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五日間なんてあっという間に過ぎる。
春の訪れを待って、私は王都でもっとも大きく偉大な学園に入学する。
王都の貴族であれば誰もがここに入る。
例外はない。
優秀な人材を育成するための教育機関だ。
貴族でなくても、優秀であると認められたら入学することができる。
たとえ運命書に記されていなくとも、貴族であれば当然通る道だった。
運命に抗うと決めた私も、この道だけは通らざるを得ない。
ここを外せば、私は貴族ですらなくなってしまう。
それはさすがに面倒だ。
「さぁ、ここから大変よ」
自分で自分に言い聞かせる。
経験上、入学式の前後がもっとも重要になる。
なぜなら――
「こんにちは、君がリリスさんで合っているかな?」
「……あなたは」
「突然失礼するよ。僕はアンデル、君の運命の相手……かもしれない男さ」
アンデル・クロイルェル。
名乗らなくてもよく知っているわ。
金色の派手な髪に青い瞳。
さわやかな笑顔も、貴族らしい立ち振る舞いも。
全て忘れるはずもない。
だってあなたは、私が最初に婚約した相手で、二度に渡って裏切った人だから。
「一、二番目ね」
「ん? なんだって?」
「なんでもないわ。挨拶が済んだならもう行くわよ」
「え、ちょっ、話を聞いていたのかい? 君は僕の――」
伸ばそうとした彼の手を叩く。
「気安く触らないで。私はもう、運命なんて信じない。誰の運命にも従わない。先に言っておくけど、あなたと婚約するつもりなんてないわ」
「なっ……」
アンデルは酷く驚いて、ぽかーんと口を開けている。
言ってやったわ。
なんだかスッキリするわね。
一度でも婚約破棄された相手だし、このくらいしても罰は当たらないでしょう。
「さぁ、次よ」
今まで通りなら、入学式の会場前でもう一人待っている。
四番目の相手が、無言で道を塞ぐ。
「……通れないわよ」
「わざとだ。お前と話がしたくて――っておい! どこへ行く!」
「私は話すことなんてないわ。キングリー」
「――! 俺の名前を知ってるってことは、やはりお前が俺の運命の相手か!」
「違うわ」
ある意味一番印象に残っているだけよ。
キングリー・アイセル。
傍若無人の俺様な性格で、女を自分の所有物だと思っているどうしようもない男。
一度でもこの男に気を許した過去の自分を殴りたいわね。
「おい無視するな」
背を向けた私に手を伸ばそうとする。
今度は叩く必要もない。
だってこの後――
「やめないか」
「てめぇ……誰だ?」
「ガリル・ルッケンス」
「ルッケンス……騎士団長の息子か」
五番目の相手。
ガリル・ルッケンスは現騎士団長の息子であり、将来有望な騎士候補の一人。
厳格で正義感が強く、私が関わってきた婚約者の中では一番誠実だった。
でも、そんな彼でも運命の歪みに恐怖して、私から離れていった。
だから今度は私から離れてあげる。
にらみ合う二人を無視して私はそそくさと進んでいく。
春の訪れを待って、私は王都でもっとも大きく偉大な学園に入学する。
王都の貴族であれば誰もがここに入る。
例外はない。
優秀な人材を育成するための教育機関だ。
貴族でなくても、優秀であると認められたら入学することができる。
たとえ運命書に記されていなくとも、貴族であれば当然通る道だった。
運命に抗うと決めた私も、この道だけは通らざるを得ない。
ここを外せば、私は貴族ですらなくなってしまう。
それはさすがに面倒だ。
「さぁ、ここから大変よ」
自分で自分に言い聞かせる。
経験上、入学式の前後がもっとも重要になる。
なぜなら――
「こんにちは、君がリリスさんで合っているかな?」
「……あなたは」
「突然失礼するよ。僕はアンデル、君の運命の相手……かもしれない男さ」
アンデル・クロイルェル。
名乗らなくてもよく知っているわ。
金色の派手な髪に青い瞳。
さわやかな笑顔も、貴族らしい立ち振る舞いも。
全て忘れるはずもない。
だってあなたは、私が最初に婚約した相手で、二度に渡って裏切った人だから。
「一、二番目ね」
「ん? なんだって?」
「なんでもないわ。挨拶が済んだならもう行くわよ」
「え、ちょっ、話を聞いていたのかい? 君は僕の――」
伸ばそうとした彼の手を叩く。
「気安く触らないで。私はもう、運命なんて信じない。誰の運命にも従わない。先に言っておくけど、あなたと婚約するつもりなんてないわ」
「なっ……」
アンデルは酷く驚いて、ぽかーんと口を開けている。
言ってやったわ。
なんだかスッキリするわね。
一度でも婚約破棄された相手だし、このくらいしても罰は当たらないでしょう。
「さぁ、次よ」
今まで通りなら、入学式の会場前でもう一人待っている。
四番目の相手が、無言で道を塞ぐ。
「……通れないわよ」
「わざとだ。お前と話がしたくて――っておい! どこへ行く!」
「私は話すことなんてないわ。キングリー」
「――! 俺の名前を知ってるってことは、やはりお前が俺の運命の相手か!」
「違うわ」
ある意味一番印象に残っているだけよ。
キングリー・アイセル。
傍若無人の俺様な性格で、女を自分の所有物だと思っているどうしようもない男。
一度でもこの男に気を許した過去の自分を殴りたいわね。
「おい無視するな」
背を向けた私に手を伸ばそうとする。
今度は叩く必要もない。
だってこの後――
「やめないか」
「てめぇ……誰だ?」
「ガリル・ルッケンス」
「ルッケンス……騎士団長の息子か」
五番目の相手。
ガリル・ルッケンスは現騎士団長の息子であり、将来有望な騎士候補の一人。
厳格で正義感が強く、私が関わってきた婚約者の中では一番誠実だった。
でも、そんな彼でも運命の歪みに恐怖して、私から離れていった。
だから今度は私から離れてあげる。
にらみ合う二人を無視して私はそそくさと進んでいく。
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