20 / 35
モテ期到来、だと思いたい①
しおりを挟む
後日談。
悪徳領主の悪事は露呈し、しっかり捕縛された。
街に放たれた魔獣の群れも、騎士とレジスタンスが協力して撃退。
遅れて俺たちも合流し、なんとか被害を最小限で食い止めた。
怪我人はでたけど、うちには聖女がいる。
セミレナのおかげで、怪我人のケアも完璧だ。
捕まった悪徳領主はというと……。
「くそっ! 出せ! 私にこんなことをしていいと思っているのか!」
「呆れたな。あんたはもう貴族じゃない。エリカにそう言われただろ?」
「くっ……こんなはずでは……」
地下で獣人たちを閉じ込めていた牢獄に、まさか自分が入ることになるとは思わなかっただろう。
王都へ連行し、処罰されるまでの間だが、いい気味だ。
「そこで獣人たちの苦しみを、少しでも味わうんだな」
「こ、後悔するぞ! 貴様らなぞ魔王に敗れてしまえばいいんだ!」
「はいはい」
最後までちゃんと悪役してくれてありがとう。
心から軽蔑できる。
同情の余地もないし、無視して地上へ出る。
外は夜だった。
事後処理に一日使ってしまったから、ほとんど徹夜だ。
「ふぁーあ……」
「お疲れでござるな」
「いいよなお前は。眠くならなくて」
「幽霊でござる故」
ゲームで徹夜には慣れているが、さすがに身体が怠い。
一日中動き回っていたから。
「もう寝よう」
時間的にエリカたちも休んでいる頃だろう。
屋敷は領主がいなくなり、使用人も解放されて空っぽだ。
今は俺たちが好きに使っている。
廊下を歩いて寝室まで向かう途中で、ふいに呼び止められた。
「ソウジ君、こっち!」
「ん? アルカ?」
手を引かれ、ベランダへ。
なぜか彼女は獣人の姿のままだった。
尻尾を振っている。
「なんでその姿なんだ?」
「えっと、よくわかんない!」
「わからないのか……」
まぁ別に、今は屋敷に人はいないし問題ないか。
「あのね? ありがとう!」
アルカは俺の手を握って感謝の言葉を口にした。
唐突で驚いた俺は尋ねる。
「急にどうした?」
「お礼が言いたかったんだ! ソウジ君が僕の話をちゃんと聞いてくれたこと。獣人を助けるために、一緒の戦ってくれたこと!」
「ああ、そんなことか」
「そんなことかじゃないよ! 僕にとってはとっても大事なことなんだから!」
ぶんぶんと握った手を縦に振る。
一緒になって尻尾は横に振っていた。
彼女も徹夜なのに、俺とは違って元気いっぱいだな。
「嬉しそうだな」
「うん! みんな助けられたから!」
アルカは満面の笑みを見せる。
地下に囚われていた獣人たちは、エリカとセミレナによって保護、救助された。
怪我や病気になっている子もいたけど、ここでも聖女様が大活躍だ。
一瞬で治療して元気になった。
レジスタンスの面々も、騎士たちと協力して街を守った。
その光景を見ていた住民たちから感謝され、彼らの存在を認めてもらうことができた。
亜人種差別の思想は、貴族たちに根強い。
一般人にとっては、そもそも関わりもなかったから、そこまで強くは浸透していないらしい。
不安はあるが、助けられたことに感謝しているのも事実だ。
しばらくの間、この屋敷で獣人たちは暮らすことになる。
その手配もエリカがしてくれた。
いずれは新しい領主が来るだろう。
願わくは、その領主がまともな人で、亜人種を差別しない善人であってほしい。
エリカが選ぶみたいだし、きっと大丈夫だろう。
そんなわけで、この街で起こった事件は無事に解決。
獣人たちも居場所を手に入れた。
一時的かもしれないが、平和を守ったんだ。
「我ながらよく頑張ったな」
「ソウジ君凄かったよ! なんかいつもと雰囲気違ったけど」
「た、戦いの中で人は変わるのさ」
「へぇ、そうなんだ!」
アルカが純粋で助かった。
変に追及されると、絶対にボロが出るからな。
エリカの時みたいに。
「ソウジ君、前に馬車で聞いたよね?」
「ん?」
「僕がなんで戦士のなったのか」
「ああ、聞いたな」
何となくした質問。
あの時は、秘密と言われ答えてもらえなかった。
「僕が戦士になったのは、勇者パーティーに選ばれたかったからだよ」
「え?」
アルカはベランダから見える景色を眺めながら語る。
「強い戦士になって選ばれて、魔王を倒したい。獣人の血を引いてる私が魔王を倒したら、同じように苦しんでいる人たちも助けられるかなって」
