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リーナの章
②
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リッシェルの街は解放された。
俺が【怠惰】の首輪の所有者を戦闘不能にしたことで、街中に広がっていた呪具の影響は消失。
彼が体内に保持していた生命力、魔力は、本来の持ち主の元へと戻った。
すでに消費してしまった分は戻らないが、無気力状態になっていた街の人が立ち上がるには、十分すぎる量だったらしい。
ぞろぞろと動けるようになった人々が顔を出し、俺とロール姫の元へやってきた。
「本当にありがとうございます! 貴方様のおかげで、命を繋ぐことができました」
「お気になさらず。私はただ、彼が奪っていたものを正しき場所に戻しただけですので」
「どうかお礼をさせてください! なんでもおっしゃってください!」
「お気遣いありがとうございます。ですが必要ありません。それはきっと、皆様にこそ必要なものですので」
「おお……なんと謙虚なお方なんだ……」
別にここで貰わなくても、目的を達成したら王国から大金が支払われる。
だから必要ないだけなんだけど。
感謝してもらっているし、雰囲気を壊すから余計なことは言わないでおこう。
すると、隣に立っていたロール姫、今は皆がいるから王子として振る舞う彼女が提案する。
「せっかくの厚意を無下にするのも失礼でしょう。どうですか? ここは一つくらいお願いをするのも」
彼女はこそっと、俺の耳元で提案を伝える。
なるほど、と理解して頷き、俺は街の人々に笑顔を向ける。
「では、一晩で構いません、どこか宿を貸していただけませんか?」
「もちろんでございます! このような状況故、満足のいく対応はできませんが、どうぞお好きな宿を自由にお使いください」
「ありがとうございます」
俺は皆に頭を下げる。
ここのところ野宿ばかりで、長旅の疲れも溜まっている。
俺だけじゃなく、弟子たちのこともある。
ここで一度、しっかり休憩したほうがいいというのは、俺もロール姫も同じ意見だった。
その後、外に待機していた三人の弟子たちと合流し、顛末を伝えて一緒に街中へ戻り、宿を探して回る。
豪華そうな場所もあったが、あまり広すぎても落ち着かない。
長年山奥の道場で暮らしていた影響か、少しこじんまりした宿を見つけて、部屋を借りることにした。
「一人一部屋借りれても文句は言われなかったと思うよ?」
「がめつくのは賢者らしくない」
「らしさとか考えてるんだね」
「弟子たちの前ではな。というか、いつまでこの部屋にいるんだ?」
弟子たちは三人、隣の部屋にいる。
この部屋は男である俺が借りている部屋で、なぜかロール姫が滞在していた。
ベッドが二つ。
間に俺とロール姫は、お互いのベッドに座って向き合っている。
「いつまでって、もちろん朝までだよ?」
「は? いや、ここは男の部屋だぞ?」
「うん、だから、今のボクは王子だよ?」
「――! そうだったぁ……」
時々こいつが王子として振る舞っていることを忘れてしまう。
一度でも女性だと認識したら、彼女はもう王子には見えないし、俺と二人だけの時は自然体で接してくるから、余計に忘れがちだ。
男女で部屋を分ける。
その時点で彼女が俺のほうにいて、弟子たちが何の違和感も見せていなかったことに気付くべきだった。
「今からでも一部屋借りよう」
「ダメだよ。それは不自然すぎる。周りにはボクたちが男同士に見えているんだから」
「いや実際は違うだろ」
「そうだね。年の近い男女が二人きり……さすがの賢者様でも意識しちゃう?」
彼女は俺のベッドに腰かけ、隣で俺の腕に身体を寄せる。
意識的に、女性らしさを強調する。
いつの間にかベルトも外していたらしく、視線を下げると胸の間が見えてしまいそうだった。
「お、俺は賢者だからな。この程度じゃ何も感じない」
「そう? じゃあなんで視線を逸らすのかな?」
「女性をじっと見つめるのは失礼だからだ」
「ボクは見てほしいけどなぁ。君が望むなら、隅々まで」
「っ……」
耐えるんだ俺!
ここで手を出せば確実に弟子たちにもバレてしまう。
そうなったら終わりだ。
弟子たちの中で形成された頼れる立派な師匠像は崩れ去り、煩悩まみれの穢れた男が爆誕してしまうだろう。
「そういう色気は、好きな相手ができた時にとっておけ」
「我慢したわね。彼女たちのため? 相変わらず過保護だわ」
「……大切なことだ。俺とって……彼女たちは長い時間を共に過ごした家族みたいなものだからな」
いずれ彼女たちも独り立ちをする。
それぞれの人生を歩んでいく。
そう遠くない未来に、きっと別々の道を行く日が来るだろう。
せめてそれまでは、彼女たちにとっての支えになりたい。
俺が彼女たちに支えてもらった分を、俺なりの方法で返したいと思っている。
「家族……ね。羨ましいわ」
「姫様?」
「なんでもないわ。じゃあ私のことなんて意識しなくていいみたいだし、今夜は視線を気にせず眠れるわね」
「ちょっ、なんで脱いでるんだよ!」
「知らなかった? 服が重いと寝づらいのよ」
そんなこと知らないから!
急に服を脱ぎ始めて、一瞬で下着姿になった。
下着がちゃんと女性ものを着ているのか。
いや、途中で着替えなかったか?
