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周りの騎士たちが慌て始める。
またしても情けない、とはさすがに思えない。
ドラゴンは魔物の頂点に君臨する存在であり、大きい個体であれば一匹で都市を壊滅させるだけの力を持っている。
私たちの前に現れたドラゴンは、その中でも特に大きい。
足が竦むのも無理はない。
「そういうことか。こいつから逃げるために魔物たちは大移動を」
「みたいですね。ドラゴンは食料を求めて魔物の群れを追ってきたのでしょう」
そして激怒している。
自らの餌を狩りつくした私たちに対して。
赤い瞳が私たちを睨む。
もはや戦闘は避けられない。
「君は他の騎士たちを連れて逃げるんだ」
「え?」
「ここは俺に任せてくれ」
「何を言ってるんですか? 逃げろって、私に?」
他の人たちに対してならわかる。
今この場で、並みの魔法騎士では足手纏いにしかならない。
ドラゴンと戦える魔法使いは限られる。
例えば私がその一人……いや、このドラゴン相手なら私じゃないと太刀打ちできない。
私の噂を聞いているなら知っているはずだ。
「私は守られるほど弱くありませんよ」
「強いとか弱いとか、そんなの関係ないよ」
「え?」
「女性を守るのは男として当然の役目だからな」
そう言って彼は微笑む。
優しく、強さを持った瞳で。
「さぁ早く行くんだ! いつまでも暢気にしてると――」
ドラゴンが大きく顎を開く。
凄まじい魔力が口に集まり、破壊のエネルギーとして圧縮されていく。
「ドラゴンブレスか! 面白い。俺が斬り裂いてやろう!」
「……」
女性を守ることは当たり前……。
私のことを女性として扱ってくれた。
守るなんて言われたことも、生まれて初めてかもしれない。
「いつまでそこにいるつもりだ! いいから逃げるんだ!」
本心はわからない。
彼がどこまで私のことを知っているのかも。
上辺だけの言葉だったのかもしれない。
それでも……。
「エレメス嬢?」
少しだけ嬉しかった。
だから――
「ありがとう」
感謝の気持ちを込めて、彼を守る。
右手をドラゴンに向けてかざし、特大の魔法陣を展開させる。
ドラゴンはすでにエネルギーの蓄積を完了していた。
対する私も即座に魔力を高める。
ドラゴンがブレスを放つ。
「――ブロックバスター」
そのブレスごと吹き飛ばす爆裂魔法を発動。
轟音と地響き。
前方数キロメートルが消失する威力を発揮し、ドラゴンは跡形もなく吹き飛んだ。
一撃で地形が変わる威力を出したのは久しぶりだ。
気持ちが高ぶって、いつも以上に力が入ってしまったせいだろう。
これで脅威は去った。
辺りは静かになって、風の音がよく聞こえる。
こういう時、振り返らなくてもわかる。
どうせみんな驚いて、怯えている。
だから誰も声をかけてこない。
生き残ったことを喜ぶ声すらあがらない。
こんなんじゃ……悪魔って言われても仕方がないかな。
きっと彼も唖然としているに違いない。
女性として扱ってくれたことは嬉しかったけど、あれが最初で最後だったはずだ。
別に後悔はしていない。
お互いに違う国の人間同士、もう会うこともないだろうと――
「――綺麗だ」
それは思ってもみない一言だった。
私は思わず振り返る。
声の主は瞳を輝かせ、まっすぐに私のことを見ていた。
そこに困惑や恐怖は宿っていない。
「凄いな! こんなにも綺麗な光景は初めて見たよ!」
「き、綺麗? 今のが?」
「ああ! あのドラゴンを一瞬にして消し飛ばした光はすさまじかった! 気がつけば青空がよく見えるようにもなっている! 何より、魔法を使う君の姿が印象的で、とても綺麗だった」
「なっ、え……?」
この人は何を言っているの?
魔法を使う私が綺麗?
