没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ

文字の大きさ
上 下
42 / 43

その刃は誰が為に⑤

しおりを挟む
 私は夢を見ている。
 薄れゆく意識の中で……。

「いいぞ、ミスティア! どんどん強くなっているな」
「お父様に追いつきたいんだ!」
「ははっ、お父さんも負けていられないな」

 懐かしい夢だ。
 大好きなお父様に、私は剣を教わった。

「お父様! どうすればお父様みたいに強い剣士になれますか?」
「理由を持つことだよ」
「そう。お父さんは騎士なんだ。ただの剣士じゃない。お父さんの剣はね? 守る者のために振るう。相手を傷つけたり、勝つための戦うじゃない。騎士として守る者に尽くす……それが、お父さんの誇りだ」
「よくわからない」
「はははっ、いずれわかるさ。ミスティアも、騎士を目指すなら」

 優しく頭を撫でてくれた。
 お父様……お父様は偉大な騎士だった。
 私はお父様のようになりたくて、同じ道を歩んだ。
 そうだ。
 私が学んだ剣は、何のためにあるのか。
 今、思い出した。

  ◇◇◇

「てめぇらは王を殺せ。俺がこの天才様をぶっ殺すからよぉ」
「……」
(この人数差、さすがに父上を守りながらは不利だ。ミスティアは無事なのか?)
「グダグダ考えてんじゃねーよ。オレだけを見てろ」
「ちっ……!」

 私は、誰だ?
 何のために剣を振るう?
 何のために、ここにいる?

「はははっ」
「なんだ?」
「お前こそ、見る相手を間違えているぞ?」
「何を――!」

 彼は振り返る。
 そこに立っていた私を見て、笑みを浮かべた。

「立ちやがったか! 女ぁ!」
「私は騎士だ! ここにいるのは、殿下の騎士として!」

 だから負けられない。
 殿下を、ここにいる人たちを守るために、私は剣を磨いてきた!
 怒りに任せて振るう剣に、本物の力は宿らない。

「リミットブレイク!」

 今こそ原点を見据えろ!
 私の役目は、この男を倒すことだ!
 復讐のためじゃなく、殿下に選ばれた騎士として!

「雰囲気が変わったな! 何かしたか!」
「あなたを倒します! 騎士として、全霊をもって!」
「いいぜ! 第二ラウンドというこやぁ!」

 切っ先がぶつかる。
 鍔迫り合い。
 膂力では劣っていたが、リミットブレイクを発動したことで、力が拮抗する。

「重くなりやがったな! 魔力の流れが異常だ! それはあの男は見せなかったぜ?」
「私の全力ですから!」
「そうかよ! 楽しませてみろ!」
「楽しませる気はありません!」

 異常だ。
 限界突破した私の動きに、素の身体能力で拮抗している。
 これが獣人の膂力。
 どこが劣等種族だ。
 人間よりもはるかに優れている。
 人は認めたくないのだろう。
 彼らが優れていることを……目を背けているだけだ。

 私は背けない。
 よく見ろ。
 理解しろ。
 自分との差を、この男の強さを。
 私の父に勝った男の、数十手先の動きを!

「下段、斬り払い」
「――!」
(こいつ……)
「そのまま左袈裟斬り」

 私が口にした動きに従うように、男は剣を振るう。
 男は口元がニヤつく。

「オレの動きを読んでやがるな!」
「見えていますよ!」

 リミットブレイク最大の利点は、脳内処理速度の加速。
 それによって相手の動きを極限まで観察し、予測することができる。
 殿下との戦いを経て、私はこの力をさらに磨いた。
 日頃からいろんな人の動きを観察し、癖を探り、魔法を使っていない間も常に考えて行動する。
 予測の精度を上げるために。
 そして、上回るために!

(次、横薙ぎから回転――を躱して懐に入る!)
「っ――!」

 十七手目。
 私は勝負に出た。
 リミットブレイクにも限界がある。
 私が本気で戦えるのは残り数秒だけだ。
 この一撃で決める!

 全魔力を集中させるんだ!

「甘ぇよ!」

 私の予測よりも一瞬早く、彼は大剣を防御に回していた。
 が、それも――

「予測通りです」
「――!」
(こいつ、剣を……)

 捨てた。
 剣で斬ると見せかけて、魔力を込めていたのは拳だ。
 両拳を、がら空きになった腹に叩きこむ。

「ごはっ!」
「まだです!」

 獣人のタフさは予測済み。
 一発じゃ足りない。
 だから連続で、反撃の隙も与えない!
 ひたすらに拳で殴る。
 打撃と同時に魔力を拡散して、衝撃を内側に響かせる。

「こ、のぉ!」
「おおおおおおおおおおおおお!」

 男は私の髪を掴む。
 かまうな。
 全力で、最後まで叩き込め!
 この一撃に、私の全てを注ぐ!

「落ちろ!」
「ぐはっ――!」

 私の拳が、男の鳩尾に直撃する。
 リミットブレイクが終了した。
 もはや立っていることすらやっとの状態だ。
 
「……いい、拳だったぜ?」
「……」

 まだ……。

「悪くねぇ……戦いだった」

 男は笑いながら、満足したように倒れ込んだ。
 カランと音を立てて大剣が転がる。
 私の剣と重なるように。

「勝った……」
「ば、馬鹿な! ルド様が負けるなんて!」
「よそ見していいのか?」
「ぐあ!」

 男が負けて動揺し、隙ができたことを殿下は見逃さない。
 一瞬にしてラプラスの構成員を凍結し、手足の自由を奪った。
 私はふらつきながら、殿下の方へ振り向く。

「……勝ちました、殿下……」
「ああ、見ていた。見事とだった! ミスティア・ブレイブ!」
「……は、い……」

 限界に達した私は、そのまま意識を失う。

 お父様、私……。
 ちゃんと騎士になれましたか?
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...