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怠惰の章
②
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出発して二日。
夜になり、俺たちはちょうどいい木陰を見つけて野宿をしていた。
寝袋を用意し、三人はすでに眠っている。
俺は周辺の警戒もかねて起きていた。
「眠らなくていいの?」
起きているのは俺一人ではなかった。
ロール王子もとい、ロール姫が俺の隣でちょこんと座る。
「睡眠も欲の一つだ。俺は一週間程度なら眠らず行動できる」
「凄いことだけど、無理をしているだけじゃないの?」
「心配はいらない。彼女たちの誰かが目を覚ましたら、俺も少し眠るつもりだ」
「過保護ね。師弟というより親子みたいだわ」
「……実際それに近い。彼女たちは孤児だからな」
見た目からもわかる通り、俺たちに血縁関係はない。
赤の他人だ。
それでも一緒にいるのは理由がある。
彼女たちは孤児だった。
それぞれの理由から孤独を背負い、一人で生きることを余儀なくされた子供たち。
俺は偶然、彼女たちと出会って弟子に迎え入れた。
俺の師匠が、俺を見つけて弟子にしてくれたように。
「あなたも孤児だったのね」
「ああ。物心つく前に捨てられて、師匠が拾ってくれた。俺にも、彼女たちにも魔術師としての才能がある。大賢者の後継に必要なのは血縁よりも素質だからな」
「思った以上にいびつな歴史を繋いでいるのね。こんな山奥に暮らしているから、もっと閉鎖的な考え方だと思っていたわ」
「逆だ。魔術以外に興味がない。だからこんな山奥で暮らしているし、優れた魔術師の卵は歓迎する。良くも悪くも、俺たちは魔術師の一族だ」
なんで彼女にこんな話をしているのだろうか。
別に聞かれたわけでもないのに。
自然と言葉になって表現されていたことに、後から気づいて少し驚く。
「というか、そんなしゃべり方だったか?」
「あなたには正体がバレちゃったからね。依頼も受けてくれたし、取り繕う必要がなくなったのよ」
「今が素ってことか」
「あなたこそ、雰囲気から違うわね? 弟子たちの前では気取ったしゃべり方をしている癖に」
「きどっ! まぁ否定はしない」
少し恥ずかしいが、意識しているのは事実だ。
「俺は師匠だからな。不甲斐ない姿は見せられないし、常に理想の存在であり続けたい。弟子たちの前では格好つけたいんだよ」
「ふふっ、そういうの嫌いじゃないわ。無欲な賢者様より、欲まみれな賢者様のほうが、人間味があって私は好きよ」
「それはどうも。俺も今のラフな感じのほうが話しやすくて助かる」
「お互い、理想を演じ続けないといけない立場は大変ね」
「まったくだ」
落ち着く。
彼女には俺の本性がバレてしまっているし、彼女にとっても同様だ。
変に警戒もせず、気取った態度をすることもない。
自然体で接することができる相手を、人生で初めて得たかもしれない。
「欲まみれはいい過ぎだけどな」
「実際その通りでしょ? あんなに大きな声で叫んでいたじゃない。おっぱいが揉みたいって」
「くっ……なんのことか」
「ふふっ、今さら誤魔化さなくていいわよ。男の子なら当然の欲求だわ」
これが羞恥心か。
長らく忘れていた感情がこみ上げてきて、何とも言えない胸の厚さを感じる。
「そんなに揉みたいなら、私のを揉んでもいいわよ」
「――は?」
「普段はベルトで押さえつけているけど、こう見えて結構あるのよ?」
「い、いや、何言ってるんだ?」
「助けてもらったお礼をしていないと思って」
そう言いながら彼女は俺に顔を近づける。
普段は抑えている胸のベルトを外して、服の上からハッキリとわかる山が二つ。
確かにちゃんとある。
「あなたになら……触られてもいいわ」
「ちょっ、お前……」
まずい。
過去最大級の煩悩が押し寄せてくる。
でもいいのか?
彼女が触ってもいいと言ってくれているわけだし、ここはお言葉に甘えても?