「じょ、冗談はやめてください。綺麗なわけないじゃないですか」
「紛れもない本心だ! 魔法を使う君の姿を美しいと思ったんだ。俺が今まで見てきたどんな女性より、どんな光景よりも」
彼は視線を逸らさない。
嘘はないと訴え掛けるように、私の瞳から目を放さない。
彼は私の手を握る。
「エレメス嬢! 俺は君のことが知りたくなった」
「――え、えっと……そ、それって」
「どうやら俺は、君に一目惚れしたみたいだ」
彼の声を聞いた。
その時、鼓動の高鳴りを感じた。
またしても情けない、とはさすがに思えない。
ドラゴンは魔物の頂点に君臨する存在であり、大きい個体であれば一匹で都市を壊滅させるだけの力を持っている。
私たちの前に現れたドラゴンは、その中でも特に大きい。
足が竦むのも無理はない。
「そういうことか。こいつから逃げるために魔物たちは大移動を」
「みたいですね。ドラゴンは食料を求めて魔物の群れを追ってきたのでしょう」
そして激怒している。
自らの餌を狩りつくした私たちに対して。
赤い瞳が私たちを睨む。
もはや戦闘は避けられない。
「君は他の騎士たちを連れて逃げるんだ」
「え?」
「ここは俺に任せてくれ」
「何を言ってるんですか? 逃げろって、私に?」
他の人たちに対してならわかる。
今この場で、並みの魔法騎士では足手纏いにしかならない。
ドラゴンと戦える魔法使いは限られる。
例えば私がその一人……いや、このドラゴン相手なら私じゃないと太刀打ちできない。
私の噂を聞いているなら知っているはずだ。
「私は守られるほど弱くありませんよ」
「強いとか弱いとか、そんなの関係ないよ」
「え?」
「女性を守るのは男として当然の役目だからな」
そう言って彼は微笑む。
優しく、強さを持った瞳で。
「さぁ早く行くんだ! いつまでも暢気にしてると――」
ドラゴンが大きく顎を開く。
凄まじい魔力が口に集まり、破壊のエネルギーとして圧縮されていく。
「ドラゴンブレスか! 面白い。俺が斬り裂いてやろう!」
「……」
女性を守ることは当たり前……。
私のことを女性として扱ってくれた。
守るなんて言われたことも、生まれて初めてかもしれない。
「いつまでそこにいるつもりだ! いいから逃げるんだ!」
本心はわからない。
彼がどこまで私のことを知っているのかも。
上辺だけの言葉だったのかもしれない。
それでも……。
「エレメス嬢?」
少しだけ嬉しかった。
だから――
「ありがとう」
感謝の気持ちを込めて、彼を守る。
右手をドラゴンに向けてかざし、特大の魔法陣を展開させる。
ドラゴンはすでにエネルギーの蓄積を完了していた。
対する私も即座に魔力を高める。
ドラゴンがブレスを放つ。
「――ブロックバスター」
そのブレスごと吹き飛ばす爆裂魔法を発動。
轟音と地響き。
前方数キロメートルが消失する威力を発揮し、ドラゴンは跡形もなく吹き飛んだ。
一撃で地形が変わる威力を出したのは久しぶりだ。
気持ちが高ぶって、いつも以上に力が入ってしまったせいだろう。
これで脅威は去った。
辺りは静かになって、風の音がよく聞こえる。
こういう時、振り返らなくてもわかる。
どうせみんな驚いて、怯えている。
だから誰も声をかけてこない。
生き残ったことを喜ぶ声すらあがらない。
こんなんじゃ……悪魔って言われても仕方がないかな。
きっと彼も唖然としているに違いない。
女性として扱ってくれたことは嬉しかったけど、あれが最初で最後だったはずだ。
別に後悔はしていない。
お互いに違う国の人間同士、もう会うこともないだろうと――
「――綺麗だ」
それは思ってもみない一言だった。
私は思わず振り返る。
声の主は瞳を輝かせ、まっすぐに私のことを見ていた。
そこに困惑や恐怖は宿っていない。
「凄いな! こんなにも綺麗な光景は初めて見たよ!」
「き、綺麗? 今のが?」
「ああ! あのドラゴンを一瞬にして消し飛ばした光はすさまじかった! 気がつけば青空がよく見えるようにもなっている! 何より、魔法を使う君の姿が印象的で、とても綺麗だった」
「なっ、え……?」
この人は何を言っているの?
魔法を使う私が綺麗?
「じょ、冗談はやめてください。綺麗なわけないじゃないですか」
「紛れもない本心だ! 魔法を使う君の姿を美しいと思ったんだ。俺が今まで見てきたどんな女性より、どんな光景よりも」
彼は視線を逸らさない。
嘘はないと訴え掛けるように、私の瞳から目を放さない。
彼は私の手を握る。
「エレメス嬢! 俺は君のことが知りたくなった」
「――え、えっと……そ、それって」
「どうやら俺は、君に一目惚れしたみたいだ」
彼の声を聞いた。
その時、鼓動の高鳴りを感じた。
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