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第一章 転生したけど死にそう
男嫌いな騎士④
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俺たちは夕刻まで時間を潰し、約束の時間になった。
冒険者ギルドに到着すると、俺たちよりも先にパークという新しい騎士の男性が待っていた。
俺たちを見つけた彼は、ニコリと笑ってさわやかに挨拶をする。
「こんばんは。タクロウさんですよね?」
「お、おう。そうだけど……」
「酷い噂も流れていて大変でしょう。僕は噂で人を判断しませんので、安心してください。これからよろしくお願いします」
「――おう! こちらこそ」
なんだこいつ?
めちゃくちゃいい奴なんじゃないか!
「単純な男ですね」
「うるさいな。お前も挨拶しろよ」
「すまない。遅くなった」
そんなやり取りをしていると、ジーナが駆け足で俺たちの元へやってきた。
いつも先に来て待っている彼女が最後なんて珍しい。
パークが周囲を見渡し、俺たちに言う。
「全員揃いましたね」
「ああ。じゃあ見回りを始めるか」
「その前に僕から提案なのですが、今夜から二手に分かれるのはいかがでしょう? この人数でひと固まりに歩くと目立ちます」
「確かにそうだな……」
自己申告だが、パークのレベルはジーナと同等らしい。
戦力的にも分散して問題はないか。
せっかく戦力が増えても、行動パターンや範囲が一緒じゃ意味ないのは確かだ。
俺はパークに尋ねる。
「どうやって分かれるんだ?」
「そうですね。無難に、騎士と冒険者のチームに分かれるのはどうでしょうか?」
「私はそれで買わない。タクロウたちが問題ないのであれば」
「俺はいいぞ」
「あたしも! そっちのほうが動きやすそうだし」
「私は安全そうな騎士チームに入ります!」
「アホか。お前はこっちだ」
「うぅ……」
チーム分けは問題なく決まった。
ルートもお互い逆方向から周り、最終的に冒険者ギルドで集合するという流れに決まる。
さっそく出発しよう。
そんな話をしていると、一人の男性が俺たちの元へ駆け寄ってくることに気づく。
ものすごい剣幕だ。
明らかに怒っている。
「ちょっ、ちょっとタクロウ。なんかあの人怒ってるみたですよ! また何かしたんですか?」
「おい、なんで俺なんだ? やらかすのは大体お前だろ?」
「私が何したっていうんですか!」
「俺だって何もしてねーよ!」
とか言い争いをしている間に、男は俺たちの眼前に立つ。
明らかに怒っている。
でも、俺に対してというより、視線はジーナに向いていた。
「おい! どういうことなんだよ!」
「どうかしたのか?」
「どうかじゃないだろ! あんたらがちゃんと見回りしてないから事件が……俺の恋人が攫われたんだぞ!」
「少し落ち着いてください」
怒りの矛先はジーナに向けられた。
パークが抑制しているが、怒りは収まらない。
言葉にもならないような罵声を吐いている。
聞き取れた言葉から、どうやら昨夜の事件の被害者の知人らしい。
「あんたらのせいで彼女が……くっ……」
恋人が何者かに攫われてしまい、それを知ったのはついさっきだとか。
悲しいし酷い事件だけど、だからといってジーナを責めるのは違うだろう。
「どうか落ち着いて。今夜からは人員を増やして見回りを強化します」
「今日じゃ遅いんだよ! くそっ……騎士が見回りしているっていうから期待したのに……アイギス様が来てくれていたら、こんなことにはならなかったんだ」
「――!」
「おいあんた、気持ちはわかるけど言い過ぎだぞ」
男は錯乱して、彼女の姉の名前を口にした。
彼女が悪いわけじゃない。
諭す俺にも矛先が向く。
「なんだよお前……こんなできそこないの騎士に味方するのか!」
「味方っていうか、俺たちも協力してるんだ。彼女がちゃんと見回りをしているのは一番近くで見てる」
