婚約破棄7回目の悪役令嬢が主役になるまで ~運命に従っても幸せになれないと気付いたので好き勝手に生きようと思います~

日之影ソラ

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 移動先は、学園裏庭。
 木陰に力をつないで、影の中から顔を出す。

「ふぅ……」

 まさか初日から秘密をさらけ出すことになるなんて。
 でも、スッキリしたわ。
 これで付きまとわられる心配もない。

「今日は目立ち過ぎたわね。このまま帰ってしまたほうが――」
「なんだ? お前もサボりか?」
「――!?」

 背後から声がして、咄嗟に振り向く。
 まったく気が付かなかった。
 気配も何もない。
 声を下方向に振り向くと、木の上に赤い髪の青年が座っている。
 初めて顔を合わせる人だ。
 ただ、どこかで見たことがあるような気も……。

「……誰かしら?」
「他人に名を尋ねるときはまず自分から名乗るもんだろ?」
「……リリス・クローリー。名乗ったわよ」
「クローリー……ああ、白紙の運命書」

 私はびくりと身体を震わせる。
 その秘密を知っているのは、クローリー家の人間だけだった。
 話したのはついさっきだ。
 噂が広まったとは思えない。
 他に知っている人なんて……。

「どうしてそれを?」
「知ってるさ。この国にいる貴族の情報なら基本全部な。別に知りたくて知ったわけじゃないぞ」
「……答えになって、そのペンダント」

 彼の首からかけられたペンダントは、王族だけが身に着けることを許されたもの。
 つまり彼は――

「王族なの?」
「ああ。ベルガス・フォートネリアだ。よろしくな、リリス」

 ベルガス……第三王子。
 彼の噂を耳にしたことがある。
 確か彼は――

「運命書を燃やしたっていうのは本当なの?」
「ん? ああ」
「どうして? あなたも白紙だったのかしら?」
「知らないぞ? 中身は見てもいないからな」

 見てもいない……ですって。
 驚きで両目がぱっちりと開く。

「だってそうだろ? 俺は運命なんて信じちゃいない。見る必要もない」
「……どうして? 王族は運命書が正義だと、長年示してきたはずよ。だから今も」
「ああ、それが間違いだと思ってる。少なくとも俺はな」
「……だったら、あなたは何に従うの?」

 私の質問にニヤリと笑みを浮かべる。
 木から飛び降り、私の前に立つ。

「決まってる。俺がどうしたいか、だよ」
「――!」

 それはまさに、私が最後にたどり着いた結論だった。

「これは俺の人生だ。だったら未来は俺が決める。神様の決めた運命なんてまっぴらだ! 何が正しくて幸せかなんて、人それぞれだろ?」
「……そうね」

 まるで、私の選択を肯定してくれているような気がした。
 ちょっとだけ、心が軽くなる。
 こんなことをしても未来は変わらない。
 決断しても、少しの迷いはあったから。

「噂通りの変わり者ね」
「別にいいさ。他人に何を思われても関係ない。俺は俺だからな」
「ええ、その通りだわ。私も……もうどうでもいい」

 今ならもっと、強く思える。
 私の選択は間違いじゃないと。
 胸を張って言い切れる。

「私に定められた運命なんてなかった。だから、私の運命は私が決めるわ」
「いいなそれ。初対面だけど、なんだかお前とは気が合いそうだ」
「ええ、私も同じことを思ったわ」

 理解し合えるはずはないと。
 誰にもわかってもらえないと思っていた。
 けど、世界にはいるんだ。
 こういう、普通じゃないおかしな人が。
 私の選択を、笑って肯定してくれそうな人が。

「運命大嫌いな者同士、これから仲良くやろうぜ。リリス」
「こちらこそ、ベルガス殿下とお近づきになれて嬉しいわ」
「ベルでいい。俺は王族っていう立場も、そんなに好きじゃないんだ。学園の中じゃ地位も立場も関係ない。ただの一生徒だ」
「そうね……ベル」

 この時の私は知る由もない。
 彼との出会いこそが、私の未来を決定づけるものだったことを。
 私が何者で、何のために生まれたのか。
 彼が背負うべき運命が何だったのか。
 これから世界は変わっていく。

 これは神様に嫌われた私が、主役になるまでの物語。
 運命に抗い、自らの手で幸せな未来を掴む……物語だ。
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みんなの感想(1件)

大倶利伽羅(小笠原樹)

これは先が気になる終り方ですね。
運命なんて確約されない物語に
何処まで抗えるのか。
本来 人生自体あらすじのない
自分の選択や行動で
始まったり分岐するもの・・・

おもしろい所に目をつけて
物語を綴ってますね。

他の作品も面白そうなので
読ませていただきます。

解除

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