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身体がずっしりと重い。
体重の三倍はある重量が、全身にのしかかっている感覚。
徐々に体が軽くなって、次第に意識もはっきりしてくる。
巻き戻りから目覚めるときの感覚だ。
「慣れないわね。この感覚だけは」
私はゆっくりと瞼を開ける。
見慣れた天井にふかふかのベッド。
なんてことはない私の部屋だ。
むっくりと起き上がり時計の針を確認する。
まだ午前六時。
起きて支度をするには少々早い。
「今は……いつかしら」
時間はわかった。
あとは今が、どのタイミングなのか。
それを知るために屋敷を回ろう。
私は早々に着替えを済ませて部屋を出た。
廊下を歩けば使用人たちとすれ違う。
私を見てビクッと反応した彼らは、慌てて頭を下げる。
「きょ、今日は早いのね……ずっと寝ててくれたほうが」
「ちょっと、リリス様に聞こえるわよ」
心配しなくても聞こえてるし、そんなに怯えなくても怒ったりしないわ。
そのセリフも何度も聞いている。
使用人たちの服装、体感気温……。
外の景色を見る限り、今は春……その手前かしら?
考えるのがめんどうね。
「ねぇ、そこのあなた」
「は、はい!」
私に話しかけられたメイドが怯えて返事をする。
声をかけられるなんて心にも思わなかったのでしょうね。
私も話すつもりはなかった。
ただ、聞いてしまったほうが早いと思っただけ。
「学園への入学はいつだったかしら?」
「え、あ……えっと、五日後でございます……」
「そう、ありがとう」
私はメイドの前から歩き去る。
あのキョトンとした顔、なんで今さらわかりきった質問をしたの?
って顔をしていたわね。
「五日後……ってことは、婚約者が決まる前ね」
思った以上に巻き戻っていた。
時間の巻き戻しは私の力だけど、うまく制御できていない。
前回はすでに婚約者が決まっていて、状況の把握と慣れるまでに時間がかかってしまった。
入学前なら好都合。
人間関係も容易に形成しやすい。
もっとも、私自身の意志はあまり関係ないのだけど。
時間と日にちを確認した私は部屋に戻った。
今がいつかわかったなら、次にやることも決まっている。
私は右手を前にかざし、目を瞑って唱える。
「開きなさい。私の『運命書』」
手の平の上に、一冊の本が召喚される。
この世界に生きる者は皆、生まれた時に神様から一冊の本を授かる。
そこには自身の才能や世界にとってどういう存在なのか。
何のために生まれて、何をするべきなのか。
進むべき道しるべ、すなわち運命が記されている。
故に私たちはこれを『運命書』と呼んでいる。
「……相変わらず真っ白ね」
私の運命書は特殊だった。
普通は生まれた時点で何かは記されている。
次に訪れる運命の分岐点、その選択肢が描かれている。
だけど私には何もない。
ページをいくらめくっても真っ白なだけ。
何一つ記されていない。
清々しいほどに真っ白だった。
加えて普通の運命書は白色の表紙なのに、私だけは漆黒だった。
そのことも、私を不気味だと恐れる要因になっている。
「じゃあ今回も……誰かの運命に委ねるしかない……のかしら」
私はぱたんと本を閉じる。
この真っ白な運命を見る度に思う。
私には何もない。
担うべき役割も、果たすべき使命も背負っていない。
だったら、私はなんのために生まれてきたの?
私の生になんの価値もないというなら、神様はどうして私に、こんな力を授けたの?
闇を支配し時間すら逆行させるこの力は、いったい何のためにあるのかしら。
体重の三倍はある重量が、全身にのしかかっている感覚。
徐々に体が軽くなって、次第に意識もはっきりしてくる。
巻き戻りから目覚めるときの感覚だ。
「慣れないわね。この感覚だけは」
私はゆっくりと瞼を開ける。
見慣れた天井にふかふかのベッド。
なんてことはない私の部屋だ。
むっくりと起き上がり時計の針を確認する。
まだ午前六時。
起きて支度をするには少々早い。
「今は……いつかしら」
時間はわかった。
あとは今が、どのタイミングなのか。
それを知るために屋敷を回ろう。
私は早々に着替えを済ませて部屋を出た。
廊下を歩けば使用人たちとすれ違う。
私を見てビクッと反応した彼らは、慌てて頭を下げる。
「きょ、今日は早いのね……ずっと寝ててくれたほうが」
「ちょっと、リリス様に聞こえるわよ」
心配しなくても聞こえてるし、そんなに怯えなくても怒ったりしないわ。
そのセリフも何度も聞いている。
使用人たちの服装、体感気温……。
外の景色を見る限り、今は春……その手前かしら?
考えるのがめんどうね。
「ねぇ、そこのあなた」
「は、はい!」
私に話しかけられたメイドが怯えて返事をする。
声をかけられるなんて心にも思わなかったのでしょうね。
私も話すつもりはなかった。
ただ、聞いてしまったほうが早いと思っただけ。
「学園への入学はいつだったかしら?」
「え、あ……えっと、五日後でございます……」
「そう、ありがとう」
私はメイドの前から歩き去る。
あのキョトンとした顔、なんで今さらわかりきった質問をしたの?
って顔をしていたわね。
「五日後……ってことは、婚約者が決まる前ね」
思った以上に巻き戻っていた。
時間の巻き戻しは私の力だけど、うまく制御できていない。
前回はすでに婚約者が決まっていて、状況の把握と慣れるまでに時間がかかってしまった。
入学前なら好都合。
人間関係も容易に形成しやすい。
もっとも、私自身の意志はあまり関係ないのだけど。
時間と日にちを確認した私は部屋に戻った。
今がいつかわかったなら、次にやることも決まっている。
私は右手を前にかざし、目を瞑って唱える。
「開きなさい。私の『運命書』」
手の平の上に、一冊の本が召喚される。
この世界に生きる者は皆、生まれた時に神様から一冊の本を授かる。
そこには自身の才能や世界にとってどういう存在なのか。
何のために生まれて、何をするべきなのか。
進むべき道しるべ、すなわち運命が記されている。
故に私たちはこれを『運命書』と呼んでいる。
「……相変わらず真っ白ね」
私の運命書は特殊だった。
普通は生まれた時点で何かは記されている。
次に訪れる運命の分岐点、その選択肢が描かれている。
だけど私には何もない。
ページをいくらめくっても真っ白なだけ。
何一つ記されていない。
清々しいほどに真っ白だった。
加えて普通の運命書は白色の表紙なのに、私だけは漆黒だった。
そのことも、私を不気味だと恐れる要因になっている。
「じゃあ今回も……誰かの運命に委ねるしかない……のかしら」
私はぱたんと本を閉じる。
この真っ白な運命を見る度に思う。
私には何もない。
担うべき役割も、果たすべき使命も背負っていない。
だったら、私はなんのために生まれてきたの?
私の生になんの価値もないというなら、神様はどうして私に、こんな力を授けたの?
闇を支配し時間すら逆行させるこの力は、いったい何のためにあるのかしら。
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