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三女サーシャ
⑧
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「ねぇおじさん、ずっと気になってたことがあるんだけど」
「ん? 何だよ」
「おじさんって昔は騎士さんだったの?」
「ああ、一応な」
「何でやめちゃったの?」
「それはまぁ……色々あったんだよ」
おじさんの言い方には含みが感じられた。
色々の中には、本当にたくさんの事情が隠されていそう。
「じゃあさ! おじさんのこと教えてよ!」
「急だな」
「だってせっかく時間があるんだもん」
ボクらは依頼を終えて冒険者ギルドにいる。
普段よりも依頼が早く片付いて、帰る時間まで暇になってしまった。
いつもの場所で座ってのんびり過ごしていて、ふと思い出す。
そういえばボク、あんまりおじさんのことを知らないんだよね。
前に助けた貰った時も、結局聞けなかったし。
ちょうど時間もあるから、おじさんのことが知りたいな。
「ダメかな?」
「別に駄目じゃねぇけど」
「本当? じゃあお願いします!」
「う~ん、でもなぁ。自分語りは面倒臭し、大して面白くもないしな。やっぱなしだ」
「えぇー!」
おじさんは気だるげにそう言った。
ボクはガッカリして、顔をムスッとさせる。
すると――
「ならば私から話そうか?」
「ん?」
「誰?」
声をかけてきたのは、フードを被った怪しい男性だった。
ボクにも怪しいってことがわかるくらい、全身をマントで隠している。
ただならぬ雰囲気を感じるけど、一体誰なんだろう。
と思っていたら、おじさんが言う。
「ジュードか」
「久しぶりだね、タチカゼ」
「おじさんの知り合い?」
「ああ。現王国騎士団の団長さんだ」
「き、騎士団ちょ――!」
おじさんがボクの口を慌てて塞いだ。
「声がでかい!」
「あっははは、すまないね。隣に座らせてもらうよ?」
「おう。何しに来たんだ?」
「その前にタチカゼ、彼女を離してあげたらどうだ?」
「ぅ~」
ボクは口を押さえられたままだ。
苦しくてじたばたしている。
「あっ、悪いな」
「ぷはー! もう死ぬかと思ったよ」
「お前がでかい声で騒ごうとするからだろ」
「うぅ~ ごめんなさい」
「いや、謝らなくてもいいさ。私が不用意に声をかけたのが悪い」
フードから見える顏は、とても優しくて綺麗だった。
とても騎士団のトップには見えない。
「初めまして、私はジュード・クレイス。アトワール王国騎士団の団長をしている」
「ぼ、ボクはサーシャって言います!」
「うん、よろしくね。サーシャちゃん」
声や話し方も丁寧でやさしい。
なんというか、大人の男性って感じがする。
おじさんの知り合いみたいだけど、全然違うタイプの人だ。
「あの、おじさんとはお知り合いなんですか?」
「そうだよ。私と彼は騎士団の同期でね」
「どうき?」
「同じタイミングで騎士団に入ったってことだ」
おじさんが付け加えてくれた。
よく聞くと、年齢も二人は同じらしい。
ボクはじーっとおじさんを見つめる。
「何だよ」
「おじさんって……老けてるの?」
「ぶっ! こいつと比べるな! こいつが若々しすぎるんだよ!」
慌てるおじさんも可愛い。
そんなボクたちを見て、ジュードさんは笑っていた。
「おいジュード、何笑ってるんだ?」
「いやすまない。そんな風に取り乱すお前を見るのは、久しぶりだったものでな」
「ジュードさんは昔のおじさんを知ってるの!?」
「もちろんだとも。共に剣を磨き、高め合った戦友だからね。まぁ彼は王国にほとんどいなかったが」
そう言いながら、ジュードさんはおじさんに視線を送る。
ボクはおじさんに質問する。
「そうなの? おじさん」
「まぁな。色々あって騎士にはなったが、オレには合ってなかった。そんで適当にいろんな場所を回って、ついでに悪い奴らを斬りまくってたんだよ」
「そうして噂が広まり、最強の遍歴騎士と呼ばれることになっていたよ」
遍歴騎士とは、様々な目的で各地をあるいた騎士のこと。
おじさんの場合は、自分の剣技を極めるための旅だったらしい。
「何でやめちゃったの?」
「……まぁ色々あったんだよ」
「タチカゼ、話して上げてもいいんじゃないか? この子はお前を信頼しているようだし」
「ジュード……そうだな。別に隠すことでもない」
そう言って、おじさんはなくした左腕に触れる。
「十年前、この国を悪魔が襲ったんだよ」
「悪魔!?」
「そう。めちゃくちゃな強さでな、当時の騎士団長も殺された。この街の近くまで攻め込んできたから、オレとジュードで戦ったんだ」
「ああ」
「そんときにヘマしてな。片腕をもっていかれちまった。何とか勝ったものの、半年くらいまともに動けなかったよ」
おじさんは自分の剣技を極めたかった。
その夢が、片腕を失ったことで遠のいてしまった。
次に動けるようになったときは、何もかも面倒になっていたという。
「もういいやってなってさ。騎士団も辞めて、冒険者に転職した。そんで今に至るってわけだ」
「……そう、なんだ」
話している時、おじさんは切なげな表情をしていた。
ボクにはおじさんの気持ちがわからない。
だけど、辛かったんだろうとは思う。
おじさんはボクの暗い表情を見てため息をこぼし、頭をポンと叩く。
「なんて顔してんだよ」
「おじさん」
「もう終わったことだ。別に後悔もしてないし、お前が落ち込むことじゃねーだろ」
「……うん」
