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【追放】三姉妹聖女

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 追放の猶予期間はあっという間に過ぎる。
 三日後の朝、私たちは陛下と謁見するため王城へ訪れていた。
 私を先頭にして、妹二人が後に続いている。
 二人とも普段以上に緊張している様子がみてとれる。

「大丈夫よ。私たちはずっと一緒だから」
「アイラ……」
「うん!」

 準備は済ませてある。
 後は手はず通りに行動するだけだ。
 その前にまず、陛下と王子に直接伝えなくては。

「任せておいて。聖女らしく振舞うのは慣れているから」

 決して感づかれてはいけない。
 バレれば重い罪をかぶることになるだろうから。
 でも、きっと大丈夫。
 そのために必要なものは、ここでの生活で身につけてある。

 王座の間にたどり着き、扉の前で深呼吸をする。
 何度も訪れている場所だけど、自分の手で扉を開けるのは初めてだ。
 扉に触れ、押し開けるときに思う。

 この扉、こんなに重かったんだな。

「失礼いたします」
「……来たか」

 陛下の声には疲れがのっている。
 その発言は二重の意味で、来てしまったのかと口にしたようにも聞こえた。
 隣にいるデリント王子は、変わらずニヤニヤといやらしく笑っている。

「さっそくだが、結論を聞かせてもらおうか?」
「はい。私が聖女として残ります」

 私はハッキリとそう告げた。
 真っすぐに陛下の目を見て、嘘はないと訴えかけるように。
 陛下はしばらく黙っていたけど、長くはいた息の後で言う。

「そうか。では、他二名を偽聖女とし、国外へ永久追放とする。それで構わないのだな?」
「……はい」
「わかった。二人は明日の朝までに準備をしておくように」
「「はい」」

 さて、次は王子に言う番だ。
 私は王子に視線を向ける。
 すると、王子はニヤリと笑っていた。
 彼の頭に何が浮かんでいるのか、嫌な想像が脳裏をよぎる。
 本当に嫌気がさす。
 だから、こちらもキッパリと言ってあげよう。

「デリント王子」
「ん? 何かな?」
「先の相談ですが、丁重にお断りさせていただきます」
「ぅ……そ、そうか」
「はい。ですので、私一人です」

 妹二人は渡さない。
 そう言っていることが伝わるのは、王子だけだ。
 陛下は事情を知らなくて、キョトンとした顔をしている。

「デリント、相談とは何のことだ?」
「えっ、あー別に大したことじゃないよ父上。そうかそうか、実に残念だが仕方がないね」

 王子は誤魔化しているが、焦っているのが丸見えだ。
 陛下は王子に甘いせいで、これ以上の追及はなかったけど。
 きっと王子は心底怒っているに違いない。
 そうなると、追放される日が明日なのは、ある意味ラッキーかもしれないな。

「陛下、最後に一つだけお願いがございます」
「何だね?」
「まことに勝手ですが、しばらく一人にさせていただけないでしょうか?」
「……良いだろう。落ち着くための時間は必要だろうからな。明日からしばらく、屋敷への出入りは控えさせよう。デリント、お前もだぞ」
「わ、わかっているとも! アイラは私の大切な婚約者候補だ。うんうん、落ち着くまでゆっくりすると良い」

 陛下が王子にくぎを刺してくださった。
 ありがたい。
 王子に勝手をされては、私たちの作戦がバレてしまうかもしれないから。

「ありがとうございます」
「お礼など……言われる立場ではない」

 陛下はぼそりとそう言った。
 この決断は、陛下としても不本意なのだろう。
 私も陛下も、本当に伝えるべきはありがとうではなくて……

 ごめんなさい陛下。
 私たちは、貴方のやさしさを裏切ることになります。
 それでも、三人で幸せになる方法はこれしかないから。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 運命の朝がやって来た。
 二人は聖女の服から地味な女性服に着替えて、馬車の荷台にのり込む。
 運転は騎士の一人がやってくれて、門を出たら二人の内どちらかに交代する予定だ。

「準備はよろしいですか?」
「はい」
「大丈夫です」
「……わかりました。では出発いたします」

 騎士の一人は心配そうに屋敷の二階を見ていた。
 きっとアイラが見送りにきていないことを案じていたのだろう。
 彼女は昨日から、自室にこもりっきりで出てこない。
 陛下からの命令で、使用人も中へは入れないので、様子もわからなかった。

 屋敷を出た馬車は、王城を出発する他の荷馬車と合流する。
 六台に紛れて、王城の外へと出る。
 王女周辺は他の騎士たちが警備にあたり、暴動の被害にあわないように配慮されている。

「偽聖女を出せぇ!」
「裏切者め! 俺たちを騙してやがったなぁ!」

 荒れ狂う国民の声が響く。
 日に日に暴動は激しさを増している。
 それも今日で終わるはずだと、誰もが思っていた。

 馬車は貴族街を抜け、商店街を抜けていく。
 首都を囲う巨大な壁の向こう側は、広大な草原が広がっていた。
 門を抜けると、一台だけ馬車が道を外れる。
 ある程度の距離まで来ると、騎士が馬車を停めて降りる。

「お二人とも、私はここまでになります」
「ありがとうございます」
「運転はボクが変わるね」
「はい。では、お気をつけて」

 騎士は深々と頭を下げた。
 色々と思う所はあるのだと伝わってくる。
 サーシャが運転を代り、さらに離れていく。
 しばらくして、一本の木が見えてきた。
 後ろを振り向いても、首都は小さくて見えなくなっている。

「ここまでくれば大丈夫かな?」
「たぶん」
「じゃあ出してあげようよ!」
「そ、そうだね。きっと暑苦しくて大変」

 そう言って、二人が荷台へ向かう。
 荷台にはたくさんの荷物が積まれているが、一つだけ新たに追加した袋がある。
 袋を開くと、その中身は――

「ぷはっー! やっと出れたわ」

 元気なアイラだった。
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