそのものが目的のような……。
「呪具の使い手か」
「……」
「どうした?」
「いや、伝えるべきかと思ってね」
「何か知ってるのか?」
「……まだ不確定だけど、【憤怒】の呪具の使い手は――」
◇◇◇
「エルフ!?」
一番に反応したのはシアンだった。
当然だろう。
彼女も同じ、エルフなのだから。
俺たちは宿を取り、同じ部屋に集まりロール姫から情報を聞いた。
「黙っていたことは謝るよ。不確定な情報だし、変に意識させないほうがいいと思ったんだ」
「……」
シアンの心を気遣ってくれていたのか。
それなら責められない。
もっとも、事実ならばいずれ彼女は対峙することになっただろう。
同胞に。
「といっても、この情報だけじゃ何もわからないけどね」
「次に奴が現れる場所がこの街ならいい。そうじゃないなら、待つしかないか」
「そうだね。我慢比べになりそうだ」
「……一つ、心当たりがあるわ」
長期戦の構えで行く話をしていた俺とロール姫に、シアンは提案をする。
その提案を聞いて、俺たちは知る。
この地の近くに、彼女の故郷があるということを。
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