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「エレメス。君との婚約を破棄したいんだ」
「……え?」

 その日は唐突にやってきた。
 なんてことはない。
 いつものように魔法騎士団の任務を終えて隊舎に戻ると、ホールで私の婚約者であるシーベルトが待っていた。
 たぶん悪い話なのだろうということは一目見てわかった。
 普段の彼はニコニコしていて、優しくて温かな視線を向けてくれる。
 顔を合わせた時の第一声も、必ず労いの言葉だった。

 だけど……。

 この日に限っては、一瞬も笑っていなかった。
 真剣というより、見放すような冷たい目をしていた。
 それでも考えていなかった。
 七年も続いたこの関係が、まさか唐突に終わりを迎えるなんて。

「あ、えっと……い、今なんとおっしゃったのですか?」
「何度でも言うよ。君との婚約を破棄したいんだ。エレメス」

 彼は目を逸らしながら二度目も同じセリフを口にした。
 聞き間違いではなかった。
 彼の口からハッキリと、婚約破棄の言葉が聞こえてきた。
 私は数秒固まってしまう。
 思考も、身体も、ビタッと固まって動けない。
 予想外過ぎて、信じられなくて。
 だから私は聞き返す。

「ど、どうして急に?」
「急……か。確かに君にとっては唐突な話だったかもしれない。ただ、僕にとってはそうじゃない。ずっと前から考えてきたことなんだ」
「前から? い、いつから?」
「君が魔法騎士団に入ってすぐの頃からだよ」

 私が魔法騎士団に入ったのは、今から五年前。
 当時、最年少である十三歳での入団。
 加えて騎士団では数少ない女性ということもあって注目を浴びていた。
 私とシーベルトは家同士の付き合いもあって、物心ついたころから面識がある。
 いわゆる幼馴染という関係で、小さい頃はよく一緒になって遊んだ。
 彼も私も魔法の資質があったから、両親の目を盗んで勝手に魔法の練習をしたこともあった。
 婚約者の話が来た時も、お互いにすぐ受け入れることができた。
 よく見知った間柄で信頼関係も築けていたし、何より一緒にいて安心できた。
 少なくとも私は、彼に好意を抱いていた。
 彼も同じ気持ちだと……思っていた。

「五年も……前から?」
「ああ」
「……どうして?」

 もう一度同じ質問を口にした。
 ショックはあれど次第に落ち着きを取り戻していく。
 頭も晴れてきて、冷静に考えられるようになってきた。
 だけどわからない。
 婚約破棄をされるような出来事が思い浮かばない。
 彼に何か失礼なことをしてしまったのだろうか?
 そんなことした覚えはない。
 彼はゆっくりと口を動かす。

「理由はいくつもある。ただ一番は……君が強すぎることだよ」
「……へ?」

 またしても予想していなかった言葉に私は固まってしまう。
 そんな私を見てなのか、彼は小さくため息をこぼす。

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