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怠惰の章

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 出発して二日。
 夜になり、俺たちはちょうどいい木陰を見つけて野宿をしていた。
 寝袋を用意し、三人はすでに眠っている。
 俺は周辺の警戒もかねて起きていた。

「眠らなくていいの?」

 起きているのは俺一人ではなかった。
 ロール王子もとい、ロール姫が俺の隣でちょこんと座る。

「睡眠も欲の一つだ。俺は一週間程度なら眠らず行動できる」
「凄いことだけど、無理をしているだけじゃないの?」
「心配はいらない。彼女たちの誰かが目を覚ましたら、俺も少し眠るつもりだ」
「過保護ね。師弟というより親子みたいだわ」
「……実際それに近い。彼女たちは孤児だからな」

 見た目からもわかる通り、俺たちに血縁関係はない。
 赤の他人だ。
 それでも一緒にいるのは理由がある。
 彼女たちは孤児だった。
 それぞれの理由から孤独を背負い、一人で生きることを余儀なくされた子供たち。
 俺は偶然、彼女たちと出会って弟子に迎え入れた。
 俺の師匠が、俺を見つけて弟子にしてくれたように。

「あなたも孤児だったのね」
「ああ。物心つく前に捨てられて、師匠が拾ってくれた。俺にも、彼女たちにも魔術師としての才能がある。大賢者の後継に必要なのは血縁よりも素質だからな」
「思った以上にいびつな歴史を繋いでいるのね。こんな山奥に暮らしているから、もっと閉鎖的な考え方だと思っていたわ」
「逆だ。魔術以外に興味がない。だからこんな山奥で暮らしているし、優れた魔術師の卵は歓迎する。良くも悪くも、俺たちは魔術師の一族だ」

 なんで彼女にこんな話をしているのだろうか。
 別に聞かれたわけでもないのに。
 自然と言葉になって表現されていたことに、後から気づいて少し驚く。

「というか、そんなしゃべり方だったか?」
「あなたには正体がバレちゃったからね。依頼も受けてくれたし、取り繕う必要がなくなったのよ」
「今が素ってことか」
「あなたこそ、雰囲気から違うわね? 弟子たちの前では気取ったしゃべり方をしている癖に」
「きどっ! まぁ否定はしない」

 少し恥ずかしいが、意識しているのは事実だ。

「俺は師匠だからな。不甲斐ない姿は見せられないし、常に理想の存在であり続けたい。弟子たちの前では格好つけたいんだよ」
「ふふっ、そういうの嫌いじゃないわ。無欲な賢者様より、欲まみれな賢者様のほうが、人間味があって私は好きよ」
「それはどうも。俺も今のラフな感じのほうが話しやすくて助かる」
「お互い、理想を演じ続けないといけない立場は大変ね」
「まったくだ」

 落ち着く。
 彼女には俺の本性がバレてしまっているし、彼女にとっても同様だ。
 変に警戒もせず、気取った態度をすることもない。
 自然体で接することができる相手を、人生で初めて得たかもしれない。

「欲まみれはいい過ぎだけどな」
「実際その通りでしょ? あんなに大きな声で叫んでいたじゃない。おっぱいが揉みたいって」
「くっ……なんのことか」
「ふふっ、今さら誤魔化さなくていいわよ。男の子なら当然の欲求だわ」

 これが羞恥心か。
 長らく忘れていた感情がこみ上げてきて、何とも言えない胸の厚さを感じる。

「そんなに揉みたいなら、私のを揉んでもいいわよ」
「――は?」
「普段はベルトで押さえつけているけど、こう見えて結構あるのよ?」
「い、いや、何言ってるんだ?」
「助けてもらったお礼をしていないと思って」

 そう言いながら彼女は俺に顔を近づける。
 普段は抑えている胸のベルトを外して、服の上からハッキリとわかる山が二つ。
 確かにちゃんとある。

「あなたになら……触られてもいいわ」
「ちょっ、お前……」

 まずい。
 過去最大級の煩悩が押し寄せてくる。
 でもいいのか?
 彼女が触ってもいいと言ってくれているわけだし、ここはお言葉に甘えても?

「ふ、ふふ、面白い反応ね」
「――! からかったな!」
「さぁ、どうでしょうね? 私は本気だったわよ」
「こいつ……」

 なんて魔性の女なんだ。
 気を付けなければ。
 特に弟子たちが起きている間は……。
 しかし強烈すぎる。
 これが無自覚な誘惑と、意識的な誘惑の差か。
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