通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
12 / 35

幽霊が仲間になりました②

しおりを挟む
 俺が素直に喜べない一番の理由。
 それはこいつだ。
 さっきから俺の背後でブツブツ言ってる侍!

「伝えたであろう? 拙者は流浪の侍でござるよ」
「そうじゃなくて! なんで侍が俺のスタンドみたいになってんの?」
「スタンド? なんでござるか?」
「背後霊みたいになってるんだって意味だ!」

 咄嗟に某漫画のネタが飛び出したが、まさに状況的にはそんな感じなんだ。
 あの戦いで侍に身体を乗っ取られた後、すぐに肉体の主導権は俺に戻ってきた。
 それはよかったのだが……。
 侍は幽霊みたいな半透明の状態で、俺の背後に浮かんでいる。
 姿は俺にしか見えていないらしく、声も俺だけに聞こえている。

「実際、拙者は幽霊でござるよ」
「ま、まじか……」
「左様。その刀、生前に拙者が愛刀として使っていたものでござるな」
「こいつが……」

 今も腰に携えている妖刀。
 この刀に、目の前の幽霊が宿っていたということらしい。
 幽霊が憑依してるって、マジの妖刀じゃないか。

「いかにも妖刀でござるな」
「――! お前! もしかして俺の心を……」
「わかるでござるよ? 拙者の魂は今、お主の肉体に宿っているでござる。故に、拙者にはお主の感情が理解できる」
「まじかよ……」

 思ったことが全部こいつに伝わるってことか?
 なんて羞恥プレイだ。

「それだけではござらん。お主の肉体に宿る記憶も、少々覗かせてもらったでござるよ」
「は?」

 記憶……?
 っておい、まさかと思うが……。

「おかげで、お主が置かれている状況。この世界についての知識も得ることができた。感謝しているでござるよ」
「プライバシーって言葉知ってるか!」
「もちろん知っているでござる。お主の記憶にあった言葉や知恵ならば、すでに学習済みでござるからな。難しいことはわからんが」
「くっそがぁ!」

 最悪すぎるだろ!
 感情が漏れるどころか、これまでの記憶も全部筒抜けってこと?
 プライバシーの侵害だぞ。
 こういう場合はどこに訴えればいいんだ?
 裁判所……この世界に裁判所はないのか!

「あっても無意味でござろう。今の拙者は亡者故に、お主以外には見えぬ。聞こえもせぬ声を代弁したところで、お主が変人と思われるだけでござるな」
「くっ……」

 詰んでるじゃないか。
 俺以外に認識できないことは利点もあるが、要するに誰にも相談できないという意味でもある。
 この特大の厄ネタを、俺一人で処理しろっていうのか?
 絶対無理だから……。

「っていうか、そこまでわかるなら自分が何者かくらいわかるだろ」
「それがわからないのでござるよ」
「は? なんで?」
「拙者にわかるのは、その刀が拙者の愛刀であったこと。拙者が侍であったこと……そして、この身に染みついた剣術のみでござる」

 侍は自分の右腕を左手で強く握りしめる。
 もどかしさが伝わってくる。
 俺の感情が彼に伝わるように、彼の感情も俺に伝わるようだ。
 なんとも奇妙な気持ちになる。
 心の中に大きな穴がぽっかりと開いたような……。

「お前……」
「すまぬな。拙者にも、なぜこうなったのかわからないのでござるよ。ただ未練はあった……そうでなければ、妖刀になどならぬ故に」
「未練……何なんだ?」
「わからないでござるよ」

 彼は寂しそうに笑う。
 心に空いた大きな穴から、寂しさと虚しさが伝わってくる。
 そんな感情を共有されたら、怒るに怒れないじゃないか。

「まぁ、助かったのは事実だしな。ありがと」
「礼には及ばないでござるよ。拙者も驚いた。お主が初めてでござった。拙者の魂を呼び覚まし、憑依されることができたのは」
「そうなのか? なんで俺だけ?」
「推し量るに、拙者の魂との相性があるのでござろう」
「相性……」

 男と相性バッチリなんて全然嬉しくないな

「そう寂しいことを言わないでほしいでござる。お陰でこうして意思を表に出せる。久方ぶりに、世界を感じることができた。感謝しているでござるよ」
「そりゃどうも」

 結局、何もわからないってことか。
 何かないか?
 こいつの正体に繋がるヒントみたいな……。

 ふと思い出す。
 バルバトスとの戦闘を。

「燕返し……」
「む? 拙者の剣術がどうかしたか?」
「燕返しって、あの有名な佐々木小次郎の技だろ!」
「佐々木……小次郎?」

 巌流、佐々木小次郎。
 物干し竿と呼ばれる長刀を扱う大剣号で、宮本武蔵との決闘は現代にも伝わるほどの名決闘だ。
 彼の真骨頂とも呼べる技こそ、燕返し。
 空を自由に飛ぶ燕を斬り落とすために生まれた絶技。
 辛うじて見えたのは、複数の斬撃をほぼ同時に振るっていたこと。
 あれが燕返しだというなら、この男こそが佐々木小次郎本人ということになる。
 ゲームや漫画でも登場するキャラクターだ。
 もしもそうならテンションが上がる。

「はて……名は聞いたことがある気はするが……きっと違うでござる」
「な、なんで?」
「勘でござるよ」
「勘? そんなテキトーな……」
「テキトーではござらん。拙者が何者かは未だにわからぬが、佐々木小次郎という名ではないことはわかるでござるよ」

 侍はそう断言してしまった。
 彼の感情も伝わるから、心からそう思っていることもわかる。
 ここまでハッキリと明言するんだ。
 本当に違うのだろう。

「確かに……」

 佐々木小次郎なら物干し竿のような刀を使うはず。
 実際の歴史がどうかは知らないけど、少なくともこの男の愛刀は、物干し竿と呼ぶには短い。

「別人なのか……」

 なんかガッカリしたな。

「うむ。期待に沿えずに申し訳ない。だが名がないと不便でござるな! 思い出すまでは、拙者は小次郎と名乗るでござるよ」
「好きにしてくれ」

 偽者の勇者と、偽者の佐々木小次郎のセットか。
 ははっ、どんなギャグだよ。

「そういえば、お主の名は聞き覚えがあるでござるな」
「え?」
「宮本、総司……うむ。生前、似た名前の剣士に会ったことがある、気がするでござる」
「それって……」

 宮本武蔵のことじゃないか?
 だとしたらやっぱり?

「いや、覚えがあるのは名のほうだ。性ではない」
「総司のほう?」
「そうでござる。ソウジ、総司……懐かしさすら感じるでござるな」

 小次郎の感情が流れ込んでくる。
 俺の名前は、とある幕末の剣士からとったものだと、以前に父親から教えてもらった。
 新選組一番対組長、沖田総司。
 幕末の怪物、最強の剣豪と呼ばれた男の名を貰った。
 俺の父親は新選組が好きらしく、中でも沖田総司がお気に入りだから、子供の名につけたらしい。
 おかげで俺の名前は、宮本総司という時代が違う剣豪をミックスした感じになった。
 名前だけで剣道部にスカウトされたこともある。
 まったくいい迷惑だ。

「沖田……沖田総司! 知っている気がするでござるよ!」

 俺の心の声を読み取って、小次郎はひらめいたような顔を見せる。
 沖田総司は幕末の武士だ。
 それを知っているということは……。

「お前も幕末の武士か?」
「かもしれぬ」

 幕末ってことは、本格的に佐々木小次郎とは別人だな。
 いよいよ誰なんだ?
 沖田総司を知っているなら、新選組の隊士だったとか?

「ダメだ。わからん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...