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三女サーシャ

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 グレンベルの夕暮れはとても綺麗で、この街に来て一番印象に残っている。
 東の海の青と、頭上のオレンジに染まりつつある空色、西の空に沈む太陽のオレンジ。
 三つの色が層になって重なっているようだと思った。
 
 そんなオレンジ色の夕暮れを背に、ボクとおじさんは街へ戻ってくる。

「今日もバッチリだったね~」
「何言ってやがる。ほとんどオレが頑張った結果だろうが」
「そんなことないよぉー。ボクだってちゃんと働いてたよ?」
「さぁな。小っちゃくて見えなかった」
「何だとぉー!」

 意地悪を言うおじさんのお尻を蹴り飛ばす。

「痛って! 何しやがる!」
「おじさんが意地悪なことばっかり言うからだよ!」
「うるさい奴だな~ もうちっとお淑やかになれねーもんかねぇ」

 うっ……それを言われると困るなぁ。
 お淑やかにとか、女の子らしくっていうのが、ボクには一番苦手なことだから。
 きっとおじさんもわかっていて言っている。
 ボクは小さな声で呟く。

「……イジワル」
「ん? 何か言ったか?」
「言ってないよ!」
「って! 何でまた蹴るんだよ!」

 そんな感じにワイワイと騒ぎながら、冒険者ギルドへ戻った。
 建物に入ったら、完了報告を済ませて報酬を受け取る。
 おじさんが受けた採取の依頼は、採取した物を直接見せれば良い。
 指定の数を超えていれば問題なし。
 多い分は追加報酬がもらえることもある。
 
 ボクが勝手に受けた討伐依頼の場合は、倒した魔物が落とす綺麗な結晶を提出する。
 魔法結晶と呼ばれていて、魔力をため込む力を持つ結晶だ。
 魔物によって大きさや色、形が違うから、どの魔物を討伐したかも判別できる。
 これも指定数より多ければ、その分はギルドが買い取って報酬に加算してくれる。

「確認がとれました。こちらが報酬になります」
「ほい、確かに」
「ありがとうございます!」

 おじさんが報酬を受け取り、適当なテーブルまで運ぶ。
 椅子に座ってもらった報酬を数えながら、二人分に分けていく。

「ほれ、お前の分だ」
「今日も半分こで良いの?」
「何だ? もっとほしいとかいうなよ」
「そうじゃないよ」
「じゃあ満足して貰っとけ」

 自分のほうが頑張ったと、おじさんは言っていた。
 それは確かにその通りで、働きはボクよりおじさんのほうが多い。
 だから報酬も、分けるなら半分じゃなくていいのに。
 おじさんはいつも半分ずつにしてくれる。

「ありがとね」
「急にどうしたよ」
「ううん、おじさんは優しいなぁ~って思っただけだよ」
「なっ、いきなりそういうこと言うなって」

 ボクが素直にそう言うと、おじさんはわかりやすく照れた。
 こういう見た目のと違いも可愛くて、おじさんの好きな所だったりする。

「というかあれだな。サーシャも前より、ちっとは動けるようになってきたな」
「え、本当?」
「ああ。まだまだ危なっかしい所もあるけどな。最初にあった頃よりは幾分マシになったと思うぞ」
「そっかぁ~ えへへっ、ありがとう。全部おじさんのお陰だね」
「は? 別にオレは何もしてないぞ」

 謙遜するおじさんに、ボクはぶんぶんと首を横に振って言う。

「おじさんが助けてくれたから、ボクは今も冒険者を続けられてるんだもん。だからおじさんのお陰で間違いないよ!」

 三か月前のことを、昨日のことのように覚えている。
 あれはそう、ボクたちがグレンベルの街に来て一週間が経ったころだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「サーシャ、本気なの?」
「ボクは本気だよ!」
「危ないと思う」
「大丈夫! お城でも訓練はずーっと受けてたもん。自慢じゃないけど、騎士さんたちにも勝ったことあるんだかね!」

 冒険者になりたい。
 そう言ったボクに、お姉ちゃんたちは心配して色々と聞いてきた。
 家を借りて一週間で、街で普通に暮らせるようにはなった。
 後はお金を稼ぐために、それぞれが仕事につくという話になって今に至る。

「何を言われたってやるよ! だってそれが、ボクのやりたいことだもん」
「……そう。じゃあもう止めないわ。その代わり、絶対に無茶はしないでね?」
「わかってるよ。ボクだってお姉ちゃんたちに心配はかけたくないもん」

 ちゃんと大丈夫だと証明して、安心してもらいたい。
 この時のボクは、そのことで頭がいっぱいになっていた。

 必要な装備を街で買い揃え、冒険者ギルドという建物へ足を運ぶ。
 冒険者として働くには、まずは登録を済ませる必要があるらしい。
 ボクはギルドの建物前にたどり着く。

「ここがギルド……」

 ごくりと息を飲む。
 いざとなると、ちょっと緊張してきてしまった。
 ボクは深呼吸をしてから、ガチャリと扉を開けた。
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