通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
32 / 35

結婚なんて許すまじ②

しおりを挟む
 運命の相手を探している。
 ずっと……小さい頃からの憧れだった。

「エリカよ。王族として相応しいふるまいを心掛けなさい。常に見られていることを意識するのだ」
「はい! お父様」

 幼い頃からそう教育され、王族として生きてきた。
 それが当たり前だった。
 けれど、いつからだっただろう?
 王族として生きることが、窮屈に感じるようになってしまったのは……。

「……」

 道行く人々を見守る。
 彼らは私のように大きな力は持っていない。
 けれど、自由がある。
 私にとって喉から手が出るほど欲しい自由を、彼らは当たり前のように所持している。

「……ずるいわね」

 そう思ってしまうことがあった。
 王族としてよくないと自覚しているけど……。
 私は夢見てしまう。
 立場も使命も関係なく、純粋にこの人と一緒にいたい。
 心から気を許せるような人と出会いたい。

 ――ふと、ある男の顔が浮かんだ。

「ありえないわね」

 すぐに否定した。
 確かに、条件の一部は当てはまるかもしれない。
 けれど運命の相手には不釣り合いだ。
 私は運命を自分の手でつかむために、勇者パーティーに参加すると決意した。

「……あれ」

 気がつけば私は、賑わっている大きな道を外れ、人気の少ない路地にきていた。
 小さい頃だけど、一度は来たことがある場所だ。
 迷うことなんてないと思っていたけど……。

「迷ったわね」

 当然か。
 普段から出歩いているわけでもないし、以前訪れたのはずっと昔だ。
 記憶も曖昧で、あの頃とは街も少しずつ変わっている。
 迷ってしまったことは情けないけど、私には魔法があるから心配はいらない。
 いざとなったら転移で戻ろう。

「お譲ちゃーん、こんなところで一人は危ないよー?」
「――!」

 絵にかいたような悪い人たちがやってきた。
 一人、二人……三人で前後を囲む。
 狭い路地だから交わして通り抜けるのは難しい。

「退いてもらえませんか?」
「ええー、せっかくいい女を見つけたのに、どっかでお茶していかない?」
「なんならもっと楽しいことしようぜー」
「……はぁ……」

 運命からは程遠い相手にガッカリする。
 こういう男は、どの国にも一定数いるのだろう。
 彼らと仲良くするくらいなら、さっき思い浮かべた男のほうがましだ。

「退きなさい。三度目はないわ」
「おうおう、強気じゃねーか! そういう女は嫌いじゃないぜ?」
「泣くまでイジメてやろうか」
「……」

 男の一人が手を伸ばす。
 触れた瞬間、凍らせてやろうと身構えていた。

「やめないか!」
「――!」

 手が触れる前に、さわやかな男の声によって彼らは止まる。
 私の視線の先に青い髪の青年が立っていた。

「なんだてめぇ? いい所なんだから邪魔は……」

 ナンパ男の顔が青ざめる。
 彼だけじゃない。
 他の男たちも、声をかけた男の顔を見てぞっとしていた。
 彼の容姿に見覚えがある。

「女性に乱暴するのはよくないな」
「ら、乱暴なんてしてないっす! ちょっと挨拶していただけなんで! それじゃ!」
「あ、ちょっ、待ってくれよ!」
「ひぃ! なんでこんなところにいるんだよ!」

 男たちは三人まとめて、尻尾を巻いて逃げ出した。
 なんとも情けない男たちだ。
 本気で落とす気があるなら、どんな状況でも自分を貫くべきだろう。
 呆れてため息がこぼれる。
 
「大丈夫だったかな?」
「はい。お陰で助かました」
「ははっ、助けたのは君じゃなくて、彼らのほうだったかもしれないね」
「そうかもしれませんね」

 彼は優しく微笑みながら、私の前まで歩み寄ってきた。
 もしやと思ったけど、間違いない。
 ナンパ男たちが逃げ出した理由にも納得した。

「お久しぶりですね。カイゼル王子」
「覚えていてくれたんだね! 嬉しいよ、エリカ姫」

 カイゼル・スエール。
 スエール王国の第一王子にして、次期国王候補の筆頭。
 何度かパーティなどで顔を合わせている程度だけど、青髪は印象的でよく覚えている。

「こんな場所で王子が何をされているのですか?」
「ただの散歩だよ。偶にみんなの暮らしを直に見るために、お忍びで散策しているんだ」
「王子自らですか?」
「うん。直接みないとわからないこともあるし、思わぬ発見もあるからね。今、この再会もその一つだと思っているよ」

 私も感じていた。
 示し合わせたわけじゃない。
 私たちは偶然、この場所で出会った。
 まるで――

「運命の出会い、みたいだね」
「――そうですね」

 奇しくも同じことを考えていたらしい。
 そう、運命だ。
 私がナンパ男たちに絡まれている所を、偶然通りかかった人が助ける。
 その人物は隣国の王子様だった。
 まるで本の中の物語を読んでいるような気分になる。

「エリカ姫はどうしてここに?」
「魔王討伐の旅の途中です」
「そういうことか。じゃあ本当に偶然なんだね」
「はい」

 運命だと、一度思ってから意識してしまう。
 今まで深く考えることはなかった。
 パーティーで顔を合わせ、少し挨拶する程度の関係でしかなかった。
 それなのに……。

「もしよければ、今から王城に来ないかい? せっかく出会えたんだ。お茶でもどうかな?」
「はい。もちろん、私もそうしたいと思っていました」
「気が合うね」
「そうですね」

 間違いない。
 ビビーンときた!
 彼こそが私の、運命の相手なのだと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...