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第一章 転生したけど死にそう
初デートです②
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武器屋を後にした俺たちは、昼食を取れる場所を探す。
「嫌いな食べ物とかあるか?」
「ない! なんでも食べるぞ!」
「偉いな」
「タクロウは?」
「俺も好き嫌いはない」
「偉い!」
楽しい。
こうして話しているだけで、一緒に歩いているだけで。
過ぎていく時間が愛おしく感じる。
これがデートか。
世の男女が貴重な休日を使ってまでするわけだ。
体験して初めて、いいものだとわかる。
あっという間に時間は過ぎる。
昼食後も街を探検して、気になった店に入ってみたり、路地裏にいた猫と戯れたり。
この世界にも猫や犬がいることに少し驚きながらのんびり時間を過ごした。
気づけば西の空がオレンジ色に染まっている。
「もう夕方だな。そろそろデートも終わりだよな?」
「ああ、どうだった?」
「楽しかった! 街も一周できたし、新しい剣も買えたし大満足だ!」
「そっか」
カナタが喜んでくれている姿を見てホッとする。
夕日に向かって歩いていた俺たち。
カナタは一歩前に出て振り返り、夕日を背にして言う。
「ありがとな」
「え?」
「今日一日、あたしのこと楽しませようとしてくれてただろ?」
「――!」
思わぬ一言にドキッとする。
どうやら見抜かれていたらしい。
恥ずかしさを隠すように笑いながら、俺は彼女に言う。
「カナタに好きになってもらうためのデートだったからな。楽しんでもらいたかった」
「すっごく楽しめた! デートっていいな。またしたい!」
「――そっか」
最高の誉め言葉だ。
その一言に、心が満たされる。
でも、そこで終わりじゃダメなんだ。
「今はどうだ? 俺のこと……好きになれそうか?」
「うーん、どうなんだろ?」
「……」
「ちゃんと楽しかったぞ? でもなんか、愛とか好きはよくわからないんだ」
「……正直、俺もよくわかってないんだよな」
「え? そうなのか?」
俺は小さく頷く。
「俺……女の人って少し苦手なんだよ」
「そうなのか? そうは見えないけどな。あたしとは普通に話せてるだろ」
苦手意識はある。
小学生の頃、好きな女の子がいた。
その子と一緒にいたくて、子供ながらにアプローチした。
思い出すのも恥ずかしい稚拙なアピールだ。
結果は……気持ち悪いと言われてしまった。
絶望した。
その日以来、女の子が苦手になって、二次元の世界に逃げ込んだ。
「さすがに小さい頃の話だからな。もう十年以上たっているし、ある程度は折り合いはついたんだけど」
「苦手なままなのか?」
「そう。積極的に関わりたいとは思わなかった」
「でも結婚はしたいんだろ?」
「あの時は本気じゃなかったんだよ。たかが目標だし、できなくてもいいと思ったんだ」
自分とは縁遠いことだから、目標にもピッタリだと思った。
女性は苦手なだけで、嫌いというわけじゃない。
現に二次元で好きなのは女の子のキャラクターだし、可愛い人は素直に可愛いと思える。
ただそこから恋愛をしたり、結婚とか、一歩踏み出すことは一生できないと思っていただけだ。
「じゃあタクロウは、しなくていいなら結婚しないのか?」
「――! そうじゃない。俺がカナタと結婚したいとお思ったのは、ほ、本気だから」
恥ずかしいセリフを口にしている。
頬が熱い。
胸も熱い。
自分がこんな感情を他人に向けることに、違和感さえ覚える。
「誰でもいいわけじゃ、ないんだ。この世界にきて、初めて出会ったのがカナタだった。カナタでよかったと心から思う。だから……その……」
ここまで来て俺は腑抜けだ。
もっとハッキリと好意を伝えることができたら格好いいのに。
それができない自分がもどかしくて、苛立つ。
俺の葛藤を目の当たりにして、カナタはぎゅっと握りこぶしを作る。
「あたしも真剣に考えるよ」
「カナタ?」
「結婚のこと! 今までそういうこと、全然考えてこなかったけどさ。タクロウがあたしのこと、真剣に考えてくれるなら、あたしもタクロウのことを考えるよ」
「――!」
この子は……どこまで優しくて、素敵な人なんだろう。
元の世界にもいたか?