「そういうことか」
獣人、あるいは亜人種の社会的地位を改善する。
アルカはそのために戦いを磨き、勇者パーティーに選ばれる戦士になった。
自分のために、じゃなくて。
同じように苦しむ誰かのために、というのが彼女らしい。
「いい理由だな」
「そう思ってくれる?」
「ああ。アルカの優しさが伝わってくる」
「えへへっ」
嬉しそうに微笑む。
きっと強さだけが基準じゃない。
その無垢な優しさも、彼女が選ばれた理由なのだろう。
「秘密なのに言ってよかったのか?」
「うん! ソウジ君は特別!」
「特別か」
「そうだよ! ソウジ君なら話してもいいかなって! 笑わないで聞いてくれる気がしたから」
「俺じゃなくても笑わないと思うぞ? 少なくともエリカとセミレナは」
「そうだね。二人も笑わないと思う。でも……」
アルカは俺のほうへ振り向き、もじもじしながら言う。
「ソウジ君に、一番に聞いてほしかったんだ」
「アルカ……」
「それにね? 相談、したこともあって」
「相談?」
「うん、えっとね……」
もじもじするアルカ。
言いにくい話ということは、また獣人絡みの相談か?
せっかく頼ってくれているんだ。
ここは年上のお兄さんっぽく振る舞おう。
年上どうか知らないけど。
「なんでもいいぞ。話してくれよ」
「うん! その……なんか変なんだよ」
「変?」
「……ソウジ君を見てるとね? 身体がポカポカしてくるんだ」
「――え?」
アルカは頬を赤らめて、上目遣いで俺を見る。
なんだその相談は……。
ポカポカって何?
表情とか声が妙に色っぽいし。
「ポカポカ?」
「うん。それに、ドキドキする……心臓がうるさいんだ」
「そ、そうか……」
おい、おいおいおい!
まさか?
まさかなのか?
「ほ、他には?」
「ソウジ君のこと、ずっと考えてる」
これは来たんじゃないか?
この世に生まれて二十年!
一度も来なかった春が、モテ期到来か!?
悪徳領主の悪事は露呈し、しっかり捕縛された。
街に放たれた魔獣の群れも、騎士とレジスタンスが協力して撃退。
遅れて俺たちも合流し、なんとか被害を最小限で食い止めた。
怪我人はでたけど、うちには聖女がいる。
セミレナのおかげで、怪我人のケアも完璧だ。
捕まった悪徳領主はというと……。
「くそっ! 出せ! 私にこんなことをしていいと思っているのか!」
「呆れたな。あんたはもう貴族じゃない。エリカにそう言われただろ?」
「くっ……こんなはずでは……」
地下で獣人たちを閉じ込めていた牢獄に、まさか自分が入ることになるとは思わなかっただろう。
王都へ連行し、処罰されるまでの間だが、いい気味だ。
「そこで獣人たちの苦しみを、少しでも味わうんだな」
「こ、後悔するぞ! 貴様らなぞ魔王に敗れてしまえばいいんだ!」
「はいはい」
最後までちゃんと悪役してくれてありがとう。
心から軽蔑できる。
同情の余地もないし、無視して地上へ出る。
外は夜だった。
事後処理に一日使ってしまったから、ほとんど徹夜だ。
「ふぁーあ……」
「お疲れでござるな」
「いいよなお前は。眠くならなくて」
「幽霊でござる故」
ゲームで徹夜には慣れているが、さすがに身体が怠い。
一日中動き回っていたから。
「もう寝よう」
時間的にエリカたちも休んでいる頃だろう。
屋敷は領主がいなくなり、使用人も解放されて空っぽだ。
今は俺たちが好きに使っている。
廊下を歩いて寝室まで向かう途中で、ふいに呼び止められた。
「ソウジ君、こっち!」
「ん? アルカ?」
手を引かれ、ベランダへ。
なぜか彼女は獣人の姿のままだった。
尻尾を振っている。
「なんでその姿なんだ?」
「えっと、よくわかんない!」
「わからないのか……」
まぁ別に、今は屋敷に人はいないし問題ないか。
「あのね? ありがとう!」
アルカは俺の手を握って感謝の言葉を口にした。
唐突で驚いた俺は尋ねる。
「急にどうした?」
「お礼が言いたかったんだ! ソウジ君が僕の話をちゃんと聞いてくれたこと。獣人を助けるために、一緒の戦ってくれたこと!」
「ああ、そんなことか」
「そんなことかじゃないよ! 僕にとってはとっても大事なことなんだから!」
ぶんぶんと握った手を縦に振る。
一緒になって尻尾は横に振っていた。
彼女も徹夜なのに、俺とは違って元気いっぱいだな。
