辺境の魔術師、悟りを開き大賢者となる←【理想】/【現実】→煩悩を捨てなきゃダメなのに、毎日弟子たちが無自覚に誘惑するからそろそろ限界です……

日之影ソラ

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色欲の章

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 俺が目覚めた時、朝食の美味しそうな香りが漂ってきた。
 いつもの時間に目を覚ます。
 同じ部屋で眠っていた彼女は、俺よりも早起きをして朝食の支度をしてくれていた。

「今日は一段と早いな。リーナ」
「おはようございます! 先生のおかげです!」
「俺は何もしていないよ。ただ、お前が眠るまで見守っていただけだ」

 本当に何もしていない。
 途中までは同じベッドで横になっていたが、彼女が寝息を立てるのを確認して、隣のベッドに移動した。
 誓って何もしていない。
 目の前にたわわに実った果実があっても、俺は賢者だから煩悩を抑え込んでいる。
 遅れてスピカとシアンが顔を出す。

「リーナ、もう準備始めてるの? 起こしてくれたらよかったのに。一人で任せて悪いわね」
「ううん、私がやりたかっただけだから」
「リーナが上機嫌だぁー。いいことあったね」
「うん! 先生が寝るまで一緒にいてくれから、すっごく身体が軽いの」

 リーナは花が咲くように笑う。
 心からの笑顔が眩しすぎて目に染みるようだ。

「ま、まぁ一日くらいなら許してあげるわよ。本当はダメなんだからね? 男女がい、一緒の部屋で寝るなんて!」
「いいな~ スピカもせんせーと一緒に寝たいー!」
「ダメに決まってるでしょ!」
「えぇ~ シアンだって羨ましいくせにぃ」
「べ、別に羨ましくなんかないわよ!」

 顔を赤くして否定するシアン。
 羨ましくて俺の腕に抱き着き、一緒に寝ようとおねだりするスピカを強引に引きはがす。
 リーナはニコニコしながら料理を作っていた。
 今日も朝から賑やかで、俺の煩悩を無自覚に刺激してくる。
 勘弁してくれ。
 案の定、昨日もあまり眠れていないんだから。
 それにこのまま騒いでいると、面倒な奴が加わるから。

「昨日はお楽しみでしたね」
「――言っておくけど、お前が想像しているようなことは一切ないからな?」
「そう? 残念だったね」
「何がだ? 師匠として弟子の悩みを聞いただけだ。それ以上の意味はないし、その役目はしっかり果たしたぞ」

 振り返ると意地悪な顔をするロール姫がいた。
 彼女の願い通り、昨夜はリーナのお願いを全て聞いてあげたんだ。
 これで十分だろう。

「リーナ、元気になったね」
「そうだな」
「これも師匠パワー? それとも……特別なおまじないでもしたかな?」
「何もしてないよ。期待外れで悪かったな」
「そうでもないよ?」

 ロール姫は三人から見えないように、俺の背中んに隠れる。
 何をするかと思ったら、ピトっと背中に身体を寄せ、俺にしか聞こえない声で囁く。

「先を越されちゃうのは嫌だからね? 一番はボクが貰うよ」
「――! なんの一番だ。何もやらないぞ」
「わかってる癖に。素直じゃないね」
「……」
「ふふっ、昨日は一人で寂しかったから、今晩からはちゃんとボクの相手をよろしく頼むよ」
「……はぁ」

 悔しいな。
 リーナと一晩一緒の部屋で過ごすより、ロール姫と一緒のほうが落ち着く。
 なんて少しでも思ってしまう自分に、悔しさを感じる。
 慣れというのは恐ろしいな。
 
「朝食ができましたよ!」
「ありがとう。食べたら次の目的地へ出発するぞ」

 今日も賑やかに騒ぎながら、俺たちは朝食を済ませる。
 宿屋を出発して、街の出口へと差しかかる。
 当分……いいや、もう二度とこの街へは訪れることもないだろうと予感した。
 だから念のため、最後の確認を彼女にする。

「心残りはあるは? リーナ」
「――ありません! 私がいたい居場所は、ここですから」
「そうか」

 聞くまでもなかったな。 
 少しホッとして、俺たちは歩き出す。
 次なる目的地へと。
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