ここまで純粋に、俺みたいな得体の知れない男の好意を受け取ってくれる人が。
彼女だけが、噂に耳を貸さずに、目の前にいる俺を見てくれた。
変態だとか性獣とか、散々言われている俺にも、変わりなく接してくれた。
そんな彼女だからこそ、女性が苦手な俺でも普通に接することができる。
俺はやっぱり……カナタが好きなんだな。
「またデートしてほしい。あと何回かすれば、きっと好きになるから!」
「……ああ、ありがとう」
夕日が沈んでいく中で、俺たちは向かい合う。
見つめ合う。
なんだかいい雰囲気じゃないか?
まだデート中だし、このまま手を繋いだり、他にもいろいろ……ありか?
ありなのか?
結婚しないと性行為はできないって話だけど、実際どこラインまではセーフなんだ?
――って、何考えてるんだ俺は!
静まれ俺の中の童貞パワー。
せっかくの雰囲気をぶち壊すな!
初めてのデートなんだ。
ここは最後くらい格好つけて――
「あ、あそこにいる変態がタクロウです」
「……」
クソッ。
雰囲気をぶち壊す悪魔がやってきた。
「……何しに――?」
ポンコツ天使一人じゃない。
一緒に見知らぬ女性……鎧を着た銀髪で、胸がとにかく大きい騎士がいる。
しかもなぜか、俺のことを睨んでいた。
「貴様がヒビヤタクロウだな?」
「あ、はい。そうですけど……」
「貴様に国家転覆罪の容疑がかけられている。一緒に来てもらおうか?」
「……へ?」
国家……転覆?
何言ってんだこの人。
「嫌いな食べ物とかあるか?」
「ない! なんでも食べるぞ!」
「偉いな」
「タクロウは?」
「俺も好き嫌いはない」
「偉い!」
楽しい。
こうして話しているだけで、一緒に歩いているだけで。
過ぎていく時間が愛おしく感じる。
これがデートか。
世の男女が貴重な休日を使ってまでするわけだ。
体験して初めて、いいものだとわかる。
あっという間に時間は過ぎる。
昼食後も街を探検して、気になった店に入ってみたり、路地裏にいた猫と戯れたり。
この世界にも猫や犬がいることに少し驚きながらのんびり時間を過ごした。
気づけば西の空がオレンジ色に染まっている。
「もう夕方だな。そろそろデートも終わりだよな?」
「ああ、どうだった?」
「楽しかった! 街も一周できたし、新しい剣も買えたし大満足だ!」
「そっか」
カナタが喜んでくれている姿を見てホッとする。
夕日に向かって歩いていた俺たち。
カナタは一歩前に出て振り返り、夕日を背にして言う。
「ありがとな」
「え?」
「今日一日、あたしのこと楽しませようとしてくれてただろ?」
「――!」
思わぬ一言にドキッとする。
どうやら見抜かれていたらしい。
恥ずかしさを隠すように笑いながら、俺は彼女に言う。
「カナタに好きになってもらうためのデートだったからな。楽しんでもらいたかった」
「すっごく楽しめた! デートっていいな。またしたい!」
「――そっか」
最高の誉め言葉だ。
その一言に、心が満たされる。
でも、そこで終わりじゃダメなんだ。
「今はどうだ? 俺のこと……好きになれそうか?」
「うーん、どうなんだろ?」
「……」
「ちゃんと楽しかったぞ? でもなんか、愛とか好きはよくわからないんだ」
「……正直、俺もよくわかってないんだよな」
「え? そうなのか?」
俺は小さく頷く。
「俺……女の人って少し苦手なんだよ」
「そうなのか? そうは見えないけどな。あたしとは普通に話せてるだろ」
苦手意識はある。
小学生の頃、好きな女の子がいた。