「嬉しそうだな」
「うん! みんな助けられたから!」
アルカは満面の笑みを見せる。
地下に囚われていた獣人たちは、エリカとセミレナによって保護、救助された。
怪我や病気になっている子もいたけど、ここでも聖女様が大活躍だ。
一瞬で治療して元気になった。
レジスタンスの面々も、騎士たちと協力して街を守った。
その光景を見ていた住民たちから感謝され、彼らの存在を認めてもらうことができた。
亜人種差別の思想は、貴族たちに根強い。
一般人にとっては、そもそも関わりもなかったから、そこまで強くは浸透していないらしい。
不安はあるが、助けられたことに感謝しているのも事実だ。
しばらくの間、この屋敷で獣人たちは暮らすことになる。
その手配もエリカがしてくれた。
いずれは新しい領主が来るだろう。
願わくは、その領主がまともな人で、亜人種を差別しない善人であってほしい。
エリカが選ぶみたいだし、きっと大丈夫だろう。
そんなわけで、この街で起こった事件は無事に解決。
獣人たちも居場所を手に入れた。
一時的かもしれないが、平和を守ったんだ。
「我ながらよく頑張ったな」
「ソウジ君凄かったよ! なんかいつもと雰囲気違ったけど」
「た、戦いの中で人は変わるのさ」
「へぇ、そうなんだ!」
アルカが純粋で助かった。
変に追及されると、絶対にボロが出るからな。
エリカの時みたいに。
「ソウジ君、前に馬車で聞いたよね?」
「ん?」
「僕がなんで戦士のなったのか」
「ああ、聞いたな」
何となくした質問。
あの時は、秘密と言われ答えてもらえなかった。
「僕が戦士になったのは、勇者パーティーに選ばれたかったからだよ」
「え?」
アルカはベランダから見える景色を眺めながら語る。
「強い戦士になって選ばれて、魔王を倒したい。獣人の血を引いてる私が魔王を倒したら、同じように苦しんでいる人たちも助けられるかなって」
「そういうことか」
獣人、あるいは亜人種の社会的地位を改善する。
アルカはそのために戦いを磨き、勇者パーティーに選ばれる戦士になった。
自分のために、じゃなくて。
同じように苦しむ誰かのために、というのが彼女らしい。
「いい理由だな」
「そう思ってくれる?」
「ああ。アルカの優しさが伝わってくる」
「えへへっ」
嬉しそうに微笑む。
きっと強さだけが基準じゃない。
その無垢な優しさも、彼女が選ばれた理由なのだろう。
「秘密なのに言ってよかったのか?」
「うん! ソウジ君は特別!」
「特別か」
「そうだよ! ソウジ君なら話してもいいかなって! 笑わないで聞いてくれる気がしたから」
「俺じゃなくても笑わないと思うぞ? 少なくともエリカとセミレナは」
「そうだね。二人も笑わないと思う。でも……」
アルカは俺のほうへ振り向き、もじもじしながら言う。
「ソウジ君に、一番に聞いてほしかったんだ」
「アルカ……」
「それにね? 相談、したこともあって」
「相談?」
「うん、えっとね……」
もじもじするアルカ。
言いにくい話ということは、また獣人絡みの相談か?
せっかく頼ってくれているんだ。
ここは年上のお兄さんっぽく振る舞おう。
年上どうか知らないけど。
「なんでもいいぞ。話してくれよ」
「うん! その……なんか変なんだよ」
「変?」
「……ソウジ君を見てるとね? 身体がポカポカしてくるんだ」
「――え?」
アルカは頬を赤らめて、上目遣いで俺を見る。
なんだその相談は……。
ポカポカって何?
表情とか声が妙に色っぽいし。
「ポカポカ?」
「うん。それに、ドキドキする……心臓がうるさいんだ」
「そ、そうか……」
おい、おいおいおい!
まさか?
まさかなのか?
「ほ、他には?」
「ソウジ君のこと、ずっと考えてる」
これは来たんじゃないか?
この世に生まれて二十年!
一度も来なかった春が、モテ期到来か!?
1
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

収納大魔導士と呼ばれたい少年
カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。
「収納魔術師だって戦えるんだよ」
戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる