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 彼女の名前はシリカ・フォートレア。
 二つ離れた私の、腹違いの妹だ。

「どうしてシリカがここに?」
「僕が呼んだんだよ。君に紹介したくてね」
「紹介?」

 私は首を傾げる。
 シリカは私の妹で、生まれた時から知っている。
 今さら紹介されることなんて……しかも他人に教えられることなんてない。
 そう思っていた私は、目を、耳を疑う。
 彼はシリカの肩に手を回し、肩と肩を近づける。
 それおおよそ他人同士の距離感ではなかった。
 まるで、愛し合う恋人のような――

「彼女が僕の新しい婚約者、シリカだよ」
「……え?」

 婚約者……?
 聞き間違いじゃない、よね?
 だって見るからに……。

「驚かせてしまったようだね」
「ごめんなさいお姉さま。本当はもっと前からお付き合いしていたんです」
「もっと前って……」

 いつからなのかは知らない。
 ただの事実として、二人はそういう関係になっていた。
 私が知らない間に。
 私という婚約者がいながら、彼は別の女性と付き合っていた。
 
 浮気されてた?

「先に断っておくけど、彼女は何も悪くないよ。むしろ君が感謝するべきなんだ。君への不安を抱えていた僕を、陰でずっと支えてくれていたんだから」
「そんな、私はただシーベルト様のお話を聞いていただけですよ」
「ふふっ、それが僕にとっては救いだったのさ。君を見ていると癒されたよ。久しぶりに幸せを感じられたんだ」
「嬉しいです。私もシーベルト様と一緒に時間を過ごせて幸せです」

 イチャ、イチャ、イチャイチャ――
 目の前で仲の良さを見せつけられている。
 甘い声で肌を触れ合わせるシリカに、シーベルトはデレデレだ。
 この瞬間、私は察した。
 さっきまでシーベルトが口にした理由が、一番ではないことに。
 後付けではないにしろ、根本の理由は違う。

「ああ……そういうこと」

 結局のところ、彼はシリカに心移りしただけなんだ。
 もっともらしい理由を盾にして、自分は被害者ですみたいな顔をして。

「シリカは本当に可愛いな。こうして出会えたことが奇跡のようだよ」
「私も同じ気持ちです。シーベルト様」

 シリカのほうが可愛いから浮気しただけ。
 彼女と婚約者になりたいから、邪魔な私との関係を終わらせた。
 ちょうどいい機会だとでも思ったのだろう。

 申し訳ないと思った。
 けど今は、その気持ちを返してほしいと思っている。
 ただの浮気男に同情なんてするものかと。
 
「もう、いいですか?」
「ああ。今までありがとう」
「気を落とさないでください、お姉さま。お姉さまにもきっと、素敵な殿方との出会いがありますよ」
「……そうね。そうだといいわ」

 心にもないセリフをありがとう。
 私は内心では棘のある言葉を口にして、その場を後にした。
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