その子と一緒にいたくて、子供ながらにアプローチした。
思い出すのも恥ずかしい稚拙なアピールだ。
結果は……気持ち悪いと言われてしまった。
絶望した。
その日以来、女の子が苦手になって、二次元の世界に逃げ込んだ。
「さすがに小さい頃の話だからな。もう十年以上たっているし、ある程度は折り合いはついたんだけど」
「苦手なままなのか?」
「そう。積極的に関わりたいとは思わなかった」
「でも結婚はしたいんだろ?」
「あの時は本気じゃなかったんだよ。たかが目標だし、できなくてもいいと思ったんだ」
自分とは縁遠いことだから、目標にもピッタリだと思った。
女性は苦手なだけで、嫌いというわけじゃない。
現に二次元で好きなのは女の子のキャラクターだし、可愛い人は素直に可愛いと思える。
ただそこから恋愛をしたり、結婚とか、一歩踏み出すことは一生できないと思っていただけだ。
「じゃあタクロウは、しなくていいなら結婚しないのか?」
「――! そうじゃない。俺がカナタと結婚したいとお思ったのは、ほ、本気だから」
恥ずかしいセリフを口にしている。
頬が熱い。
胸も熱い。
自分がこんな感情を他人に向けることに、違和感さえ覚える。
「誰でもいいわけじゃ、ないんだ。この世界にきて、初めて出会ったのがカナタだった。カナタでよかったと心から思う。だから……その……」
ここまで来て俺は腑抜けだ。
もっとハッキリと好意を伝えることができたら格好いいのに。
それができない自分がもどかしくて、苛立つ。
俺の葛藤を目の当たりにして、カナタはぎゅっと握りこぶしを作る。
「あたしも真剣に考えるよ」
「カナタ?」
「結婚のこと! 今までそういうこと、全然考えてこなかったけどさ。タクロウがあたしのこと、真剣に考えてくれるなら、あたしもタクロウのことを考えるよ」
「――!」
この子は……どこまで優しくて、素敵な人なんだろう。
元の世界にもいたか?
ここまで純粋に、俺みたいな得体の知れない男の好意を受け取ってくれる人が。
彼女だけが、噂に耳を貸さずに、目の前にいる俺を見てくれた。
変態だとか性獣とか、散々言われている俺にも、変わりなく接してくれた。
そんな彼女だからこそ、女性が苦手な俺でも普通に接することができる。
俺はやっぱり……カナタが好きなんだな。
「またデートしてほしい。あと何回かすれば、きっと好きになるから!」
「……ああ、ありがとう」
夕日が沈んでいく中で、俺たちは向かい合う。
見つめ合う。
なんだかいい雰囲気じゃないか?
まだデート中だし、このまま手を繋いだり、他にもいろいろ……ありか?
ありなのか?
結婚しないと性行為はできないって話だけど、実際どこラインまではセーフなんだ?
――って、何考えてるんだ俺は!
静まれ俺の中の童貞パワー。
せっかくの雰囲気をぶち壊すな!
初めてのデートなんだ。
ここは最後くらい格好つけて――
「あ、あそこにいる変態がタクロウです」
「……」
クソッ。
雰囲気をぶち壊す悪魔がやってきた。
「……何しに――?」
ポンコツ天使一人じゃない。
一緒に見知らぬ女性……鎧を着た銀髪で、胸がとにかく大きい騎士がいる。
しかもなぜか、俺のことを睨んでいた。
「貴様がヒビヤタクロウだな?」
「あ、はい。そうですけど……」
「貴様に国家転覆罪の容疑がかけられている。一緒に来てもらおうか?」
「……へ?」
国家……転覆?
何言ってんだこの人。
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