「ふ、ふふ、面白い反応ね」
「――! からかったな!」
「さぁ、どうでしょうね? 私は本気だったわよ」
「こいつ……」
なんて魔性の女なんだ。
気を付けなければ。
特に弟子たちが起きている間は……。
しかし強烈すぎる。
これが無自覚な誘惑と、意識的な誘惑の差か。
夜になり、俺たちはちょうどいい木陰を見つけて野宿をしていた。
寝袋を用意し、三人はすでに眠っている。
俺は周辺の警戒もかねて起きていた。
「眠らなくていいの?」
起きているのは俺一人ではなかった。
ロール王子もとい、ロール姫が俺の隣でちょこんと座る。
「睡眠も欲の一つだ。俺は一週間程度なら眠らず行動できる」
「凄いことだけど、無理をしているだけじゃないの?」
「心配はいらない。彼女たちの誰かが目を覚ましたら、俺も少し眠るつもりだ」
「過保護ね。師弟というより親子みたいだわ」
「……実際それに近い。彼女たちは孤児だからな」
見た目からもわかる通り、俺たちに血縁関係はない。
赤の他人だ。
それでも一緒にいるのは理由がある。
彼女たちは孤児だった。
それぞれの理由から孤独を背負い、一人で生きることを余儀なくされた子供たち。
俺は偶然、彼女たちと出会って弟子に迎え入れた。
俺の師匠が、俺を見つけて弟子にしてくれたように。
「あなたも孤児だったのね」
「ああ。物心つく前に捨てられて、師匠が拾ってくれた。俺にも、彼女たちにも魔術師としての才能がある。大賢者の後継に必要なのは血縁よりも素質だからな」
「思った以上にいびつな歴史を繋いでいるのね。こんな山奥に暮らしているから、もっと閉鎖的な考え方だと思っていたわ」
「逆だ。魔術以外に興味がない。だからこんな山奥で暮らしているし、優れた魔術師の卵は歓迎する。良くも悪くも、俺たちは魔術師の一族だ」
なんで彼女にこんな話をしているのだろうか。
別に聞かれたわけでもないのに。
自然と言葉になって表現されていたことに、後から気づいて少し驚く。
「というか、そんなしゃべり方だったか?」
「あなたには正体がバレちゃったからね。依頼も受けてくれたし、取り繕う必要がなくなったのよ」
「今が素ってことか」
「あなたこそ、雰囲気から違うわね? 弟子たちの前では気取ったしゃべり方をしている癖に」
「きどっ! まぁ否定はしない」
少し恥ずかしいが、意識しているのは事実だ。
「俺は師匠だからな。不甲斐ない姿は見せられないし、常に理想の存在であり続けたい。弟子たちの前では格好つけたいんだよ」
「ふふっ、そういうの嫌いじゃないわ。無欲な賢者様より、欲まみれな賢者様のほうが、人間味があって私は好きよ」
「それはどうも。俺も今のラフな感じのほうが話しやすくて助かる」
「お互い、理想を演じ続けないといけない立場は大変ね」
「まったくだ」
落ち着く。
彼女には俺の本性がバレてしまっているし、彼女にとっても同様だ。
変に警戒もせず、気取った態度をすることもない。
自然体で接することができる相手を、人生で初めて得たかもしれない。
「欲まみれはいい過ぎだけどな」
「実際その通りでしょ? あんなに大きな声で叫んでいたじゃない。おっぱいが揉みたいって」
「くっ……なんのことか」
「ふふっ、今さら誤魔化さなくていいわよ。男の子なら当然の欲求だわ」
これが羞恥心か。
長らく忘れていた感情がこみ上げてきて、何とも言えない胸の厚さを感じる。
「そんなに揉みたいなら、私のを揉んでもいいわよ」
「――は?」
「普段はベルトで押さえつけているけど、こう見えて結構あるのよ?」
「い、いや、何言ってるんだ?」
「助けてもらったお礼をしていないと思って」
そう言いながら彼女は俺に顔を近づける。
普段は抑えている胸のベルトを外して、服の上からハッキリとわかる山が二つ。
確かにちゃんとある。
「あなたになら……触られてもいいわ」
「ちょっ、お前……」
まずい。
過去最大級の煩悩が押し寄せてくる。
でもいいのか?
彼女が触ってもいいと言ってくれているわけだし、ここはお言葉に甘えても?
「ふ、ふふ、面白い反応ね」
「――! からかったな!」
「さぁ、どうでしょうね? 私は本気だったわよ」
「こいつ……」
なんて魔性の女なんだ。
気を付けなければ。
特に弟子たちが起きている間は……。
しかし強烈すぎる。
これが無自覚な誘惑と、意識的な誘惑の差か。
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