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 ようやく会場に入れた。
 もちろんここでも気を抜けない。
 私の隣には、気の弱そうなメガネをかけた男性が座っている。

「こんにちは、隣が空いてますよ」

 彼の名前はシレン。
 貴族ではなく、平民から学園に入学した青年。
 私の三番目の相手。
 
「遠慮しておくわ」
「そ、そうですか」

 彼との関係は他とは違う。
 平民と貴族、溝は大きかったけれど、彼は魔法使いとして優れた才能を持っていた。
 彼を取り込みたいお父様に誘導され、半ば強引に婚約者になった。
 当然そんな方法じゃ上手くいくはずもなく、結果的に彼は逃げ出してしまった。
 ある意味、彼も被害者の一人だ。
 望まぬ婚約をさせられたのだから……。
 彼に関してだけは少し同情する。

「さぁ、あと一人は……」

 入学式が始まり、新入生代表のあいさつの順番が回ってくる。
 壇上に立つのは首席で合格した彼だ。

「皆さんこんにちは、私はアブソル・ロロクロスです」

 六、七番目の婚約者。
 もっとも記憶に新しい人物の顔が見える。
 できれば見たくない。
 彼に婚約破棄されたのはつい数日前、といっても未来の話だけど。
 そもそも七回目で彼と婚約したのも、彼しか私に言い寄ってこなかったからだ。
 
 運命書には文字通り、自身の運命が記されている。
 ただしすべてじゃない。
 ある地点までの道程があり、選択肢が記されている。
 そこで誰を、何を選ぶかによって未来は変わる。
 運命は分岐するんだ。
 例えば運命の相手も一人とは限らない。
 複数人の名前があって、その中から一人を選ぶことで、次なる運命への道程が記される。
 そうやって、一冊の本は完成していく。
 私はずっと白紙のままだけど、普通はそうやって変化していく。
 だから当然、私を選ばない場合もある。
 今回は……。

「……目が合ったわね」

 壇上のアブソルと視線が重なった。
 これが運命の相手であることの合図になっている。
 ここで目が合った時、入学式が終わると必ず話しかけられるんだ。
 だから私は入学式が終わったタイミングで、すぐさま帰宅する。
 誰にも会わないように。
 こういう時、私の魔法属性は役に立つ。

「呑みなさい。ダークネス」

 魔法属性も、本来は運命書に記されている。
 私の場合は何も書いてなかったから、後天的に知った。
 属性は『闇』。
 文字通り、闇を支配する魔法が使える。
 この闇には様々な性質があり、影と同化することで影の中にもぐったり、遠方の影に移動できる。

「便利な力で助かったわ」

 この力を授けてくれたことは、神様にも感謝しないといけないわね。
 おかげで誰にも会うことなく屋敷に戻れた。
 私の家……クローリー家に。
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