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大魔獣討伐戦②

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 殿下を王にする。
 それこそが、ブレイブ家の再興にもっとも近い。
 一年間で彼の意識を変えて、王になる道を進ませる。
 それができれば、私の存在価値も示せるだろう。

「いいですね! 私も応援します!」
「ありがとうございます」
「おい、勝手なことはするなよ? これはミスティアの試練だ」
「私が勝手に協力するんです。誰かに頼ったり頼られたり、それだって必要な才能ですよ」
「……」

 殿下が黙った。
 珍しくステラが殿下を完全に言い負かしている。
 人に頼られる。
 いわば人望も才能であり、その人が持ち得る手段の一つだ。
 彼女の言う通り、何も私一人でやらなくてはならない、ということではない。
 手伝ってくれるなら、快く受け入れよう。
 
 さて、理解者も得たところで、肝心なことを聞いておこう。
 私は殿下に尋ねる。

「殿下はどうして、国王になりたがらないのですか?」
「面倒だからな」

 即答した。
 そんな理由で王座に就くことを拒んでいるのか?
 だとしたら、呆れるほど怠惰だ。

「ですが、王族として生を受けた以上、避けられないことです」
「知ったことか。王族だけが王になれるなど、くだらんルールを押し付けるな。王とは国を統べる者だ。血筋で決めるより、才覚で選ぶべきだろう? 無能が王になってどうなる」
「その理屈なら、殿下ほど相応しい人物はいらっしゃらないと思いますが」
「……」

 黙った。
 図星だったようだ。
 今だと言わんばかりに、ステラが追撃する。

「そうですよ! 皆さん殿下が王になられることを期待していらっしゃいます。陛下もそれを望んでおられるではありませんか!」
「父上がどう考えようが知らん。俺は俺が決めたことしかやる気はない」

 唯我独尊。
 殿下にピッタリな言葉が思い浮かぶ。
 己が信じたことだけを実行し、それ以外に興味も示さない。
 怠惰なことは驚いたけど、噂された傲慢さは本当のことだった。
 そこには彼の信念を感じる。
 だからこそ……疑問を抱いた。

「本当に、面倒だからなのですか?」
「……なんだ?」
「殿下が王になりたがらないのは、面倒だから……ではないような気がしました」
「……」

 殿下は僅かに眉を動かした。
 ステラも少し、動揺したように見える。
 二人は何かを知っていて、隠しているのかもしれない。
 私が知らない、私に言えない何か……。

「余計な詮索は身を亡ぼすぞ」

 ぼそりと口にした殿下は立ち上がり、扉へと歩いて行く。

「どちらに行かれるのですか?」
「時間だ」

 時計に視線を向ける。
 この後は予定があり、すでにその予定時刻に近づいていた。

「私はここでお待ちします」
「私は同行してもよろしいのですね?」
「ああ、好きにしろ」
「わかりました」

 私は殿下と一緒に部屋を出る。
 少し気まずい空気が流れ、会話はなかった。
 やはり何かあるのだ。
 私が知らない何か……彼が王になりたくない理由が。
 それを知ることができれば、目的に大きく前進する……かもしれない。
 逆に遠ざかる可能性もあるから、下手に踏み込めそうになかった。
 
 部屋にたどり着き、殿下が中に入る。

「入るぞ」
「お待ちしておりました」

 中に入ると、どこか見覚えのある貴族の男性がいた。
 すぐ思い出す。
 彼は殿下の専属騎士選抜試験を執り行っていた貴族だ。
 あの日、殿下に詰め寄られていたのも印象的で、よく覚えている。

 彼は私に視線を合わせた。

「ミスティア・ブレイブ公爵、こうしてお会いするのは初めてですね? 私はアーノルド・シレイツンと申します。この国の防衛を主に担当する大臣をしております」
「はい! よろしくお願いいたします!」

 予想していたけど、貴族の中でも王族に次ぐ権力者だった。
 それ以上にビックリしたのは、私のことを公爵と呼んだことだ。
 確かに私は公爵家の人間で、今はブレイブ家の当主でもある。
 ただ、私を公爵と呼ぶ人などいない。
 名が残っているだけで、中身は空っぽだからだ。

「あなたが殿下の専属騎士に選ばれたこと、心から祝福いたします」
「ありがとうございます」
「よかったな? 貴殿の思惑通り、彼女が選ばれて」
「え?」

 思惑通り?
 どういう意味だろう?

「何のことでしょうか。私は試験を執り行っただけです」
「とぼけるな。俺に無断であんなことをしたのも、かつて自分を救ってくれた男の娘に、恩を返したかったからだろう?」
「――!」

 まさか、この人が?
 父が最後の任務で守った貴族……。
 アーノルドさんは目を伏せ、大きく長い呼吸をする。
 
「……殿下は誤魔化せませんか」
「誤魔化す必要がどこにある? 貴殿は不器用だな。堂々と言えばいいだろう?」
「私はただ守られた身です。その恩を返すことすらできていませんでした。本来なら、こうして顔を会わせることすら……」
「あなたが……」
「はい。あの日、ロイド・ブレイブ公爵に護衛を任せたのは私です。彼は私を守り、部下を守った。その代償として……自らの命を支払ったのです」

 お父様のことを思い浮かべ、ぎゅっと拳を握る。

「私が活きているのは、命を賭して守った偉大な騎士がいてくれたからです。その恩に報いたい。ブレイブ家が衰退していくのを、私は見ていることしかできませんでした。ならせめて、あの方の娘にチャンスを……と。それくらいしかできない私を、どうか許してほしい」

 ああ、そうか。
 お父様は今も、七年経っても私を守ってくれている。
 奇跡のような出来事も、お父様が命がけでくれたチャンスがあったからこそ掴めた。

「ありがとうございます。私にチャンスを与えてくれて。もう、十分です」
「……そう、ですか」
「はい。十分、恩返しをしていただきました」

 つくづく、私はお父様に支えられている。
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