「だったらなんで事件が起きるんだ! サボってるからだろ!」
「サボ……はぁ……」
気の毒に思っていたが、少しずつ腹が立ってきた。
「じゃあなんで、あんたは一緒じゃなかったんだ?」
「は……? 何を……」
「事件はまだ起こっていた。夜の街が危険なのは知っていたはずなのに、恋人を一人で歩かせたんだろ?」
「それは……喧嘩して……」
小さな声で喧嘩と聞こえた。
なるほど、そういう理由だったか。
痴話喧嘩でもして、恋人が一人で帰ってしまったのだろう。
その夜に攫われてご立腹と。
「あんたにも責任があるんじゃないか?」
「うるさいな! 騎士は俺たちを守るのが仕事だろ! 守れない騎士なんてゴミ以下だ!」
「こいつ!」
「もういいんだ! 彼の怒りはわかる。私が不甲斐ないのがわるい」
「ジーナ……」
彼女は悔しそうに唇をかみしめている。
その瞳は潤んでいて、今にも泣きだしてしまいそうだった。
「見回りをしよう。今夜こそ……必ず見つけるんだ」
「あ、ああ、わかった」
「ちゃんとやれよ! 恋人が見つからなかったら俺は……」
「……」
無責任な怒りだけど、恋人のことを心配しているのは伝わる。
下手に責めるのもかわいそうだ。
だからと言って、ジーナに八つ当たりしていい訳じゃないと思うけど。
「私たちはこっちだ。先に行く」
「ジーナ」
「彼女のことは僕に任せてください。では後ほど」
「お、おう。わかった」
ジーナは急ぎ足で見回りに行ってしまった。
パークが遅れないように彼女の後に続く。
心配ではあるが、パークのほうが冷静そうだし、何かあっても大丈夫だろう。
「俺たちも行くか」
「そうだな」
「うーん……」
「何してんだよ」
俺たちも出発しようと思ったら、サラスがじっと立ち去る二人を見ていた。
すでに遠く離れていて、姿は見えない。
「お前はこっちだぞ」
「そうじゃなくて、やっぱりあれ……違うんですよね」
「何が?」
「うーん、でもあるんですかね? そういうの」
「さっきから何言ってんだ? もう置いていくぞ」
「あ、待ってくださいよ!」
冒険者ギルドに到着すると、俺たちよりも先にパークという新しい騎士の男性が待っていた。
俺たちを見つけた彼は、ニコリと笑ってさわやかに挨拶をする。
「こんばんは。タクロウさんですよね?」
「お、おう。そうだけど……」
「酷い噂も流れていて大変でしょう。僕は噂で人を判断しませんので、安心してください。これからよろしくお願いします」
「――おう! こちらこそ」
なんだこいつ?
めちゃくちゃいい奴なんじゃないか!
「単純な男ですね」
「うるさいな。お前も挨拶しろよ」
「すまない。遅くなった」
そんなやり取りをしていると、ジーナが駆け足で俺たちの元へやってきた。
いつも先に来て待っている彼女が最後なんて珍しい。
パークが周囲を見渡し、俺たちに言う。
「全員揃いましたね」
「ああ。じゃあ見回りを始めるか」
「その前に僕から提案なのですが、今夜から二手に分かれるのはいかがでしょう? この人数でひと固まりに歩くと目立ちます」
「確かにそうだな……」
自己申告だが、パークのレベルはジーナと同等らしい。
戦力的にも分散して問題はないか。
せっかく戦力が増えても、行動パターンや範囲が一緒じゃ意味ないのは確かだ。
俺はパークに尋ねる。
「どうやって分かれるんだ?」
「そうですね。無難に、騎士と冒険者のチームに分かれるのはどうでしょうか?」
「私はそれで買わない。タクロウたちが問題ないのであれば」
「俺はいいぞ」
「あたしも! そっちのほうが動きやすそうだし」
「私は安全そうな騎士チームに入ります!」
「アホか。お前はこっちだ」
「うぅ……」
チーム分けは問題なく決まった。
ルートもお互い逆方向から周り、最終的に冒険者ギルドで集合するという流れに決まる。
さっそく出発しよう。
そんな話をしていると、一人の男性が俺たちの元へ駆け寄ってくることに気づく。
ものすごい剣幕だ。
明らかに怒っている。