おじさんの手は大きくて優しい。
この手でたくさんの人たちを守って来たんだと思うと、やっぱり悲しくなる。
「ん? 何だよ」
「おじさんって昔は騎士さんだったの?」
「ああ、一応な」
「何でやめちゃったの?」
「それはまぁ……色々あったんだよ」
おじさんの言い方には含みが感じられた。
色々の中には、本当にたくさんの事情が隠されていそう。
「じゃあさ! おじさんのこと教えてよ!」
「急だな」
「だってせっかく時間があるんだもん」
ボクらは依頼を終えて冒険者ギルドにいる。
普段よりも依頼が早く片付いて、帰る時間まで暇になってしまった。
いつもの場所で座ってのんびり過ごしていて、ふと思い出す。
そういえばボク、あんまりおじさんのことを知らないんだよね。
前に助けた貰った時も、結局聞けなかったし。
ちょうど時間もあるから、おじさんのことが知りたいな。
「ダメかな?」
「別に駄目じゃねぇけど」
「本当? じゃあお願いします!」
「う~ん、でもなぁ。自分語りは面倒臭し、大して面白くもないしな。やっぱなしだ」
「えぇー!」
おじさんは気だるげにそう言った。
ボクはガッカリして、顔をムスッとさせる。
すると――
「ならば私から話そうか?」
「ん?」
「誰?」
声をかけてきたのは、フードを被った怪しい男性だった。
ボクにも怪しいってことがわかるくらい、全身をマントで隠している。
ただならぬ雰囲気を感じるけど、一体誰なんだろう。
と思っていたら、おじさんが言う。
「ジュードか」
「久しぶりだね、タチカゼ」
「おじさんの知り合い?」
「ああ。現王国騎士団の団長さんだ」
「き、騎士団ちょ――!」
おじさんがボクの口を慌てて塞いだ。
「声がでかい!」
「あっははは、すまないね。隣に座らせてもらうよ?」
「おう。何しに来たんだ?」
「その前にタチカゼ、彼女を離してあげたらどうだ?」
「ぅ~」
ボクは口を押さえられたままだ。
苦しくてじたばたしている。
「あっ、悪いな」
「ぷはー! もう死ぬかと思ったよ」
「お前がでかい声で騒ごうとするからだろ」
「うぅ~ ごめんなさい」
「いや、謝らなくてもいいさ。私が不用意に声をかけたのが悪い」
フードから見える顏は、とても優しくて綺麗だった。
とても騎士団のトップには見えない。
「初めまして、私はジュード・クレイス。アトワール王国騎士団の団長をしている」
「ぼ、ボクはサーシャって言います!」
「うん、よろしくね。サーシャちゃん」
声や話し方も丁寧でやさしい。
なんというか、大人の男性って感じがする。
おじさんの知り合いみたいだけど、全然違うタイプの人だ。
「あの、おじさんとはお知り合いなんですか?」
「そうだよ。私と彼は騎士団の同期でね」
「どうき?」
「同じタイミングで騎士団に入ったってことだ」
おじさんが付け加えてくれた。
よく聞くと、年齢も二人は同じらしい。
ボクはじーっとおじさんを見つめる。
「何だよ」
「おじさんって……老けてるの?」
「ぶっ! こいつと比べるな! こいつが若々しすぎるんだよ!」
慌てるおじさんも可愛い。
そんなボクたちを見て、ジュードさんは笑っていた。
「おいジュード、何笑ってるんだ?」
「いやすまない。そんな風に取り乱すお前を見るのは、久しぶりだったものでな」
「ジュードさんは昔のおじさんを知ってるの!?」
「もちろんだとも。共に剣を磨き、高め合った戦友だからね。まぁ彼は王国にほとんどいなかったが」
そう言いながら、ジュードさんはおじさんに視線を送る。
ボクはおじさんに質問する。
「そうなの? おじさん」
「まぁな。色々あって騎士にはなったが、オレには合ってなかった。そんで適当にいろんな場所を回って、ついでに悪い奴らを斬りまくってたんだよ」
「そうして噂が広まり、最強の遍歴騎士と呼ばれることになっていたよ」
遍歴騎士とは、様々な目的で各地をあるいた騎士のこと。
おじさんの場合は、自分の剣技を極めるための旅だったらしい。
「何でやめちゃったの?」
「……まぁ色々あったんだよ」
「タチカゼ、話して上げてもいいんじゃないか? この子はお前を信頼しているようだし」
「ジュード……そうだな。別に隠すことでもない」
そう言って、おじさんはなくした左腕に触れる。
「十年前、この国を悪魔が襲ったんだよ」
「悪魔!?」
「そう。めちゃくちゃな強さでな、当時の騎士団長も殺された。この街の近くまで攻め込んできたから、オレとジュードで戦ったんだ」
「ああ」
「そんときにヘマしてな。片腕をもっていかれちまった。何とか勝ったものの、半年くらいまともに動けなかったよ」
おじさんは自分の剣技を極めたかった。
その夢が、片腕を失ったことで遠のいてしまった。
次に動けるようになったときは、何もかも面倒になっていたという。
「もういいやってなってさ。騎士団も辞めて、冒険者に転職した。そんで今に至るってわけだ」
「……そう、なんだ」
話している時、おじさんは切なげな表情をしていた。
ボクにはおじさんの気持ちがわからない。
だけど、辛かったんだろうとは思う。
おじさんはボクの暗い表情を見てため息をこぼし、頭をポンと叩く。
「なんて顔してんだよ」
「おじさん」
「もう終わったことだ。別に後悔もしてないし、お前が落ち込むことじゃねーだろ」
「……うん」
おじさんの手は大きくて優しい。
この手でたくさんの人たちを守って来たんだと思うと、やっぱり悲しくなる。
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