「本当は裸が楽なんだけど、今はこれで我慢してあげる」
「そ、そうか? じゃあさっさと自分のベッドに、っておい!」
彼女は俺の腕を引っ張り、同じベッドで布団をかけた。
「ここが落ち着くのよ」
「……勘弁してくれ」
今夜もゆっくり眠ることはできなさそうだ。
俺が【怠惰】の首輪の所有者を戦闘不能にしたことで、街中に広がっていた呪具の影響は消失。
彼が体内に保持していた生命力、魔力は、本来の持ち主の元へと戻った。
すでに消費してしまった分は戻らないが、無気力状態になっていた街の人が立ち上がるには、十分すぎる量だったらしい。
ぞろぞろと動けるようになった人々が顔を出し、俺とロール姫の元へやってきた。
「本当にありがとうございます! 貴方様のおかげで、命を繋ぐことができました」
「お気になさらず。私はただ、彼が奪っていたものを正しき場所に戻しただけですので」
「どうかお礼をさせてください! なんでもおっしゃってください!」
「お気遣いありがとうございます。ですが必要ありません。それはきっと、皆様にこそ必要なものですので」
「おお……なんと謙虚なお方なんだ……」
別にここで貰わなくても、目的を達成したら王国から大金が支払われる。
だから必要ないだけなんだけど。
感謝してもらっているし、雰囲気を壊すから余計なことは言わないでおこう。
すると、隣に立っていたロール姫、今は皆がいるから王子として振る舞う彼女が提案する。
「せっかくの厚意を無下にするのも失礼でしょう。どうですか? ここは一つくらいお願いをするのも」
彼女はこそっと、俺の耳元で提案を伝える。
なるほど、と理解して頷き、俺は街の人々に笑顔を向ける。
「では、一晩で構いません、どこか宿を貸していただけませんか?」
「もちろんでございます! このような状況故、満足のいく対応はできませんが、どうぞお好きな宿を自由にお使いください」
「ありがとうございます」
俺は皆に頭を下げる。
ここのところ野宿ばかりで、長旅の疲れも溜まっている。
俺だけじゃなく、弟子たちのこともある。
ここで一度、しっかり休憩したほうがいいというのは、俺もロール姫も同じ意見だった。
その後、外に待機していた三人の弟子たちと合流し、顛末を伝えて一緒に街中へ戻り、宿を探して回る。
豪華そうな場所もあったが、あまり広すぎても落ち着かない。
長年山奥の道場で暮らしていた影響か、少しこじんまりした宿を見つけて、部屋を借りることにした。
「一人一部屋借りれても文句は言われなかったと思うよ?」
「がめつくのは賢者らしくない」
「らしさとか考えてるんだね」
「弟子たちの前ではな。というか、いつまでこの部屋にいるんだ?」
弟子たちは三人、隣の部屋にいる。
この部屋は男である俺が借りている部屋で、なぜかロール姫が滞在していた。
ベッドが二つ。
間に俺とロール姫は、お互いのベッドに座って向き合っている。
「いつまでって、もちろん朝までだよ?」
「は? いや、ここは男の部屋だぞ?」
「うん、だから、今のボクは王子だよ?」
「――! そうだったぁ……」
時々こいつが王子として振る舞っていることを忘れてしまう。
一度でも女性だと認識したら、彼女はもう王子には見えないし、俺と二人だけの時は自然体で接してくるから、余計に忘れがちだ。
男女で部屋を分ける。
その時点で彼女が俺のほうにいて、弟子たちが何の違和感も見せていなかったことに気付くべきだった。
「今からでも一部屋借りよう」
「ダメだよ。それは不自然すぎる。周りにはボクたちが男同士に見えているんだから」
「いや実際は違うだろ」
「そうだね。年の近い男女が二人きり……さすがの賢者様でも意識しちゃう?」
彼女は俺のベッドに腰かけ、隣で俺の腕に身体を寄せる。
意識的に、女性らしさを強調する。
いつの間にかベルトも外していたらしく、視線を下げると胸の間が見えてしまいそうだった。
「お、俺は賢者だからな。この程度じゃ何も感じない」
「そう? じゃあなんで視線を逸らすのかな?」
「女性をじっと見つめるのは失礼だからだ」
「ボクは見てほしいけどなぁ。君が望むなら、隅々まで」
「っ……」
耐えるんだ俺!
ここで手を出せば確実に弟子たちにもバレてしまう。
そうなったら終わりだ。
弟子たちの中で形成された頼れる立派な師匠像は崩れ去り、煩悩まみれの穢れた男が爆誕してしまうだろう。
「そういう色気は、好きな相手ができた時にとっておけ」
「我慢したわね。彼女たちのため? 相変わらず過保護だわ」
「……大切なことだ。俺とって……彼女たちは長い時間を共に過ごした家族みたいなものだからな」
いずれ彼女たちも独り立ちをする。
それぞれの人生を歩んでいく。
そう遠くない未来に、きっと別々の道を行く日が来るだろう。
せめてそれまでは、彼女たちにとっての支えになりたい。
俺が彼女たちに支えてもらった分を、俺なりの方法で返したいと思っている。
「家族……ね。羨ましいわ」
「姫様?」
「なんでもないわ。じゃあ私のことなんて意識しなくていいみたいだし、今夜は視線を気にせず眠れるわね」
「ちょっ、なんで脱いでるんだよ!」
「知らなかった? 服が重いと寝づらいのよ」
そんなこと知らないから!
急に服を脱ぎ始めて、一瞬で下着姿になった。
下着がちゃんと女性ものを着ているのか。
いや、途中で着替えなかったか?
「本当は裸が楽なんだけど、今はこれで我慢してあげる」
「そ、そうか? じゃあさっさと自分のベッドに、っておい!」
彼女は俺の腕を引っ張り、同じベッドで布団をかけた。
「ここが落ち着くのよ」
「……勘弁してくれ」
今夜もゆっくり眠ることはできなさそうだ。
応援ありがとうございます!
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