「ちょっ、ちょっとタクロウ。なんかあの人怒ってるみたですよ! また何かしたんですか?」
「おい、なんで俺なんだ? やらかすのは大体お前だろ?」
「私が何したっていうんですか!」
「俺だって何もしてねーよ!」
とか言い争いをしている間に、男は俺たちの眼前に立つ。
明らかに怒っている。
でも、俺に対してというより、視線はジーナに向いていた。
「おい! どういうことなんだよ!」
「どうかしたのか?」
「どうかじゃないだろ! あんたらがちゃんと見回りしてないから事件が……俺の恋人が攫われたんだぞ!」
「少し落ち着いてください」
怒りの矛先はジーナに向けられた。
パークが抑制しているが、怒りは収まらない。
言葉にもならないような罵声を吐いている。
聞き取れた言葉から、どうやら昨夜の事件の被害者の知人らしい。
「あんたらのせいで彼女が……くっ……」
恋人が何者かに攫われてしまい、それを知ったのはついさっきだとか。
悲しいし酷い事件だけど、だからといってジーナを責めるのは違うだろう。
「どうか落ち着いて。今夜からは人員を増やして見回りを強化します」
「今日じゃ遅いんだよ! くそっ……騎士が見回りしているっていうから期待したのに……アイギス様が来てくれていたら、こんなことにはならなかったんだ」
「――!」
「おいあんた、気持ちはわかるけど言い過ぎだぞ」
男は錯乱して、彼女の姉の名前を口にした。
彼女が悪いわけじゃない。
諭す俺にも矛先が向く。
「なんだよお前……こんなできそこないの騎士に味方するのか!」
「味方っていうか、俺たちも協力してるんだ。彼女がちゃんと見回りをしているのは一番近くで見てる」
「だったらなんで事件が起きるんだ! サボってるからだろ!」
「サボ……はぁ……」
気の毒に思っていたが、少しずつ腹が立ってきた。
「じゃあなんで、あんたは一緒じゃなかったんだ?」
「は……? 何を……」
「事件はまだ起こっていた。夜の街が危険なのは知っていたはずなのに、恋人を一人で歩かせたんだろ?」
「それは……喧嘩して……」
小さな声で喧嘩と聞こえた。
なるほど、そういう理由だったか。
痴話喧嘩でもして、恋人が一人で帰ってしまったのだろう。
その夜に攫われてご立腹と。
「あんたにも責任があるんじゃないか?」
「うるさいな! 騎士は俺たちを守るのが仕事だろ! 守れない騎士なんてゴミ以下だ!」
「こいつ!」
「もういいんだ! 彼の怒りはわかる。私が不甲斐ないのがわるい」
「ジーナ……」
彼女は悔しそうに唇をかみしめている。
その瞳は潤んでいて、今にも泣きだしてしまいそうだった。
「見回りをしよう。今夜こそ……必ず見つけるんだ」
「あ、ああ、わかった」
「ちゃんとやれよ! 恋人が見つからなかったら俺は……」
「……」
無責任な怒りだけど、恋人のことを心配しているのは伝わる。
下手に責めるのもかわいそうだ。
だからと言って、ジーナに八つ当たりしていい訳じゃないと思うけど。
「私たちはこっちだ。先に行く」
「ジーナ」
「彼女のことは僕に任せてください。では後ほど」
「お、おう。わかった」
ジーナは急ぎ足で見回りに行ってしまった。
パークが遅れないように彼女の後に続く。
心配ではあるが、パークのほうが冷静そうだし、何かあっても大丈夫だろう。
「俺たちも行くか」
「そうだな」
「うーん……」
「何してんだよ」
俺たちも出発しようと思ったら、サラスがじっと立ち去る二人を見ていた。
すでに遠く離れていて、姿は見えない。
「お前はこっちだぞ」
「そうじゃなくて、やっぱりあれ……違うんですよね」
「何が?」
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「さっきから何言ってんだ? もう置いていくぞ」
「あ、待ってくださいよ!」
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