通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
23 / 35

あなたは神を信じますか?①

しおりを挟む
「心から感謝する。ありがとう、勇者様」

 別れ際、レジスタンスのリーダーを中心に、獣人たちがお礼を言ってくれた。
 深々と頭を下げて、特徴的な耳がよく見える。
 紆余曲折あったが、一先ず彼らの問題は解決した。
 後のことはエリカが手配した新しい領主が、彼らと上手くやってくれることを祈るばかりだ。

「勇者として当然のことをしたまでです」
「心の広いお方だ。聖女様もありがとうございました」

 リーダーはセミレナにも感謝を伝えた。
 俺はビクッとわずかに反応する。
 彼女はニコリと微笑む。

「お陰で皆無事にこうして今日を迎えることができる。感謝してもし足りない」
「正しき行いには祝福が待っています。どうかそのことをお忘れなきように」
「はい」
「あなた方にも種のご加護があらんことを」
 
 俺は緊張しながら彼らとのやり取りを見守っていた。
 何事もなく終わり、ホッと一安心。
 こうして俺たちは街を出発した。
 再び魔王城を目指して。

  ◇◇◇

 街を出発して十数分。
 珍しく俺が馬車を操縦している。
 何となく、元の世界のことを思い出していた。

「視線の高さは車だけど、速度は自転車か」

 運転免許は取り立てだった。
 バイトや就職に必要だからと、ちょっと無理して取得したのに。
 結局一度も使うことがなかったことをガッカリする。
 車と馬車じゃ運転方法がまったく違う。
 こうなるとわかっていたら、最初から馬車の免許でもとればよかったな。
 そんなもの存在しないけど……。

「ふぅ、すぅー」

 安らかな寝息が聞こえる。
 今回は特に忙しくて、中々刺激的な出来事が多かった。
 獣人との遭遇。
 悪そうだなと思っていた領主は、実はマジもんの悪いやつで、裏で魔王軍と繋がっていたり。
 戦士のアルカの正体が、獣人の血を引いているクオーターだったことも初めて知った。
 そんな彼女だが……。

「あの、寝るなら後ろの席のほうがいいんじゃないか?」
「ここがいいんだよ」
「そうですか」
「うん! 撫でてくれてもいいんだよ?」

 俺の膝に頭を乗せて横になっているアルカは、キラキラした瞳で俺のことを見上げる。
 期待されているのが見なくても伝わってくる。
 危ないことは承知で、手綱の片方を手放し、彼女の頭を撫でた。

「うへへへ」
「……」

 うっとりした表情と声が漏れる。
 結論から言おう。
 なんか懐かれてしまった。
 獣人たちを解放し、悪徳公爵を成敗した翌日からだ。
 俺の前では構わず獣人化して、尻尾をぶんぶんと振りながら、俺の周りをくるくる回る。
 まるで主人に駆け寄る飼い犬みたいだった。
 今も普通に獣人化しているし、尻尾も振っている。

「ソウジ君の手、大きくて温かくて気持ちいいよ」
「そ、そうか。それはよかった」
「もっと撫でていいよ? ソウジ君なら、どこを撫でられてもいいから」
「ど、どこを……」
「尻尾とか!」

 ああ、そういうことね。
 危うく変な誤解をしてしまうところだった。
 俺は深呼吸をする。

「随分と仲良しになりましたね」
「うっ……」

 後ろからエリカの声が聞こえた。
 運転中なので振り向けないが、表情は見なくてもわかる。
 きっと笑っているだろう。
 ただし内心では、変な気を起こさないように、と釘をさしているに違いない。
 言われなくてもわかってるって。

「獣人の姿のままですよ? いいんですか?」
「うん! だってソウジ君、僕が獣人でも気にしない。むしろ可愛いって言ってくれたから! ね?」
「あ、ああ、そうだな」
「そうですか。それはよかったですね」

 やめてくれ。
 見なくても視線の意味がわかってしまう。
 
「ふむ。あれは、童貞の癖に一丁前に口説いたのね、という顔でござるな」

 代弁するんじゃねーよ。
 妙にリアルな内容だな。
 小次郎の奴、他人の心まで読めるようになったのか?

「拙者、他者の内心を図るのは得意でござるよ? 立ち合いでも必要な故」

 物騒な理由だな。
 というか別に口説いたわけじゃないし。
 あの時は、あれが最善のセリフだと思っただけで。

「ねぇ、ソウジ君。あの領主、どうなったのかな」
「りょ、領主?」
「うん。だって朝になったらいなくなってたよ」
「そ、そうだな」

 王都へ身柄を輸送される予定だった元領主。
 彼は翌朝、牢屋から姿を消していた。
 捜索したが見つからず、脱出した痕跡もなかった。
 
「あそこ、凄く血の匂いがしたよ」
「もしかしたら、魔王軍の誰かに処刑されてしまったのかもしれませんね。彼は魔王軍と繋がっていた。少なからず情報を持っていたはずですから」
「そうなのかぁ……悪い人だったけど、殺されちゃったのは可哀想だよ」
「そうですね。本来なら、王国の法で裁かれ、罪を償っていただくはずでした」

 悪徳領主は逃走、もしくは魔王軍に消されたのではないか。
 ということになっている。
 誰も、真実は知らない。
 知っているのは、この場にいる約二名だけだ。

「セミレナはどう思いますか?」
「とても悲しいことです。女神様のご加護を受けながら、魔王に与してしまった。天罰を受けてしまったのかもしれませんね」
「聖女のあなたらしい意見ですね」
「天罰かぁー。そうなったのなら仕方ないのかな? ね、ソウジ君」
「……」

 後ろを見るのが怖い。
 彼女のことだから、普段通りに笑っているだろう。
 しかし想像してしまう。
 返り血を浴びながら嘆き悲しみ、笑顔を見せる狂気の姿を……。
 あれはもうホラーだった。

「ソウジ君?」
「は、はい?」
「どうかされましたか? 体調が優れないのであれば、私が癒してさしあげましょう」
「だ、大丈夫です! 元気なんで!」

 アルカはキョトンと首を傾げる。
 悟られるわけにはいかない。
 この秘密だけは……この場にいる誰にも相談できそうになかった。

「無理をなさらないでください。あなたは勇者様なのですから」
「……」

 勘弁してくれ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...