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色欲の章
③
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俺が目覚めた時、朝食の美味しそうな香りが漂ってきた。
いつもの時間に目を覚ます。
同じ部屋で眠っていた彼女は、俺よりも早起きをして朝食の支度をしてくれていた。
「今日は一段と早いな。リーナ」
「おはようございます! 先生のおかげです!」
「俺は何もしていないよ。ただ、お前が眠るまで見守っていただけだ」
本当に何もしていない。
途中までは同じベッドで横になっていたが、彼女が寝息を立てるのを確認して、隣のベッドに移動した。
誓って何もしていない。
目の前にたわわに実った果実があっても、俺は賢者だから煩悩を抑え込んでいる。
遅れてスピカとシアンが顔を出す。
「リーナ、もう準備始めてるの? 起こしてくれたらよかったのに。一人で任せて悪いわね」
「ううん、私がやりたかっただけだから」
「リーナが上機嫌だぁー。いいことあったね」
「うん! 先生が寝るまで一緒にいてくれから、すっごく身体が軽いの」
リーナは花が咲くように笑う。
心からの笑顔が眩しすぎて目に染みるようだ。
「ま、まぁ一日くらいなら許してあげるわよ。本当はダメなんだからね? 男女がい、一緒の部屋で寝るなんて!」
「いいな~ スピカもせんせーと一緒に寝たいー!」
「ダメに決まってるでしょ!」
「えぇ~ シアンだって羨ましいくせにぃ」
「べ、別に羨ましくなんかないわよ!」
顔を赤くして否定するシアン。
羨ましくて俺の腕に抱き着き、一緒に寝ようとおねだりするスピカを強引に引きはがす。
リーナはニコニコしながら料理を作っていた。
今日も朝から賑やかで、俺の煩悩を無自覚に刺激してくる。
勘弁してくれ。
案の定、昨日もあまり眠れていないんだから。
それにこのまま騒いでいると、面倒な奴が加わるから。
「昨日はお楽しみでしたね」
「――言っておくけど、お前が想像しているようなことは一切ないからな?」
「そう? 残念だったね」
「何がだ? 師匠として弟子の悩みを聞いただけだ。それ以上の意味はないし、その役目はしっかり果たしたぞ」
振り返ると意地悪な顔をするロール姫がいた。
彼女の願い通り、昨夜はリーナのお願いを全て聞いてあげたんだ。
これで十分だろう。
「リーナ、元気になったね」
「そうだな」
「これも師匠パワー? それとも……特別なおまじないでもしたかな?」
「何もしてないよ。期待外れで悪かったな」
「そうでもないよ?」
ロール姫は三人から見えないように、俺の背中んに隠れる。
何をするかと思ったら、ピトっと背中に身体を寄せ、俺にしか聞こえない声で囁く。
「先を越されちゃうのは嫌だからね? 一番はボクが貰うよ」
「――! なんの一番だ。何もやらないぞ」
「わかってる癖に。素直じゃないね」
「……」
「ふふっ、昨日は一人で寂しかったから、今晩からはちゃんとボクの相手をよろしく頼むよ」
「……はぁ」
悔しいな。
リーナと一晩一緒の部屋で過ごすより、ロール姫と一緒のほうが落ち着く。
なんて少しでも思ってしまう自分に、悔しさを感じる。
慣れというのは恐ろしいな。
「朝食ができましたよ!」
「ありがとう。食べたら次の目的地へ出発するぞ」
今日も賑やかに騒ぎながら、俺たちは朝食を済ませる。
宿屋を出発して、街の出口へと差しかかる。
当分……いいや、もう二度とこの街へは訪れることもないだろうと予感した。
だから念のため、最後の確認を彼女にする。
「心残りはあるは? リーナ」
「――ありません! 私がいたい居場所は、ここですから」
「そうか」
聞くまでもなかったな。
少しホッとして、俺たちは歩き出す。
次なる目的地へと。
いつもの時間に目を覚ます。
同じ部屋で眠っていた彼女は、俺よりも早起きをして朝食の支度をしてくれていた。
「今日は一段と早いな。リーナ」
「おはようございます! 先生のおかげです!」
「俺は何もしていないよ。ただ、お前が眠るまで見守っていただけだ」
本当に何もしていない。
途中までは同じベッドで横になっていたが、彼女が寝息を立てるのを確認して、隣のベッドに移動した。
誓って何もしていない。
目の前にたわわに実った果実があっても、俺は賢者だから煩悩を抑え込んでいる。
遅れてスピカとシアンが顔を出す。
「リーナ、もう準備始めてるの? 起こしてくれたらよかったのに。一人で任せて悪いわね」
「ううん、私がやりたかっただけだから」
「リーナが上機嫌だぁー。いいことあったね」
「うん! 先生が寝るまで一緒にいてくれから、すっごく身体が軽いの」
リーナは花が咲くように笑う。
心からの笑顔が眩しすぎて目に染みるようだ。
「ま、まぁ一日くらいなら許してあげるわよ。本当はダメなんだからね? 男女がい、一緒の部屋で寝るなんて!」
「いいな~ スピカもせんせーと一緒に寝たいー!」
「ダメに決まってるでしょ!」
「えぇ~ シアンだって羨ましいくせにぃ」
「べ、別に羨ましくなんかないわよ!」
顔を赤くして否定するシアン。
羨ましくて俺の腕に抱き着き、一緒に寝ようとおねだりするスピカを強引に引きはがす。
リーナはニコニコしながら料理を作っていた。
今日も朝から賑やかで、俺の煩悩を無自覚に刺激してくる。
勘弁してくれ。
案の定、昨日もあまり眠れていないんだから。
それにこのまま騒いでいると、面倒な奴が加わるから。
「昨日はお楽しみでしたね」
「――言っておくけど、お前が想像しているようなことは一切ないからな?」
「そう? 残念だったね」
「何がだ? 師匠として弟子の悩みを聞いただけだ。それ以上の意味はないし、その役目はしっかり果たしたぞ」
振り返ると意地悪な顔をするロール姫がいた。
彼女の願い通り、昨夜はリーナのお願いを全て聞いてあげたんだ。
これで十分だろう。
「リーナ、元気になったね」
「そうだな」
「これも師匠パワー? それとも……特別なおまじないでもしたかな?」
「何もしてないよ。期待外れで悪かったな」
「そうでもないよ?」
ロール姫は三人から見えないように、俺の背中んに隠れる。
何をするかと思ったら、ピトっと背中に身体を寄せ、俺にしか聞こえない声で囁く。
「先を越されちゃうのは嫌だからね? 一番はボクが貰うよ」
「――! なんの一番だ。何もやらないぞ」
「わかってる癖に。素直じゃないね」
「……」
「ふふっ、昨日は一人で寂しかったから、今晩からはちゃんとボクの相手をよろしく頼むよ」
「……はぁ」
悔しいな。
リーナと一晩一緒の部屋で過ごすより、ロール姫と一緒のほうが落ち着く。
なんて少しでも思ってしまう自分に、悔しさを感じる。
慣れというのは恐ろしいな。
「朝食ができましたよ!」
「ありがとう。食べたら次の目的地へ出発するぞ」
今日も賑やかに騒ぎながら、俺たちは朝食を済ませる。
宿屋を出発して、街の出口へと差しかかる。
当分……いいや、もう二度とこの街へは訪れることもないだろうと予感した。
だから念のため、最後の確認を彼女にする。
「心残りはあるは? リーナ」
「――ありません! 私がいたい居場所は、ここですから」
「そうか」
聞くまでもなかったな。
少しホッとして、俺たちは歩き出す。
次なる目的地へと。
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